2017.6.5
島国日本ならでは!浮遊型「波力発電」が実用化間近
今後は“波”で電力を賄う世帯が増える?波力発電装置の最新事情
太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの一つとして注目されている“波力発電”の実験に大きな進歩が!先月5月23・24日に、兵庫県神戸市沖で海の波を利用する浮遊型波力発電装置の実証実験が行われ、実用化のめどが立ったとの報告がなされた。今後、島国の強みを生かしたエネルギー源になるのか、要注目だ。
海に浮かび、波の“縦揺れ”エネルギーで発電!
再生可能エネルギーに関する機器、システムの開発を手がけるWave Energy Technology社(東京都港区)が、世界初となる商用型の「浮遊型波力発電設備(グリーン パワー アイランド/Green Power Island = 以下GPI)」を開発。先月、そのプロトタイプの完成に至ったという。
同社によると、GPIは今までの波力発電とは全く異なるコンセプトをベースに実現化を目指してきた。これにより発電効率に加え、メンテナンス性の向上、工期の短縮(3~4カ月)を実現したという。
-
波が上下に動く振動を利用して発電するのが波力発電の基本的な仕組み(写真=PIXTA)
「弊社のGPIは浮遊式なので、海底にアンカーを打ち込むといった海洋環境を損傷するリスクがある設置手法を採用していません。代わりにスラスター(船舶用の推進システム)やGPSを装備しており、自身で位置制御を行います」と語るのは、Wave Energy Technology社GPIプロジェクト担当の野田眞弥氏。
波によって流されることを防ぎつつ、仮に波を受けて位置が動いても、自動で元の位置に戻るというわけだ。これは世界でも初めてのタイプで、4月には国内特許を取得、現在国際特許も審査中だという。
-
プロトタイプのGPI。ロゴが入った上部の円筒状部分はギアや発電機を収めたユニットで、その下に繋がっているフロートが波の動きに合わせて動くことで発電する
発電方式はいたってシンプルだ。
中央部にあるフロート(浮き具)が波の動きに合わせて上下する。フロートは、長い棒状の部材に固定されており、海面に対して垂直方向に上下するため、その運動エネルギーをギアで回転エネルギーに変換して発電機を駆動、電力を発生させるというもの。
-
GPI構造図。波を受けても姿勢を維持するため、下部に円盤のような回転する姿勢制御機構(ジャイロ)を採用している
「発生させた電力を使用して、脱塩器を稼働させています。脱塩した淡水でフロートに取り付けられたギアのフラッシング(潤滑油の代わりに使うための淡水)を行いつつ、余った水は飲料水として供給できるようになっています」(同氏)
環境に影響を与えず再生可能エネルギーによる発電ができるだけでなく、飲料水を供給…優秀すぎやしないだろうか!?
海外の離島や砂漠の多い地域などから、既に問い合わせが来ているという。
では、肝心の発電力はどれほどなのか?
最大モデルは約1万1000世帯の電気を賄える
GPIの実用機は、最小で直径約14m、高さ約24m、重量1250tで、出力1200kWを想定。数千枚の太陽光パネルを稼働させるメガソーラーに匹敵する出力だ。約50cmの高さの波があれば発電できるという。
また、そもそもGPIの原理や構造はイタリアで発明されたものだが、実用化するためには高度な機械加工技術が不可欠であり、船舶関連の技術や加工会社がそろう日本の神戸で実証することになったのだ。
先月行われた実証実験で使われたプロトタイプは、実用機の10分の1となる直径1.4mで製作。高さは約14m、重量は6.8tとなる。フロートは一つで、高さ40cmの波があれば発電できる。出力は10kWだ。
-
実証機をクレーンで海に下ろす様子
-
神戸市沖、約3kmの沖合で実証
「実験当日は残念ながら波高が20cm程度と低く、最上部に取り付けられた発電を示すLEDパネルは点灯しませんでしたが、発電機に取り付けたロガー(電圧記録装置)では発電を確認できました。また、突堤に引き戻した後、80cmの波を模した動き(上下)をクレーンで再現してみたところ、想定通りLEDが点灯するという結果になりました」(同氏)
今回の実験で発電が確認できたことを受け、商用機である直径約14mの設計製造を開始することを決定したという。2018年早々の完成を目指すとのこと。
「GPI は24時間365日安定した電力供給が可能であり、一定の波高があれば内蔵するフロートの上下運動を回転運動に変換して発電機を駆動します。そのため、発電コストは5~7円/kWhと、実用化を妨げるコスト面での課題もクリアすることができました。
直径14mのGPI(1200kWの発電能力)タイプと、直径32mのGPI(5000kWの発電能力)タイプの2つのタイプの製造を予定しており、それぞれ一般家庭向け換算で約2600世帯と約1万1000世帯への電気の供給が可能です」(同氏)
同社はロイヤリティ(権利の利用料)関連を中心とする事業モデルを想定しており、今後は国内販売及び海外諸国との契約を進めて、2020年までに約800機の稼働(32mGPI換算)を見込んでいる。
今後は波に日常生活を支えられる“海の家”が増えるかもしれない。なんだか、男のロマンを刺激される話ではないだろうか。真っ先にその恩恵にあずかれそうな沿岸の街に、今のうちに引っ越しておくのも悪くない!?
-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit
text:浅原 聡