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光るガラスが未来の街並みを変える

積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 住インフラ材戦略室 課長・プロジェクトリーダー 新居 弘志

一般的に、快適性や安全性、デザイン性などが求められる建築材料。その中で、透明なガラスにディスプレイの機能を搭載させることができる自発光中間膜という技術が開発されている。建材から未来をつくり出そうとしている積水化学工業株式会社の新居(にい)弘志氏に、ガラス越しに描く未来像を聞いた。

車載用ヘッドアップディスプレーから着想

自発光中間膜。合わせガラスのガラスとガラスの間に挟む膜(中間膜)の原料に、特定波長の光を当てると発光する材料を配合し、画像や文字を映す技術だ。自動車や建築物など幅広い用途が想定されている。

「発想のヒントは車載用のヘッドアップディスプレー(HUD)です。現在、一般的なHUDに用いられている方式ですと、ドライバーサイドからしか表示される情報が見えない上、表示できるスペースが小さく限られています」

そう語るのは、積水化学工業で高機能プラスチックスカンパニー 住インフラ材戦略室の課長・プロジェクトリーダーを務める新居弘志氏。主に、合わせガラス用中間膜の建築向けの用途拡大や新規開発を担っている。

積水化学工業の新居弘志氏。合わせガラスのスペシャリストとして日々、高機能中間膜のさらなる進化を目指している

近年、多くの自動車に採用され始めているHUD。フロントガラスに速度やナビゲーションといった走行情報を表示する機器で、運転中のドライバーの視点が前方から外れにくくなるため、特に高速道路が発達している欧州を中心に安全面で評価が高い。同社によれば、2020年には世界で新車のうち1000万台に搭載が進むと考えられているとのことだが、なぜ自発光中間膜のコンセプトを着想したのだろうか。

「HUDは当初高級車中心に採用が進みましたが、幅広い車種に採用が広がっています。加えて、現在自動車の電装化や自動運転化が進みつつある中、自車環境の表示や車内でのエンターテインメント、はたまた車外とのコミュニケーションなどのニーズが今後高まり、さまざまな情報を表示し、視認できる機能が求められるだろうというのが開発のきっかけでした」

そこで積水化学工業は、自動車の内装の多くを占めるガラスを使って多量な情報を表示させるため、中間膜に発光機能を持たせる開発に着手。2015年に基礎技術を確立し、発表した。

接着フィルムがディスプレーに進化

中間膜とはそもそもガラスを二重に合わせるために使われていた接着機能のあるフィルム。積水化学工業は、60年程前に中間膜事業を始めており、現在は自動車のフロントガラスなどの合わせガラス向けで世界トップシェアを有している。その要因の一つが、1mmにも満たない膜を何層かで構成させることで、遮音性を有する層や着色層を持たせることができる多層化技術だ。中間膜にナノサイズの遮熱微粒子を分散させ遮熱機能を持たせるなど、これらの高機能を付加させた技術はそれぞれ世界初。

「自発光中間膜はもともと自動車向けを想定して開発したものですが、自動車には高い安全性が必要であり、製品として認定され、普及していくには長い時間を有します。そこで、もう一つの大きな用途である、建築向けに先行して展開できないかと考えました」

合わせガラスのガラスとガラスの間に薄く見えるのが中間膜。ここにさまざまな機能を持たせることで、“機能が付加された合わせガラス”ができ上がる

自発光中間膜入り合わせガラスは、専用のプロジェクターから映像情報を投影することで、中間膜に組み込んだ発光材料が発光し、情報を表示する。表示するデータは、PCなどのデバイスから専用のプロジェクターに送るだけと容易で、一般的なプロジェクターを扱うことと、そう変わりはなさそうだ。

では、発光するガラスが誕生することで、何が変わるのだろうか。建築に限れば、新居氏は「視界と透明度が変わる」という。

都市部や商業施設内では、液晶ディスプレーやLEDライトパネルなどが各所に配され、広告や商品情報などを表示してきた。しかし、自発光中間膜を搭載したガラスがあれば、ビルやショーウインドーのガラス自体に表示することができる。もちろんガラスとしての機能、つまり透明度は損なわないため、商品と文字や画像情報を違和感なく展示できるのだ。

これが実現できれば、もはやディスプレーを設置することは必要なくなるかもしれない。単純に考えても、大型ディスプレーを設置することがなくなれば、コスト削減などにもつながるだろう。

専用プロジェクターは商業施設や車載用など、用途に合わせた仕様も検討している

「発光機能と共に、遮音、遮熱などの他機能を中間膜に持たせることで、ガラスの厚みを変えることなく、省エネ性や快適性、ディスプレー機能など、内外装ガラスに多くの機能を付加できることも期待できます」

既存製品と差別化できる透明度

現在、多くの高精細なディスプレーが出回っているが、自発光中間膜のガラスは、これらの市場でどのように差別化していくのだろうか。その答えは「別カテゴリー」と新居氏は言う。

「情報を表示させる方法はたくさんあると思います。そもそも透明なガラスを一部曇らせて表示させるといった方法もありますが、あくまでもこだわりたいのは、透明なガラスに情報を表示できること。これがわれわれにしかできないオンリーワンの技術です。だからこそ、“視野を邪魔しない”という新しいカテゴリーを確立していきたいですね」

透明度にこだわる理由は、自発光中間膜を開発する経緯にも当てはまる。最終的には、自動車のフロントガラスへの採用を目指しているためだ。

「運転中の視界は良好でなければならない。これは“ガラスは常時透明でなければならないとダメ”ということです。さらにグローバルな社会で、ディスプレーの多言語化も要求されてくる可能性も高い。だからこそガラスの機能や表示方法で視界や情報に制限がかからないものを目指しています」

自発光中間膜に文字を表示させたガラス。透明度が高いため、背後がはっきりと見える

車載用や商業施設用だけでなく、もちろん住宅用への展開にも意欲的だ。

「用途に応じたプログラムや周辺機器が必要ですが、ガラスがディスプレーになれば、家中のモニターやディスプレーが必要なくなります。そうすればスペースはより確保でき、豊かでストレスのない、新しいライフスタイルを提案できると考えます」

次なるステップはフルカラー表示。現在の自発光中間膜が表示できるのは、赤・緑・青の中から単色のみ。この単色表示の機能を組み合わせて、今後はフルカラーで表示できる新たな膜の開発を目指している。

自発光中間膜の技術をショーインドウに用いた用途例(イメージ)

自発光中間膜の技術をショーインドウに用いた用途例(イメージ)

「ガラスは、街並みの中にたくさんありますよね。だから、イルミネーションのように、ガラスで街並みが変わるような驚きをつくってみたいと思っています。フレームを変えずにガラスだけを変える。そうするだけで機能が増える。これって重量を増やさずに機能だけが増えるんです。もちろんエネルギー効率も良くなります。これまでのモニターに比べて出っ張りなどもなくなるので、スペースを有効利用すれば作業効率も上がる。こんなエネルギー革命も面白いと思っています」

2017年9月から2018年3月まで、積水化学工業は某ショッピングモールで、自発光中間膜を搭載したガラスによる情報表示のテスト導入を行っている。情報を違和感なくタイムリーに伝える機能から、建築分野で「TALKING LIGHT」のブランド名で浸透を狙う。商業施設のウインドーで、文字や画像が躍る光景を目にする日も遠くはない。

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