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夢の核融合発電を実用化へ! スタートアップが新たなアプローチで挑戦

株式会社LINEAイノベーション 代表取締役CEO 野尻悠太【前編】

二酸化炭素(CO2)を排出せず、燃料が豊富で安全性の高さなどがメリットとして知られる核融合発電──。実用化されれば、世界のエネルギー問題が大きく改善するという期待から、1950年代より研究・開発が進められているが、いまだ発電実証には至っていない。その実用化に向けて、2023年9月設立の株式会社LINEAイノベーションは新たなアプローチで挑んでいる。同社代表取締役CEO 野尻悠太氏に会社設立の背景と、核融合による売電への挑戦について話を聞いた。

宇宙開発ビジネスから核融合ビジネスへ。転進の背景

2025年6月、内閣府の統合イノベーション戦略推進会議において「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が改定された。

フュージョンエネルギーとは、端的に言うと軽い原子核同士が融合して別の原子核に変わる際に放出されるエネルギーのことを指す。いわゆる「核融合」のことで、同戦略では2030 年代の発電実証を目指すとしている。

フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(概要)より。スタートアップを含めた官⺠の研究開発⼒強化、2030年代の発電実証の達成を目指す方針などが盛り込まれている

出典:内閣府

フュージョンエネルギー利活用のイメージ

出典:内閣府

そんな中、従来にはない新たなアプローチによる核融合発電に挑戦するスタートアップ、株式会社LINEAイノベーションが注目を集めている。同社は核融合研究における日本を代表する研究者、日本大学の浅井朋彦教授(CSO/最高戦略責任者)と筑波大学の坂本瑞樹教授(CTO/最高技術責任者)が経営陣に名を連ね、共同研究を行っている。

代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した野尻悠太氏は、核融合研究・開発とは無縁のキャリアを積み「元々の夢は宇宙開発だったんです」と振り返る。

「昔から宇宙開発に憧れを抱き、東京大学時代は航空宇宙工学を専攻し、中須賀真一先生(同大学院工学系研究科教授・工学博士)の研究室で超小型衛星の研究・開発に取り組みました。在学中、中須賀研究室は10cm角の超小型衛星『CubeSat XI-IV』の世界初の打ち上げに成功し、大きな話題になりました」

大学時代の研究室で超小型衛星というユニークな技術に携わりながらも、卒業後は宇宙開発の道には進まず、みずほ証券株式会社に就職する。

「自分自身の裁量で決定・行動できる仕事に就きたかったのですが、『宇宙開発のような大きなプロジェクトではその願望はかなわないかな』と思い、以前から興味を抱いていた金融の分野へ進みました」

みずほ証券では企業の資金調達をサポートする投資銀行業務に従事したが、宇宙開発に携わる夢を諦めきれず、大学時代の先輩が代表取締役CEOを務める宇宙スタートアップ、株式会社アクセルスペースに転職。前職の経験を生かしCFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)を歴任し、日本初の小型衛星量産体制を活用したサービス展開を推進させるなど、同社の成長に大きく貢献した。

その後、いくつかの企業を経て、アクセルスペース時代の同僚から「大学の先生が核融合の会社をつくるので、経営者を探している」という話を持ち掛けられ、浅井・坂本両教授と出会った。

「最初にお二人から(核融合の)説明を受けたものの、内容が難しくさっぱり分からなくて…(笑)。ですが、いろいろ調べて理解を深めるうちに『これは大きなチャンスだ』と思うようになり、CEOをお引き受けしました」

核融合発電のメリットと、実用化への課題

核融合発電は、2つの軽い原子核がぶつかり1つの重い原子核になる「核融合」反応で生じるエネルギーを利用する。これに対し原子力発電は、ウランなどの重い原子核を分裂させる「核分裂」反応で生じるエネルギーを利用する。「融合」と「分裂」では、大きな違いがある。

核融合で最もメジャーな反応は、水素(H)の同位体で海水に含まれる重水素(D)と、自然界に存在するトリチウム(三重水素・T)を融合させるD-T反応である。

核融合(D-T反応)のイメージ。わずか1gの燃料(重水素&トリチウム)から石油8t分と同等のエネルギーを得られる

資料提供:LINEAイノベーション

また、核融合反応を起こす際の諸条件は核融合を起こす設備にひも付けられる。そのため万が一、設備が地震などの自然災害で損壊した場合、同時に諸条件も喪失されるため、施設の爆発などを引き起こすことはない。さらに、核融合で生じる放射性廃棄物は「低レベル放射性廃棄物」に区分され、既存技術による処分が可能だ。

このようにメリットの多い核融合だが、野尻氏は「発電の実現には、大きな課題がある」と話す。

「核融合反応は、燃料を高温かつ高密度にした一つの領域に閉じ込めることで起きます。この状態を『プラズマ』と呼びます。プラズマは、気体中の原子が電離して、正の電荷を持つ原子核(イオン)と負の電荷を持つ電子に分かれて運動している状態を示します。原子は原子核とその周りを回る電子で構成されますが、高温にすると電子がバラバラになり、裸の原子核ができるのです。この原子核がプラズマ中で飛び交い、ぶつかって融合することで核融合反応が起こります。

ただし、原子核は陽子(正電荷)と中性子で構成されているため、正と正同士で反発し合い、非常に高速で衝突させなければ融合しません。高速にするには、より高い温度、D-T反応では1億度の熱が必要です」

「プラズマ内の原子核はすぐ拡散してしまい、一定の領域に閉じ込める必要があります。閉じ込め方式も多様なため、それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、より有効な方式の研究・開発が世界中で進められています」(野尻氏)

また、野尻氏は「D-T反応にもさまざまな課題があります」と指摘する。

「D-T反応で生じた中性子は、核融合炉の内壁に衝突することで脆化(材料が脆く壊れやすくなること)します。すると内壁がもろくなり、放置すると最悪、炉の破損につながります。そのため核融合炉を定期的に完全停止させ、コアな部品を交換しなければなりません。交換は数年間隔で必要なため、コスト高の要因となります。さらには中性子が衝突した材料は放射化(放射性物質に変わること)しますから、交換のたびに放射能を帯びた廃棄物、すなわち放射性廃棄物が発生することになります。

また、トリチウムは自然界に存在するとはいえ量はごく僅かであり、核融合炉を運転し発生した中性子でトリチウムを作る手法も研究されています。とはいえ技術的には、まだ確立されていないのが実情です」

D-T反応の課題を解決へ、先進燃料核融合の可能性

D-T反応の課題解決は非常に難しく、同社は別の反応「先進燃料核融合」を採用し、研究・開発を進めている。この反応は、燃料にトリチウムを利用せず、反応生成物として中性子をほとんど発生させない。その結果、放射性廃棄物の発生は無視できるレベルに抑えられる。

具体的には軽水素(H、またはp)とホウ素(B)の同位体であるホウ素11(11B)を燃料にした「プロトンボロン反応(p-11B反応)」の実用化に挑んでいる。

LINEAイノベーションが目指す、プロトンボロン反応のイメージ

資料提供:LINEAイノベーション

「プロトンボロン反応は放射性物質を用いず、水素とホウ素11を燃料とします。ホウ素11は自然界に豊富に存在し、燃料枯渇の心配もほぼありません。また、反応でも中性子を発生させず、代わりに生じるアルファ粒子(ヘリウム核)はD-T反応のような脆化・放射化の問題がありません。そのため点検や交換の手間も減少し、装置コストを抑え稼働率を向上させることが可能です」

メリットずくめのプロトンボロン反応だが、実用化にはさらに大きな課題が生じる。

「プロトンボロン反応ももちろん高温・高密度なプラズマを作らなければなりません。しかも必要な温度はD-T反応の約10倍、約10億度です。あまりの高温のため、多くの研究者が『実現性がほぼない』と口をそろえます」

LINEAイノベーションのチーム一同。野尻氏(中央)の右が浅井教授、左が坂本教授

画像提供:LINEAイノベーション

しかし、同社は2人の研究者が見いだした秘策で、極めて困難な反応の実現に手を伸ばそうとしている──。

後編では、その具体的な手法と核融合発電実現へのビジョンを、引き続き野尻氏に聞く。



<2025年7月23日(水)配信の【後編】に続く>
熱的から非熱的へ、核融合のアプローチを大きく転換。独自の打開策で、2030年までの核融合発電実現を目指す

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