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スマホやPCなら数分でフル充電完了!?高容量全固体電池の実用化へ前進

日本の研究チームが、高い電流密度での超高速充放電の実証に成功

社会インフラの整備とともにEV(電気自動車)普及の鍵といわれる、車載用電池の高出力化と充電時間の短縮。その実現に向けて世界中で研究が進められているのが、次世代型として注目を集める高出力タイプの全固体電池だ。今回、実用化に向けた課題の一つであった“超高速での充放電”の実証に日本の研究グループが成功。短時間で充電を完了し、高出力を発揮する夢の電池誕生を予感させる研究の詳細をご紹介する。
TOP画像はイメージ:(C)chesky / PIXTA(ピクスタ)

高出力型の全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現

東京工業大学の一杉(ひとすぎ)太郎教授らは、東北大学・河底秀幸助教、日本工業大学・白木將教授と共同(以下、本研究グループ)で、高出力型全固体電池において極めて低い界面抵抗(各電極との電解質の間の接触抵抗)を実現し、超高速充放電の実証成功を発表した。

※同じ東京工業大学でリチウム電池と固体電解質の研究に携わり、自ら開発した材料を使い全固体電池の実用化を目指す全固体電池研究ユニットリーダー 物質理工学院応用化学系 菅野了次教授に関する記事はこちら

今回、実験に使用された全固体電池の概略図(左)と写真(右)

現在主流のリチウムイオン電池に代わり、高エネルギー密度・高電圧・高容量および安全性を備えた究極の電池として注目が集まっている全固体電池。

その言葉が示すとおり全てが固体の電池のことを指し、電解液を使用していないことがリチウムイオン電池との大きな違いだ。

総合マーケティングビジネスの株式会社 富士経済の調査によれば、2035年の世界市場は2.8兆円規模に達すると予測されるなど、近い将来、巨大な市場を形成すると目されている。

特に注目を集めているのが、現在、幅広く利用されている発生電圧4V程度のLiCoO2(コバルト酸リチウム)系電極材料よりも高い5V程度の高電圧を発生する電極材料Li(Ni0.5 Mn1.5)O4を用いた高出力型の全固体電池。

しかしこれまでは、高電圧を発生する電極と電解質が形成する界面における抵抗が高く、リチウムイオンの移動が制限されてしまう問題があり、高速での充放電が難しい点が課題とされていた。

全固体電池の界面抵抗の測定結果(交流インピーダンス測定/交流回路での電圧と電流の比)。x軸が実部、y軸が虚部に対応している。赤の円弧の大きさから、界面抵抗の値を7.6 Ωcm2と見積もれるという

今回、本研究グループは、これまでに培ってきた薄膜製作技術と超高真空プロセスを活用し、Li(Ni0.5 Mn1.5)O4エピタキシャル薄膜を用いた全固体電池を作製。

エピタキシャル薄膜とは、基板となる結晶の上に成長させた薄膜で、下地の基板と薄膜の結晶方位がそろっていることが特徴である。この技術は、発光ダイオードやレーザーダイオードなどにも採用されているテクノロジーだ。

完成した全固体電池で、固体電解質と電極の界面におけるイオン電導性を確かめると、7.6Ωcm2という界面抵抗が得られた。これは、従来のものより2桁程度、液体電解質を用いた場合と比較しても1桁程度低い数値で、極めて低い界面抵抗を実現することに成功したことになる。

また、活性化エネルギー(反応物が活性化状態になるために必要なエネルギー)を試算したところ、非常に高いイオン電導性を有する固体の超イオン電導体と同程度の0.3eV(電気ボルト)を示すことが判明した。

これは、界面をまたぐ際のイオン電導性が非常に高いことを証明するのと同時に、温度変化をしても界面抵抗は低いままであることを示している。つまり、低温ではイオン電導性が低くなり、電池動作をしなくなる液体のリチウムイオン電池に対して、低温でも動作する全固体電池が実現可能であることを意味しているわけだ。

全固体電池の超高速充放電試験結果。充放電サイクルを100回繰り返しても、容量は変わっていないのが分かる

また、低い抵抗界面の安定性を探るため、大電流での充放電試験も実施。すると、14mA/cm2という大電流でも安定して高速充電することに成功。さらに、繰り返し100回の超高速充放電をした場合でも電池容量に変化は全く見られず、リチウムイオンの高速移動に対して固体電解質と電極の界面が安定していることが実証されたという。

なお、全固体電池の構造解析を行った結果、界面を形成した直後に固体電解質から電極へリチウムイオンが自発的に移動することも明らかとなった。

これは界面近くでのイオン輸送についての理論を構築する上でも有意義であり、今後、詳細な解析を進めることで、さらなる電池特性の向上につながる界面設計の指針の明確化が期待される。

今回の成果について本研究グループでは、「従来の4V程度の発生電圧から5Vへ、全固体電池を高出力化する道筋が見えてきました。高出力型全固体電池における界面抵抗の低減や高速充放電の実証は、全固体リチウム電池の実用化の鍵であり、実用化を目指す上で大きな一歩となり得るはずです」と統括している。

ちなみに、4Vから5Vへの発生電圧の向上については、同じ電流値でのパワーが1.2倍(=5/4)になるため、車であれば加速性能が1.2倍になると考えてよいとのこと。

高出力型の全固体電池実用化へ──その実現性を大きく手繰り寄せたといえる今回の実証試験。携帯電話やパソコンなどの端末であれば、ものの数分で充電を完了させる時代はすぐそこまで来ているようだ。

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