
2025.6.26
カスタマイズも自由自在! 万博会場を走る最新マイクロモビリティ
株式会社ストリーモ 代表取締役CEO 森 庸太朗【後編】
停止しても自立し、かつ安全・安定した走行を実現する新発想の三輪電動モビリティ「ストリーモ」。開発者である株式会社ストリーモの代表取締役CEO・森 庸太朗氏は、現行の法制度の下、カテゴリの異なる2つのストリーモを展開。さらにストリーモをさまざまなシチュエーションで活躍できるようカスタマイズする取り組みを開始した。移動難民の増加、公共交通の衰退といった「移動課題」の解消を担う“自分のペースで移動する”ためのモビリティの現在、そして未来の展望を聞いた。
法改正に合わせて誕生、2つのストリーモ
立ち乗り三輪電動モビリティ「ストリーモ」が、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)の新規事業創出プログラム「IGNITION」に採用され、2021年8月、ホンダからカーブアウトする形でストリーモ社が設立された。
開発者である森氏には、同社の代表取締役CEOという重責ものしかかったが、その反面「スタートアップらしく世の中の変化、法の変化に対してスピード感を持って動けるようになりました」と話す。
「会社設立後も『本当にマーケットがあるのか?』と不安になることもありましたが、ストリーモの場合、誰かに試乗してもらい感想や意見をもらうことがしやすく、利用者の声や必要なファクトは積み重ねがスムーズにできました。また、設立時の2021年はまだマイクロモビリティを巡る法整備が整っておらず、それならばと国外、フランスでの展開を行おうと即断即決ができました。当時、日本で製品発表の会見を行い、その日の午後に渡仏していましたから」
フランスでのストリーモ販売は、コロナ禍の影響による製造・物流ルートの確保などが課題となり、結果として国内の事業に専念するという決断を下した。森氏も「量産のめどが立つ前に事業化に向けて突っ走り過ぎちゃいました(苦笑)」と振り返る。
そうした中、今度は国内で移動課題関連の政策が進みだす。自動運転車の公道走行を一定条件下で許可する法改正、ライドシェア解禁を巡る動きなどとともに、2023年7月の道路交通法改正で電動キックボードを含む「特定小型原動機付自転車」は、自転車同様に運転免許なし(16歳以上に限る)で運転できるようになった。
「2023年の法改正を機に、2機種のストリーモを開発しました。まず、特定小型原付の『S01JTA』は電動キックボードと同様の車両扱いで、歩道走行は条件付きの場所のみ可能となります。ですので、近所をちょい乗りするような際は『歩行可能な歩道か』を確認し、場合により降車して押して歩く必要があります。
もう1機種の『S01JW』は、移動用小型車という法律では歩行者として扱われるタイプになります。これはあまり知られていませんが、特定小型原付の法改正より少し前、2023年4月に施行された新しい区分の乗り物です。特定小型原付の制限速度20km/hよりもさらに低速の6km/hで移動します。これは電動車いすやシニアカーと同等の速度です。また立ち乗り、座り乗りを問われることもありません。ですので歩行者扱いとなるS01JWは、より歩行者に寄り添ったパーソナルモビリティと言えるでしょう」
※【前編の記事】四輪車と二輪車のイイトコ取り! 移動課題を解消する自動電輪モビリティ「ストリーモ」
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S01JTA(右)は、特定小型原付としては国内最速で性能等確認制度で適合を取得。S01JW(中央)も移動用小型車として国内初の型式認定を取得。後部バスケットはオプションで両機種に対応。左はS01JTAを持ち運び用に折り畳んだ状態(両機種共通の機能)
電動キックボード並みの性能を持つストリーモをベースに、プログラムや灯火機、ステッカーを変更することで移動用小型車として販売した。初回販売の際「一次抽選販売では、300台の販売数に対し2日間で4倍の約1200件の応募がありました」(森氏)という。こうしたスタートアップならではの即断即決を経て、ストリーモはより幅広い世代にとって乗りやすいモビリティとして周知されつつある。
建築現場や万博会場、広がるストリーモの活躍
日常の新しい移動手段として移動課題の解消を担い誕生したストリーモだが、近年は企業や自治体とのコラボレーション、BtoBの購入により昨今の働き手不足や高齢化に苦慮する労働環境の改善にも役立っている。
「例えば、建築や輸送などシニア世代や女性の活躍が広がる現場で、ストリーモにバケット付きけん引車をつないで工事現場や物流倉庫に導入し、実際の業務の中で検証してもらっています。独自のバランスアシストと三輪構造のストリーモは未舗装の道やある程度の段差も安定して走行でき、狭い通路でも小回りが利くので好評をいただいています」
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建設会社である株式会社フジタとの実証では、物流施設の建設現場にストリーモを導入。巡視や移動にかかる時間を約40%削減した。業務の省力化と疲労軽減に貢献し、フジタでは正式採用が決定した
画像提供:株式会社ストリーモ
また、現在開催中の「大阪・関西万博」の会場では防災・巡回仕様のストリーモが会場内の巡回業務の移動手段に採用されている。
「後部のボックスにはAEDの他に360度カメラと通信機器が搭載されています。これは災害時のライブ映像配信や移動式通信中継器として現場ネットワークを構築する役割を担っています。移動の際の消防職員の身体的負担も軽減できると評価をいただき、ストリーモの防災モビリティとしての可能性が広がりました」
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株式会社モリタホールディングスとの連携により、大阪・関西万博会場に導入された防災・巡回仕様のS01JT 。一目で消防と分かるよう車体を赤く塗装し、消防隊員の重装備の搭載も可能に
画像提供:株式会社ストリーモ
この他、昨今の「オーバーツーリズム」により多くの来訪者を迎える一方、交通渋滞の頻発、電車・バス以外の二次交通の不足が課題となっている観光地では、ストリーモのレンタルサービスを導入するケースも見られる。
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三重県伊勢市では、BrightRoad合同会社と連携しレンタルサービスを導入。伊勢神宮周辺の参道をストリーモで散策することができる
画像提供:株式会社ストリーモ
「最近では、横浜・八景島シーパラダイスでストリーモに乗って楽しむ謎解きイベントを実証実験として行いました。ストリーモにGPS連動型の謎解きガイドを搭載し、園内に設定された謎を解いてもらいます。同時に人通りの多いエリアにストリーモが乗り入れないよう遠隔制御を行い、行楽地での安全な運用を実証しています」
誰もが、ゆっくり移動を楽しめる社会の実現を目指して
B to Bへの展開も広がリ躍進を続けるストリーモだが、肝心のBtoC、 つまり移動難民の解消にはどのような波及効果があったのだろうか。
「例えば、『歩行能力の減退を感じた』という高齢者の方、『坂道が多い地域で電動アシスト自転車でもつらい』という方など、購入理由はそれぞれですが、ストリーモが日常の移動で抱える問題の解消に役立っているという声をたくさんいただいています」
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2024年時点のストリーモ購入・利用ユーザーの年代別分布でも、50~70代のユーザーが半数以上の71%を占めている
資料提供:株式会社ストリーモ
中には、「ストリーモに乗り、歩かなくなることで逆に身体能力が落ちるのが心配」という声もあるのでは? そんな疑念にも森氏は「それはありません」と笑顔で答える。
「ストリーモは、三輪構造とバランスアシストで安定走行しますが、立って乗ることで常に自然と体でバランスを取り、軽く踏ん張ることもあります。負担は軽くなりますが実は体も適度に動かしているわけです。立った状態での緩い負荷が、骨密度低下を押さえたり、軟骨の柔軟性を上げたりするという報告もあります。その点でストリーモは健康寿命延伸の効果も期待されます」
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「ストリーモも最初はハンドルだけ左右に傾ける動作感覚に慣れる必要がありますが、10分もすると『曲がるときが楽しい!』といった感想をよくいただきます」(森氏)
現在、ストリーモ社は東京・墨田区のスタートアップ事業支援を受け、同区内に拠点を構えている。
区職員による公務移動の実証実験のほか、企業の縁が結び付き「区内の中小企業に一部のストリーモの部品を発注させてもらっています」と言う。
「走行テストは会社の裏手にある廃校のグラウンドを使用させていただくなど、墨田区にはサポートいただいています。いわゆる『下町』のエリアでご高齢の方も多く、近い将来、地域の方々にもストリーモを愛用して、いつまでも元気に、のんびり移動を楽しんでもらえる。そんな社会が実現できるよう頑張りたいですね」
登山で風景を楽しむことを知り、オフロードバイクで速さを極めた開発者は、今、誰もがゆっくり移動を楽しめる社会づくりの実現へ、着実に突き進んでいる。
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text:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:下村 孝