エネルキーワード

節電するとお金がもらえる?ネガワット取引が開く未来

エネルキーワード第5回「ネガワット」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載第5回は「ネガワット」。電力需要を効率的にコントロールするために、2017年4月に取引がスタートするこの聞きなれない制度について探ります。

ピークカットとピークシフト

2011年3月11日に起きた東日本大震災の直後、電力供給がひっ迫し、東京電力管内などで「計画停電」がありました。「計画停電」とは、電力需要が供給量を上回ると予想されるとき、事前に告知した上で停電を実施する事を言います。

そう、電気というものは「貯められない」ものなのです。

したがって電力会社は需要(消費)に対して、供給(発電)しているんですね。当然のことながら、能力を上回って供給することはできませんから、需要が供給能力をオーバーすれば、停電することになります。

そこで、電力需要が集中する冬場や真夏に電力の使用量を減らす必要が出てきます。

これを「ピークカット」といいます。

照明をLEDに変えたり、電気製品を省エネタイプに変えたり、太陽光など再生可能エネルギーを利用することでピークカットを図ることができます。

また、電力の使用をピークの時間帯から夜間など電力消費が少ない時間帯に移行させることで停電を未然に防ぐこともできます。

これを「ピークシフト」といいます。

夜にバッテリー(蓄電池)に電力を貯め、昼間にそれを使うことなどが、ピークシフトの例です。

こうしてピーク時の需要を削減することにより、電力供給の無駄が減ります。同時に、CO2排出量の多い火力発電所の発電を抑えることに繋がりますから地球温暖化対策にもなるというわけです。

さらにもう一歩進めて、電力需要をより効率的にコントロールするのが「デマンドレスポンス (Demand Response:需要反応)」という考え方です。

デマンドレスポンス

「デマンドレスポンス」とは、簡単に言うと電気の需要を賢く制御し、需給バランスを取る事をいいます。

具体的には、需要のピークが発生しそうな時に、みんなで協力して電力を消費する機器の出力を落としたりすることです。需要量を抑えることが出来れば、発電所の建設コストや維持管理コストも削減できますよね。

こうした取り組みのうち、事前の契約に基づいて行うものを「ネガワット取引」といいます。

ネガワット取引

聞きなれない言葉ですが、「ネガワット取引(Negawatt Transaction)」とは、デマンドレスポンスの一種で、事業者が需要家に需要の抑制を頼み、その抑制量に応じた対価を事業者が支払うものです。お金がもらえるなら節電しようか、と思いますよね。そうした仕組みを作れば、効率的に節電できるはずです。

その「ネガワット取引」、実はこれまでもありました。事業者が、大口需要家との間で、需給ひっ迫時の需要抑制を条件に割引を行う「需給調整契約」という形で行われてきたのです。最近では、一部の新電力が、同様な契約を結んでいます。

「ネガワット取引」はこの4月1日から制度化され、「ネガワット取引市場」がスタートします。概念的にわかったような気がしても、では具体的にどういうものなのか、ピンと来ない方もいらっしゃるでしょう。幾つか例を挙げてみましょう。

このように設備を効率的に稼働させることにより報酬が得られるならまさに一石二鳥です。

その上、低炭素社会の実現に貢献できるという側面もあります。「ネガワット取引」が拡大していくためには、アグリゲーターという仲介業者が必要になってきます。

アグリゲーターの役割

「ネガワット取引」が拡大していくためには、従来のように事業者や新電力と、大口需要家との間だけで行われる取引だけではなく、小売電気事業者と家庭も含めた需要家との取引も増やしていかねばなりません。

その仲介をするのが、「アグリゲーター(Aggregator)」と呼ばれる仲介業者です。

そもそもaggregateという英語は「集める」という意味で、「アグリゲーター」は、あらかじめネガワットを発生させることのできる需要家を「集めて」契約を結んでおきます。電力供給量が需要に対してひっ迫したタイミングで、ネガワットを発生できる需要家を選択し“最適な組み合わせ”を提供するのが、アグリゲーターの仕事なのです。

出典:資源エネルギー庁「ネガワット取引の普及に向けた取組」

まだまだ一般家庭にはなじみがないかもしれませんが、いずれ皆さんの家庭にも「節電のお手伝いをします」といって「アグリゲーター」がアプローチしてくるかもしれません。こうした動きを政府も後押ししています。

現時点では「節電」の普及の域を出ませんが、将来的には総合的な電力売電市場を作ろうというわけです。究極的にはネガワット取引を含め、リアルタイムに取引が行われる市場の構築を目指しています。早ければ3年後、2020年には現実にそうなっているかもしれません。

政府はネガワット取引の導入で2030年度までにピーク需要の6%抑制を目指しています。この流れは着実に進みます。

では、ネガワット取引が拡大していったら私たちの暮らしはどう変わっていくのでしょうか?

私たちの暮らしの変化

まず言えるのは、前述のネガワット事業者=アグリゲーターのおかげで、私たち電力需要家の間に広く節電意識が高まることでしょう。

なにしろ、経済的なメリットがあるとわかれば、各家庭でも電力消費を抑制するはずです。もちろん中小企業も同様です。

そのためには各家庭の電力使用量はリアルタイムで測らねばなりません。従来の古い電力計は、スマートメーターに置き換わります。スマートメーターは、通信機能を持ち、電気の使用量をほぼリアルタイムで検針できるのです。すでにご自分のおうちのメーターがスマートメーターに代わっているかもしれませんからチェックしてみてください。

アグリゲーターが節電の協力を家庭に依頼するとき、その家の電力需給がリアルタイムで把握されていることが大前提となります。ですからスマートメーターの設置は必須なのです。また、家の中の家電もスマート化していきます。あらゆる家電がインターネットに繋がることで家庭内のエネルギー消費が最適に制御されます。

それぞれの家は、太陽光発電システムや燃料電池、蓄電池(EV:電気自動車含む)などを組み合わせることにより、より総合的な制御が可能になります。そうした家は「スマートハウス」と呼ばれ、それらが集まって「スマートシティ」になります。すでにそうした試みは始まっています。

出典:経済産業省「スマートグリッド・スマートコミュニティとは」

スマートな社会に

スマートシティでは、街全体の電力データがリアルタイムに分析され、エネルギーを最適に制御することが可能になります。個々の家が発電したり節電することで報酬を得ることが当たり前になります。それも「ネガワット取引」のおかげで可能になります。

そう遠い未来のことではありません。

限りある資源。エネルギーの元となる石油や天然ガスなど、ほとんど輸入に頼っている日本にとって、効率よく電力需給をコントロールすることは極めて重要です。将来こうした技術がアジア各国などに輸出できる可能性もあります。今後の電力自由化の行方がますます楽しみですね。

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