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四輪車と二輪車のイイトコ取り! 移動課題を解消する三輪電動モビリティ「ストリーモ」

株式会社ストリーモ 代表取締役CEO 森 庸太朗【前編】

誰もが自由に、自分のペースで移動することが困難になるかもしれない──。高齢化が進む日本では昨今、地域の過疎化による移動難民の増加、さらに公共交通の衰退といった「移動課題」の解消が求められている。株式会社ストリーモ代表取締役CEOの森 庸太朗氏は、新発想のマイクロモビリティ「ストリーモ」を開発し移動課題の解消を目指している。「世界中の人の暮らし・移動を豊かなものにする」というミッションの実現を掲げる森氏にストリーモ誕生の経緯を聞いた。

まだ“カタチのない”ものづくりを目指して

ストリーモは、日常の歩行から自転車移動と同等のスピードまで「自分のペースで移動できる」立ち乗り三輪モビリティ。一般的な電動キックボードとは異なり、停止時も自立し、転びにくく安定した走行を実現する。幅広い年齢層の人がさまざまな状況で利用できるのが特徴だ。

開発者の森氏は「自分のペースで移動できる」ことを第一にストリーモを手掛けた。その思いの原点は「高校時代の登山にあるのかもしれません」と話す。

「高校で山岳部に所属し、よく山に登っていました。登りはいつもつらかったのですが、登っている中でふと花や緑、今まで見たことのない景色が目に入ると自然といい気持ちになれたんですよね。そうした“移動する中での発見”を誰にでも楽しんでもらうのがストリーモです」

大学時代は東京工業大学(現・東京科学大学)でロボットの研究・開発に取り組んだ。その後、2004年に株式会社本田技術研究所に就職。当時、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)は世界初の本格的な二足歩行ロボット「ASIMO」を2000年に発表していた。

「ロボットは人間の形を模倣したものだけではなく、目的や用途によっていろいろな形状があります。私は既に形の定まったものではなく、目的に応じた新しいカタチを創りだしたい、またそこに試行錯誤の楽しさがあると思っていました。大学では、最近のロボットで例えるならタカラトミーさんの『SORA-Q』のような走行に加え、ジャンプしたりする、災害救助用ロボットを研究・開発していました」

※タカラトミーの「SORA-Q」についてはこちらを参照:タカラトミーの“変形型ロボット”が月面で大活躍!
※災害現場における新技術についての記事はこちら:5G×VR! 新技術活用が災害現場の救急医療に変革をもたらす

学生時代の成果は『IEEE ICRA SERVICE ROBOTICS AWARD』など国内外の賞の受賞に結実。「この頃の学びを通して『まだ世の中にない、無形のものを作り開発したい』という気持ちが強く育まれました」(森氏)

本田技術研究所には森氏の望むようなロボット開発部門はなかったものの、朝霞研究所(HGA/埼玉県朝霞市) で世界初の技術を搭載した四輪バギー開発プロジェクトに名を連ねた後、ダウンヒル用自転車の開発にも携わった。

「プロジェクトは紆余(うよ)曲折あって結果的に中止になってしまいました。その後、再び学びを得ようと考え東京工業大学大学院修士課程に通いながら、同研究所ではオフロードバイクの開発に携わりました」

2013年1月、ホンダが24年ぶりにダカールラリーの二輪部門にワークスチーム「TEAM HRC」として参加。同社では2011年末よりラリー用マシンの開発を進め、森氏は開発はもちろん現地クルーとしてレースに参加した。

24年ぶりの参戦で、ホンダはささいなマシントラブルが結果を左右するラリーの厳しさを学び、翌年、森氏の主導によりフルモデルチェンジしたマシンはデビューウィンを達成

画像提供:本田技研工業

画像提供:本田技研工業

「マシントラブルはいつどこで起こるか分かりませんから。砂漠の真っただ中で、今そこにあるもので何とか走れるようにする。何でも自分で作って、直して、究極のものづくりの経験でした」

自宅ガレージでのDIYから生まれたストリーモ

そうしたキャリアを経て、森氏は2014年から将来技術・基礎研究、さらに2017年より新規事業の創出に取り組む。将来技術・基礎研究は読んで字のごとく、将来を見据えた技術の導入・研究を行い、その成果は東京モーターショーなどで参考出展された。

2015年、東京モーターショーに参考出展されたホンダのハイブリッド三輪バイク「NEOWING」。森氏らによる将来技術・基礎研究の一つとして開発された

出典:Honda

この数年間の経験と学びは、森氏にとって「モビリティで世界を変えたい」「今までにないカタチのものを作りたい」という、後のストリーモ開発へと結び付いていく。

「新規事業創出に取り組んだ頃は、ちょうど電動キックボードが世の中に出始めた時期でした。それでヒアリングを行い調べてみると、実は国内では高齢化や過疎化を背景に2~3km圏のちょっとした移動も困難になる移動難民が増えるという移動課題を知りました」

人口密度の減少による過疎化、団塊の世代が後期高齢者となり高齢化が加速度的に進むことで、生活維持に必要な食料の買い物など近場へのアクセスが困難になる人が増え、鉄道やバスなど赤字路線の削減や働き手不足によって公共交通機関の衰退が進む。この状況を「移動課題」と称する

資料提供:株式会社ストリーモ

公共交通機関の衰退に対しては、自動運転技術の進歩による実証実験、部分的な導入が各地で見られ始めている。そうした動きとは別に、一人一人が自ら望んで移動することが困難になる課題の解決も必須である。

「そこで移動課題を将来技術で解決するすべを探る中、自分がこれまで培ってきた技術を鑑みると、誰もがもっと自由に移動できる世界をつくる新しいモビリティができるのでは?という着想を得たのです」

しかし、森氏は2019年に開発戦略・経営企画部門へ異動することになった。

「会社の戦略や企画を練る部門なのですが、仕事としてものづくりができないんですよね(笑)。とにかくものづくりが好きな自分にとって、ものづくりができない部門への異動はつらかったです。その期間にストレスがたまってしまって、『何か作りたい!』という欲望に駆られ、ホームセンターの工作コーナーでガンガン切断した金属板を自宅のガレージでバチバチ溶接して、新規事業創出を目指して研究していたことを組み立てたのがストリーモの原型です」

二輪の原理と四輪の安定性を備えた新しい三輪モビリティ

ストリーモは、主に近隣へのちょっとした買い物や散策の移動を想定し、歩行~自転車のスピードでの安全・安定走行を実現。また電動キックボードが二輪であるのに対し、三輪モビリティのストリーモは停止時も倒れることなく自立し、利用者が安心して自分のペースで移動できるよう配慮されている。

森氏は、「幅の狭い三輪車は自然な操縦感覚と安定性を両立させるのが非常に難しく、この課題をクリアしたことがストリーモの特長の一つなんです」と話し、解説する。

「バイクと同じ原理で、車体を横に傾けることで曲がる二輪の電動キックボードは低速では安定せず停止すると自立できません。同様に2001年に発表された平行二輪モビリティ『セグウェイ』も当時はスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが『人の移動手段を変える画期的な発明』と称賛していましたが、前後に移動することで自立する原理のため、完全に停止することは困難で現在はあまり見ることもなくなりました」

こうした二輪モビリティが抱える課題は、三輪にすることで解決できるかというと、そう簡単ではない。

「確かに自立させることはできます。ですが、三輪のシニアカーや昔のオート三輪は四輪車の原理、つまり車体は傾かずに前輪の向きを変えることで曲がります。重心位置が低い四輪車なら問題ないのですが、三輪車はタイヤの位置に対し相対的に重心位置が高いと遠心力によりバランスが崩れ、走行時に曲がった際、車体がめくれ上がるように倒れる恐れがあります。三輪車は、例えるなら四輪の原理で無理やり走っている状態で、現在も一部の車両で注意喚起がされています」

森氏はこの課題に、ストリーモ開発以前、将来技術として自立する二輪車、三輪車の研究・開発に取り組んだ経験と知識を基に、ストリーモの前部に二輪の走行原理を、後部に四輪の安定感を、それぞれ工夫を施し取り入れることで解消した。

「前後の基本構造を分割して組み立て、前輪側のみ傾けることで左右へ曲がり、人が乗る後輪側は傾かず安定するようにしました。その試行錯誤と開発を、2019年に自宅のガレージで行い、『これなら社会実装できる』というカタチに仕上がったのがストリーモです」

ストリーモは前輪にインホイール型モーターを搭載。キックボードと異なり両足をそろえて搭乗する。前部と後部は分割構造となっており、前輪とハンドルを結ぶ支柱内のバッテリーの電力で30kmほどの距離を走行することができる

画像提供:株式会社ストリーモ

ハンドメードで完成させたストリーモへの確たる自信を胸に、森氏は「技術を自らの手で社会実装していきたい」という思いから一念発起。ホンダの新規事業創出プログラム「IGNITION」へ申し込み、見事に新規事業化の承認を勝ち取る。

2021年8月、森氏はホンダ発のスタートアップ事業としてストリーモ社を設立し、ストリーモの実用化に向けて本格始動した──。

後編では、会社設立後の展開、ストリーモの可能性、これからの展望などを聞く。



<2025年6月26日(木)配信の【後編】に続く>
法改正に合わせて2タイプのストリーモが誕生。一般向け以外にも建築現場や万博会場で活躍を見せる

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