2017.4.19
ミドリムシによるバイオ燃料で空を“グリーン”に
株式会社ユーグレナ 取締役 財務・経営戦略担当 永田暁彦
学術名ユーグレナと呼ばれる不思議な単細胞生物から今、国産バイオジェット・ディーゼル燃料が実用化されようとしている。バイオテクノロジーで社会にイノベーションを起こそうという東大発のベンチャー、ユーグレナ社で財務・経営戦略を担当する永田暁彦さんに聞いた。
微細藻類のミドリムシが現代の人と地球を健康に!
単細胞の微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)。ラテン語で「美しい目」を意味する学術名を持つこの不思議な生物について、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか?
繊毛運動をする生物でありながら、葉緑体を持ち光合成が可能。多様な生命が誕生するきっかけとなった「カンブリア爆発」の立役者と考えられており、単細胞生物でありながら5億数千年を生き延びている。
2015年、第1回日本ベンチャー大賞の最高賞、内閣総理大臣賞を東大発ベンチャーが受賞した。それが、ミドリムシなどを活用したバイオテクノロジーで「人と地球を健康にする」という理念を掲げるユーグレナ社だ。
59種類もの栄養素が含まれていることから、健康食品や化粧品に活用されているミドリムシだが、かつては大量培養技術の確立が問題となっていた。自然環境下では、他の生物に汚染されてしまうため培養にはクリーンルームが必要となり、大量培養が難しかったのだ。東大農学部出身のユーグレナ社創業メンバー、出雲充社長と鈴木健吾博士は、研究の末に独自の培養技術を開発してこの問題を解決。2005年12月に世界で初めて、屋外大量培養に成功した。
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株式会社ユーグレナ 取締役 財務・経営戦略担当 永田暁彦さん
永田氏はもともと、ユーグレナ社へ投資をしていた投資ファンドに在籍していたが、「人と地球を健康にする」という理念に引かれ、2010年にユーグレナ社へと籍を移す。「地球を健康に」とは環境問題、つまりエネルギーと地球温暖化の問題にも、ミドリムシが有益であることを示したものだ。
ミドリムシからは、サトウキビなどと同様にバイオ燃料を作り出すことができる。バイオ燃料の利点は、燃焼させても大気中のCO2(二酸化炭素)の総量が理論上は増えないところにある(輸送や製造段階でCO2が排出されるため100%増えないとは言えない)。
これは「カーボンニュートラル」という考え方で、燃料は燃やすと温暖化の要因となるCO2を排出するが、そのCO2を用いて光合成する植物で燃料を作るためプラスマイナスゼロになるのだ。
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現在の主力事業は「緑汁」など石垣産ユーグレナを使用した健康食品の通信販売
写真提供:ユーグレナ
国産バイオ燃料実用化計画が始動
ユーグレナ社で永田氏が担う役割の一つが、投資や他社とのパートナーシップをまとめること。つまり、2015年12月にリリースされた「国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画」の立役者なのだ。
この計画は、横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、いすゞ自動車、全日本空輸(ANA)の協力のもと、国産バイオ燃料によって、2020年に航空機の有償フライト、およびディーゼルバスの公道走行を行うというもの。この2017年6月、旭硝子京浜工場(横浜市鶴見区)内に実証プラントの建設が着工され、2018年10月31日の完成を予定している。
「この実証プラントでは、年間125kLのバイオ燃料を製造することを目標としています。約58億円をかけるプラントですが、日本の航空燃料の使用量から考えれば大変少ない量です。しかしながら、この実証ステップを踏まない限り、商業化を果たすことができません。今後、2020年以降には、実証プラントでの知見を生かして商業化を実現していきます」
2015年の計画発表となったのは、同年に国交省、経産省を中心に「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けたバイオジェット燃料の導入までの道筋検討委員会」が発足したことが大きい。ところが、ユーグレナ社ではそれよりも以前からバイオジェット燃料の研究に取り組んでいたという。ではこれまでに、バイオジェット燃料でのフライトはなぜ実現されていないのだろうか?
旭硝子 京浜工場(横浜市鶴見区)に建設される実証プラント完成イメージ動画。精製・出荷までを行う
描いた未来を具現化するために
「大きな要因の一つは、日本にはバイオ燃料用の精油所がないことなんです。今回なぜわれわれが、燃料精製プラントを建設するのか。私たちはバイオテクノロジーのベンチャーなので、本来は原料のミドリムシなど微細藻類の培養だけをすればいいわけです。しかし、ミドリムシから原油を作っても、バイオ燃料用の製油所がなければジェット燃料にすることはできません。社会を変えるためには技術開発も必要ですが、パートナーシップや投資も必要です。全てを包括して私たちが取り組むことで、原料から製造、供給までの一気通貫した体制が完成します。これにより、初めて日本の空を“グリーン”にすることができるのです」
日本の空を“グリーン”に──。つまりバイオジェット燃料を用いた商用フライトでCO2を増やさないという主目的は、社会貢献的な意味合いだけではない。そこには「経済的にも非常に重要なニーズがある」と永田氏は言う。
「国際民間航空機関(ICAO)でも、CO2の総排出量を増やさないことを決めています。そのための答えは、根本であるエネルギーソースを変えることです。私たちがバイオジェット燃料をスタートしたきっかけも、航空会社からの要望があったからでした」
バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする──。取材前、多くのパートナーシップを獲得している同社の求心力は、創業者の語るそんなロマンが生み出しているのかと考えていた。しかし、未来をサステイナブル(持続可能性)な社会に変革するためには、経済的な利点も必要なのだと永田氏は力説する。
「ロマンだけでは何億もの投資はできないですよね? 私は常に経済性を追求し、それでいて社会的意義のあるエネルギーを実現することを考えています。そういう意味ではもっといいものがあれば、原料はミドリムシじゃなくてもいいとすら考えています。そのような考えの中で、地球が一つの土地だとしたら、何を育てたら燃料としていちばん効率的なのか。食料問題もある中で、サトウキビなど農地で栽培する植物は全て食品にすべきではないか。農地ではない砂漠でもどこでも、光合成でエネルギーを作り出す可能性のあるミドリムシはどのような役割を果たすべきか。常に自社都合ではなく、社会のニーズを満たすことを考えながら実現へ向けて準備を進めています」
永田氏の目標は、単に世界で最初にミドリムシで飛行機を飛ばした会社になることではない。
「実益的に、社会が恩恵を受けて初めてナンバーワンと言えると思います。世の中、社会に対して、意味のあることを物理的に成し遂げたい。その中で、大きなチャレンジができ、実現可能性を持っているのがユーグレナ社なんだと思っています」
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「ユーグレナ」(左)と、その中に蓄積した油脂を可視化した画像
写真提供:ユーグレナ
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text:三木匡(questroom inc.)、photo:柴田ひろあき