2022.7.22
サブスク型別荘「SANU 2nd Home」で“多拠点生活”が当たり前の時代に?
今夏、新たな拠点が続々とオープン! 環境配慮型のビジネスモデルで共感を集めるSANUの戦略
新型コロナウイルス感染拡大をきっかけとして“脱都会”に関心が高まっているものの、実際のところ地方への移住やセカンドホームの購入に踏み切るビジネスパーソンは多くない。そんな中、新たな選択肢として注目を集めているのが「SANU(サヌ) 2nd Home」。山中湖(山梨県)や白樺湖(長野県)などの自然豊かなエリアにある“もう一つの家”をサブスクでシェアでき、気軽に多拠点生活を始めることができる。人と自然が共生する未来を見据えてつくられた画期的なサービスの全貌に迫る。
「所有からシェアへ」。新形態の別荘に利用希望者が殺到中
「SANU 2nd Home」は、スマホ一つで「自然の中のもう一つの家」を持つことができるサブスクリプションサービスだ。
月額5万5000円(税込)の会員になると、都心からアクセスしやすい自然豊かな場所に立つキャビンを自由に選び、いつでも滞在可能。旧来の別荘購入や通常のホテル滞在とは異なる新たな選択肢として、“都市部から自然に繰り返し通い、生活を営む”新しいライフスタイルを提供している。
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白樺湖エリア2拠点目となる「SANU 2nd Home 白樺湖2nd」キャビンの外観
2021年11月に「白樺湖 1st」「八ヶ岳 1st」(長野県)の2拠点をオープンし、今年3月に「山中湖 1st」、4月に「北軽井沢 1st」、6月には「河口湖 1st」「白樺湖2nd」、7月に「八ヶ岳2nd」が加わり、サービス開始から8カ月で7拠点50棟が完成・運営開始。今後も拠点を増やしていく予定で、2024年には40拠点400棟の設置を目指している。
SANUが目指すのは、人と自然が共生する社会の実現だ。
オリジナルのキャビンは国産木材を100%使用。製造過程でCO2を排出するコンクリート・鉄の材料使用量も80%削減しており、原木調達から製材、加工、施工のプロセスを可視化している。環境に配慮したさまざまな取り組みが支持され、サービス開始後すぐに会員数が定員に到達。現在、インスタグラムのフォロワーは2万3000人で、会員登録の順番を待っている希望者も4000人を超えている。
これほど多くの人々に共感されるサービスが生まれた背景とは──。
SANUの哲学と今後のビジョンを探るため、株式会社SANU CEOの福島 弦氏に話を聞いた。
都市と自然を往復する生活がスタンダードになる
福島氏は北海道出身。自然に囲まれて育ったものの、20代は外資系コンサルティングファームでガムシャラに働く。やがて日々の疲れを癒やす場所が欲しくなり、それが会社を立ち上げるきっかけになったという。
「30代半ばからプライベートで大自然の宿泊施設を利用するようになったのですが、なかなか理想的なサービスに巡り合えなかったんですよ。信頼できるグランピング施設は宿泊料がすごく高額ですし、バケーションレンタルサービスを通して割安で別荘を借りたら部屋の中に大量のゲジゲジがいたりする。かといって、軽井沢のような場所に自分の別荘を購入するのも現実的ではなかった……。いつでも行ける基地みたいな場所が欲しいなと。そんな願いを出発点としてSANUを立ち上げました」
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福島氏(左)は北海道札幌市出身で、雪山で育ち、スキーとラグビーをこよなく愛する。一緒に写るのは同社ファウンダー兼ブランドディレクターの本間貴裕氏
目指したのは、1年に一度の家族旅行に行く感覚ではなく、利用者にヘビロテしてもらうこと。だからこそ、利用する度に料金が発生する貸別荘ではなく、定額制のサブスク型サービスを選んだ。
「2回、3回とキャビンに通っていると、より地元の自然を愛せるようになるし、地元の方々とのつながりも生まれてきます。そういう豊かな体験を提供するためには利用制限がないサブスクが向いていると思いました。SANU 2nd Homeは複数の拠点があるため、各地を巡って四季折々の楽しみ方をしていただきやすいこともメリットです」
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「SANU 2nd Home八ヶ岳1st」からの景色。キャビンに使用される木材は、すべて岩手県釜石地方の森林組合から調達した樹齢50~80年程度の間伐材
設立当初からの企業理念は『Live with nature.=自然と共に生きる』。
人が自然に足を運ぶサポートをすることで、自然を好きになる人が増えれば、明日の自然を守ろうとする人が増えるはずだと信じている。その理念を体現するためにも、プロジェクトの構想段階からキャビンには国産材を使うことを決めていたという。
「自然を守ることを目指すなら、まず私たち自身が環境負荷のかからない建築をするべきですし、原材料の選定にはこだわりました。建築全体のライフサイクルの中で、CO2排出量の50%を占めるのは原材料を調達する段階なんですよね。ゆえにコンテナで運ばれてくる輸入材ではなく国産材を使用することにしました。日本には切るべき木がたくさん残っていますしね」
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「SANU CABIN」の内観イメージ。全棟で実質再生可能エネルギーを利用する。大きな窓による採光とHEAT20 G2レベルの断熱性能により、冷暖房のための電力使用を減らすことができる
キャビンの拠点は3つの条件を重視して選んだ。
「首都圏からのアクセスの良さ」「自然が豊かであること」「周辺エリアの魅力」だ。
「私たちが対象にしているお客さまは都市に住む方々なので、繰り返し利用してもらうためには都市部から2~3時間で行けるエリアを選んでいます。断崖絶壁や誰も人がいないような極地ではなく、穏やかな自然の心地良さを感じられる場所であることも重要です。また、SANU 2nd Homeにはルームサービスがなく、自分たちで食料などを調達しながら生活していただくサービスです。ですので、周辺に新鮮な野菜を売っている産地直売所やおいしいカフェやパン屋さんがあるかどうかという観点も大切にしています。実際に、白樺湖や八ヶ岳には、東京から移住して地場の野菜を使ってレストランを経営されている方や、世界的にも有名なナチュラルワインを作っている方もいて、新たな生活者に対して懐の深いエリアなんですよ。そんな背景もあってこの2拠点からスタートしました」
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「SANU 2nd Home」の一つ、白樺湖の風景。キャビンのウッドデッキでコーヒーを飲みながら豊かな時間を過ごすことも
サステナビリティを重んじた環境配慮型の仕組みを作ることと、ビジネスとしての経済性を両立するのは容易ではない。
SANU 2nd Homeには、そのバランスを取ることを目指して隅々にまでこだわりが注がれている。
「自然に対する一切のダメージを与えない完璧にオフグリッドな建築物を目指すと、現状では巨額の費用がかかり、たくさんの人々に自然と接する機会を提供することが難しくなってしまいます。われわれのキャビンは地中に杭を打ち込む基礎杭工法を採用することで、杭の上に建築物が立つ日本古来の高床式建築を実現しています。コンクリートを大量に使用する一般的な基礎工法に比べて、風や水の流れを止めることがないので、周囲の生態系や土壌への負荷が小さいのが特徴です。また、くぎやビスの使用を最小化することで、ほぼ全ての部品を分解できるようにデザインしています。建物を解体して、別の場所に再建築できるサーキュラー建築を実現しています」
SANUの利用料は決して“格安”ではないが、それでも希望者が殺到しているのは消費者のマインドが変わってきているということ。
「プラス50円払っても無農薬の野菜を買う感覚と一緒だと思いますが、衣食住の“住”にもこだわり、国産のトレーサブルな材料を使い環境に配慮した建築を行っていることに共感してくださる方が増えている印象です。SANU 2nd Homeを使って多拠点生活を始めたことで『人生が変わった』と言ってくださる人も多いですし、それはわれわれが提供するライフスタイルに経済合理性を感じていただいている証拠なのかなと」
新型コロナウイルス感染拡大が大きな転換点となり、大企業が東京のオフィスを売却するなど、働く場所の自由化がどんどん進んでいる。
個人にとって地方移住はハードルが高いものの、SANU 2nd Homeを利用すれば都市と自然を行き来する(どちらも捨てない)という新たなライフスタイルを実現することができる。
「これからも都市の機能は重要な役割を果たし続けると思っています。人が集まることでイノベーションが生まれ、ワクワクするエンターテインメントや最先端の商品があり、消費や生活のベースとして非常に魅力的な場所ですからね。ですからわれわれの役割は『都市の拡張機能』を作ることだと捉えています。都市と自然、どちらか一つを選ぶのではなく、両方を往復しやすい環境を整えることが、今後のまちづくりにおいて重要なポイントになるはずだと。それこそ2050年には、自動運転の車で都市と自然を行き来することがスタンダードになっていると思います」
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サービス最大規模の山中湖1st。約1万3000m2の敷地に14棟のキャビンを用意。都心から車でわずか90分という短時間でアクセスできる
「そもそも私は地方活性化という言葉に違和感がありまして、地方には都市にないイケてる自然がたくさんあるんですよね。都市生活に疲れたわれわれが、その土地にしかない自然という価値を体験させていただくという立場だと思っているんです。『活性化させてあげる』なんて考えるのはおこがましい(笑)。それぞれの魅力がある場所をうまく結合して、両方の魅力を享受できる。それを実現できる仕組みを作ることが新しい生活様式の提案になると思っています」
都市部と地方の境目がなくなり、人のエネルギーが循環することで双方が持続的に繁栄していく。
“サブスク型の別荘”がけん引する未来の暮らしに今後ますます注目が集まるだろう。
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text:浅原 聡