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メラ、ヒャド、デイン・・・ドラクエの攻撃呪文で一番カロリーが高いのは?

「ドラクエ」の攻撃呪文を考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「攻撃呪文」。発売から30年を超え、ことしは3DCGアニメ映画化もされたゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズ。第1作から受け継がれている多彩な「呪文」が魅力だが、メラやギラなどの有名な攻撃呪文がどのような現象で、どれくらい強いものなのか、考えてみました。

ドラクエの攻撃呪文はすごいエネルギー現象

ゲーム・ドラゴンクエストシリーズの第1作「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)が発売されたのは1986年5月27日。ゲームのハードは昔懐かしファミコンで、キャッチコピーは「今、新しい伝説が生まれようとしている」だった。本格的なロールプレイングゲーム(RPG)として大ヒットし、日本のRPGの基礎となった作品だ。

あれから33年。ハードが変わっても、世代が変わっても、多くの人々に愛され続け、昭和、平成、令和と3つの時代を駆け抜けてきた。間違いなくあの時、新しい伝説が生まれた。

この歴史を支えてきたファクターはいくつもあるが、その一つは呪文の多彩さにある。「ホイミ」「ベホイミ」などの回復呪文、「ルーラ」「リレミト」などの移動呪文、「メラ」「ギラ」などの攻撃呪文!さらに、攻撃呪文だけでも、最新の体系では次のようなさまざまな種類がある。

メラ、メラミ、メラゾーマ、メラガイアーの「メラ系」は、燃え盛る火球を放つ!
ギラ、ベギラマ、ベギラゴン、ギラグレイドの「ギラ系」は、炎や閃光を放つ!
イオ、イオラ、イオナズン、イオグランデの「イオ系」は、爆発を起こす!
ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド、マヒャデドスの「ヒャド系」は、氷で攻撃する!
デイン、ライデイン、ギガデイン、ジゴデイン、ミナデインの「デイン系」は、雷を落とす!

どれもすさまじいエネルギー現象であり、これらを呪文一つで具現化させるのだから、これまたすごい。というところで今回はドラクエの世界を鮮やかに彩ってきた攻撃呪文について考えよう。

燃焼と爆発…科学的に見た「イオ」の発生条件

火球を放つメラ系、炎や閃光を放つギラ系、爆発を起こすイオ系。これらはいずれも「燃焼」を利用した攻撃と考えられる。

燃焼とは、物質が酸素と結びついて熱や光を放つ化学反応のこと。「通常の燃焼」「爆燃(ばくねん)」「爆轟(ばくごう)」に分けられる。

「通常の燃焼」は、空気中の酸素と反応し、比較的緩やかに進む。ガスコンロなどはもちろん、車のエンジンやジェットエンジンでも、これが起きている。

「爆燃」と「爆轟」は、物質に酸素が含まれていたり、酸化剤(酸素を含む物質)が混合されていたりする場合に起こり、瞬時に反応する現象。燃焼速度が音速より遅いのが爆燃で、音速より速いのが爆轟だ。物質の種類や配合比によって、“どちらを起こすか”を選ぶことができる。爆燃する固形物が「火薬」で、爆轟する物質(ニトログリセリンなど液体もある)が「爆薬」だ。

爆燃と爆轟は、目的に応じて使い分けられる。弾丸の発射やロケットの打ち上げなど、物体を高速で運動させたい場合は、爆燃させる。岩盤の発破やビルの解体など、物体を破壊したい場合は、爆轟させる。「爆発」とは厳密には爆轟のことだが、爆燃を含むこともある。

ここから考えると、爆発するイオ系は、「爆轟」を起こしているのだろう。それがモンスターの体表で起きるということは、イオ系の呪文を唱えると、空気やモンスターの体を作る物質から、ニトログリセリン(炭素、窒素、水素、酸素の化合物。いずれも空気や生体に含まれる)などの爆薬が合成されているのかもしれない。恐ろしい呪文である。

最弱攻撃呪文「メラ」が秘めた真の威力

メラ系や、ギラ系の炎は、長く燃え続けるので、通常の燃焼だろう。では、“燃焼の呪文”の威力はどれほどか。ここではメラ系で考えよう。

メラ系の炎の一大特徴は、火球が放物線を描いて飛んでいくことだ。一見、これは不思議である。

炎とは燃焼中のガスであり、温度が高いために膨張して密度は小さくなっている。例えば、メタンが燃えているガスコンロの炎は1700℃に達するが、密度は気温20℃の空気の7.3分の1でしかない。他の炎も同様で、だから炎というものは、上昇しようとするのだ。

なのに、放物線運動をするメラ系の火球。これは、呪文の力で、密度が空気よりずっと大きくなっていると考えられる。

もし、メラ系の炎が、水と同じ密度になっていて、メタンが燃えているとしたら、初級呪文「メラ」の直径10cmほどの火球でも、放たれる熱は1450kcal。これは、20℃の水18.2Lを沸騰させるほどの熱だから、モンスターもたまったものではないだろう。

上級呪文「メラゾーマ」の直径2mもの火球となれば、1160万kcal。145tの水を沸騰させる!30年以上にわたって唱えられてきたメラ系の呪文は、これほどの威力を秘めていたのだ。

ちなみに、ときどき見られるギラ系が放つ「閃光」は何だろうか?

現実世界にも、マグネシウムに酸化剤を混ぜて爆燃を起こす閃光音響弾という兵器がある。マグネシウムは燃焼すると強い光を放つので、かつてはカメラのフラッシュにも使われた。

後者は通常の燃焼なので、フラッシュにちょうどいい光と「バシュッ」という音を出すが、閃光音響弾は爆燃させることによって、視力を奪うほどの閃光と失神するレベルの音を出す。ギラ系の閃光も、爆燃させているとすれば、光と音の威力もすごいのかもしれない。

氷を生み出す「ヒャド」が奪う膨大なエネルギー

メラ系、ギラ系とは正反対に、氷を出現させるのがヒャド系の呪文だ。

モンスターの眼前に氷が出現することもあれば、空中から鋭利で巨大な氷が降ってきたり、地面から突き出したりすることもある。氷は何もない虚空から現れるから、おそらく空気中の水蒸気を冷却し、凍らせているのだろう。

これは、水蒸気から熱を奪うということだ。奪うと言っても、自分の体に吸収したら、自分が熱くなってしまうから、奪った熱を別の場所に移動させていると考えられる。冷蔵庫が冷えるのも、庫内の熱を庫外に移動させるからで、これと同じ原理と見られる。

冷蔵庫を使うのに電気が必要なように、熱を移動させるのにもエネルギーが必要だ。そのエネルギーは、移動させる熱量と温度差によって決まり、次の関係がある。

【熱を移動させるエネルギー=移動させる熱量×温度差÷(低い方の温度+273)】
※+273は摂氏温度を絶対温度に直すための計算

20℃の水蒸気をマイナス10℃の氷にする場合を考えると、【温度差÷(低い方の温度+273)】の部分は、

【{20-(-10)}÷(-10+273)=0.114】

つまり、奪って移動させる熱の11.4%が必要になる。

詳細は省くが、20℃の水蒸気をマイナス10℃の氷にするには、1kg当たり645kcalの熱を奪う必要がある。また、水蒸気だけをピンなポイントで冷やすことはできないから、周りの空気ごと冷却する必要もある。

気温20℃、湿度50%のとき、1kgの水蒸気を含む空気は116m3。これだけの空気を20℃からマイナス10℃に冷やすには1009kcalの熱を奪う必要がある。つまり、気温20℃の空気中にある水蒸気から、マイナス10℃の氷1kgを作るには、

【645kcal+1009kcal=1654kcal】

の熱を奪わねばならない。これには、【1654kcal×0.114=189kcal】のエネルギーが必要だ。

何だ、メラでさえ1450kcalだから、大したことないじゃん――などと油断してはいけない。189kcalというのは1kgの氷を作るのに必要なエネルギーであり、初級呪文のヒャドでさえ、作る氷は1kgどころではないからだ。

ゲームのある戦闘シーンを見ると、ヒャドは横幅50cm、高さ1.5mほどの氷柱を出現させている。これが正六角柱だとすると、重量は推定200kg。ヒャドで与えるべきエネルギーは3万7800kcal。

つまり、200kgの氷を作るヒャドは、メラの火球が放つ熱の26倍ものエネルギーが必要ということだ。そのまま相手にぶつけても、相当な威力になるだろう。

そして忘れてならないのは、奪った熱の行方である。200kgの氷を作るために奪うべき熱は33万800kcal。ヒャドでは、これを3万7800kcalのエネルギーを使って移動させているということだ。奪った熱を別のモンスターにぶつければ、氷結攻撃と灼熱攻撃が同時にできる(はず)!これまた、恐るべき呪文である。

実は「デイン」が最弱?雷系呪文の威力

では、雷を落とすデイン系の呪文はどうか。これには、モンスターの頭上から落とす場合と、自らの体から放つ場合がある。ここでは、自然界の雷に近い頭上からの落雷を検証しよう。

自然界の雷は、雷雲の底にマイナスの電気がたまって、地上との間に電圧が発生し、限界を超えると、放電が起きる。デイン系の場合も、呪文の力で、モンスターの頭上に雷雲を発生させると仮定する。

空気が乾燥しているとき、放電が起きる限界電圧は、高さ1m当たり50万V(ボルト)。デイン系の雷が上空10mにできるとしたら、必要な電圧は500万Vだ。

雷雲の直径が20mとすると、この電圧が発生するのは、0.0014C(クーロン;電気量の単位)の電気がたまったとき。そして、この状態を作り出すのに必要なエネルギーは次の式で求められる。

【電気をためるエネルギー=1/2×電気量×電圧】

ただし、この計算で出てくるのはJ(ジュール;エネルギーや熱量を示す)を単位とした値なので、これまでのようにkcalで求めるには、4184[J/kcal]で割らなければならない。

【1/2×0.0014[C]×5,000,000[V]÷4184[J/kcal]=0.837[kcal]】

なんと1kcal未満!エネルギー保存の法則(変化の前後でエネルギーの総量は変化しない)から考えれば、モンスターに与えるエネルギーも1kcal未満!!

ただし、電気は神経に影響を与え、同じエネルギーでも流れる時間が短いほど大きくなるという特徴がある。落雷で電気が流れる時間は極めて短いから、ダメージは相当なものになるだろう。なにしろ落雷を受けるのだから。

33年間にわたってドラクエプレイヤーたちが唱えてきた攻撃呪文。そのエネルギーは、驚くほど大きかったり、ビックリするほど小さかったり。しかし、攻撃の種類によっては、ダメージがエネルギーだけでは測れないものもある。そうした科学的真実を超越して、説得力あるシーンが描かれ続けてきた。人間の想像力は本当に素晴らしい!

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