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土壌解析技術から脱炭素ビジネスへ。サグリが目指す「地球と人類の共存」

サグリ株式会社 代表取締役CEO 坪井俊輔【後編】

衛星データとAIを掛け合わせたアプリを展開することで、農地の“見える化”を推進するサグリ株式会社。これまでアナログで行われていたさまざまな調査の負担を軽減することで、農業事業者の労働環境や営業利益の改善に貢献している。一方、これまで培ってきた技術をベースに、現在インドでは脱炭素ビジネスに注力。「人類と地球の共存を実現する」という目標に向けて、代表取締役CEOの坪井俊輔氏が思い描くビジョンを掘り下げる。

衛星データを解析して温室効果ガスの削減量や吸収量を評価

地球環境を守るために世界中で脱炭素社会への移行が推進されており、農業の側面では、主にCO2(二酸化炭素)、CH4(メタンガス)、N2O(一酸化二窒素)の排出削減が求められている。

サグリは民間に公開されている衛星データをAIで高度に解析する技術を持ち、2022 年8月には農家向けに生育管理と土壌解析を効率的に行えるアプリ「サグリ」をリリース。土壌の窒素量やpH値などを高精度で推定できるようになったことで、農家による脱炭素の影響が“見える化”されることを示唆している。代表取締役CEOの坪井氏が、そのポテンシャルを教えてくれた。

「世界中で肥料の価格が高騰している中で、適量の肥料をまくには土壌分析が欠かせません。農地が広いと簡単ではありませんが、このアプリを使えばスムーズに肥料の使用量を最適化することができます。そして肥料の削減はCO2の約300倍の温室効果を持つと言われるN2Oの削減につながります」

サグリの坪井氏。ルワンダで途上国の農業課題に直面したことをきっかけに、大学在学中の2018年にサグリを起業

日本では2020年に「J-クレジット制度」において、農地にもみ殻などを由来とするバイオ炭を使用することが「炭素を長期間土壌に固定する」と見なされ、排出削減量をクレジットとして認証できるようになった。脱炭素を軸にした新たな経済圏が生まれつつあるが、省エネ・再生可能エネルギー設備の導入も必要でハードルが高い側面もある。

もっと世界中の農家が手軽に脱炭素で収入を得られる仕組みを作ることを目指し、サグリは手始めに昨年からインドで新事業をスタートした。

「日本に限らず、農作業では伝統的にもみ殻などの生物資源を肥料として土壌にまいてきました。それが温室効果ガス削減への貢献と見なされ、農家の収入につながる可能性があります。ただ、まだまだ日本ではプレーヤーも少なく市場形成も遅れているため、もともとつながりのあったインドで先に事業の種まきを開始しました。周辺の東南アジアも含めると膨大な人数の農業従事者がいますし、海外から始めた方が脱炭素へのインパクトも大きいと考えました」

これまで培ってきた土壌分析の技術を応用することで、農地から排出される温室効果ガスの削減量や吸収量を評価し、カーボンクレジット化につなげることが目的だ。インド以外ではタイやフィリピンでも事業展開を検討している。

農地の分析アプリ「サグリ」のサービス画面。作物の生育状況および土壌解析をスムーズに行うことが可能

「農家の人口は世界で約26億人と言われており、その大半がインド太平洋地域、アジア、アフリカで暮らしています。米国や欧州は土地面積が大きいものの、農家の数はそこまで多くありません。そもそも私は、教育事業で訪れたルワンダで、農作業に追われて夢を諦める子どもたちを見たことが原体験となってサグリを立ち上げました。途上国の農業課題を解決できて、地球環境にも好影響を与えられるプロジェクトを進めることは私にとって必然だったのです。我々の技術を活用して、現地の方々がこれまで行ってきた作業をしっかり評価し、経済的なインセンティブが生まれる環境をつくりたいですね」

インドでは農家の資金調達を支援

脱炭素に取り組む以前から、サグリはインドで独自のビジネスモデルを構築してきた。大きな特徴は、「農地情報を与信として金融機関などへ販売する」ことである。

まずサグリは、対象となる農地の区画面積や作物の予測収穫量などを衛星データから分析・算出。それを農家に資金を貸し付ける金融機関に販売する。金融機関側は、貸付先農家の経営情報を把握しながら円滑な資金の貸し付け・回収ができる。農家のメリットは、情報を活用することで農業資材などの購入資金を調達しやすくなることだ。この事業を推進する上で、現地のパートナーと信頼関係を築くことが重要なミッションだった。

「海外では細かな風習や伝統が日本とは変わってくるので、我々が直接コミュニケーションをして農家に寄り添っても、本質的な課題を抽出するまでに時間がかかってしまいます。故にマイクロファイナンス企業などの金融機関だけでなく、農家と強いネットワークを築いている組織との連携が必要でした」

サグリは、2019年よりインド・ベンガルールに子会社を設置しており、現在は現地で農家支援を行うローレンスデール・アグロ・プロセッシング・インディア(LEAF)と事業提携している

現地の農業大手と業務提携したことにより、インドの農家や金融機関に対してアプローチできるネットワークを築くことができた。坪井氏は今後、それを脱炭素ビジネスにも生かすことを期待している。

地球で暮らし続ける方法を探る

これまで民間企業が有効利用できていなかった衛星データにいち早く目を付け、サグリは国内外の社会的な課題解決にアプローチしてきた。サグリは、衛星データには地球と人類の共存をサポートする可能性があることを確信している。

「まだまだ我々が解析できてない領域はたくさんあります。例えば昨今は小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発が進んでいますが、夜であっても、空が曇っていても、地表の滑らかさを測ることができるんですよ。それによって、農地の水張りの状況や土壌の水分量を解析するなど、あらゆる用途が考えられます。農業分野に限らず、その情報は幅広い領域で応用可能です。我々としては将来的に林業の課題解決にも取り組んでいきたいと思っています」

衛星データを解析することで地球上の状況が可視化される。すると持続可能な社会を実現するための道筋も見えてくる。坪井氏が望んでいるのは、社会的・環境的な影響を生み出すインパクト投資が当たり前の世の中になることだ。

「気候変動によって農業生産が思いどおりに進まないことは、人類が立ち向かっていかなければならない最大の課題だと思っています。長らく『環境ビジネスはもうからない』と言われてきましたが、もはやそういう話ではなく、現代人の責任として社会の課題解決に取り組むプレーヤーが増えてほしいですね。私としては、世界中の才能や資金が集結してデジタル技術を駆使すれば、食料危機は早々に解決できると思っています」

「気温上昇などの地球環境が変容している中で、人類に対しても変容が求められている」と語る坪井氏

悠長に構えている時間はない。気候変動に歯止めをかけなければ、地球に住むことを諦めて火星移住という非現実的な選択肢に頼らざるを得なくなる時代がやってくるかもしれない。宇宙に移り住む方法ではなく、宇宙から得られる情報によって地球で暮らし続ける方法を“サグリ”続ける。坪井氏の合理的なロマンの成就に期待したい。

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