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鉄道の回生電力を取り出して外部交通網のエネルギーに活用する世界初の試み!超急速充電インフラで五輪の巡回EVバス運行へ

住友商事株式会社 交通・輸送インフラ事業部 機材開発課長 根本義直

電車の減速制動時に発生するエネルギー、回生電力を利用して電動(EV:電気自動車の一種)バスを運行する。埼玉県さいたま市で2018年秋から実証運行を開始するというこの世界初の技術、開発・実証プロジェクト。この新しい試みについて、さいたま市や埼玉高速鉄道と連携する住友商事株式会社 交通・輸送インフラ事業部 根本義直氏に話を聞いた。

本来捨てられてしまうはずのエネルギーを有効活用

『ゼロエミッション地域公共交通インフラ(電動バス)』と名付けられた、今回のプロジェクト。鉄道会社から余剰電力を分けてもらいバスを走行させる、前代未聞の試みだ。

「2018年秋から実証運行をスタートし、2020年にはさいたま市と連携して、夏季五輪の大会会場間をつなぐ公共交通インフラとして営業運行することを目指しています。鉄道会社の電力を取り出し、外部の交通網のエネルギーとして活用するのは世界初の試みです」

住友商事で鉄道や新交通の開発・インフラの整備を担当する交通・輸送インフラ事業部で機材開発課の課長を務める根本氏は、希望の光をたたえたまなざしでそう語る。

世界各国で輸送機器関連のビジネスに携わってきた根本氏だが、今回のプロジェクトは未知の領域とのことだ

このプロジェクトは、さいたま市緑区の浦和美園駅と同市大宮区のさいたま新都心駅間の片道10km強を電動バスで走行するというもの。

浦和美園駅は、東京都心部を縦断する東京メトロ南北線と相互乗り入れする埼玉高速鉄道の終点。対するさいたま新都心駅はJR東北本線・高崎線・京浜東北線が通る浦和─大宮間の駅で、いずれもさいたま市の重要拠点だ。

システムの概要は、埼玉高速鉄道の饋電線(きでんせん:車両と接する架線に電力を供給するための電線)から回生電力を外部に供給するための支線を引き、浦和美園駅、または地上バスターミナルに設置する超急速充電システムを設置し、次世代蓄電池に給電。

そこからパンタグラフの付いた超急速充電装置を介して電動バスに充電するという仕組みで、1回の充電に要する時間は5分以内だという。

『ゼロエミッション地域公共交通インフラ』の実証システムイメージ図

電動バスの開発はクリーンエネルギー自動車の開発で多くの実績を挙げている株式会社フラットフィールドが担当

「電車の回生電力を利用する仕組み自体は、既に導入が進んでいます。また、電動バスも国内では30件ほど事例があります。

しかし、この2つをつなげて一つの交通インフラにしようというのが今回のチャレンジです」

電車はモーターを電気で動かし、車輪を回転させて走行している。

回生電力とは、車輪が回転し続けようとする力をモーターに伝えて車両を減速させ、その際にモーターが回転して発電する電力を回収する仕組み。加速・巡航時とは電気の流れを反転させ、通常は駆動に使っているモーターを発電機として利用しているわけだ。

今回のプロジェクトで回生電力の提供に協力する埼玉高速鉄道。電力は鉄道の電力供給線である饋電線から分岐され、超急速充電装置に供給される

現在走行中の電車の多くは回生ブレーキを導入しており、架線を経由して近くにある加速中の車両に電力供給する仕組みがシステムとしては確立されている。しかし、現状の技術ではかなりのエネルギーが無駄になっているとみられる。

「最も大きな回生エネルギーが発生するのは車両が減速し始めた瞬間です。そのときにちょうど近くを加速中の車両が走っていれば電力を回して生かすことができますが、必ずしもタイミングが合うとは限りません。

鉄道会社では現状、電気をためておける設備がないために、せっかくの回生電力を生かし切れずに無駄になっている部分があります。今回のプロジェクトではそうした余剰電力を全量回収して使用するのがポイントです」

鉄道会社から電気を分けてもらうのではなく、未利用だったエネルギーを活用するところに、このプロジェクトの核がある。そして、どれほどの量が眠っているのかを検証するのも今回の実証実験の目的の一つだ。

蓄電池の特性に応じて適材適所で使用

バスターミナルに設置する蓄電池は、エクセルギー・パワー・システムズ株式会社が製作を担当。それはEVのバッテリーなどで主流となっているリチウムイオン電池ではなく、急速充放電が可能な次世代型蓄電池だという。

「リチウムイオン電池を用いた回生電力の貯蔵装置は国内でも導入例はありますが、リチウムイオン電池は急激に大電流をかけると温度が上昇して充放電できなくなってしまうという弱点があります。そのため瞬間的に3MW(メガワット)もの大きな電力が発生する回生電力を全量貯蔵するのには適していません。

エクセルギー・パワー・システムズの次世代蓄電池なら発熱の問題をクリアしているため電力を全量回収することができ、さらにバス側に200kW(キロワット)以上で超急速充電することが可能になります。

また、ご協力いただく埼玉高速鉄道の電気は直流。そこから蓄電池への給電も直流(DC1500V)、バスも直流で充電(DC500V)する全て直流のまま送電でき、変電によるロスが少ないこともメリットの一つです」

回生電力をバスに直接給電するのではなく、いったん、次世代蓄電池に貯蔵するのが今回のシステムにおける特色といえる。

一方で、バスに搭載する蓄電池は、国際規格に準拠している必要があるため、今回の実証プロジェクトでは電動バスに搭載実績のあるリチウムイオン電池を使用する。

ただし前述の通り、リチウムイオン電池は急激な電流の変化に対して比較的弱いため、超急速充電でどれほどの耐性があるのか、そのあたりも検証すべき項目の一つとなっている。

「将来的にはバス側にも次世代蓄電池を搭載し、バス停ごとに充電設備を作って短時間で超急速充電することも可能になるかもしれない」と構想を語る根本氏

将来はさまざまなエネルギー源から電力を得ての運行に期待

一企業が単独で名乗りを上げても、恐らく実現は難しかったであろう今回の試み。鉄道会社とバス会社、バッテリー事業者など複数の企業と行政、研究機関をつなぎ、一つの事業として実施するのは、総合商社である同社が得意とするところだ。

当然ながら行政からのバックアップも大きく、さいたま市との連携に加え、環境省「平成29年度 CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」にも採択された。

「私たちが鉄道からの回生電力で電動バスを走行させる企画を立て始めたのと同じころ、さいたま市が2020年の東京大会開催を見据えて、埼玉スタジアム2002がある浦和美園駅と、さいたまスーパーアリーナのあるさいたま新都心駅とをつなぐ電動バスを走らせる計画があることを知りました。

示し合わせたようなタイミングですが、全くの偶然です(笑)。これは願ってもいなかったチャンス、ということで互いに協力することになりました。

さいたま市は環境未来都市の実現を目指されていて、次世代自動車やスマートエネルギーの導入にも積極的です。行政からの積極的な支援が得られることは、複数の企業をつなぐ役割を担ったわれわれとしては心強いですね」

さいたま市にとっても住友商事にとっても、まさに千載一遇の好機だったというわけだ。夏季五輪開催後の計画は未定だが、二区間を直接つなぐ公共交通が今現在は存在しないことから、引き続き実用的でクリーンな交通手段としても期待されているそうだ。

実証運行で電動バスが走るのは、さいたま新都心駅と浦和美園駅を結ぶ、片道10km強の区間。1回の超急速充電による往復運行を予定している

最後に、プロジェクトの実施に終わらない、モビリティ・インフラの未来像について根本氏に語ってもらった。

「電動バスは世界中で既に実用化されていますが、特に国内ではまだまだ企業姿勢をPRするためのシンボリックな導入が多いように見受けられます。普及を阻害している最大の要因は充電インフラが整っていないことですが、もう一つの要因として、導入コストだけでなく、運用コストも見合わないことが挙げられます。

電動バスへの給電には大きな電力を必要とするため、基本電気料金も当然高くなる。一つの事業者が少数台を運行しても割に合いません。余剰電力を活用することで課題をクリアできるのか?普及の可能性を探るのが本プロジェクトの狙いです。

それがうまくいけば少しずつ電動バスが増え、普及することによって運用コストも下がる。将来的には電力会社を含めたさまざまなエネルギー源から電力を得て運行することが可能になるでしょう」

電動バスの本格的な普及が実現すれば、CO2排出量削減を目指す社会全体への恩恵は決して小さくない。ゼロエミッション化することで、バス会社にも、社会全体にもメリットが生まれる地盤づくり。大いなる構想に向けた第一歩が今、始まった。

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