エネルキーワード

夢の「宇宙太陽光発電」その実現性は?

エネルキーワード第6回「宇宙太陽光発電」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第6回は「宇宙太陽光発電」。日本政府が2030年の実現を目指しているというこの研究開発について、実現性を探ってもらいました。

宇宙太陽光発電とは

宇宙空間で電気を作ることができる、と聞いたらどう思われますか?SFじゃあるまいし、そんなばかな、と思う人もいるかもしれません。私がこの研究について初めて聞いたのはもう10年以上前。実は政府の「宇宙基本計画」にもしっかり記載されており官民一体で研究開発が行われているのです。
 
ではまずその定義を見てましょう。宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power Systems:SSPS)とは、
 
「宇宙空間において、太陽光エネルギーをマイクロ波またはレーザー光に変換して地球に伝送し、電力として利用するシステム」

JAXAより引用)です。

太陽光パネルを地上から3万6000kmの宇宙空間に設置し、静止軌道上の太陽電池で発電した電力を地上に無線伝送するとは、なんとも壮大な計画です。
 
では、宇宙太陽光発電とはどういった利点があるのでしょうか。

出典:JAXA研究開発部門「宇宙太陽光発電システム(SSPS)について」

この発電方法は「再生可能エネルギー」ともいえます。地球に照射しなかった日射エネルギーの一部を、宇宙空間において無線(マイクロ波もしくはレーザー)に変換し、地表に届けることができるのです。また、強度の高い太陽光(地上の約1.4倍)を利用できること、発電時に温室効果ガスや廃棄物、燃料費も発生しません。

出典:JAXA研究開発部門「宇宙太陽光発電システム(SSPS)について」

さらに、日本のような資源がない国にとって、安定したエネルギー源が確保できることは大きなメリットです。日本は石炭や石油といった化石燃料に依存しており、ほぼ他の国からの輸入に頼っている状態です。その化石燃料も「限りある燃料」で、いずれは枯渇すると見られています。宇宙太陽光発電の資源は、「自然や天気に左右されない太陽光」。今までの資源よりもはるかに安定性に富んでいますし、何よりCO2を排出しません。

宇宙太陽光発電の歴史

宇宙太陽光発電の研究の歴史は意外と古く、今からおよそ50年も前の1968年にNASAのピーター・グレーザー博士が提唱したのが始まりです。まさにアポロ計画が真っ盛りの時代であり、その後の1973年、1979年と続いたオイルショックもあり、化石燃料に頼らない未来のエネルギーとして大いに注目を集めました。 

その後、アメリカやヨーロッパ、もちろん日本でも研究が進み、さまざまなタイプの宇宙太陽光発電の方法が提示されました。しかし、現在はコストの問題等ハードルが高く、他国の研究は下火になっています。 

日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や民間企業が中心となり研究開発を進めてきました。2015年3月には、三菱重工業がSSPSに不可欠な技術である、無線送電技術の地上実証試験に成功しています。このほかIHIエアロスペース社など重機械メーカーなども参画しており、政府は2030年以降の実用化を目指していますが、その実現性については疑問符がついています。

経済性に疑問符

2007(平成19)年度の「太陽光発電利用促進技術調査」による試算分析を見てみましょう。発電コストを火力発電並みの9.3円/kWhに抑えるためには、建設コストは約1.3兆円もかかると試算されています。コストがかかるのは太陽電池と打ち上げ費。約1.3兆円の建設コストのうち宇宙での発電と送電システムの建設に約5700億円、地上のシステムに約2300億円、部品の輸送費に約4700億円。それらに加え保守・運用費用として年間約340億円がかかるということです。
 
火力発電所や原子力発電所1基の建設コストが数千億円であることや、地上における太陽光発電のコストを下げる研究が進んでおり、2030年代に7円/kWhの実現が視野に入っていることを考えると(下図)、膨大な建設コストをかけてまで宇宙で発電するメリットは何なのだろうか、という疑問が湧いてきます。その実現のためには大幅な建設コストの削減が不可欠です。

出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電開発戦略(NEDO PV Challenges)」

そうした中、政府の宇宙関連予算は年間3000億円程度と微々たるものです。その予算が割り当てられている計画の中身を見てみると、安全保障上重要な、準天頂衛星システムや情報収集衛星の開発・整備・運用、静止気象衛星、新型基幹ロケット開発、有人宇宙活動の推進などがめじろ押しで、宇宙太陽光発電の優先順位はかなり下の方に位置付けられています。
 
宇宙太陽光発電は確かに夢のある技術ではありますが、その研究開発と実際の建設コストを考えると、国家予算をつぎ込む意味があるのか考えてしまいます。
 
一方で、無線による送電技術は、送電線の敷設が難しかった場所などでの活用が見込まれますし、広域送電を可能にします。また、洋上風力発電などでは海底ケーブルを敷設せず送電できるようになるでしょう。そう考えるとやはり基礎研究は大切だと改めて今回思いました。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE