2020.9.29
警備に、除菌作業にトイレ清掃まで! マルチタスクのアバターロボットは“スーパーシティ”の要になるか
遠隔操作ロボット「ugo(ユーゴー)」が人手不足や3密状態回避の解決を目指す
これまで企業の受付で働くロボットといえばソフトバンクの「Pepper」やシャープの「ロボホン」が話題を独占してきたものの、近頃は警備や清掃などのマルチタスクに対応できるニュータイプが台頭している。Mira Robotics(ミラロボティクス)が手がける「ugo」のように、既に大型ビルで実務能力を証明しているロボットも。人間とロボットが共存する未来が、急速に現実味を帯びてきた。
遠隔操作でウイルス除菌も任せられる
ロボット開発を手掛けるMira Roboticsが警備用に開発したアバターロボット「ugo(ユーゴー)」。その特徴は、2本の長い腕。
これによって、肘をビシッと曲げた敬礼のポーズが美しく決まる……だけではなく、落とし物を拾ったり、ドアノブをつかんで施解錠を確認したり、トイレ清掃を任せることもできる。来客とのコミュニケーションに特化した既存のロボットと比べると、臨機応変にマルチタスクに対応できることが最大の強みだ。
100%自動で動くわけではないが、ゲーム用のコントローラーを使って遠隔操作できるため、近くで見守りながらアレコレと指示を出す必要もない。ルートや作業の手順を覚えさせれば巡回警備やトイレ清掃などの定型業務を自動で行うこともできるし、「仕上げにドアノブに除菌スプレーを噴きかけて」といったウィズコロナ時代のニーズにも素早く対応。人手不足が叫ばれる警備業界から「本当に役立つロボット」として期待されている存在なのである。
開発したミラロボティクスでは、2020年2月にビルメンテナンスを手掛ける大成株式会社と提携し、ビル警備の実証実験に取り組んできた。7月末からは、大成が警備業務を担う東京都港区の複合ビル、品川シーズンテラスにて3台のugoを使い、警備員に代わって立哨や巡回をする検証を開始。また、8月上旬には京浜急行電鉄の本社ビルでも本格実装に向けた実証実験も行っている。
ミラロボティクス代表取締役の松井 健氏に実証実験の手応えを聞いた。
「ビルのエントランスやテナントの受付で巡回や立哨を行う警備業務は、ugoに任せられると思っています。実際、品川のビルでは2020年秋から警備員のシフトの中にugoを入れていく予定です」
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代表取締役CEOの松井 健氏
同社は2018年設立。少子高齢化社会の労働力不足を見越してロボット開発を進めてきた。当初から交通系や商業施設の警備やメンテナンスを担う企業からの問い合わせが多かったという。
「日本では今後20年間で1428万人の労働人口が減少するといった推計が報告されています。警備や清掃などのビル管理を行うビルメンテナンスサービス業界は特に深刻な状況であり、企業の83%が人手不足となっています。これは、働き手の高齢化や、採用の困難さ、人件費の上昇を示しています。また、常に警戒モードで立っていることが求められる立哨警備のような心身の負担が大きい仕事が離職率の増加につながっているため、そこをugoが担うことで、人手不足解消のお手伝いをしていきたいですね」
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エレベーターのボタンを押して移動し、上下のフロアを巡回することも可能。車輪で移動する
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ことし5月、ミラロボティクスは接触感染の拡大防止策として「UV-C(紫外線)除菌機能を搭載したロボットハンド」を新たに開発したと発表している
新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大によって、人手不足の問題はさらに深刻になった。多くの業界で、感染リスクがあることを認識していながら事業を継続するために、現場に多くのスタッフを動員することを余儀なくされているのが実情だ。
「やはり大勢の人が行き交う場所での警備は、新型コロナウイルスの感染リスクが避けられず、媒介者になる可能性もあります。そうした場所に遠隔操作できるugoを配置できれば、エッセンシャルワーカーと呼ばれる生活必須職従事者が現場に行かなくてもリモートで業務を担当できる新しい働き方を提案できると思っています」
未来の日本に欠かせないインフラになる
もともとソフトウェアのエンジニアだった松井氏は2011年にIoTデバイスの会社(株式会社ミラ)を創業し、スマートホームやスマート農業に関するものづくりに励んできた。しかし、モノをスマート化するだけでは人口が減少する社会に対応できないという考えに至る。
「少ない労働力でサステイナブルに社会を回していくためには、マルチタスクに対応するアバターロボットが必要だなと。そんな背景でミラロボティクスを立ち上げました。最初は一般家庭での家事代行を視野に入れていたので、今とはまるで違ったデザインでした。一軒家の階段も上れるように、8本足のクモ形にしようとしていた時期もありました。ビジュアルが恐ろしくなってしまい、ボツになりましたけど(笑)。最終的には、遠隔地でも人が直感的に操縦しやすいように、人間と同じような機構になりました。移動方式も、足が多いと消費エネルギーが大きく稼働時間が短くなってしまうので、現在の台車形式に切り替えました」
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ugoの初期デザイン案
自分たちで試行錯誤を繰り返しながらプロトタイプを造り、実証実験を経てバージョンアップさせていく。
何かと意思決定に時間がかかる大企業に比べると、開発のサイクルが早いことがスタートアップの強みだ。ことし3月にも、大分県の「アバター戦略推進事業」の一環として行われた実証実験で、ugoはトイレ清掃のスキルに磨きをかけたばかり。
「トイレ清掃のスタッフは常に人手不足であり、不人気職種の代表格でもあります。われわれは、ビル内の地図やトイレ、便器の位置、形状などをugoの持つAIチップに学習させて、2本の腕を使って清掃するというアプローチをしました」
大分市は、本庁舎や第2庁舎など建物間が離れているため清掃員の移動に時間がかかることが課題だった。遠隔で操作できるugoを建物ごとに配置すれば、1人のスタッフによるエネルギー効率のよい複数のビル担当が可能に。
「遠隔操作ロボットを導入する大きなメリットは雇用の柔軟性が生まれること。人材が確保しにくい夜間の清掃や警備も、海外在住の方が時差を利用して働きやすい時間に業務できたり、足の不自由な方が在宅で仕事をすることもできるようになります。まだまだ清掃に要する時間やクオリティーは上げていかなければなりませんが、コロナ禍で人の移動自体が難しい状況においては最適なソリューションになると思っています」
今後はugoを家庭に導入することも視野に入れているという。老人ホームやデイサービスなど介護業界において人手不足が進んでいく中で、ロボットが軽介護や家事をサポートしたり、離れた場所からでも要介護者を見守れるようになると状況は大きく変わる。
未来の日本で、ロボットに期待されている役割は増すばかりだ。
「現在は警備の領域にフォーカスしてugoにできることを増やしている段階です。将来はビル全体を自動化させるための仕組みに成長していくと考えています。ugoがビルのエントランスで荷物を受け取ってテナントまで送ったり、来客者の案内をしてあげる。それを離れた場所から予約することもできて、複数のugoが連携しながら自動で幅広い作業を担うことができる。そうやって、一つのインフラとして使えるようになることを目指しています」
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ugoはミラロボティクスの社内工房で組み立てられ、アップデートを繰り返している
政府は人口減少社会において各地域の持つ社会的な課題を最先端のテクノロジーによって一挙に解決する「スーパーシティ構想」を描いている。
マルチタスクが可能なugoは、その一翼を担うポテンシャルを秘めている。
「ロボットが人々の生活を支えるインフラとなっていき、やがて、それを運用するオペレーションすらも自動化されてロボットが担っていくと思います。すると、都心も田舎も関係なく、段差が少なかったり、自動ドアを増やしたりと、ロボットにとってもバリアフリーな都市を作っていかないといけません。未来の人間が、少しでも時間を有効活用できる仕組みを作っていきたいですね」
われわれ人間の未来はロボットの進化と共にある。
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text:浅原 聡