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速さは光の2万倍以上!超光速宇宙船「アストラ号」が使うエネルギー

『彼方のアストラ』の宇宙航行を考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「宇宙航行」。広大な宇宙を駆け巡った船や戦艦、ロボットがたくさんある中で、近年話題になった作品『彼方のアストラ』に登場する宇宙船の超光速航行を実現するエネルギーについて考えてみました。

宇宙を旅する物語は胸を熱くする!

宇宙を舞台にした物語は、まさに綺羅星のごとく作られてきた。一口に「宇宙」と言っても、規模はさまざまで、太陽系を超えて物語が展開する作品も多い。

14万8000光年彼方のイスカンダル星を目指した『宇宙戦艦ヤマト』(1974年※以下、全てアニメ)。太平洋戦争で沈んだ戦艦大和が、宇宙戦艦ヤマトとして蘇り、干上がった海底から旅立った!

アンドロメダ星雲の第6文明人が遺した巨大人型マシン「イデオン」で、異星人バッフ・クランと戦った『伝説巨神イデオン』(1980年)。イデオンのエネルギー源は、イデの無限力、あるいは無限エネルギー!

バスターマシン1号・2号が合体して出現する超光速万能大型合体変形マシン兵器「ガンバスター」で、宇宙生物群「宇宙怪獣」と戦う『トップをねらえ!』(1988年)。主人公のタカヤ・ノリコは、アマノ・カズミとともに、銀河系の中心まで行った!

まだまだあるが、中でも近年で異色なのは『彼方のアストラ』(2019年。マンガは16~17年)だろう。この作品には、宇宙人も侵略者も出てこない。5000光年の彼方に飛ばされた高校生たちが、自力で帰還する物語だ。

知らない読者もいるだろうから、まずはこの物語の設定を紹介しよう。

西暦2063年、超光速飛行の技術が完成し、太陽系外への宇宙旅行も身近になっていた。ケアード高校でも、「惑星キャンプ」が行われる。B5班が向かったのは、惑星マクパ。9光年の距離にあり、超光速航行で4時間である。

ところが到着直後、輝く球体が現れ、それに吸い込まれた9人は、宇宙空間に飛ばされた!

幸い、宇宙服を着ていて、電力の生きている無人宇宙船もあったから助かった。乗り込んだ9人は、自分たちが置かれた状況を知る。なんと9光年どころか、5012光年も離れた空間にいた!

この距離となると、帰還には超光速航行でも3カ月はかかる。水や食料は3日分。絶望である!

だが、5つの惑星を巡り、水と食料を補給しながら帰還できる道が1本だけ見つかった。9人は、その宇宙船を「アストラ号」と名付け、それぞれの得意分野を生かしながら、生死の境目を乗り越えていく…。

この胸が熱くなる青春冒険譚を支えるのが「超光速航行」である。これにはどれほどのエネルギーが必要なのだろうか。

なぜ人は光速を超えられないのか?

太陽系は広い。太陽から最も遠い惑星である海王星まで45億km。太陽の重力の及ぶ範囲を「太陽系」とするなら、その半径は15兆km、つまり1.6光年。光の速度で進んでも1年7カ月かかることになる。

だから、太陽系を超えるスケールの物語では、光速を超える技術や能力がどうしても必要になる。それを可能にするのが『ヤマト』では波動エンジン、『トップをねらえ!』では縮退炉、『伝説巨神イデオン』ではイデの無限力だったわけだ。

たが、現実には、光速を超えることは不可能とされる。

アインシュタインの特殊相対性理論では、ある速度で運動する物体が持つエネルギーは、次の式で表される。

「光速比」とは、速度が光速の何%であるかを少数で表したものだ。この式から、次のことが分かる。

光速比が1に近づく(速度が光速に近づく)
→分数の分母が0に近づく
→分母全体が無限大に近づく

つまり光速に達するだけでも無限大のエネルギーが必要になる。宇宙に存在するエネルギーは有限だから、それを全てつぎ込んでも、まだ足りない。こうして、光速を超えることは不可能となる。

速くなればなるほどエネルギーは小さい!

だが『彼方のアストラ』では、光速を超えまくりである。

9光年、すなわち光の速さで9年かかる惑星マクパまで民間船で4時間。これは光速の1万9728倍!

アストラ号でも、最初に訪れた惑星ヴィラヴァースまで距離164光年、所要時間は3日。光速の1万9967倍!

そして前述したように、5012光年の帰還には3カ月。光速の2万340倍!

なんだか、遠くに行くときほど微妙に速くなっていないだろうか。

もちろん、後のものほど時間の目盛りが大きいから、誤差の範囲内かもしれないが、もし、「遠くへ行くほど速い」という法則が成り立つとすると、それはモノスゴク納得できる。

光速を超える仮想的な物体を「タキオン」と言い、もし現実に存在するとしたら、2つの驚くべき性質を持つと考えられている。

(1)タキオンは必ず光速より速く、光速以下になれない!

(2)光速に近づくとエネルギーは無限大に近づき、速いほどエネルギーは小さくなる!

アストラ号の場合、注目は(2)だ。

目的地が遠いほど、エネルギーは節約したいだろう。そのためには速度を上げればいい! 超光速とは、常識が全く通用しない世界なのだ。

だとすると、帰還のための5012光年も、速度をもっと上げれば、エネルギーも節約できるうえに時間も短縮されて、いいことずくめになる。

例えば、5012光年を3日で行ける速度とは、光速の61万倍。必要なエネルギーは3カ月かけて行くときの30分の1。わ~っ、これにしようよ~!

アストラ号の超光速航行、その実態は?

だが、B5班の頭脳となるメンバー、ザック・ウォーカーは、その道を選ばなかった。ひょっとして、アストラ号は、光速を超えていない、つまりタキオンではないということか。

劇中の設定を見てみよう。コミックス1巻の「設定資料集『アストラ号』」というページに、こんな説明がある。

【Cleaving Drive~超光速航行について~】
宇宙加速膨張の基となるエネルギーを制御し、船体を取り巻く時空領域の宇宙定数を増大、目的地まで局所的なフィールドを発生させることで超光速を実現する。端的に言うと目的地まで宇宙を「裂いて」進む航法。航行中にダークエネルギーを取り込んで推進源にできる。船は特殊なフィールドに包まれており、光速を越えて移動しても中の船がその内部時空に対して静止している状態のため、時間の遅れ(ウラシマ効果)は発生しない。

出典)『彼方のアストラ』(集英社)第1巻,p92より引用

なんと、目的地まで局所的なフィールドを発生させることで超光速を実現。端的に言うと「宇宙を裂く」。なるほど、英和辞書を引くと“cleave”には「切り裂く」という意味がある。

ということは、通常の空間を超光速で運動するのではなく、局所的なフィールドを通ることで、通常の空間において光速を超えたのと同じ結果になる、ということだろうか。

だとすれば、タキオンの便利な性質は使えないから、やはりいくつかの惑星で補給しながら進むしかない。ああ、宇宙に楽な道というものはないのだなあ。

アストラ号の燃料「ダークエネルギー」とは?

上の説明には、エネルギー源に関する言及もある。

・「宇宙の加速膨張の基となるエネルギー」で局所的フィールドを発生させる。
・「ダークエネルギー」を取り込んで推進源にする。

これらはどんなエネルギーなのか。

1964年、宇宙は爆発によって生まれ、いまも膨張しつつあるというビッグバン理論の正しさが証明された。

ところが1990年代の終わりごろから、宇宙の膨張はむしろ加速しつつあることが明らかになった。爆発によって生まれたのなら、互いの重力で膨張の速度は遅くなるはずである。これは、空間から膨張を加速するためのエネルギーが生み出されているとしか考えられない。そのエネルギーは「ダークエネルギー」と名付けられた。

2003年、アメリカの観測衛星WMAPの観測結果から、ビッグバンのエネルギーは、4%が原子でできた物質となり、23%が正体不明(質量を持っていることしか分からない)の「ダークマター(暗黒物質)」になり、73%が空間に埋め込まれた「ダークエネルギー」になったことが明らかになった。

つまり、「宇宙の加速膨張の基になるエネルギー」と「ダークエネルギー」は同じもの。アストラ号は、それを局所フィールドの発生と、推進源の両方に利用していることになる。

空間に満ち満ちたエネルギーを使うのだから、補給の必要は全くない。宇宙船にとって理想のエネルギー源である。

だが、量は十分なのか。

筆者なりに計算すると、ビッグバンのエネルギーは1072J(ジュール)のオーダー(桁数)。現在、宇宙は半径465億光年に広がっていると考えられている。ここから計算すると、ダークエネルギーの密度は、1m3当たり10億分の2J。少ない!

全長49.68m、全幅31.57m、全高26.52mのアストラ号が、仮に光速の90%の速度で進みながら、その船体に触れたダークエネルギーを全て回収できたとしても、1秒間に500J。すなわち、500W。う~ん、電気ストーブの「弱」ならつけられるかも。

だが、500Wというのは「船体に触れたダークエネルギーを回収」という仮定から導かれた値。物語の舞台となった2063年には、はるか離れた場所のダークエネルギーを取り込む技術が完成しているかもしれない。

2063年とは44年後の未来。今から44年前と言えば、1975年である。その時代に現在のような生活を誰が予想できただろう。

はるか未来と広大な宇宙に思いをはせ、そこで生き抜く若者たちを思い描き、現在のわれわれの心を揺さぶってくれる。これこそ宇宙物語の醍醐味(だいごみ)だろう。人間の想像力は本当に素晴らしい!

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