2017.3.3
地下40mの「超巨大水路」で水都・東京の復活を!
目指すは東京の水不足解消&観光開発。大林組「スマート・ウォーター・シティ東京」構想
東京が、実は“世界有数の水不足都市だ”と聞いてにわかに信じられるだろうか? 「未来の都市構想」を紹介する本連載の第2回は、そんな東京の水問題を解消すると同時に、景観や交通網を大胆に構想する大林組の「スマート・ウォーター・シティ東京」を取り上げる。同社テクノ事業創成本部PPP事業部 葛西秀樹部長に話を聞いた。
東京の地下に巨大な水のトンネルを築く!
かつて東京は、“東洋のベネチア”と呼ばれる「水都」であった。
東京の街は、前回(1964年)の東京五輪で大きく変わった。江戸期に徳川幕府が百万都市を築き上げる基盤となった舟運のための運河は、高速道路や地下鉄へと置き換わった。
そして、世の中が2020年の東京五輪開催決定に盛り上がる中、広報誌『季刊大林』56号(2015年11月30日発行)の企画を検討していた葛西さんは、ある構想を描く。
「“水都復活”をテーマに『スマート・ウォーター・シティ東京』構想を思いついたんです。先の東京五輪で失った東京の魅力を、次の東京大会で復活させてはどうか、と」
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今回の「スマート・ウォーター・シティ東京」構想を手掛けた葛西秀樹さん。掲載された広報誌『季刊大林』56号を手に
『スマート・ウォーター・シティ東京』構想の核は3つある。
まず注目したいのが、ページトップに掲載した画像「ウォーターズ・リング」。都心の地下40m以上の大深度地下に、全長14kmにわたる地下トンネルを建設する構想だ。
「皇居のお濠の下あたりに、内径14.5mのトンネルを2本造って、雨水を大量にためる構想です。わが社の持つ現在のトンネル技術で建設可能です」
トンネルの主目的は、防火用水としての雨水の活用や、局地的なゲリラ豪雨の受け入れなど「都市の防災装置」。だが面白いのは交通システムとしての活用だ。
「トンネル内を水陸両用車の“アンフィ・モービル”が走る提案をしています。地上の運河とエレベーターで接続され、交通網として活用します。アンフィ・モービルは自動運転でコントロールされるので、渋滞や事故に巻き込まれることもなくなります」
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ウォーターズ・リングと、雨水の注入・放水および、地上の運河からの出入り口ともなる「SWN(スマート・ウォーター・ネットワーク)ゲート」の位置を示した図。リングは二重、ゲートは都心5カ所を想定
手に入れた水資源は観光資源に
この構想のもう一つ大きなポイントは「水不足の解消」だ。
世界規模での「水不足問題」を考えると、東京も例外ではないと葛西さんは言う。
「狭い範囲にたくさんの人が暮らしている東京は、実は世界有数の水不足都市なんです。多摩川や利根川など『周辺の広い地域』から水を集めることで成り立っているんですが、実際2016年にも水不足は起こりました」
温暖化によって気候の変動が大きくなっているため、今後は局所的な「ゲリラ豪雨」への対策も必須だ。
「現在の下水道網では、ゲリラ豪雨などに耐えられなくなってきた。既に地下に巨大な貯水施設は造られているので、ウォーターズ・リングでは、この水資源を有効活用できないか、という着想もありました」
こうしてためた雨水を地上の建物へと融通する「スマート・ウォーター・ネットワーク(SWN)」という構想が2つ目の核だ。
SWNにより雨水が有効活用できるようになれば、内陸でウォーター・レジャーが可能になるという。
「(水資源に余裕ができることから)現在、他県から取水している水の一部は、玉川上水を通じて外濠・内濠に流すことができるようになります。そこで、お濠をつなげ直して水が流れるようにすれば、水がよどまないのでお濠の水景が美しくよみがえります。水がきれいなら、都心でもウォーター・レジャーを楽しむことが可能です」
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ウォーターズ・リングによって、美しい水景が復活した市ヶ谷周辺の景観を表したCG。両岸や橋の上に江戸風情を演出した店が立ち並ぶのは、スカイツリーを手掛けた同社らしい発想だ
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神田川から望む秋葉原の夜景。海抜が低いエリアは、潮汐により水位が上下するため、小型ボートにさまざまな機能を搭載した「ユニットボート」でにぎわいを生み出す。このユニットボートは、災害時の防災機能も備える
豪華客船の玄関「メガフロート」を東京湾に
最後の核が「水都にふさわしい玄関口」を造ることだ。
日本各地に多くの大型客船が寄港していることはご存じだろうか? しかし実は、日本の首都・東京へは大型客船が入ってこられないという。
「理由はレインボーブリッジ。橋が低いので超大型客船が通るのは難しいのです。建設当時、乗客約2000人のクイーンエリザベスII号の来航を想定し、海面から橋桁までの高さ52mで設計されましたが、現在の客船はさらに大型化が進んでいますから」
そこで提案するのが「東京ウェルカム・ゲート」。
東京湾内にメガフロートを造り、水上交通網の起点とする構想だ。
「玄関口であり、東京に一番近いリゾートにしたい、と考えました。羽田空港沖の水深10~15mほどの海域に、外径1kmのリング状の“水上の街”を建設します。この辺りは水質もいいので、マリーナや砂浜、サンゴ礁を人工で造って、マリンレジャーが楽しめるよう整備します。ここから、アンフィ・モービルや小型船に乗り換えて、都心部へ入っていけます」
実際、東京都は2020年までに、青海地区に世界最大のクルーズ客船に対応する新客船ふ頭を整備することを2015年12月に発表している。その際にこの東京ウェルカム・ゲートについて、東京都からヒアリングがあったという。
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『季刊大林』56号の扉も飾った、「東京ウェルカム・ゲート」の完成予想CG。建物屋上の太陽光発電パネルと潮力発電施設を備え、このリゾートで必要とする電力は自給自足する
スマート・ウォーター・シティ東京のエネルギー貢献
EMIRA編集部としては、雨水をためることで可能となる「ヒートアイランド対策」にも注目したい。
この構想には、都心の気温上昇を抑えるための対策が盛り込まれているのだ。
「ためた雨水を細かく流れの速い“毛細水路網”として散水することで、ヒートアイランド現象を抑制します。また、ウォーターズ・リングに貯水する際に地下50mまで落とすので、その際に発電して、くみ上げる際の電力として使うこともプランに含めています」
このように、世界有数の都市・東京において、水をどのように活用するかを考えた「スマート・ウォーター・シティ東京」構想。
残念ながら具体的な事業として計画されたものではないのだが、発表時に大きな反響を呼び、そのアイデアは東京の観光ビジネスや都市計画に、まさに水のように浸透していっている。「水都・東京の復活」も、そう遠くない未来に実現するのかもしれない。
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細く、流れの速い「毛細水路」を導入した場合の気温シミュレーション画像。ヒートアイランド現象を抑制し、都心の気温上昇を抑えることが、結果的に省エネにつながる
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text:三木 匡(questroom inc.) photo:大林組