1. TOP
  2. トップランナー
  3. 陸上養殖で地方に新たな産業を!“畑育ちのエビ”がさまざまな社会課題を解決に導く
トップランナー

陸上養殖で地方に新たな産業を!“畑育ちのエビ”がさまざまな社会課題を解決に導く

株式会社Seaside Consulting代表取締役 平野彩【後編】

農業用ビニールハウスを利用してバナメイエビの陸上養殖を手掛ける株式会社Seaside Consulting(シーサイドコンサルティング)。水質改善剤などを投入せずに育てられたエビは品質の高さが評価されているだけでなく、同社が考案した低運用コストで水質を管理できる仕組みが注目を集め、最近は耕作放棄地などの課題を抱える全国の地方自治体が視察に訪れている。社名の通り、起業当初から陸上養殖のメリットや技術を広く普及させることを見据えてきた代表取締役の平野彩氏に、“畑育ちのエビ”のポテンシャルや今後の展望を聞いた。

甘味と食感を共存させた畑育ちのエビ「Bianca」

2021年8月、千葉県鋸南町の耕作放棄地を活用してバナメイエビの陸上養殖を始めたSeaside Consulting。水槽内に自然に近い環境をつくり出すため、水質改善剤の代わりに汚れを吸着する竹炭を投入するなど“無添加”での飼育にこだわった。

ここにIoTプラットフォームと連携することで、陸上養殖のDX化にも挑戦。飼育槽内に水温センサーやpHセンサーを取り付けてデータを収集・解析し、水質管理、給餌管理を行っている。

養殖場に設置されたセンサー。将来的には最適な給餌のタイミングや水温管理などを教えてくれるシステムの構築を目指す

同社代表取締役の平野彩氏は、手塩にかけて育てたバナメイエビをイタリア語で白色を表す「Bianca(ビアンカ)」というブランド名で売り出すことを決めた。

「食品の場合、最初はサンプルを配ってたくさんの人に試食してもらうことが常とう手段だと思います。しかし我々はスタートアップで資金に余裕があったわけではなく、初出荷の段階から売り上げを立てることを目指していました。そこで千葉県発の商品やサービスに特化したクラウドファンディングを利用したところ、目標額を上回る60万円以上を集めることができたんです。輸入に頼っていたエビの国内食料自給率を上げながら、耕作放棄地の新たな活用法を広めたい。たくさんの人が我々の願いに共感していただけことがうれしかったです。そして、Biancaをお届けすれば品質や味に満足していただける自信もありました」

Seaside Consultingが扱うバナメイエビの「Bianca」

画像提供:株式会社Seaside Consulting

実際にBiancaを品質検査に出したところ、うま味成分である遊離アミノ酸がずば抜けて高いことが分かった。その数値はクルマエビを超える味といわれる「天使のエビ(Blue Shrimp)」を上回っていたという。

「弊社はすしチェーンの『がってん寿司』さんにも出荷していますが、商品開発を担当する方から『こんなにおいしいエビは初めて食べた』というお褒めの言葉をいただきました。通常、エビは甘味が強いと身の食感が柔らかくなり、反対に身がプリッとしていると甘味が少ないそうですが、Biancaは甘味と食感が共存していて、そこが評価のポイントになったようです。おすしのネタに向いていますし、丸ごと食べられる素揚げもオススメです」

一般財団法人 食品環境検査協会による試験成績証明

画像提供:株式会社Seaside Consulting

耕作放棄地での陸上養殖を全国へ

「畑でエビを育てる」という画期的なプロジェクトを成功させた平野氏は、耕作放棄地を活用した陸上養殖の手法を普及する活動にも力を入れている。

「北は北海道から南は九州まで、耕作放棄地の対応に悩んでいる全国の自治体 からたくさんの問い合わせをいただいています。大企業で新規ビジネス開発を担当されている方が視察に訪れるケースも多いです。国内食料自給率の向上を目指しつつ、環境に与える負荷をできる限り抑えた我々の養殖場はSDGsの文脈にもマッチしており、さまざまな観点で注目していただいています」

陸上養殖の全国拡大に意欲を示すSeaside Consulting代表取締役の平野彩氏

Seaside Consultingは、2024年4月にホテル三日月グループ(千葉)の新規エビ陸上養殖事業に対する生産支援を行う契約を締結した。同月に熱工学を応用した低運用コストで水温を管理する魚介類養殖用の水槽モデルで特許を出願しており、その技術が応用される取り組みになりそうだ。

「新たに考案した水槽モデルは、直径5mの円筒形で、容量20㎥。熱エネルギーを高い効率で運用する仕組みを採用しており、弊社の試算だと通常の30分の1程度の消費電力で効果を発揮します。ホテル三日月グループさんにも同様の水槽をたくさん置くことを提案しています。近年は民間企業による陸上養殖の事例が増えていますが、弊社が大事にしているのは誰にも負けない大規模で豪華な施設を造ることではなく、育てる品種や場所に合った持続可能な仕組みを提案すること。優先順位を間違えないようにしたいですね」

初心を忘れず環境問題に向き合い続ける

ホテル三日月グループとの取り組みは、国内リゾートホテルでは初となる「エビの陸上養殖」だ。また、1つの魚種ではなく、クルマエビとバナメイエビを養殖する先進的な事業となっている。

「陸上養殖で飼育できる魚種はエビ以外にもウナギやヒラメなどがあり、将来的には各魚種に合わせたシステムを開発していきたいと考えています。また、耕作放棄地と同じく問題となっている廃校のプールや体育館を活用したビジネスモデルも検討していますし、今後も陸上養殖をきっかけに地方に新たな産業を生み出し、さまざまな社会課題にアプローチしていきたいですね」

Seaside Consultingが目指しているのは社会課題の解決であり、エビの陸上養殖は手段の一つにすぎない。

「我々は起業する前に東南アジアでエビの養殖現場を見て、海洋環境に与えるダメージの大きさに危機感を抱きました。もし、その初心を忘れて利益を優先してしまうと、薬剤を大量に使ってエビを大量生産するといった本末転倒な事態になってしまうかもしれません。社会課題の解決に軸足を置いていたからこそ、これまで多くの方々の賛同を得ることができたので、今後も自分たちの信念をブラさらないことが大事だと思っています」

平野氏は陸上養殖を拡大させていくことで、社会課題を解決へと導く

「現在は5%だと言われているエビの国内食料自給率を、せめて10%には上げていきたいですね。まだまだ遠い道のりですが、 鋸南町だけでなく日本全国にこの取り組みを広げていくことで、一歩ずつ目標に近づいていきたいと思います」

畑で育ったエビが、いくつもの社会課題を解決に導くシンボルとして日本中に広まり、やがて世界にも影響を及ぼすかもしれない。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トップランナー
  3. 陸上養殖で地方に新たな産業を!“畑育ちのエビ”がさまざまな社会課題を解決に導く