2019.10.23
英国代表チームが採用! 車いすバスケ用の「車いす」世界的トップブランドの技術力
株式会社 松永製作所【前編】
開幕まで1年を切った、五輪・パラ五輪2020東京大会──。2020年8月25日(火)からスタートするパラ五輪を、アスリートと共に緊張感を持って待ち続ける人たちがいる。岐阜県養老町に本社を構える車いすの専門メーカー・株式会社 松永製作所だ。創業45年を数え、今では車いす・福祉用具の国内トップシェアメーカーとなった同社の開発部開発課課長・無津呂崇志氏と廣瀬昌之氏、営業部の堀野毅氏に、選手の体の一部ともいえる車いす作りについて聞いた。
健常者と同じように人生を楽しめるように
今ではスポーツ用車いすを手掛けるメーカーとして、日本はもちろん世界的にもその名が知れ渡っている松永製作所。その歴史は1974(昭和49)年に始まった。
元々はオーダーメイドの車いすを小さな工場で手作りしていた。それを地道に繰り返しながら車いす作りに必要な金属加工や溶接技術を洗練させていったという。
やがて時代の流れ・要求に合わせ、素材そのものが進化していく。鉄製から、より軽量で強度の高いアルミニウム合金やチタンに注目が集まってくると、それを車いすに生かすべく検討。今では当たり前となった「樹脂を使ったキャスター」を国内で初めて車いすに採用したのは、松永製作所であった。
「弊社では創業以来、“挑戦と革新”という社訓を掲げ、その下で福祉や医療に役立つためのモノづくりにまい進してきました。おかげさまで主力の車いすについていえば国内トップシェアを誇っています。これを実現できたのは、ユーザーの方々を起点としたモノづくりの思想。つまり利用者ありきの企画開発から生産・販売までの一貫体制を築いてきたことにあると思っています」と開発部開発課の無津呂崇志課長は語る。
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同社の礎を築いてきた車いす。今では国内トップシェアを誇る
同社本来の目的は、ハンディがある人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させるために、役立つ車いすを作ることにある。それが日常的な行動のサポートにとどまらず、スポーツにまで広がっていったのは、むしろ自然な流れだったようだ。
「昔はハンディがある方々の娯楽が少なかったんですよ。それを模索する中で、楽しみながらリハビリであるとか、体を鍛えることにつながっていくのであればもっと良いね、と。でも、それをするには一般的な車いすでは適しません。そもそもの目的が異なりますからね。そこで競技用車いすの開発が、どうしても必要となりました。それがスポーツ用車いすを手掛けることになったきっかけです。でも、それも2000年代に入ってからのことなのでわりと最近なんですよ」
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車いすと一言で言っても、実際には利用者の症状に合わせて形態を変える。上半身が自立できない人、足の長さが異なる人、自分で移動できる人など。全ての人のQOLを向上させるために必要な形態を模索する
車いすを利用する理由は、人それぞれだろう。先天性のハンディがあるゆえに使うこともあれば、不慮の事故や病気など後発的な理由で使うことになった人もいる。
「たとえ車いすで生活することになっても、それで人生が終わってしまうわけではありません。もっと言えば、健常者と同じように人生を楽しむチャンスはあるのではないか、と。そんな思いの下に生まれたのが、われわれが作る競技用車いすなんです」
一般用と競技用車いすの違いはどこにあるのか?
車いす作りは大きく3つの構成に分かれる。
一つは「金属加工」だ。素材となるパイプを高速切断機で切断。3次元曲げ加工などを施し、パイプを立体的に曲げていく。その後、アルミ溶接などによって鋼材を溶接し、ひずみなどを調整。そして表面に耐退色性や耐摩耗性を高めるための処理を施していく。
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同社で作られる競技用車いすは全てが手作り。利用者の求めに応じて設計され、丁寧に仕上げられていく
金属部分と同時に進められるのが、クッションやシート作りだ。布製の素材を切り出し、ミシンで丁寧に仕上げる。
金属、布に並ぶもう一つの部品は、樹脂・ゴム製パーツだ。こちらはニーズに合わせて材料を調合し、射出成形、2液発泡成形、プレス成形でキャスターなどの部品に仕立てていく。
こうして出来上がった3つの構成部品を手作業で組み立て、スタッフのチェックが終わると出荷となる。
この製造工程は、一般用車いすも競技用車いすも大きな違いはないという。とはいえ、求められる性能が異なるため、両者の違いは形状からも明らかだ。
「一般の車いすに求められるのは、やはり“使いやすさ”です。例えば、乗用車に載せるための折り畳み機能であるとか、室内移動を考慮した車幅の狭さであるとか。また、高齢者が乗り降りしやすいようにステップが折り畳めるなどの利便性が挙げられます」
そんな“日常的な配慮”を排除し、よりスポーツのパフォーマンスを高めるための工夫、エネルギーの高効率化が施されているのが競技用車いすとなる。
「バスケットボール用の車いすでいえば、大きく3つの特徴があります。まずはハの字形に取り付けられたタイヤ(下画像参照)。これにより左右方向の安定感が増し、さらに小回りが利くようになってターン性能が上がります。次にフロント部分に付いている大きなバンパー。競技中に選手同士が車いすごと激突するのも珍しいことではありませんからね。その衝撃を緩和するために備えられています。そして最後は座面後方に補助のキャスターが付いていること。これは転倒防止を考慮しての装備となります」
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ある外国人選手のために作られた競技用車いす。足を置く位置が左右で異なるのが分かるだろうか。また背もたれが低いのは、この選手が腰から上は自立できることを意味している
健常者と異なることが、ハンディがある人の意思をゆがめるものであってはならない。全く同じではなくとも、同じような経験ができることをサポートしたい。そんな同社の思いは、技術となって車いすのパフォーマンスを向上させ、魅力となる。
後編では、同社が生み出す競技用車いすに秘められた唯一無二の特徴に迫る。
<2019年10月24日(木)配信の【後編】に続く>
バスケットボール用車いすで高評価を受けるメイドインジャパンの“しなり”技術とは?
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text:長嶋浩巳 photo:下村 孝