特集
男性ホルモン解剖学

“やる気”と“健康長寿”をつかさどる「テストステロン」とは何か?

体を作るだけでなく、ライフスタイルにも影響する男性ホルモンの真実

「テストステロン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。では「男性ホルモン」は? 「2つは同じものといっていい」というのは、順天堂大学大学院泌尿器外科学の堀江重郎教授だ。これまでは加齢と共に分泌量が減るといわれてきたテストステロンだが、堀江教授は必ずしもそうではないと言う。そして「テストステロンが多い人は長生きする」とも。テストステロンとはどんな物質なのだろうか?

テストステロンがあるから“男”になる

「日本では、“テストステロンは男性ホルモン”といわれています。そもそもホルモンというのは、脳下垂体や甲状腺、副腎(ふくじん)、さらに生殖器など体内のあちこちで作られ、全身の隅々でエネルギーとして働く物質。その中で男性ホルモンの代表といえるのがテストステロン。これがないと男性は存在しません」

ヒトは母親の胎内で生まれたときは女性だ。ただし、男性は女性にはないY染色体を持って生まれてくる。このY染色体があることにより、胎児のときに、ある時点で自らテストステロンを大量に作り出す。

「テストステロンが男性らしさを確立する上で重要な働きをしていることは分かっています。筋肉を作るとか、骨格をがっしりさせるといった見た目にとっても重要。でも、それだけではありません。例えば、男性は狩りに出掛け、獲物を捕らえ、帰ってくるということを古代より行ってきました。この行動の元、つまりエネルギー源となっているのがテストステロンなんです」

つまり見た目の男性らしさだけでなく、チャレンジしたり、集団の中で自分を表現したり、意思を主張する上で必要なホルモンが、テストステロンだというのだ。

「それから、例えば2~3歳のときに、男の子ならクルマ、女の子なら人形に興味が出てくるとします。男の子と女の子で考え方が変わってくるころです。これを“脳の性分化”といいますが、このときも男の子はテストステロンの量が増えているのです。とはいえ、テストステロンはヒトが持つ基本的なホルモンなので、もちろん女性の体内にも存在します。ただ、男性とは量が大きく違い、男性の5~10%といわれています」

泌尿器がん、男性医学の第一人者である順天堂大学大学院の堀江重郎教授

男性の場合、テストステロンは主に精巣で作られる。そのほかに腎臓の上にある副腎や脳の中で記憶をつかさどる海馬でも作られている。そして男性と女性でテストステロンの量が違うように、男性の中でも個々で違いがある。

「その違いは職業選択に表れたりします。テストステロンが多い人は自己表現をする職業の方が多いですね。芸術家や音楽家、政治家などです。もちろん、全ての人に当てはまるわけではありませんが、このような傾向が見られます」

またテストステロンが多いと、公正さを求める気持ちが維持されるという。それゆえ、ボランティアなど社会貢献しようという思いが強くなることも、最近の研究で分かってきているそうだ。

組織運営やダイエットにも影響するテストステロン

堀江教授は、テストステロンの量が組織のあり方にも影響を与えているかもしれないという。

「会社のように大勢の人が関わる組織であれば、当然その中にはテストステロンの多い人と少ない人が混在しています。するとどういうことが起きるか? テストステロンが多い人は縄張り意識や仲間意識が強くなる傾向があります。さらにその人は社会貢献意識も高いわけですから、目標に向かってリーダーシップを発揮するはずです。しかし、その一方でテストステロンというのは共感力をカバーしません。だからいつもニコニコしてはいるけれど、人の言うことを聞かない人が多い(笑)。そういう人はうつ病などにはなりませんね。鈍感だから」

逆に共感力の高い人、つまりテストステロンの低い人は他人のことを考え過ぎてしまい、それがストレスとなり、うつ病を発症するケースがあるのだという。

「だから大切なのは、毎日をはつらつとして生きること。そうすればテストステロンは高くなっていくし、組織の中での自分の水準も維持していけるわけです」

堀江教授にテストステロンの性質をひもといてもらう中で興味深かったのは、ダイエットとの関係だ。

「テストステロンは筋肉と関係しています。具体的にいえば、テストステロンが減ると、筋肉も減って脂肪が増える。“最近太ったな”と感じたら、食べ過ぎよりも“テストステロンが減ったと考える”こともできるんです」

また堀江教授は、最近流行の糖質制限ダイエットは良くないという。

「テストステロンは、コレステロールから作られます。さらにテストステロンを増やすためには炭水化物が必要なんです。太っておなかが出てきたと思って炭水化物をカットするのはあまりよろしくない。テストステロンを増やせないから。それに炭水化物をカットしておなかがスッキリしたとしても、それは脂肪ではなく筋肉が縮んでいる場合もある。そこを勘違いしてはいけません」

しかし、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)についても、テストステロンとの関係が影響している部分があるという。メタボの人のテストステロン値を測ると、数値が低いことが多いそうだ。メタボ改善のために運動したり、食生活を改善したりするのもいいが、一番のポイントは、テストステロンが減っている原因を改善すること。例えば、ストレスを解消することでテストステロンが増え、メタボが改善されるかもしれないのだ。

テストステロンは女性にはどのように影響するのか

ここまで男性について語ってきたが、女性はどうだろうか。

例えば、血管のしなやかさや筋肉量、骨密度を保つ働きをする女性ホルモンの一つ「エストロゲン」はよく知られている。その一方、前述のとおり男性の5~10%と量は少ないが、女性の体にもテストステロンは存在する。男性同様、副腎や脳に加え、卵巣、さらに脂肪から作られるのだが、その量は生涯でなんとたったスプーン1杯程度。しかしそれでも、役割は男性と変わらないという。

「女性にとっても、決断力や判断力、さらにリスクを取るという行動につながっています。また、女性にとってテストステロンの影響が強くなるのは、閉経後が多いといわれています。そのころになると女性ホルモンが減っていくのですが、テストステロンの量は大きくは変わりません」

その結果どうなるかというと、考え方が男性的になっていくのだという。例えば、よりアクティブになって社会貢献活動をするようになったり、友人と連れ立って旅行に出掛けるようになったり。その行動原理はテストステロンの特性を考えれば説明できる。

「もちろん、それ以前でもテストステロンの多い女性はいらっしゃいます。組織の中でパワフルに働いている方や独立心の高い方というのは、テストステロンの多い女性といえるでしょうね」

男性ホルモンの下降は緩やかだが、女性ホルモンは閉経を機に急激に減少していく

どうすればテストステロンは増えるのか?

では、どうすればテストステロンを増やすことができるのだろうか。

堀江教授は4つのポイントがあるという。

「テストステロンを高めるために必要なのは、まずは運動です。それもできれば仲間と一緒に楽しみながらできる方がいいですね。ゴルフでもテニスでもいい。一緒に楽しむことで競争もできるし、自分の居場所も確保できるといえます。前述の4つのポイントをすべてカバーできるわけです」

もっと簡単にテストステロンを増やす方法はないかと聞くと、胸を張ることだという。

「胸を張って肩甲骨を寄せるとテストステロンが上がるといわれています。例えば、ストレッチをして体を伸ばすと気持ちがいいですよね。でも、実際はそれによって何らかのホルモンが分泌されているのではないかといわれているんです」

また、テストステロン=男性ホルモンというと、加齢と共に減っていくと思いがちだが、必ずしもそうではないそうだ。

「統計的にはそうですが、中には多いままの人もいます。どういう人かというと、高齢になっても社会で活躍している人。それは何も政治家や芸術家じゃなくてもいいのです。八百屋さんでも魚屋さんでも。つまり、何歳になっても社会との接点があり、自分を表現しているということです。それができている人は年齢に関係なく、テストステロンが高い水準で維持されます。つまり、どういうことかというと、テストステロンが多い人は長生きをするということなんです。いくつになっても社会で活躍できているということは、言い換えれば、社会がその人を求めているということなのかもしれませんね」

何歳になってもアクティブに過ごすためには、テストステロンと上手に付き合うことが大きなポイントとなりそうだ。

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