スポーツマネジメントの極意

Bリーグアワードチーム賞三冠!黄金時代の千葉ジェッツが目指す次なる頂

千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 島田慎二【後編】

5月26日に今シーズンを終了した男子プロバスケットボールリーグB.LEAGUE(以下、Bリーグ)内で、人気と実力を兼ね備えたチームの一つ、千葉ジェッツふなばし(以下、千葉ジェッツ)。倒産寸前だったチームを、7年で最高峰にまで引き上げた立役者である代表取締役社長・島田慎二氏に、勝てる組織になるために球団スタッフへ求めること。そして今後、エネルギーを注いでいく目標を聞いた。

千葉ジェッツの組織力は中の上、“稼げるチーム”の人材育成

リーグ戦終了後の5月29日に発表された「B.LEAGUE AWARD SHOW 2017-18(Bリーグアワードショー)」では、富樫勇樹選手がレギュラーシーズンベストファイブ、西村文男選手、伊藤俊亮選手が特別表彰、マスコットオブザイヤーにマスコットのジャンボくんが輝くなど、多数の賞を受賞。

さらに、チームとしても、「入場者数NO.1クラブ」「ホスピタリティNO.1クラブ」「ソーシャルメディア最優秀クラブ」とクラブ表彰部門で3冠を達成。選手、チーム、そして千葉ジェッツという会社の全方面で多くの支持を得ていることがうかがえる。

2017-18シーズン限りで引退することを発表している伊藤俊亮選手。2001~2011年には日本代表として活躍。今後はチームのフロントに入ると発表している

千葉ジェッツをリーグ随一の“稼げるチーム”へと導いた代表取締役社長の島田慎二氏。前編では主に、表舞台に立つバスケットボールオペレーション部門を構成する選手らスペシャリストとのコミュニケーション術などについて語ってもらった。
※【前編】の記事はこちら

では、表立って見える選手や成績だけでなく、会社として勝てる、魅力あるスポーツチームになるために、バスケット部門と対を成すビジネスオペレーション部門を支える球団スタッフには、何を求めているのだろうか。

「基本は普通のビジネスと一緒です。それは営業でしたらどの業界でも同じで、顧客の信頼を得られるような口のきき方ができる、清潔感のある服装、約束をきっちり守る、そういった基礎中の基礎に加え、その会社さんがどういう思いでスポンサーになってくれているのか。社長の意思をくんで喜んでもらい、社員の皆さんに高揚してもらえるようなチームを作る。その部分をしっかりと理解していることが大切です。それができているか否かは、行動や思考に表れてくると思います」

千葉ジェッツの代表取締役社長を務める島田慎二氏。取材した同社会議室には、バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』井上雄彦先生のサイン色紙も

千葉ジェッツと関わりを持ってから7年。社員の数が5人から25人にまで拡大した今、チームとして、組織として、どのようなステージに立っていると考えているのだろうか。

「この7年間で、私の方針に共感してくれる人材が集まり、ベクトルがそろって、とてもいい感じになっているなと思う時期もあれば、脱落者が出たり、チームが少し変な感じになったりと、いろいろな変遷はありました。スポーツチームなので、人材募集をすれば、やはりバスケ好きが多く集まるんです。でも極論すれば、ビジネス部門には“バスケ愛”は必要ない。ビジネスとして勝つ意志を持ってプロスポーツチームを支えられる、そういう人材を積極的に採り入れてきました。今の千葉ジェッツは、とてもざっくりですが“中の上”くらいの組織力。ベストではないですが、これまでにないほど、とてもバランスがとれています」

勝つために必要なのはPDCA+V

千葉ジェッツのビジネス部門といえば、3年連続リーグ1位の観客動員数(※1年目はNBL:ナショナル・バスケットボール・リーグ)が示すように最もチケットが売れているチームとしてもバスケットボール界で名高い。ただ、試合のたびに満員御礼が続くという喜びの一方で、一つの到達点にたどり着いてしまったという。

「千葉ジェッツは何でも“1番”が好きなんです。これまでは観客動員数にこだわり、エネルギーを注いできました。来シーズンまでは、引き続き動員数1番を追いかけます。しかし、その先になると沖縄に1万人規模のアリーナが完成することもあり、その時点でキャパシティの差から負けてしまうかもしれません。今、全試合で立ち見が出ているほどの盛況で、残念ながら数的に追えるところの限界に来てしまっています。ここから大事にするのはチケット単価。もちろん、いきなり値上げしても受け入れられませんが、これ以上、チケット収入が上がらないのは会社として大きな問題です」

今後は観客数だけではなく、チケット単価という価値を重要視するという島田氏が、実働部隊となるチケットセールス担当に求めていること。それは、何が何でもやり遂げるという強い意志だ。

「チケット単価を上げるためには、何をすればよいか。それは、チームがより魅力的になることしかありません。(前編で話した)スポンサー営業の担当者と、チケットセールスの担当者に求めるものは似ているところがあります。一番大事なのは、目標を達成するという強い意志。社員に対しては常に、それを持ってやれているのかどうかと、言葉にして問います。そこがまず入り口。意志のあるところに道は開かれます。『絶対に5000人を入れるんだ』と思わなければ5000人は入りません。4000人でいいやと思ってしまったら、絶対に無理なんです」

B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18の会場となったホーム、船橋アリーナで試合開始を待つ島田氏

写真協力:千葉ジェッツふなばし

バスケットボール部門の選手らには優しく包み込むようなアプローチをしていたが、反してビジネス部門では厳然たる経営者としての顔を見せる。社員らが目標達成にエネルギーを全注力するよう、意志と熱をたたき込む。

「PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を徹底する。そこにVisionを加えて“VPDCA”と、最近よく言っています。まず強い志を持った上で、それを実現するための計画、行動、評価、改善を常に休まずにやろうと。チケット販売5000人を目標にしたのに4700人くらいになり、『まぁ、今回はこれくらいですかねぇ』と納得してしまうスタッフもいます。4700人でも、Bリーグ2位の観客動員数には1000人以上は上回っていますから、妥協してしまいがちになる。その“甘え”が生まれたときに、『絶対に5000人にしようって言ったじゃん!』といった、げきを飛ばすコミュニケーションが多いですね」

担当者が目標を完遂するために、具体的な言葉にしてモチベーションを上げるアプローチ。日本一観客が入るチームのチケットは、必ず売り切る姿勢があるからこそ売れている。そして千葉ジェッツは、言葉だけでなく、しっかりと報酬でも応えているのだ。

「選手も同じですが、必要なのはきちんと評価すること。どうなったらいくら払うというインセンティブをリアルに分かるようにしています。例えば、平均が4700人だったらいくら、4800人になったらいくらとして、数字によって報酬に差がしっかりつくようにしています」

黄金時代の千葉ジェッツに立ちはだかる壁の壊し方

島田氏が代表となってから、千葉ジェッツは確実に成長してきている。だが、この右肩上がりの中でも、当然のようにさまざまな障害を乗り越えてきた。

「慣習となっているスポーツ業界の“当たり前”を壊していくことを、スタッフと選手に浸透させるのはタフでした。たとえ『こういうことを他のチームではやっていない』とスタッフに言われても、他は関係ないと意識改革をしていく。私がそこで妥協したら流されてしまうので、頑としてやってきました」

旧来の価値観からの脱却は、チーム内外を問わず大きな壁だったという。また、着実に成長している今だからこそ、いつか成長が鈍化したときのための備えが大切だと島田氏は強調する。

「今は伸びていますが、いつか必ず落ちます。ずっと上がり続ける会社はない。そういう意味で、これから千葉ジェッツが長い歴史を積み重ねていく中で、今は本当にまれな“黄金時代”です。でも私としては、そこにたまたま携わることができていて、『あぁ、良かった』ではいけない。私個人の会社ではないですし、未来永劫残っていかないといけないチームです。そのためには、いかに落ちている時期の下げ幅を小さくし、落ちないようにするか。アリーナがすでに満席だからこれ以上売り上げが伸びないのではなく、チケット単価を上げるなどの工夫をして、継続して強いチームを作り続けていくには細かい作業を研ぎ澄ましていくしかないんです。チーム経営の質をどう高めていくかが、今後、千葉ジェッツが成長できる唯一無二のアプローチです」

B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18セミファイナル対琉球ゴールデンキングス戦。ジェッツレッドに染まった船橋アリーナで、シュートを放つ富樫勇樹選手

頂に立ったチームを、さらに飛躍させるための方法論は、すでに見えている。トップとして、これを組織全員に浸透させるために、すべきこととは。

「いつもネガティブな話しかしていないですね。チームはこんなに調子が良いのに、毎週のミーティングではネガティブな話題。もはや、みんな慣れていますが、最近、社員は嫌そうな顔を見せてきます(笑)。でも私から言わせれば、社員の雇用を守るため、そして私がいなくてもみんなが幸せになれるために、良いときほど引き締めているんです。逆に悪くなったら、とことんポジティブなことを言いますよ」

この良いときにこそ手綱を締めるのは、文字通り将来、何が起こるか分からないから。どんな事態に陥ってもチームが、選手が、社員が生き残れるようにするため。それは、かつて旅行会社を経営していたときの苦労があるからだという。

「以前、旅行会社を経営していてSARSだとか戦争だとか、さまざまなリスクに翻弄(ほんろう)されたことがあるんです。昨日まであった予約が翌日、全てキャンセルになったということは何度も経験し、1億円の売り上げが一瞬でなくなったこともあります。会社を持続させることの難しさは痛感しているんです。

なので、千葉ジェッツの収益も、調子が良いときは内部留保して、悪いときは盛大に使う。ためたお金は、先々で雇用を守ったり、新たにエンターテインメントへの投資をしたりするつもりです。私は不況にこそ存在感が出るんですよ。長いスパンで平均して、大きくぶれないチームを作っていくことを目指しています」

「究極の目標は、不測の事態でBリーグが1年間休止になってもつぶれない組織にすることです」

このように、選手、コーチ、社員、スポンサー、ファンなど、千葉ジェッツというチームに関わるさまざまな人々に深い愛情を注ぐ島田氏にとって、その行動力の源となるエネルギーは何なのだろうか。

「千葉ジェッツを何とかしたい、というのが素直な気持ちです。今年よりも来年、来年よりも再来年が伸びるように、今よりも明日をもっと成長させようと、バスケットボールもビジネスも無我夢中でやってきました。極端に言えば、もう本当に目先のことを追っかけてきただけですね」

どんな苦境にも屈しないチームへと千葉ジェッツを成長させるため、選手や社員をけん引しながら、今日も島田氏は貪欲に前へ前へと進んでいく。

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