2018.1.10
「温かい食事」で福島の復興を支える
福島復興給食センター株式会社
福島第一原子力発電所では現在、数十年単位の計画で廃炉に向けた作業が進められている。そこで働く数千人の作業員たちに温かな食事を提供するべく、2015年に誕生したのが福島復興給食センター株式会社だ。「食」をキーワードに、福島の復興を陰で支える仕事にフォーカスする。
毎日2000食を送り届ける
福島復興給食センター株式会社が運営する給食センターの所在地は双葉郡大熊町の大川原地区。ここで作られた給食が毎日、配送車で30分ほどかけて福島第一原子力発電所に運ばれている。
同施設の運営が始まる前まで、福島第一原子力発電所構内には食堂がなく、約7000人の作業員は個別に弁当や購入した食品を持参している状況だった。構内での食事の選択肢はほとんどなかったのである。そこで、全国規模で社員食堂や病院・福祉施設の食事を作っている日本ゼネラルフード株式会社と地元企業の株式会社 鳥藤本店が、センターを運営するための会社を立ち上げることになったのだ。
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敷地面積は約1万㎡。東京電力ホールディングス株式会社の業務委託で、東双不動産管理株式会社が運営管理を担当。福島復興給食センター株式会社が調理や配膳、食材調達などを担っている
写真協力:福島復興給食センター株式会社
福島復興給食センター株式会社代表取締役社長の渋谷昌俊さんが、設立の経緯を語る。
「福島第一原子力発電所で働く方々に温かい食事を食べていただくことで職場環境を良くすることが私たちの使命ですが、構内で大量の食事を作ることは難しい状況でした。そこで、東京電力ホールディングス株式会社が約9km離れた距離にある福島県双葉郡大熊町大川原地区に給食センターを建設し、われわれが運営を担うことになったんです」
大量の調理を効率よく実現するべく、調理エリアには最新のオール電化機器が並んでいる。開業以来、最大で3000食もの食事を調理できることが可能になったという。
「食事は保温・保冷容器を使用して、専用の車両で運搬しています。福島第一原子力発電所構内にある3カ所の食堂で1食税込み380円です。やっぱり、現地で働く方々からの『温かくておいしかった』という声を聞くと励みになりますね」
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福島復興給食センター株式会社代表取締役社長の渋谷昌俊さん。並べられた段ボールは使用している福島県産食材の箱
写真協力:福島復興給食センター株式会社
地元食材を使った専門店レベルの味
食堂で提供されるメニューは、定食2種類、麺類、丼物、カレーの全5種類。用いる食材の多くが福島県産というのが大きな特徴だ。
米をはじめ、レタスやキャベツ、キュウリ、トマトなどの野菜、醤油やこんにゃく、厚揚げといったものまでが、福島、郡山、会津若松、白河、相馬、須賀川ほか県内全域から調達される。
それらの食材を中心に、センター所属栄養士監修のもと、体を動かす作業に適した食べ応えのある献立が考案されている。1カ月間、同じメニューを出さないこともこだわりの一つだ。
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福島第一原子力発電所構内で提供されたある日の定食メニュー。米、野菜、豚肉など、おおむね使用食材の全体の4割は福島県産品を用いている
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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麺メニューもバリエーションは豊富。おかずやスープ類の味付けは、東北の人に合わせて味を変えることもある
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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こちらは丼メニューの一例。サバ、カツオ、アジ、イワシ、サンマ、カレイなど、近ごろは福島で水揚げされた魚の扱いも増えている
写真協力:福島復興給食センター株式会社
「食事を提供する際に重要になってくるのが、食堂での配膳オペレーションですね。現場で働く作業員の方々は、作業時間も休憩時間もバラバラなので、提供時間を4時間半と長く取る必要があるんです。
しかし、調理してから2時間以内に提供することが食品衛生管理のガイドラインによる決まりです。そこでわれわれは食事を4回に分けて調理・運搬することで、安全かつ衛生的な運用を守るための工夫をしています」(渋谷さん)
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調理は約30人の従業員が交代制で行う。野菜のカットなど、食材の下処理は早朝から手作業で行われる
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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厨房機器は福島県内に工場を持つクリナップ株式会社やタニコー株式会社の機器を導入し、オール電化厨房を実現。少人数でも大量の調理がしやすいように設計されている
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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下処理、調理を経て完成した食事は速やかに保温・保冷容器に移されて配送車に運ばれる
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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食堂で使用する配膳用の食器はコンテナに収めて運搬する
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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福島第一原子力発電所構内にある3カ所の食堂で約50人の従業員が食事の提供を担う
写真協力:福島復興給食センター株式会社
「一番人気のメニューはカレーですね。福島県産の豚肉や3種類のタマネギを使い、給食とは思えない専門店レベルの味を追求して数十回の試作を繰り返しました。リピーターが多い自信作です」(渋谷さん)
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毎日提供するカレーであっても、具材や味のアレンジを変えた30種類以上のレシピを用意している
写真協力:福島復興給食センター株式会社
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洗浄エリア。毎日2000食を提供する給食の消費率は95%ほど。それだけ大量の食器が使用されるため、回収後は大型の食洗機で洗浄する
写真協力:福島復興給食センター株式会社
安全性とおいしさが福島の復興につながる
現在、給食センター内で45人、福島第一原子力発電所構内にある3カ所の食堂で55人、合計100人が働いている。そのうち福島出身者は約90人ほど。
「設立以前に福島県内各地で説明会を開いて、いわき、福島、南相馬、郡山などさまざまな地域から人を集めました。復興に一役買いたいという思いで応募してくれた方ばかりです。今後は、地域に対してもっと貢献していけるように、大熊町を含めた双葉郡の方々が中心となれるような会社にしていきたいと思っています」
給食センターの周辺には、野菜工場や太陽光発電施設、協力企業の事務所なども建設される予定。いまだ、居住エリアの大部分が帰還困難区域に指定されている大熊町の復興計画の中心的存在として、その重責は計り知れない。
「将来、地域の子供たちに大熊町で食事を作っているという事実を見学してもらえたらうれしいですね。そして、長らく続く風評被害の払拭(ふっしょく)をかなえつつ、今後も給食を作り続けなければなりません。作業員の方々にエネルギーを蓄えていただき、ケガなどがないように仕事をしてもらうのが、私たちの一番の願いです」(渋谷さん)
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text:浅原 聡