2017.9.20
社員の健康が世界の健康に!10年目を迎えるヘルスマネジメントの成果
株式会社タニタヘルスリンク取締役・マーケティング担当 土志田敬祐
企業経営にとってリスクとなる社員の「過労死」や「生活習慣病」などが社会問題化している中、いち早く「健康経営」に取り組んだ株式会社タニタ(以下、タニタ)。その根幹をなす社内の健康プロジェクトは、来年で開始から10年目の節目を迎える。果たしてこの事業は企業にどのような影響を及ぼしたのか。プロジェクトに初期から携わる土志田敬祐氏に話を聞いた。
ITを活用した管理システムが健康づくりを習慣化
「社員の健康づくりを企業が支援することで、生産性や創造性、業績の向上などの効果が表れ、企業経営に多大なメリットがあることが分かってきました」
そう語るのは、株式会社タニタヘルスリンク取締役・マーケティング担当の土志田敬祐氏。タニタ健康プロジェクト開始当初から、中心となって活動を推し進めてきた人物である。
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食べる量を減らすのではなく、運動によってエネルギー収支を合わせる健康法を実践している土志田氏
タニタといえば、体脂肪計や体組成計などを手掛ける健康計測機器メーカーとして知られ、近年では、健康的で栄養バランスの良い食事を提供する「タニタ食堂」が話題となった。
2007年当時、土志田氏が所属する新規事業部が独立し、子会社の株式会社タニタヘルスリンクが設立。その2年後にタニタ健康プロジェクトはスタートした。まず土志田氏は、このプロジェクトの根幹となる独自の健康管理システムについて説明してくれた。
「タニタではプロジェクトの開始時から現在まで、グループ会社も含め、全社員に歩数や消費エネルギー(カロリー)量などを計測する活動量計を1台ずつ持たせています。また弊社の体組成計や血圧計を活用し、週に1回以上、体重や体脂肪率、内臓脂肪レベルなど個人のバイタルデータも計測するように義務づけられています」
もちろん、単に測るだけで終わりではない。データ管理の仕組みは、メーカーとしての力を存分に発揮している。
「計測データは体組成計や血圧計から専用サーバーへと送られる仕組みとなっており、そこで全社員の健康データの管理を行っています。活動量計には、FeliCa(非接触型IC)チップが内蔵されており、社内に設置されている体組成計や血圧計のリーダー端末にかざすだけで測ったデータが自動でサーバーに蓄積されます」
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社員がそれぞれのタイミングで計測できるよう、体組成計と血圧計は社内のリフレッシュスペースに設置している
そこで数値に問題のある社員や体重が増加傾向にある社員を見つけると、対象者用の特別指導プログラムを実施する。管理栄養士による指導や個別面談をしたり、タニタ社員食堂で健康食の提供したりするほか、近隣スポーツクラブで運動指導を行ったりするなど、徹底して健康改善を行う仕組みが用意されているのだ。
健康増進は優秀な人材も生み出す
こうして社員のデータを計測し、健康改善への指導を続けた結果、プロジェクト開始から2年で医療費の額に成果が出始めたと土志田氏は振り返る。
「会社全体の医療費削減額でいうと、平成23年(2011年)度に対し平成24年(2012年)度は約270万円減、1人当たりでは約1万8000円減という結果が出ています。またこの期間に、適正体重とされるBMI18.5~25の社員数が増加しています。より多くの社員が健康になったことで、従来かかっていた費用を抑えることができた、つまり医療費の適正化が効果として表れたと考えられます」
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タニタ健康プロジェクトを実施したことによる医療費適正化の実績
画像提供:株式会社タニタヘルスリンク
この医療費の適正化は、現在まで続いている。また土志田氏によると、このような直接的な成果以外にも、副次的な効果が多く生まれたという。
「その一つが、社員食堂です。健康プロジェクトの一環として力を入れていたところ、レシピ本の出版やレストラン『タニタ食堂』を出店するまでに至り、今では『食堂のタニタさんが体重計も作ってるの?』という声をいただくこともあるくらいです」
その他にも、タニタの健康プロジェクトにおける一連の活動実績が評価され、平成24年度版と平成26年(2014年)度版の厚生労働省の白書に記載されるなど、企業イメージの向上にもつながった。この結果、メーカーとしてのタニタから、現在では健康総合企業としてのタニタというイメージが浸透し、その影響で、管理栄養士や健康運動指導士などの有資格者と一般社員の採用において、健康への意識と志の高い優秀な人材を獲得できるメリットがあったという。
まさに健康プロジェクトを長期的に推進した結果、社員の健康増進とは別の方向で効果を発揮したと言えるだろう。
自分を健康にすることはいつか世界を救う
そもそも健康計測機器メーカーとして名高いタニタが、健康プロジェクトを始めたきっかけは、その健康意識の高さ故の理由があった。
「ちょうどメタボリックシンドロームが注目され、おなか回りを測る特定健診や特定保健指導が始まったのです。そこでヘルスケア産業業界にいる私たちの中に、メタボの人がいるのはどうなのだろうか、という自問が起こり、それなら国に任せたままでなく、タニタでも独自に健康増進を行おう、という思いに至ったのが始まりでした」
けれども、いかに健康意識の高いタニタであっても、当時200名を超える社員への徹底した健康管理には困難があったという。
「当然、『どうしてそんなこと強制されなくてはいけないの?』という声がありました。やはり健康への関心が高いか低いかはそれぞれそれですから、それは仕方がありません。けれども健康経営に対する会社の意思を伝えると、”健康維持も仕事のうち”という考えが浸透してきました。初めは非協力的だった人でも、自身の健康状態を知り、指導を受けることで、やがて成果が出始めました」
計測を習慣化したことで、健康な社員はそれを維持する指標ができ、不健康な人は健康指導によって健康意識とリテラシーを養う。そして無理なく健康改善への意欲が湧くというサイクルだ。
中には、20kgも健康的に減量した社員がいるとか。今ではそれに続く成功者が出るように、歩数の多い社員をランキングで掲示したり、楽しみながらできるよう「歩数イベント」を取り入れたりしている。社員同士が競い合い、モチベーションアップに役立っているようだ。
こうした進化を続ける一方、成果が出始めると同時に、健康プロジェクトにおける自らの成功モデルを「タニタ健康プログラム」として外販に乗り出していると土志田氏は話す。
「現在、タニタのシステムは、既に全国の企業や自治体合わせて延べ100件以上で導入されています。弊社の商品や管理システムの導入だけでなく、健康がテーマのイベントも開催しています。例えば、一昨年度から群馬県の四万温泉へ行くヘルスツーリズムで、町おこしのお手伝いをさせていただきました」
また健康プロジェクトのさらなる施策として、2016年から禁煙サポートとして喫煙室を全て撤去し、さらに朝食を無料で提供するなど、職場環境の改革にも着手している。
このようにタニタでは、昔から「一つのことを一つの目的としない」という信念があると土志田氏は言う。健康プログラムの外販も、タニタ食堂の出店も、ある意味では健康プロジェクトの産物であり、まさにその社風があったからこそ、発展を遂げてきたことがうかがえる。
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丸の内に出店したタニタ食堂。現在、医療施設や商業施設など全国に10店舗を展開している
画像提供:株式会社タニタヘルスリンク
そして土志田氏は、これからの日本社会の流れをこう読む。
「病気になると治療費は惜しまずに支払いますが、予防に対して同じようにお金をかけてきた人は少ないはずです。けれどもジムに通うようになったり、値上がりしても野菜は必ず購入したり、ここ5年ほどで予防のためにお金を使い、行動する人が増えてきています。そうやって国民一人一人の健康意識が高まれば、やがて国の社会保障費が抑えられ、病気になる人が減り、健全で健康な社会になっていくのではないでしょうか」
そして土志田氏は、それが高齢化社会の先進国としての成功モデルになれば、今度は世界に向けて発信できるようになるとも見据えている。
「先進国の肥満率が高い現状があります。その一方、世界では飢餓に苦しむ人も多くいます。もし肥満率の高い先進国の人々の摂取エネルギーを適正化し、世界で平均化すれば、その分、飢餓に苦しむ人を少なくすることができるはず。健康は自分のためだけではなく、企業や自国を救い、世界を救う鍵になると私は思っています」
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text:伊佐治 龍 photo:野口岳彦