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空きスペースがロッカーに!インバウンド急増時代に輝くシェアリングサービス「ecbo cloak」が街を変える

ecbo株式会社 CCO ワラガイケン

新しい時代を切り開こうと奮闘する若き事業家や研究者に未来を聞く、トップランナーのスピンオフ企画「NEXTランナー」がスタート! 初回は、店舗の空きスペースを“手荷物の預かり所”として有効活用する世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」に注目。観光客を中心に国内外で話題となっている同サービスを運営するecbo(エクボ)のワラガイケン氏に、アイデアの原点、そして展望を聞いた。

荷物を預けたい人と余剰スペースを持つ店がウィン-ウィンとなる荷物預かりビジネス

日本では一般的に、手荷物を一時的に預ける場としてコインロッカーが普及している。しかし、近年の訪日外国人旅行客急増により、ロッカー数の不足や、その他に荷物を預ける場が少ないといった問題が顕在化している。

そんな需要と供給のミスマッチにいち早く着目し、ビジネスチャンスとして乗り出したのがecboだ。2015年に創業し、2017年1月には街にある実店舗の空きスペースに荷物を預ける世界初の荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」をローンチした。現在28歳、ecboのCCO(最高クリエイティブ責任者)で共同創業者でもあるワラガイケン氏は、まず同サービスのユーザーメリットを教えてくれた。

「コインロッカーを利用したいと思ったときに、設置されている場所って、すぐに見つけられないことが多いですよね。その上、苦労してたどり着いても、どれも使用中だったなんてことがしばしばあります。それを解決するのがecbo cloak。Web上で荷物を預けられるお店が即座に検索でき、その空き状況もすぐに確認できます。しかも事前に日時と荷物の数を指定して予約することも可能です」

ecboのCCO・ワラガイケン氏は、システム構築やサイトデザインから、マーケティングやブランディングまで多方面で指揮を執る

ユーザーは、預け場所の把握と確保が事前にできることで、荷物を確実に、かつ計画的に預けられるようになる。それは、特に限られた時間内で観光する旅行者にとって、“手ぶら観光”を可能とし、より旅程をスムーズに遂行しやすくなるという大きなメリットにつながるという。

確かにユーザー側の需要は想像できるが、受け入れる店側にはどんなメリットがあるのだろうか。

「あるカフェを例に挙げると、荷物を預けに来たユーザーが、コーヒーを飲んだり、ランチを食べたりということがありました。もしお店で出したメニューを気に入ってもらえていたとすれば、レビューやSNSなどを通して、人気に火がつくことも十分ありえます。新規客獲得への良いアピールの場になることは間違いありません」

店がやることは、基本的に荷物を預かることのみ。登録は無料であり、“空きスペースの有効活用”が前提のため、基本的に導入コストはゼロだ。しかも、ユーザーが支払う1個300~600円の利用料は、ecboの手数料50%を引いた額が店の収入となる。荷物を預かるだけで副収入を得ながら店の認知・集客にもなる、といいことずくめだろう。

ecbo cloakのWebサイトで、エリア名、預ける日時、荷物の数を入力すれば、簡単に検索、予約することができる

画像協力:ecbo

サービス開始から約2年。現在は、主要都市を中心に1000を超える登録店舗がある。ユーザーは7:3の割合で外国人が圧倒的に多い状況だというが、同時に日常生活で利用する国内ユーザーも増えているそう。

「訪日外国人旅行者、特に台湾や香港の方々が、現地メディアやSNSでこのサービスを知って利用するケースが多いです。最近で言えば、名古屋のハロウィンイベント開催に伴い、会場付近の店舗にユーザーが仮装用の衣装を預けたことをSNSに投稿し、口コミで広がったこともありました。また、楽器演奏者が楽器を預けたり、冬の時期はスノーボードを預けたりするユーザーも多く、ロッカーにはとても入りきらないものでも、ecbo cloakなら預けられるというメリットも好評を得て、国内でも認知されてきています」

コインロッカー探しの手助けから生まれたアイデア

サービス開始からここまで順風満帆に思えるが、リリース前には大掛かりな方向転換があったとワラガイ氏は語る。

「実のところ、当初は“荷物を長期的に預けたい人”に向けた、『ecbo storage』(※現在はサービス停止中)というデリバリー付きのトランクルームサービスを展開する予定でした。リリース直前という段階だったんですが、そんな時期にecboの代表である工藤慎一が、ある出来事に遭遇して……。それをきっかけに、ビジネスモデルを大きく変えることになったんですよ」

事の顚末はこうだ。ある日、渋谷駅で外国人旅行者が大きな荷物を手にしてコインロッカーを探していたところに、たまたま工藤氏が通りがかった。工藤氏は親切心から近くのコインロッカーまで案内するが、大型用のコインロッカーはあいにくどれも使用中。別のコインロッカーを見つけても空きはなく、また次もダメ、また次もダメ、と同じ状況が続き、結局、40分経っても荷物を預ける場所を見つけることはできなかったという。このとき工藤氏は、コインロッカーを探すためだけに歩き疲れてしまった旅行者を目の当たりにして、楽しい旅行に苦い思い出をつくってしまったのではないかと心を痛めたそう。

それ以降、工藤氏の中で「どうにかしたい」という思いは募る一方。社内で話し合いを重ね、既に事業化を進めていたecbo storageの仕組みを改良することに。その過程でecbo cloakのモデルが生まれたとワラガイ氏は言う。

「自分たちで何十、何百カ所のトランクルームを借りるのは非現実的。むしろ街中にあるお店の空きスペースで代替できるのではないかということに気付いたんです。実は、最も人員が少ないときは工藤と私の2人で開発していた時期もありましたし、ecbo storageを運営するには倉庫の管理者、配達員など人材を確保する必要がありました。でも、ecbo cloakのモデルであれば、人材部分をお店の方にカバーしてもらえる。私たちにとって大きなメリットであり、これならいけるかもしれないと、再出発に踏み切ることにしたんです」

ecbo cloakのビジネスモデルとそれぞれのメリット。仕組みはシンプルだが、応用の広さに可能性を感じる

画像協力:ecbo

当然、舵を切り直すことは容易ではない。ほぼ完成していたWebサイトの作り換えからユーザーとのコミュニケーション方法の再構築、当時の不安やプレッシャーは相当なものだったそうで、「体力的にも精神的にも本当にキツかった」とワラガイ氏は振り返る。その後、何とかβ版を試作すると、東京・渋谷限定でテストを行った。

「そのときは、知り合いの飲食店や行きつけのカフェなど、渋谷にあるお店に手当たり次第でお願いしましたね。テストしたことで見えたのは、安心感の担保が必要だということ。ユーザーはきっと、『行ったこともないお店に荷物を預けるなんて不安』と思うはず。安全安心を保証するために、東京海上日動さんに働きかけて、ecbo cloakのために新しい保険プランも作っていただきました」

ワラガイ氏によると、方向転換が決定したのは2016年の夏。2017年1月のecbo cloakのリリースまでわずか半年という短い期間で、システムを構築しながら100店舗以上の協力を得ることに成功している。すさまじい努力の結果であると共に、ecbo cloakが店、ひいては街にとって多大な魅力を感じさせた表れだと言えるのではないだろうか。

モノを自由に!“所有”の概念を変えたい

そんなecbo cloakだが、リリース以降もマイナーチェンジを繰り返している。実際に利用したユーザーや店から寄せられた要望を反映しながら、今の形になったとワラガイ氏は教えてくれた。

「外国のお客様からの問い合わせが特に多いので、ユーザーとお店の間で言葉の壁が生じる場合もあります。それがお店側の負担にならないよう、ユーザーには予約や決済、問い合わせや意見など全てecbo cloakのサイト上で行ってもらえるようにして、円滑にオペレーションが進むようにしています」

また、複数日間の荷物預かりや、利用者によるレビュー機能も追加し、現在はもっと気軽に使えるようスマートフォン用アプリも開発中だという。

「駅に設置されているコインロッカーは、数が多い東京都内の主要駅でも、大型荷物が入るサイズのものは全体の10%にも満たないんです」。近い将来はさらに需要が増えることも見込まれるという

「2019年には登録店舗数10000店舗を目指しています。特に面白そうだと思うのは、カラオケ店、和装の着付けやレンタルのお店、伝統工芸の工房。というのも、荷物を預けることを通して日本文化に触れられる機会を与えることができるためです。訪日外国人旅行者にとっては日本のことがもっと好きになる、もっと楽しんでもらえるきっかけとなるサービスにできるのではないかと思っています」

現在では、小中規模店舗だけでなく、JR東日本、JR西日本、JR九州、日本郵便、ヤマト運輸、TSUTAYA、マルイ、福岡三越といった企業や施設への導入、提携も実現。日本人になじみ深い企業と一緒にサービスを展開することで、訪日外国人に加えて、国内での認知をもっと上げていきたいという。

「とにかく業態は問わず、空きスペースさえあればコンビニやファミレス、どんなお店にも活用してほしいと考えています。ecboとしては、まずは需要の多い都心や観光地を充実させていく予定です」

荷物に困る全ての人を助ける――それが個人的な目標だという。そして最後に、ecboの展望を語ってくれた。

「一時的な荷物の出し入れだけでなく、“預けた荷物を運ぶ”といった荷物に関連するさまざまなサービスを構想中です。“モノの所有を自由にする”という新しい概念を浸透させたいと考えています。その結果、ecboが世界で戦える日本発の企業として成長できればうれしいですね」

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