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社会実装へ向けた動きも加速。“地産地消型”水素社会の実現を目指して

アルハイテック株式会社 代表取締役社長 水木伸明【後編】

新しいエネルギーとして利用拡大が期待される水素──。その生成時に二酸化炭素(CO2)を排出しない、グリーン水素の画期的な製造技術を生み出したベンチャー企業、アルハイテック株式会社。廃棄されるアルミ素材から水素を生成する技術について紹介した前編に続き、後編は既に動き始めている社会実装への道筋と、アルハイテックが目指す水素社会の実現について、同社の代表取締役社長、水木伸明氏に聞いた。

廃アルミからの水素生成を、3つのプロセスでカバー

トナミ運輸株式会社の社内プロジェクトとしてスタートし、2013年に独立・創業したアルハイテック。同社では現在、水木氏がトナミ運輸時代に開発した3つのプロダクトを扱っている。

「アルミ付き複合素材からアルミとパルプを分離するパルパー型分離機、そこから得られたアルミに付着しているプラスチックを加熱処理によって分離、アルミの純度を高める乾留式アルミ回収装置、そしてアルミからCO2を発生させずにグリーン水素を生成する水素製造装置。3つの装置で廃アルミの処理から水素生成までの工程を全てカバーする形で展開しています」

2013年当時は、水素社会といっても現在ほど具体的なイメージを抱く人はほとんどいなかったという。「ごみからエネルギーを作る」という話には感心するものの、実用性と経済性のいずれかに解決し難い課題が残り、ビジネスとして成り立たないと感じる研究者や経営者も多く、収益化の見通しが立たず研究・開発をクローズしていく事例を目にすることも多かった。

「社会の反響も昨今のようには多くありませんでしたし、あったとしても自社でアルミを持っている企業くらいでした。あとは、石油燃料を扱う企業やアルミリサイクル事業者が、『あの会社は何をしようとしているんだ?』『うちの事業に影響があっては困る』と探りを入れてくるような印象でした」

そうした状況が続く中、研究当初から協力関係にあった富山大学大学院理工学教育部(当時)の川口清司氏から「博士論文を発表してはどうか?」という提案を受ける。学生時代から特に化学と数学が苦手だったという水木氏だが、定年退職を控えた川口氏の「最後の生徒として論文を書いてほしい」という強い希望もあり執筆に取り組み、2020年に博士号を取得した。

「私が廃アルミから水素を取り出す研究にここまで可能性を見いだせたのは、学生時代に化学をやってこなかったからだと思っています。例えば、大学で化学を学んでいるような研究者なら『アルミニウムにはこういう特性があるからダメだ』『水素はこういう性質があるから難しい』と可能性を切り捨てていたかもしれません。そういう知識がなかったことが、私のように何でもやってみようと行動する人間には、後々になってプラスに働いたのだと思います」

化学分野には門外漢だったからこそ、本気で取り組めたのだと水木氏は当時を振り返る。

「川口先生からは、ビジネスにも、これまでにやってきた研究や開発についてまとめることで信用を得るやり方があることを教わりました。実際、博士号を取得してからはアルハイテックへの風向きも少し変わったというか、やゆや冷やかしが減り、水素社会の実現を目指して共に走れそうな企業や組織の方からお声掛けいただくことも増えました」

こうした経験の蓄積が実を結び、2020年代に入り、水素社会の重要性が世界的に叫ばれる時代となり、水木氏は水素社会を担うトップランナーの一人として国内外で周知されていった。

※【前編の記事】アルミごみから水素を作る。グリーン水素を生み出すアルハイテックの技術

2023年7月。水木氏は岸田文雄首相(当時)のアラブ首長国連邦(UAE)訪問に企業団の一員として同行し、ビジネスフォーラムなどに参加。アルミによる水素製造の優位性を世界に向けて伝えた

画像提供:アルハイテック株式会社

アブダビ国営石油会社(ADNOC)の幹部へ向けて、アルミから水素を製造する技術について説明をする水木氏(画像右に3人並ぶうち中央)

画像提供:アルハイテック株式会社

水素社会に向けて、国内外から注目を集める

アルハイテックの技術や製品の社会実装に向けた取り組みは、既に動き始めているものが多い。小型の可搬型水素製造装置「エ小僧」は災害発生など非常時に電源として使うことができ、2024年1月の能登半島地震で被害を受けた能登地域にも設置されることになっている。

また、千葉県の宿泊施設「ホテル三日月」と共同で、地域で回収したアルミ付き包装容器などから水素を製造し、電力として活用する事業の戦略的パートナーシップ契約も締結し、水素社会へ向けた実装は次の段階へと進みつつある。

アルハイテックとホテル三日月の事業スキーム図。アルハイテックは廃アルミから水素および水酸化アルミニウムを製造。ホテル三日月はそこから得た水素による電力をサステナブルなリゾート事業への活用を検討する

資料提供:アルハイテック株式会社

ホテル三日月の敷地内に設置されたアルハイテック社製の定置型水素製造装置。1日8時間、年間240日間稼働。270kg/hのアルミニウムを投入し、300Nm3/hの水素を製造できる

画像提供:アルハイテック株式会社

「水素エネルギーへの注目が高まっている実感もあります。海外政府から声がかかることもありますし、国内でもエネルギー関連の企業やエネルギーを大量に消費する企業から引き合いがあります。国内で450件ほどの問い合わせ、海外も含めると秘密保持契約が約200件、基本合意書まで進んでいるものも10件ほどあります」

既に導入されている「エ小僧」のさらなる普及に加え、各工場や企業でのオンサイトサービスも展開していく予定で、アルハイテックの描いてきた水素社会への歩みは着実に進んでいる。

「今はまさにエネルギーの変革期。エネルギーが変わるときには、必ずビジネスモデルも変わり、最後には私たちの暮らしが変わるはずです」

地産地消の水素エネルギーで、循環型社会へ

アルハイテックの技術は、CO2発生をゼロにするだけでなく、これまでに水素エネルギー研究に携わってきた人々の「水素は貯蔵・運搬が難しい」という課題を一気に解決してみせた。

水素は気体であるため、そのままでは輸送できる量に限りがある。液体にすれば体積は小さくなるものの、その温度は-253℃で、冷却のほかに圧縮や膨張といったプロセスを要し、そのためのエネルギー消費量が気に掛かる。もちろん、運搬時の輸送コストも無視できない。

「アルハイテックの水素製造装置に必要なのは、アルミニウムのみ。基本的にはオンサイトで作った水素をその場で使う“地産地消”を意識しています。必要な場所に設置して、必要なときに使えるという点で、水素社会へのハードルは大きく下がりました」

大掛かりな水素プラントを必要とせず、地域ごとに回収した廃アルミを分離・活用できる水素社会。しかも、その水素はCO2を発生させることなく生まれ、電力として地域へ還元される。小さな動きかもしれないが、それが全国にあるとしたらどうだろうか。

「アルミを使用した製品は絶えず生産され、地域からは絶えず廃アルミが排出されます。これをいかに回収し、活用できるか。アルミも水素も無駄にしない循環型社会がそこにあることをもっと広く啓蒙(けいもう)し、アルミと水素に秘められた可能性を知っていただきたいと思います」

水木氏が思い描くアルミ由来水素の地産地消の活用を具現化した「北陸アルミ水素将来ビジョン」。「地域の子どもたちへのエネルギーとしての水素、アルミのリサイクルなどエネルギー環境教育にも貢献し、水素社会を担う世代を育てられたらと思います」(水木氏)

資料提供:アルハイテック株式会社

2024年9月。富山県立富山南高等学校の国際セミナーにて「世界へ向けてアルミ水素を発信!」と題し講演。気候変動の問題は世界共通であり、水素製造技術を海外に知ってもらう取り組みを紹介。高校生の環境保全に関する発表にも耳を傾けた

画像提供:アルハイテック株式会社

二酸化炭素や廃棄物を生み出さず、水素を製造できる装置。

それが現実になりつつあることを感じるとともに、アルハイテックの目指す水素社会、そしてその先にあるサーキュラーエコノミーの実現が、これから目指すべき社会の姿なのではないかと感じられた。

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