
2025.11.27
産業廃棄物が電池になる!「超小集電」が拓く未来のオフグリッドライフ
トライポッド・デザイン株式会社 代表取締役 CEO/一般社団法人オフグリッド・デザインコンソーシアム 代表理事 中川 聰【後編】
土や水、植物や生物まで、自然界のあらゆる物質を介して微小な電気を生み出す「超小集電」。トライポッド・デザイン株式会社は、環境への負荷が少なく、持続的に電気を得られるオフグリッドな環境におけるエネルギーデザインの未来を描き出している。後編では、この技術を開発した同社CEO・中川 聰(さとし)氏に超小集電を活用したプロダクトと、今後の事業展開のビジョンを聞いた。
オフグリッドならではのデザインと工夫
超小集電を発見した際、中川氏も「この微小な電力が生かせる対象が見いだせるのか、最初は懐疑的になったりもしました」と研究当初を振り返りつつ、次のように話す。
「開発当初は0.00012Wという本当に小さな電気でしたからね…。さまざまな集電材を試すなど集電における電解質の働き方を研究する中で、6年近く地道なデータ取りや解析などの試行錯誤を続けてきました。今では笑って話せますけど結構たいへんでした。そうした中で、主軸となる研究の指針が見え始めてきたところで建てることになったのが、この『KU-AN 空庵』です」
「KU-AN 空庵」は2021年の夏、中川氏の故郷である茨城県常陸太田市に開設。超小集電技術の持続性と実用化を目指した基盤技術を研究するための「オフグリッド・デザインとテクノロジーの実験棟」だ。
※【前編の記事】パンも、水も、土も電池に! 身近な自然物から電気を集める「超小集電」とは

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格子状の木造実験棟「KU-AN 空庵」。施設内の照明はすべて超小集電により点灯され、その空間自体がオフグリッドデザインのライフスタイルを象徴したものだ
画像提供:トライポッド・デザイン株式会社
一つ一つの集電装置から得られる電力はわずかだ。ならば集電装置を増やしてみよう。
通常のオングリッドな電力供給においては、そんな発想は論外であろう。しかし超小集電の装置をコンパクト化できれば、そんな発想も決して実現不可能ではない。
「KU-AN 空庵」に設置された1500個に及ぶ集電セルと、その電力を使ってともるLEDの明かりがその事を証明している。

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「KU-AN 空庵」内部は、土と集電材からなる集電装置(集電セル)が無数に並ぶ。「集電セルは一つ一つが手作り。現地の皆さんと地元の土を詰めて製作しました」(中川氏)
蓄電技術で超小集電を大きな電力に、オフグリッド環境の電力自立を目指して
「KU-AN 空庵」のように、集電セルが作りだす小さな電気を蓄えることで、身近な暮らしや社会を支える電力自立の未来が見えてくる。
自然界の小さな電気を昇圧したり蓄えたりすることで、身近な暮らしを支援する電力供給技術を開発するまでには、さまざまな試行錯誤があった。そうした試行錯誤の中から、超小集電の技術進化のヒントを見いだすことができた。中川氏も「まさに『ちりも積もれば山となる』という例えを自らの技術開発の中で再認識することがしばしばあった」と振り返る。

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超小集電の技術構造は、電極を直接電解質に挿すことで電力を得る「直接集電技術」と、セル(電池)の中に電極と電解質を詰め込んで集電する「集電セル型」の2つの技術領域が存在する
資料提供:トライポッド・デザイン株式会社
超小集電によって得られる電気はわずかであるものの、時間帯や天候に左右されず、常時安定した電力を持続的に得られるところにその特性がある。
中川氏は「そのような超小集電の特性を上手く生かして社会貢献が出来るさまざまなテーマや対象がある」と主張する。

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トライポッド・デザインでは超小集電の技術を活用した充電システムも研究・開発。スマートフォンの充電も実現しており、社会実装に向けて開発に取り組んでいる
「集電セルも多いほど電力量は上がりますが、並列、直列など接続方法を工夫することで、必要な電圧や電流を調整できます。ですので、超小集電なら集電セルの集合体でシステムを組み、仮に離島や砂漠のような電力網から寸断された環境でも、常に安定した電力供給を実現させることもできます。
この技術、発想はエネルギー供給に対する考え方のパラダイムシフト、持続可能なエネルギー生成における大きな転換点になると考えています」
中川氏の研究は、2025年11月10日よりブラジルで開催されたCOP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)のジャパン・パビリオンにおけるバーチャル展示に出展された。
※COP30ジャパン・パビリオンにおけるバーチャル展示:https://jprsi.go.jp/cop30/ja/showcase/
中川氏が理事を務める一般社団法人 オフグリッド・デザインコンソーシアムとして、「電気の届かない地域の人々、自然災害でライフラインを絶たれた人々を支える持続可能な電力源のデザイン」を提案。各国から注目を集めることとなった。
産業廃棄物も電池になる、オフグリッドなライフスタイルの未来
自然界のあらゆる物質から取り出した微小な電気を、日常の生活に役立てる。そして、その電気は送電網の届かないオフグリッドな環境でさえも明かりを灯すことができる──。
技術が向上することで、活用の可能性も広がる超小集電だが、中川氏がこの技術をもって実用化に結び付けたいと考えていること、その一つが、「産業廃棄物を集電に利用すること」だと話す。

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左から木炭、貝殻、レンガ、マイクロプラスチックをそれぞれ集電装置に詰め、直列につないでLEDライトをともす
「貝殻や木炭、建物を解体した際に生じるコンクリート片といった、これまでは処分に予算をかけて廃棄せざるを得なかった物質も超小集電として活用ができます。この他にも、昨今は海洋ごみとして自然への影響が問題視されているマイクロプラスチックでさえも集電装置に組み込めます。産業廃棄物も電池として使用できる。これらを効率的な超小集電に用いる未来も、そう遠くない日に訪れるかもしれません」
2025年7月、トライポッド・デザインは「KU-AN 空庵」の近くに新たに超小集電による100Wの集電を可能にした実証棟「LU-AN 琉庵」を開設。電極や電解質の改良や小型化を施し、性能を向上させた約2000個の集電セルにより、土などを介して100Wの電気を得ることに成功した。

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「LU-AN 琉庵」内部。「KU-AN 空庵」よりさらにLEDライトを増やし、生活を意識した空間に設計。より明るく、暖かみのある明かりを実現した。集電セルは壁面に配置し、独自開発のチャージシステムを構築。「2階構造にしたことで音響効果も良く、この夏にはコンサートなども催しました」(中川氏)

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「LU-AN 琉庵」に設置された集電セル。「セルの筐体は配管を利用し、コンパクトに設計しました。こちらも地元企業にご協力をいただき、手作りで一つ一つに手作業で土を入れ、性能を調整して…とやはり地道な作業の上で完成しました」(中川氏)
「実験では集電セルから集めた電気で冷蔵庫や炊飯器も作動させ、訪れた関係者の方々も驚かれていましたね。この実験がある意味、超小集電による「暮らせる電気」の可能性を拡げたと言えるかもしれません」
その上で、このような思いも明かす。
「海外から訪れた方が煌々(こうこう)とともる実験棟を見て、驚き『あれを私の国にも建ててほしい!』と熱望されることがありました。その方からすると、送電網も何もない場所でこんなに明るい家が建てば、それだけで生活水準は大きく上がるわけですからね。今すぐは難しいとしても、そう遠くない未来にそういう願いに応えたいです」

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「工業デザインを始めた頃に読んだ名著『ウォールデン 森の生活』では、著者のヘンリー・デイヴィッド・ソローが森の中で自給自足のオフグリッドな暮らしを実践していました。そういう意味で、今、私は『LU-AN 琉庵』で現代版“森の生活”とも言える人とエネルギーとの向き合い方を新しくデザインしているのかもしれません」(中川氏)
工業デザインの道を長年歩み、今、超小集電という新たなエネルギー技術を確立──。
「この技術は、これからの時代を生きる次世代に生かしてもらいたい」と話す同氏のデザインクリエーティブは、未来を見据えて進み続ける。

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text:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:下村 孝










