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いつの日か日本製ロケットで別の天体に降り立ちたい

ISSで4カ月を過ごした次世代宇宙飛行士が語る「宇宙に出るためのエネルギー」

11人目の日本人宇宙飛行士として、2016年7月7日から10月30日までのおよそ4カ月を国際宇宙ステーション(ISS)で過ごした大西卓哉宇宙飛行士。大気圏を飛び出すために必要なエネルギーや、宇宙という逃げ場のない空間で暮らすために不可欠な電力など、地球にいるだけでは感じることのできない体験を聞いた。

宇宙に飛び出すエネルギーを得るための装備

現在、人類が宇宙に飛び出す方法は一つしかない。

ロシアの保有するソユーズ宇宙船に乗り込むことだ。全長約7m、直径約3m、重量約7tのソユーズ宇宙船は宇宙飛行士が地球軌道上で過ごす軌道船、打ち上げと再突入時に乗る帰還船、そしてメインエンジンや飛行士のための酸素や水が搭載される機械船の3つのモジュールに分けられる。

もちろん、これだけで宇宙空間に飛び出していけるわけではない。

重力に反して大気圏を飛び出すには、現在の地球上で体験できる最大クラスのエネルギーが必要だ。それを生み出すために、ソユーズ宇宙船にはロシアが有人打ち上げのために開発したソユーズロケットが使用される。

全長49.5m、直径約3.5m、全備質量約310t。そのほとんどをロケットエンジンと液体燃料で構成されるソユーズロケット。それだけのエネルギーを使って生み出される壮大なパワーによって宇宙に飛び出していく。

その発射のリアルな体験を聞きに、日本人宇宙飛行士・大西卓哉さんを訪ねた。

2016年10月に地球に戻り、ロシアで地球上の重力に体を慣らした後、12月に日本に戻ってきた大西宇宙飛行士

空気を震わす“エネルギーの塊”

「宇宙に行くためには圧倒的なエネルギーが必要なんだということは、自分がソユーズ宇宙船に乗り込む前から感じていたことでした」

2016年7月から10月の約4カ月間にわたり、宇宙飛行士としてISSに滞在した大西さんに最初に聞きたかったのは、“宇宙に飛び出すためには、どれくらいのエネルギーが必要なのか?”ということだ。

「訓練でアメリカのジョンソン宇宙センターを訪ねたとき、展示されているアポロ時代のサターンロケットを見たんです。全長は110m以上。そのほとんどは燃料を搭載するための容器だということを認識した時、宇宙開発の厳しさや難しさを改めて感じました」

さらにロケットの打ち上げ現場に立ち会ったとき、放出されるエネルギーの大きさに愕然とした。

「空気が振動しているのを感じたことってあります? ロケットの発射現場にいると、それが分かるんです。至近距離にいるわけじゃないですよ。数km離れたところから眺めていても身の回りの空気がバリバリと振動しているのが分かるし、それに引きずられて自分の体も震えだすんです。それほどの“巨大なエネルギーの塊”に自分が乗って宇宙に行くんだと思うと…それはそれで身震いしましたね(笑)」

ISSに向かって地球を出発したソユーズ宇宙船

©JAXA/NASA

意外と静かなソユーズ宇宙船内

「打ち上げ時、船内にいる宇宙飛行士にかかる重力加速度(G)は、4Gです」

簡単に言えば、自分の体重の4倍の力で押さえつけられている。さぞ大きな身体的負荷を感じるのだろうと思いきや…。

「宇宙船内での僕らの状態というのは、地上にいるときで言えば天井を向いて座っている状態。背中に向けて力がかかるんですよ。でも、それほど高い負荷だとは思いませんでした」

また徐々に加速していくので、重力加速度のかかり方もスムーズだ。

「自分がいるのはロケットの先端。エンジンはずっと下の方にあって、自分のお尻の下で燃えている。あまり直接的には感じないんですよ」

ロケットの打ち上げを外から見ると空気が震えるのを感じたというが、船内ではどうか? 爆音が鳴り響いているのだろうか?

「コックピットは密閉されていますし、ヘルメットもかぶっている。だから振動や音は、ほとんど感じません。むしろ静寂の世界。想像していたような暴力的な打ち上げではありませんでしたね」

ソユーズ宇宙船のシミュレーターで訓練中の大西宇宙飛行士

©JAXA/GCTC

大気圏から宇宙空間に出た途端…

ソユーズロケットは3段式。燃料を使い切ったタンクは3回に分けて切り離される。

「そのときだけは、衝撃を感じました。ロケットに乗っているときって、大きな手のひらの上に乗ってゆっくりと持ち上げられているような感覚なんです。その手が、突然なくなってしまうような感覚。それが切り離された瞬間ですね」

この感覚は、まだ大気圏内にいるからこそ感じるものだろう。宇宙空間に出た瞬間、体に感じるエネルギーの感覚が、全て変わっていく。

「無重力空間に出た途端、周りのものがフワフワ浮き始める。僕もシートに座っていられなくなるんです」

もちろんシートベルトを締めている。しかし、体が浮き出そうとする感覚を止めることができない。

「シートベルトを締めるということは、それだけのエネルギーで体をシートに押さえつけるということ。でも無重力空間では、それと同じだけの力で反発してくる。その感覚に最初は戸惑いましたね」

帰還後の重力変化に慣れるため、体を圧縮するロシアのペンギンスーツを着用する

©JAXA/NASA

一般家庭40軒分の電力で動くISS

こうして宇宙空間へ出た後、大西さんはアメリカ、ロシア、カナダそして日本など先進諸国の協力によって運用されるISSに入り、4カ月のミッションをこなした。ISSが使用するエネルギーは、太陽電池で発電する電力。その太陽電池は、ISSの表面に張り付けられた板のような平面の構造物・太陽電池パドルにある。

ISSは、この太陽電池パドルから最大120キロワットの電気を得る。これは一般家庭約40軒分。ISSはこの電力を効率的に使い、宇宙飛行士の生命と生活を維持し、さまざまな実験を行う。

「この120キロワットというのは、ISSにとって十分な…余裕を持っているくらいの電気です。もちろん、安全面への配慮という意味がありますから。だってトラブルがあったら大変じゃないですか。地上のように、電気屋さんに来てもらうわけにはいきませんから」

ISSの軌道上では、1日(24時間)に16回、昼と夜が繰り返される。当然、夜の間は太陽光を受け、発電することはできない。

「昼間は電力を発生しながら、各システムに供給しています。とはいえ全ては使い切らないので、余剰電力を蓄電器(バッテリー)に蓄電し、夜間に使うわけです」

つまりISSでは、太陽電池とバッテリーの電力を交互に使っているわけだ。

「ただし、日本実験棟“きぼう”は太陽電池を持っていません。だからISS本体から直流120Vの電力供給を受けています。これを変圧器で各機器に適した電圧まで下げ、使用しているんです」

ISSの模型。左右に広がる青いパネルが太陽電池パドルだ

もっと遠くの宇宙に行くために

11人目の日本人宇宙飛行士として大気圏を飛び出した大西さん。もちろん、これで彼の夢が終わったわけではない。

「地球以外の天体に降り立ってみたいんですよね。そのためにできることは何か、考えています」

人類はかつて月面に降り立った。次に目指す場所として、例えば火星を目標に掲げる人もいる。

「実際にISSで4カ月ほど過ごして思うのは、現在の人類のテクノロジーでは火星に行くのは難しいな、ということです」

最大の問題は機器の信頼性を確保することだ。

「宇宙空間は地上とは違うということです。簡単に説明すると放射線の影響などを受け、機器が壊れやすくなる。ISSなら直したり、地上から代替品を運んでもらったりすることができます。しかし火星を目指すとなるとそうはいかない。それを考えると…まだ時期尚早だと思いますね」

キューポラと呼ばれる観測窓で、ソユーズMS-01宇宙船(47S)を背景に撮影する大西さん

©JAXA/NASA

とはいえ、もちろん大西さんは夢を諦めているわけではない。ISSを経験したことで見えた光明もある。ポイントは再生可能エネルギーだ。

「再生可能エネルギーの進化は必須条件だと思います。いかに省エネ性能を向上させるか。より効率よく再生可能エネルギーを得るためにはどうすればいいか。それらを突き詰める必要があります」

例えばアメリカの宇宙開発企業スペースXは、ロケット打ち上げ時に切り離される燃料タンクを回収し、再利用する取り組みを始めている。

「この発想は、NASAにもJAXAにもなかったものなんですよ。彼らの取り組みが実用化されれば、エネルギーもコストも大きく削減できます。しかも、日本でもベンチャー企業によるロケット開発が盛んですよね。そういった動きがどんどん進めば、僕もまた宇宙に行きやすくなると思うんです。そしていつか…日本製のロケットで、別の惑星に降り立ちたいですね。それが僕の夢です」

宇宙へ行くことは命懸けの挑戦だ。

大西さんも「地球に帰還するため大気圏に突入したとき、すぐ窓の外側が黒焦げになって見えなくなり、宇宙船が火の玉になっているのが分かった」という。しかし、その空気抵抗や緊張感を乗り越え、これからも大西さんは宇宙を目指す。

帰り際、ロケットを開発しているベンチャー企業を取材していることを告げ、メッセージを求めたEMIRA取材班に、大西さんは「日本の技術は世界的に見ても信頼性が高いです。一緒に宇宙を目指しましょう」と笑って手を上げた。

着陸したソユーズMS-01宇宙船(47S)の帰還モジュール

©JAXA/NASA/Bill Ingalls

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