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日大と筑波大の技術が融合! 核融合の新技術「FRCミラーハイブリッド方式」とは

株式会社LINEAイノベーション 代表取締役CEO 野尻悠太【後編】

実用化されると、世界のエネルギー問題を大きく改善させる「核融合」。その中でもクリーンエネルギーを生み出す「プロトンボロン反応(p-11B反応)」は、10億度の高温、かつ高密度なプラズマを必要とし、実現は困難とされてきた。株式会社LINEAイノベーションは、その困難に独自の打開策を見いだし、2030年代初頭までの核融合発電の実証に挑み始めた。どのようなアイデアで不可能を可能にしようとしているのか──。同社代表取締役CEOの野尻悠太氏に話を聞いた。

熱的から非熱的へ、核融合のアプローチを大きく転換

核融合は通常、高温・高密度に閉じ込めたプラズマ内の粒子(原子核)が熱運動を起こし、衝突し合って反応を起こす。この反応は「熱的(サーマル)核融合」方式と称される。

熱運動で核融合を起こすサーマル方式は、プラズマ全体を極めて高温・高密度に保つ必要がある。反応条件が比較的緩いとされるD-T反応であっても目安として1億度という高温が必要とされ、D-T反応でもいまだ実用化に至っていない。プロトンボロン反応では、その約10倍にあたる10億度もの高温が必要となるため、サーマル方式での実現は極めて難しいと言える。

※【前編の記事】夢の核融合発電を実用化へ! スタートアップが新たなアプローチで挑戦

D-T反応とプロトンボロン反応の実⽤化までのリスク比較

資料提供:LINEAイノベーション

この困難な課題に、LINEAイノベーションは別のアプローチ「高温ではなくビームで反応を起こす」発想で挑んでいる。野尻氏が詳しく説明する。

「まず、ホウ素を加熱してプラズマを作りますが、その温度は核融合が起きるほどの高温は不要です。この中に軽水素を超高速のビームとして打ち込み、双方の原子核を衝突させ核融合反応を起こします。この方式は『非熱的核融合』と呼ばれます」

しかし、野尻氏は「ビームを打ち込むだけでは、核融合反応はなかなか起こりません」とも話す。

「プラズマは、いわばガスのような状態なので、ビームを打ち込んでも大半はホウ素原子核と反応せず、プラズマの向こうへ抜けてしまうのです。そのため、プラズマと同様にビームも一定の領域に閉じ込める必要があります」

プラズマを閉じ込める方式の一つに「磁場閉じ込め方式」がある。原子核と電子(荷電粒子)が磁力線(磁場<磁界>の方向を示す線)に巻き付きながら運動する性質を生かし、プラズマを磁力線によって閉じ込める。この方式もさらに分類され、ドーナツ型の装置構造で、磁力線が閉じられている「トカマク型」方式が主流となっている。

だが、LINEAイノベーションは「FRC(Field-Reversed Configuration:磁場反転配位)」と「ミラー磁場」という2つの方式を研究・開発に採用した。いずれも直線的な装置構造で、磁力線が閉じられず開放されている「開放端系」である点が、トカマク型との大きな違いだ。そして、ビームを閉じ込めるには開放端系の優位性が高いとされる。

FRCは、開いた磁力線領域内に回転楕円体状のプラズマを形成。β値(プラズマの閉じ込め効率の指標の一つ)が高く、小さな外部磁場(低コスト)で高温・高密度(高性能)のプラズマを閉じ込めることができる

資料提供:LINEAイノベーション

ミラー磁場は、コイルを同軸上に2つ並べて電流を同じ方向に流すことで、コイル近くでは磁場が強く、コイル間で磁場が弱い磁場構造を形成。このような開いた磁力線構造(開放端)が特徴で、直接エネルギー変換が可能

資料提供:LINEAイノベーション

「FRC方式は日本大学の浅井朋彦教授、ミラー磁場は筑波大の坂本瑞樹教授がそれぞれ研究しています。FRC方式は、アメリカのTAEテクノロジーズ、ヘリオン・エナジーのスタートアップ2社が巨額の資金を調達し研究・開発を進めていますが、世界的に見ても大型のFRC装置で研究を行っているのは両社と日大だけです。また、筑波大もタンデムミラー型では世界最大規模の装置『GAMMA 10/PDX』を所有しています」

日本大学理工学部(千葉県船橋市)で研究が進められるFRC型核融合実験装置

画像提供:日本大学理工学部

筑波大学プラズマ研究センター(茨城県つくば市)に設置された「GAMMA 10/PDX」

画像提供:筑波大学プラズマ研究センター

両大学の技術を融合し、FRCミラーハイブリッド方式の確立へ

浅井教授と坂本教授は異なるプラズマ閉じ込め方式ながら開放端系という共通点を持ち、勉強会などを通じて交流。意見を交わす中、FRCとミラーを組み合わせたらプロトンボロン反応による核融合発電が実現可能では、という着想に至る。

これがLINEAイノベーション設立のきっかけとなった。

「FRCはプラズマを閉じ込めるのが得意ですが、磁場が弱いという特性があります。強い磁場がなければ超高速のビームを閉じ込めるのは難しくなります。一方、ミラーは装置の外に備えた2つのコイルで磁力線構造を作り、ビームを閉じ込められる磁場を作ることは得意です。しかし、磁力線が開いているのでプラズマの密度を高めることにまだ課題があります」

プラズマの磁場を閉じ込める2つの⽅式のイメージとメリット&デメリット

資料提供:LINEAイノベーション

そこで同社は「お互いの方式を組み合わせ、デメリットを補完し合う研究・開発に着手」(野尻氏)し、独自技術「FRCミラーハイブリッド方式」の確立を目指している。

FRCミラーハイブリッド核融合炉のイメージ。全長約30mの装置1基で100MWの発電出力を発揮する想定だ

資料提供:LINEAイノベーション

「装置が完成すると、放射性物質がほぼ発生せずにコンパクトな核融合が実現できます。立地の制約も少なく、都市型発電所としての展開も可能です。生成された高エネルギーの粒子は磁力線に沿って排出、直接エネルギーに変換できるので、装置に必要な電力の直接供給もできます。こうした特徴から、将来的には膨大なエネルギーを必要とするデータセンターや、発電所の設置が困難な離島に直接設置する『オフグリッド発電所』等としても利用できるようになります」

目指すは、2030年代初頭の発電実証

同社は現在、共同研究先の日大、筑波大の両施設を拠点に、数年以内のプロトンボロン反応の実証を目指し研究・開発を進めている。実現困難とされたプロトンボロン反応の実証に成功すれば、核融合研究が大きな一歩を踏み出すことになるだろう。

「プロトンボロン反応の実証の次は核融合発電の実証が必要で、商業実用化の道のりは平たんではありません。ですが、トリチウムを用いず、中性子の発生問題もないプロトンボロン反応の実証は大きなインパクトになると考えています」

「プロトンボロン反応を2030年まで、核融合発電を2030年代初頭の実証を目指しています。順調に進めば、2030年代後半に商業実用化のめどが立つのではと考えています」(野尻氏)

2023年9月に設立されたLINEAイノベーションだが、潤沢な資金力を持ってスタートしたわけではない。そのため資金調達が当初の課題だったが、2025年6月にシリーズAラウンド(最初の重要なベンチャーキャピタル出資を受ける段階を指す名称)で総額17.5億円の資金を調達。このミッションにおいて、野尻氏は「大きな苦労があった」と語る。

「投資家の方々にFRCミラーハイブリッド方式の優位性を説明しても、なかなか理解を得ることが難しく、『まだ実績がない』『トカマク型の方が優位では?』といった言葉を何度も聞くことがありました。そうした先入観を覆すのに苦労しましたが、多くの投資家に優位性を理解いただき、当面の資金調達が完了できました。今後は、研究・開発を推進できる環境づくりに注力するつもりです」

夢の技術として期待されながら、いまだ実現には至らぬ核融合発電──。

実現に向けた研究・開発、研究者たちの着想、新たなアプローチは、長らく“夢の技術”といわれた研究分野故に理解を得られ難いのが現状だ。

それでも、野尻氏は「私たちなりに確かな根拠はある。無謀な挑戦ではないことを伝え続けたい」と熱く語る。

その証左として、プロトンボロン反応の実証成功のニュースが、遠くない未来に伝えられると期待したい。

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