2017.5.2
“集まって住むパワー”で日本の未来都市を変える!
集住の魅力を再生し現代に活かすUR都市機構の「団地の未来プロジェクト」
昭和40年代、横浜市の洋光台団地周辺は若いファミリーでにぎわっていた。それからおよそ45年。かつて日本人の憧れだった団地の魅力を再燃させるべく、UR都市機構は「団地の未来プロジェクト」を始動。洋光台団地マネージャーとしてプロジェクトを推進する尾神充倫氏に話を聞いた。
今ある資源を生かして街を再生
今、日本は少子高齢化の一途をたどっている。そんな中、地域のコミュニティーは減り、何かあったときに頼れる家族も、知人も近くにいない。これは、今の団地が抱える問題と同じだと尾神マネージャーは語る。つまり日本社会全体の問題は、団地の中に集結しているというのだ。
「団地を再生することで、まずは郊外住宅地の活性化に向けてモデルづくりをしたい」
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洋光台団地マネージャーとして「団地の未来プロジェクト」を推進する尾神充倫さん。UR都市機構の情報誌「ユーアールプレス」46号を手に
2015年、UR都市機構は横浜市磯子区の『洋光台団地』をモデルケースに「団地の未来プロジェクト」を発足した。
昭和40年代に建てられた団地は、建物の老朽化に加えて入居者の高齢化が進み、その再生は目下の課題だったのだ。
「45年も熟成された洋光台という街には、豊かな人材や空間があるのではないか。スクラップ&ビルドではなく、今ある資産に少し手を入れながら団地の価値向上を目指すところからスタートしたんです」
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緑豊かな洋光台団地の既存住棟 均質でなく斜めに配置された住棟もある
隈研吾&佐藤可士和!最強の2人を迎えてプロジェクト始動
本プロジェクトは「ルネッサンスin洋光台」という既存のプロジェクトを再構成する形で生まれ、建築家の隈研吾氏を「ディレクターアーキテクト」として、またクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を「プロジェクトディレクター」として再度迎え、彼らを含める各界の有識者とUR都市機構の職員が参加した「アドバイザー会議」をより進化させ始動した。
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左手前がユニクロなどのブランドディレクションを手掛けた佐藤可士和氏 右から2番目が新国立競技場などを手掛ける隈研吾氏
「アドバイザー会議では隈さんや佐藤さんをはじめ、有識者の先生たちから忌憚のない広範囲な意見をいただきました。それまで“ブランディング”を意識したことがなかった私たちは、最初は先生たちが何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたね」と尾神マネージャーは笑う。
佐藤氏によって「団」という字をモチーフにしたプロジェクトロゴも作られた。
四隅を丸くしたアイコンは、既存の枠組みにとらわれないやわらかな着想から創造される新たな可能性を象徴しているという。
“プロセス”を見せることで、団地の魅力を発信
このプロジェクトは明確な目標を掲げるのではなく、「みんなで作っていく過程」に意味があるという。そのプロセスをうまく見せることで、団地の魅力を周知したい考えだ。
「まずは隈さんに外壁の修繕から着手していただき、目に見える形で団地のイメージを刷新していきました」
中央団地の外壁修繕では、外壁に露出していた室外機を隠すのではなく、アルミ製の「木の葉パネル」で覆うリニューアルを施した。
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修繕された外壁。CGのようにも見える美しいデザインだ
「当社では(汚れるので)白色は使わないのですが、白色を使ってコントラストがはっきりさせたお陰で団地の迫力が際立ちました」
外壁を修繕したことでプロジェクトが目に見えるようになり、街の人からも「おしゃれな空間になった」という声が聞かれた。
現在は外壁に続き、中央団地の広場を「街の縁側」というテーマで改修中。通過導線となってしまっている広場を、団地の住民が足を止めて休憩できる場所にする予定だという。
また、商業空間の活性化や北集会所の改修が予定されていて、それらが今後のプロジェクトの鍵となることは間違いない。
「洋光台の商業地域の良さは、チェーン店がほとんどなく、個人経営の店が多いことなんです。たとえば、駅周辺で完結する商業施設は“便利”ではあるけれど、“アイデンティティ”には成りえない。もちろん“便利”も大事だけれど、ここは“ならでは”と言える場所にしたいんです」
そして、と尾神マネージャーは続ける。
「街の人には自分の街でお金を落としてほしい。街を愛し、そこでお金を使わない限り、街は持続しないんです」
まさに“みんなで街を作っていく”ことが重要だ。そして、ことし中に設計していくという北集会所。アイデアコンペが行われ、たくさんの応募の中から最優秀賞が選ばれた。社会全体の課題を見つめ直す視点で考えられた集会所の新しい姿。EMIRA編集部としてはその完成が気になるところだ。
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アイデアコンペで最優秀賞を受賞した「OPEN RING」
団地の未来は日本の未来
6年間団地再生に携わっている尾神マネージャーから見た“未来に活かせる団地の魅力”とは一体どこにあるのだろうか。
「一つは、集住のパワーですね」
集まって住む団地は、近隣の人との関係性が生まれる。独り暮らしの高齢者が増えている中、団地の特徴を生かして彼らを見守れる環境がつくれるのではないか。
「たとえば日帰りの入浴施設などは高齢者のコミュニティーの場になっていて、そこでは必ず『今日は誰それさん見かけないね』というやり取りがあるんです。そうしたコミュニティーが団地の中にも生まれたらいいな、と。もう一つの魅力は、屋外空間を活かせることです」
団地には、豊かな屋外空間がある。ここを、団地の住人みんなが楽しんで使えるような空間にしていきたいと尾神マネージャー。
「団地の部屋は狭いという人もいますが、すべてのものが部屋の中になくてもいいのでは。生活に必要なものが部屋の外にあって、それをうまく他の人と共用で使いながらより豊かな生活ができると思うんです。そういう新たなライフスタイルを考えることが、このプロジェクトの目的でもある。そうして成果を出して、団地だけでなく、街全体に広げていきたいですね」
“団地は日本社会の縮図”という話が出たが、団地の未来プロジェクトが成功したら、日本社会にどのような影響があるだろうか。
「今、宅配業界の問題が話題になっていますよね。たとえば団地では、日中に暇がある高齢者に荷物の受け先になっていただくことができるかもしれません。“高齢者を支える”だけではなくて、“高齢者に支えられる”社会の仕組みができれば、元気な高齢者が増えて、街に新たなエネルギーが生まれるのではないでしょうか」
では最後に、エネルギーの観点から見て、団地はどのような役割を果たすのだろうか。
「集合住宅は戸建てよりもエネルギー効率が良いのは明らかです。特に団地の中間階層に暮らす人たちは、寒い日、外から帰ってきても部屋の中が暖かい。省エネになりますね」
団地が生み出す一番のエネルギーは、やはり“人が集まる”ところにあると言える。そこで洋光台団地では、地域のコミュニティーを育む拠点として、中央団地の空き店舗を利用したCCラボ(コミュニティーチャレンジラボ)と呼ばれる活動の場を構築した。
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CCラボでは地域の子どもたちも活動している
ここでは既に看護業界の関係者による訪問看護の学習会が開かれたり、ものづくり集団などによる展示会が開かれたりしたという。また、地域の小学校と連携して課外学習の場としても使われている。
人が集まる場所には、エネルギーが宿る。今後もこのCCラボを拠点に新たなコミュニティーが生まれ、地域全体に広がっていくことだろう。
公的機関としてセーフティネットの役割を果たしながら、経営体として近年チャレンジングな姿勢を見せているUR都市機構。外国人や高齢者の入居を積極的に受け入れる同社の団地は、まさに日本の未来都市の先駆けと言える。
EMIRA編集部としては、団地の未来プロジェクトの成功を切に願う。
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text:阿部めぐみ(questroom inc.) photo:UR都市機構