2024.10.29
アルミごみから水素を作る。グリーン水素を生み出すアルハイテックの技術
アルハイテック株式会社 代表取締役社長 水木伸明【前編】
新たなエネルギーとしてさまざまな角度から研究が進む水素は、自然環境に負荷をかけることなく発電できることで利用・普及への期待が高まっている。そんな水素を“アルミごみから取り出す”技術を確立したのが、富山県高岡市のアルハイテック株式会社である。今回は、廃アルミ由来のグリーン水素エネルギーで、カーボンニュートラルに貢献する同社の水木伸明代表取締役社長に話を聞いた。
(<C>メイン画像左:AGLIM / PIXTA<ピクスタ>)
運送業界で環境保護に取り組み、リサイクル事業担当に
水素は発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンなエネルギーとして、国内外で実用化へ向けた研究・開発が行われている。だが、水素を生み出す過程で化石燃料を使用せざるを得ないケースもあり、社会実装への課題が研究者の頭を悩ませてきた。
そうした中、2013年に創業したベンチャー企業のアルハイテックは、廃アルミを利活用した水素エネルギー技術の研究・開発に注力。定置型水素製造装置の製造・販売で実績を積んでいる。同社の創設者にして技術開発者である水木氏は、元々エネルギー分野とは全く接点がない、化学領域とは無縁のキャリアを積んできた。
「20代で富山県に本社を置くトナミ運輸株式会社へ入社しました。ごくごく普通の運送会社で、営業職や企画職として県内外で20年以上キャリアを積んできました。その中で、運送業者でも参入しやすい新規事業をいくつか立ち上げ、本社で総務として業務を担った経験もあります。役員からは『変わったことをやるヤツだな』と思われていたかもしれません」
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「学生時代もどちらかというと勉強よりもスポーツや遊ぶことに夢中で、特に数学や化学などはテストのたびに散々な成績で、現在の姿からは想像もつかない青年でした」(水木氏)
そんな水木氏に転機が訪れたのは2000年ごろ、40代を迎えた時期だった。
1990年代から人々の環境保護への視線が少しずつ熱を帯び、オゾン層の破壊や地球温暖化を引き起こすフロンの回収、循環型社会の実現を目指しペットボトルや缶、容器包装、家電のリサイクルなどは法整備も進んだ。そうした背景から多くの企業が環境配慮への取り組みを始め、運送業界もトラックの燃料の効率化、排ガスの排出量削減など環境への影響を気に掛けるようになった。
「当時、私と(当時の)社長の間で『わが社も環境保護への取り組みを』という思いが一致し、私が社内で新たにリサイクル関連事業を立ち上げることになりました。そうして、企業や官公庁から排出される機密性の高い文書を回収、再生処理場へ運搬し、その代わりに再生紙の製品を購入してもらうビジネスモデルで利益を上げることができました」
水木氏はリサイクル事業へ携わりながら、運送業界で初となる「環境カウンセラー」の資格取得も果たす。そうして環境を意識した取り組みを積み重ねる中で出合ったのが“廃アルミ”だったという。
何もできず捨てられる廃アルミに感じた可能性
アルミニウムと聞いて思い浮かぶのは、アルミ缶のリサイクルだ。利用、再生、そして再利用という循環が確立し誰もが参加しやすいリサイクルだが、水木氏は「再生時には純粋なアルミニウムを加える必要もあり、1から1を生むことにはならないもの」であると話す。
「アルミニウムは缶以外にも、素材の手軽さから紙パック容器の内部コーティング、錠剤のシートなど、生活におけるさまざまなシーンで用いられています。その半面、アルミ缶のように簡単に回収、再生することが難しいのです」
例えば、薄くシート加工されたアルミは熱を加えると溶ける前に燃えてしまい、プラスチックや紙と接着したものは純粋なアルミを取り出すのが難しいなどの理由から、何もできず埋め立てられる廃アルミとなるものも多い。
「アルミニウムは『エネルギーの塊』とも呼ばれています。廃アルミも資源として活用できれば、大きなチャンスがあるのではと考えました。このことを社長に相談し、社内で研究を開始しました」
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水木氏が開発したパルパー型分離機。アルミニウム複合材を投入すると水の力で紙の複合材とアルミ付きプラスチックに分離。紙の複合材は装置の特殊スクリーンを通過させることで良質のパルプ繊維のみを回収でき、紙リサイクルにも貢献する
画像提供:アルハイテック株式会社
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水木氏が開発した乾留式アルミ回収装置。プラスチックがガスや油に変わる性質を利用し、アルミ付きプラスチックからプラスチックを除去、純度95%以上のアルミが回収できる。エネルギーは捕集された油分・熱風を再利用して燃焼させるため、投入エネルギーはほとんど不要
画像提供:アルハイテック株式会社
こうして水木氏は、紙とアルミを分離するパルパー型分離機、アルミとプラスチックを分離する乾留式アルミ回収装置を開発した。しかし、リサイクルが難しいものからわずかなアルミを取り出し、それらで何を作るのか──。水木氏は頭をひねる中「水素を作れないか?」という着想にたどり着く。
「若い頃に見た映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場したタイムマシン『デロリアン』がごみを燃料にして走っていたことを思い出しました。同じようにごみからエネルギーを作れないか?と、その描写も発想のヒントになりました」
経済性も実用性も備えたアルカリ溶液を開発
アルミニウムから水素を取り出す方法は、水を使った電気分解と、アルカリ溶液を使った化学反応の2つがある。電気分解は電気を、つまりエネルギーを必要とするため、水木氏はアルカリ溶液を使った水素生成に挑戦した。
運送会社のスペースで、まさかの水素生成研究が始まった。水木氏は40代になって独学で水素の生成方法を学び、社内で奇異な目で見られながら研究にいそしんだ。
「当時の研究では、水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ溶液(反応液)として用いていました。この手法でアルミから水素が作れるのですが、同時にアルミン酸ナトリウムという副産物が生じてしまいます。これが新たな廃棄物になることと、反応液も一回きりしか使用できません。廃棄物が生じる点と経済的なコスト高から製品化に踏み切ることはできずにいました」
そうした中、水木氏は同様の研究に取り組んでいたバルセロナ自治大学の研究者から声を掛けられた。それは、ローマ大学での学会の発表を見てのものだった。 この出来事が大きな契機となった。
「見学に訪れた研究施設で、一度使用した反応液の能力を回復させる技術と出合いました。反応液の回復時間の長さが課題だったのですが、これまでの研究で生じていたアルミン酸ナトリウムではなく高価なアルミへの変換も可能な水酸化アルミニウムを副産物として生み出すメリットもありました。実用できれば、ごみを出さず反応液も長期間使い続けられ、それまでの問題を全て解決する糸口が見えました」
水木氏はこの技術を日本へ持ち帰り、さらに10年を費やし反応液の回復時間の短縮に成功した。こうしてアルカリ溶液を用い、廃アルミから水素と水酸化アルミニウムを抽出する装置を完成させた。
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アルハイテックが開発・提供している定置型水素製造装置。水素供給拠点に同社スタッフが常駐し、オンサイトで水素・水酸化アルミニウムを製造するための運転を行う
画像提供:アルハイテック株式会社
この技術を使用した場合、1kgの水素を生成するのに必要なアルミニウムは9kgほど。1kgの水素はEV(電気自動車)が約180km走行可能な燃料となり、8kgあれば6,000Lの水を30℃から45℃まで加温できる。
「ここに至るまで長い時間を要しました。もちろん当時の本業は運送会社で、周囲からは『一体何をしているのか?』『本業の輸送をやっていれば良い』と言われることもありましたし、研究のための資金捻出にも苦労しました。それでも会社内で理解してくださる方々、そしてバルセロナ自治大学のように研究を知ってアドバイスや協力の手を差し伸べてくださった大学や研究施設の応援もあり、水素装置が完成したタイミングで会社を離れ、アルハイテックの設立に至りました」
水素社会の到来などまだ誰も想像していなかった頃に、ごみとして捨てられていたアルミから新たなエネルギーを生み出す道筋を切り開いた水木氏。
後編では実際の製品としての導入、普及に向けた取り組み、水素を中心としたサーキュラーエコノミーの実現に向けての思いを深掘りしていく。
<2024年10月30日(水)配信の【後編】に続く>
社会実装が加速。“地産地消型”水素社会の実現へ向けたビジョンに迫る
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text 藤堂真衣 edit:大場 徹(サンクレイオ翼)