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2017.5.23
眺望抜群、無重力の旅!名作SFアニメ“宇宙エレベーター”の乗り心地
『機動戦士ガンダム00』の軌道エレベーターを考察してみた
空想世界をエネルギー文脈から分析する好評連載、第9回のテーマは「ガンダム00の軌道エレベーター」。宇宙に伸びる超巨大エレベーターの作り方と、そこから生み出される発電量を考察する!
「宇宙へ参りま~す」
SFアニメなどにしばしば登場する「軌道エレベーター」。地上から宇宙に延びる塔の内部を、人間や物資を載せてエレベーターが昇降する。素晴らしいですなあ。
実はこれ、現実世界でも構想されている。
赤道上空3万6000kmを周回する静止衛星は1日に地球を1周するので、地上からは静止しているように見える。その衛星からケーブルを垂らすと地上の“決まった点”に届く。それに沿ってエレベーターを動かし、人や物資を運ぼうという狙いだ。
この構想の優れたところは、完成後の費用が安く済むこと。
例えば、補給機「こうのとり」で国際宇宙ステーションに6tの物資を運ぶ日本のH—IIBロケットの打ち上げ費用は1機150億円。これは1回の打ち上げでロケットを破棄するためと、莫大な燃料を必要とするためで、結果として輸送費用は「水1リットルあたり250万円」と、リーズナブルとは言えないお値段になってしまう。
これに対して軌道エレベーターは、ケーブルを滑車に通して反対側にも人や物資を載せれば、わずかなエネルギーで動かせる。さらに降下の際のブレーキで、電気自動車の回生ブレーキのように電気を作ることも可能だ。
そうなると費用は圧縮された電気代とメンテナンス代だけ。具体的な輸送費用を算出するのは難しいが、かなり安くなることは間違いないだろう。
この軌道エレベーターの新たな可能性を示したのが、2007年のアニメ『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』である。
舞台は西暦2307年。石油や石炭など化石燃料の枯渇に伴い、太陽光発電を行うために全長5万kmの軌道エレベーターが造られたのだ。3本のエレベーターをリングでつなぎ、そのリングに沿ってソーラーパネルを配置。発電した電力を地上に送る、というものだ。
実に画期的な発想である。
実現すればエネルギーの未来は大きく広がることは間違いないが、290年後には軌道エレベーターの建造も可能となるのだろうか?
着想は明治時代!
この軌道エレベーターを最初に着想したのは、ロケットの原理を初めて定式化し、「ロケットの父」と呼ばれるロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキー。
発表はなんと…1895年!まだロシアがソ連でさえなかった明治28年である。
軌道エレベーターは着想から122年もたつのだ。にもかかわらず、なかなか実現しないのはなぜだろう。
それはひとえに「ケーブルとして使える素材が存在しなかった」ことに尽きる。
この軌道エレベーターには地球からの重力により多大なる負荷がかかる。そのため、ケーブルにロケットなどにも用いられる最強の鋼鉄・マルエージング鋼を使ったとしても、静止衛星から5900km延ばしたところで自分の重さに耐えられず破断してしまう。
地上に到達するにはまだ3万kmも足りない計算。たとえケーブルを太くしても、その分重くなるため結果は同じことになってしまう。
だが1990年代に入って、このジレンマの突破口が見えてきた。軽くて超強力なカーボンナノチューブが開発されたのだ。その強度は、理論上で軌道エレベーターのケーブルとして使えるもので、NASAなどが本格的に研究に取り組み始めたのも、この素材の誕生がきっかけではないかと筆者は考えている。
ガンダム00の世界には、さらに優れた素材が登場する。ガンダムの装甲にも使われている「Eカーボン」で、なんとカーボンナノチューブの20倍の強度を持つという。
Eカーボンは、計算すると直径1cmでも2万4000tの荷重に耐えられるはずだ。この素材を軌道エレベーターのケーブルに使えば、地上に楽々と届くのはもちろん、計算上では16両編成のN700系新幹線を33編成(!)も同時に往復させられる“夢のエレベーター”の建造も可能となる。
どんな旅になる?
では、その乗り心地はどんなものなのだろう?
現実世界の軌道エレベーターは、昇降速度が時速200kmになると予想されている。ロケットのように空間を飛ぶのではなく機械で動かすとなると、このぐらいが限界らしい。
このスピードで地上3万6000kmを目指した場合、片道180時間=7日と半日!
なかなかの長旅だが、それは他では味わえない経験となるはずだ。というのも、上昇するほど実際の重力が弱くなり、さらに遠心力が働き始めるため、乗っている人が感じる重力が小さくなるからだ。
エレベーターに乗って1時間後には、感じる重力は地上の94%すなわち0.94Gに。
2時間後は0.88G。
5時間後は0.74G。
10時間後は0.57G。
体重計に乗っていればドンドン表示が小さくなるわけで、なんだかうれしくなるかもしれない。
さらに翌日は0.32G。
3日目は0.15G。
4日目は0.083G。
宇宙飛行士・毛利衛さんによれば「0.1Gを切ると無重力に感じる」とのことなので、ここからは到着する8日目までは「無重力の旅」になるだろう。
長旅には違いないが、星はきれいに見えるし、国境線のない地球もいやというほど眺められる。これはいろいろ楽しめそうだ。
エレベーターで発電は可能か
では、EMIRA的な核心部分「発電」についても考察しよう。
ガンダム00のように、軌道エレベーターにソーラーパネルを取り付ければ、世界の電力は賄えるのだろうか。
劇中の描写から、ソーラーパネルを並べたリングは、静止軌道に沿って張られていたとみられる。その場合、リング一周は約27万km。また、リングは2本が平行に張られて、それぞれにソーラーパネルが直径の7.5倍の間隔で並んでいる。
これは実によく考えられたシステムだ。
まず、宇宙で太陽光発電をする点。
地上に降り注ぐ太陽光線は、空気に吸収されたり、雲に反射されたりして、快晴の昼間でも6割ぐらいに減衰している。宇宙で発電すれば、太陽光のエネルギーを100%受けられるのだ。
次に静止軌道で発電する点。
国際宇宙ステーションが周回する地上400kmぐらいの高度では、地球の影になる部分すなわち「夜」ができるが、地上3万6000kmの静止軌道なら太陽の光をずっと受けていられる。また、静止軌道上では、重力と遠心力が釣り合っているから、リングは垂れ落ちることも外側に引っ張られることもなく、円形を保っていられる。実に理にかなっているのだ。
では、これで充分な電力を得られるのか。
宇宙に設置されているため、残念ながら比較対象がなく大きさが推測しづらいのだが、すぐ近くを飛び交うモビルスーツよりはるかに大きく描かれている。作中に登場する主人公の刹那・F・セイエイが乗るガンダムエクシアは全高18.3mなので、ソーラーパネルの直径は、その10倍を超える「直径200m」と考えよう。
現在、ソーラーパネルの発電効率は、市販品で最大25%。2025年までに30%、2050年までに40%が目指されている。この勢いだと、2307年には果てしなく100%に近づいているのではないだろうか。その期待がかなうなら、直径200mのパネル1枚で4万kWの発電が可能になる。
パネルの間隔は直径の7.5倍だから1500m。これが1周27万kmの静止軌道に2列に並ぶと、パネルの総数は36万個になる。
すると発電できる電力は・・・4万kW×36万=144億kW!
おお、これは日本の総発電力の144倍で期待できそうだが・・・、これで世界のエネルギーを賄えるのか?
計算してみよう。
現在、世界で1年間に消費されているエネルギーは、石油に換算して100億t分だという。これを1秒あたりの消費エネルギーに直すと、その単位は「kW」となって、電力と比較できる。
答えは140億kW。おおッ、ギリギリで足りる!
筆者の勝手な目測から計算をスタートしたのに、こうもピッタリの結果になるとは…偶然とはオソロシイ。
建造にかかる年数は?
こうした夢のような構想も、全長5万kmの軌道エレベーターが実際に完成すれば、の話。劇中の軌道エレベーターは「立派な塔」のような外観をしていた。いくら2307年でも、これを建造するのは大変ではないだろうか。
ガンダム00の第2話冒頭で、ナレーションがこう語っていた。
「半世紀近い計画の末、全長約5万kmにもおよぶ3本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成する」
なるほど。半世紀、50年。未来の技術をもってしても、やはりそんなにかかるということか…。いや、ちょっと待て。50年というのは、早過ぎないか!? 50年で5万kmなら、1年で1000km。1日2.7km、1時間に114mで…
1分で2m!
西暦2307年の工事現場は、猛烈に過酷だったに違いない…。
とはいえ、多くの人々が知恵を結集し、現状を大きく打破しなければ、エネルギーに未来がないのは事実。『機動戦士ガンダム00』の軌道エレベーターは、それを大きなスケールで見せてくれた。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。
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イラスト:古川幸卯子
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