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2023.1.30
マグナムトルネードは時速230km!? 進化するミニ四駆の速度/爆走兄弟レッツ&ゴー!!
『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』で描かれたエネルギーについて考えてみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「ミニ四駆」。誕生40周年を迎え、現在もなお人気が続くミニ四駆文化。第2次ブームのきっかけとなった『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』(アニメ1996〜1998年)を基に、ミニ四駆をエネルギーの観点から考察してみました。
第2次ミニ四駆ブームをけん引したレッツ&ゴー
ミニ四駆の発売は1982年。以来、スピードは上がり、専用のコースが作られ、子どもたちの改造を受け入れて、どんどん進化してきた。
中でも驚くのは、ガイドローラー。車体の四隅に空転するローラーが張り出していて、コースの壁との接触をスムーズにするのだが、元々は小学生が自分で工夫して取り付けたもの。それを、発売元のタミヤが商品に取り入れたという!
ファンの皆さまには常識中の常識で、「!」に違和感さえ覚えるだろうが、1961年生まれの筆者は、子どもたちの情熱がミニ四駆を育ててきたことに胸を打たれる。ああ、筆者もその輪に入りたかった。生まれるのが早過ぎた!
落ち着きを取り戻すと、1988年に第1次ミニ四駆ブーム、同年からジャパンカップ、1994年に第2次ブーム、2012年に第3次ブームが到来し、現在に至る。今や速度は時速40kmがスタンダードというから驚く。
その第2次ブームの起爆剤となったのが、『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』だ。烈(小学5年生)と豪(小学4年生)の星馬(せいば)兄弟が、ミニ四駆設計者の土屋博士から預かったマシン「ソニックセイバー」と「マグナムセイバー」で、数々のレースを戦っていく物語。ミニ四駆世代となれなかった無念に震えつつ、兄弟のマシンの走りに注目しよう。
ミニ四駆はコーナリングか、直線スピードか
ミニ四駆の改造において、烈はコーナリングを、豪は直線でのスピードを最優先する。土屋博士が2台のセイバーを兄弟に預けたのも、正反対の考えを持つ2人がどんな改造をするかを見たかったからだ。それを通じて、普通の子どもたちがセイバーのポテンシャルを引き出せるかどうかを見極めたいという。
烈はソニックのモーターを慎重に選び、豪はマグナムを徹底的に軽量化する……。設計者も子どもたちも熱い。
そして迎えたグレートジャパンカップ・ウィンターレース地区予選。スタート直後、烈と豪は自分たちのセイバーと並んで走る。
えっ、そんなことができるの?と驚くのは、筆者が非ミニ四駆世代だからで、90年代はよく見られた光景だったのかもしれない。
調べると、当時のミニ四駆は時速20kmぐらいが普通だったという。50mを9秒という速度だから、足の速い小学5年生(平均9.24秒)と小学4年生(同9.59秒)なら並走できるだろう。
だが、前述したように、現在は標準で時速40km。なぜ30年足らずで、2倍にも速くなったのか。路面との摩擦、空気抵抗、機械内部の摩擦を無視すると、ミニ四駆の最高速度は、次の式で求められる。
最高速度[m/秒]=モーターの回転数[回/秒]÷ギア比×タイヤの直径[m]×円周率
30年足らずで大きく変わったものと言えば、おそらくモーターの回転数だろう。調べると、タミヤの公式対応モデル「スプリントダッシュモーター」の回転数は、毎分2万700~2万7200回転。
キリよく間を取って毎分2万4000回転とすると、毎秒400回転。これなら、ギア比が3.5(高速用)、タイヤの直径が3cm=0.03mのとき、秒速10.8m=時速38.8kmが出る。
おそらく、磁石の性能が向上したが故の高速回転で、90年代にはこの半分ぐらいだったのではないだろうか。
レースは進み、直線では豪のマグナムが引き離し、ヘアピンカーブの連続では烈のソニックが華麗なコーナリングで追いつく。いいぞ、レッツ&ゴー!
セイバーは登坂力がスゴイ!
やがてコースは、風の谷「ウインドバレーセクション」に差し掛かる。巨大な扇風機が吹きつける風をものともせず、2台のセイバーは突き進んでいく。
ここで土屋博士が解説。「空力マシンのセイバーは風の中でこそ力を発揮するんだ」。観戦する少年たちも驚く。「すごい」「この風の中を走れるなんて」。その後ろでは、名もないミニ四駆たちが吹き飛ばされていく……えっ!?
ソニックセイバーは現実に発売されていて、全長150mm、全幅97mm。重量は不明だが、ミニ四駆は120gほどが標準らしい。
飛んでいったミニ四駆たちも同じスペックだとすれば、このとき吹いていた風は風速16m毎秒! 少年たちも気を付けた方がいいが、2人のセイバーがこの風速の向かい風の中を時速10km=秒速2.8mで進んでいたとすれば、風がなければ秒速16m+秒速2.8m=秒速18.8m=時速67.7kmで走れるハズ! 現在でもブッチギリの大優勝だ。
さらにコースは、心臓破りの「アップヒルコース」に。画面に分度器を当てると、傾斜はなんと40度! この激坂を2台のセイバーはぐんぐん登っていく。この登坂力があれば、ものすごい加速ができるはずだ。
加速の勢いを「加速度」と言い、「1秒間に秒速何mずつ速くなるか」で表す。単位は[m/秒2(メートル毎秒毎秒)]だ。
傾斜40度の坂を登れるなら、加速度は6.3[m/秒2]に達するはずである。自由落下の64%だが、これは他のミニ四駆と比べてどうなのか。加速度は、次の式で求められる。
加速度[m/秒2]=モーターのトルク[N・m]×ギア比÷タイヤの半径[m]÷車体質量[kg]
トルクとは「回転力」のことで、[N]は「ニュートン」と読む。ミニ四駆のモーターのトルクは[N・m]の1000分1の[mN・m]で表され、前出の「スプリントダッシュモーター」は1.3~1.8 [mN・m]。
中間値を取って、単位を直すと0.00155[N・m]。他の諸元が前述と同じなら、加速度は3.01[m/秒2]。セイバーの6.3[m/秒2]は、その2倍を超える加速力!
これは、同じ時速20kmに達するのに、通常の半分の時間しかかからず、同じ時間で2倍の距離を走るということだ。もう、敵はいないのではないか。
出た! マグナムトルネード!
実は、今回の執筆にあたって、担当編集者から要請を受けていた。「ぜひ、マグナムトルネードを調べてください!」。真っただ中のミニ四駆世代だという。
場面を探してアニメを見ていくと……これかァ!
舞台はグレートジャパンカップ・スプリングレース。烈のソニックセイバーをはじめ、多くのマシンがリタイアして、豪のマグナムセイバーと、鷹羽リョウのトライダガーXの一騎打ちに。
ゴールは下り坂になった連続ヘアピンカーブの向こうにある。豪の苦手とするセクションだ。トライダガーXも直線高速仕様だが、下り坂を得意とする。マグナムは見る見る引き離されていく。
それでも高速でカーブを攻めるマグナム。土屋博士が「いかん。あのスピードでは吹っ飛ぶぞ!」と言ったそのときだった。マグナムは右の壁から飛び出して、空中でくるくると前方に回転する。しかし、豪は慌てる様子もなく「かっ飛べ、マグナム!」と叫ぶ。
すると、マグナムは後方から見て時計回りにきりもみ回転しながら、一直線にゴールを目指す。人々が驚く中、豪は「これが必殺技・マグナムトルネードだ!」。土屋博士も「マシンを回転させて空中で安定させている」。そして着地して、トライダガーXを僅差で破ったのだった。そんなのアリー!?
もちろん、筆者にはルールのことはよく分からないが、科学的にも驚くべき現象だ。
土屋博士が指摘するように、空中できりもみ回転すれば、車体は常に前方を前にして飛んでいく。ライフルの弾丸と同じ原理だ。しかし、上下は常に入れ変わっているわけで、屋根から着地する危険もあった。タイヤで着地できたのは、豪の天運という他はない。
科学的に最大の謎は、前方回転からきりもみ回転に変わったことだが、これも豪の勝利への情熱がなせる業だろう。
さらに驚くのは、飛行時間の長さ。実に47秒も飛んでいる! ゴールは、マグナムから見て水平より20度ほど低い位置に見えていた。マグナムが水平に飛び出したとすれば、この運動が可能になるのは、ゴールが30kmかなたにあり、マグナムが時速2300km=マッハ1.9で飛び出したときのみ!
単三アルカリ乾電池2個で、ここまでの速度が出せるのか。
マグナムの車重を120gとすると、これを時速2300kmにまで加速するエネルギーとは、2万4100J(ジュール)である。単三アルカリ電池の容量を調べると、最も大きいもので1696mAh。これは、1.696Aの電流を1時間流せるということだ。電圧は1.5Vなので、乾電池1本に、1.696[A]×1.5[V]×3600[秒]=9160[J]のエネルギーが蓄えられていることになる。
すると、エネルギーの損失がなければ、単三アルカリ乾電池2.6本で、マッハ1.9も可能! 2本だと、ちょっと足りないけれど、電池の性能とミニ四駆の軽さがなせる奇跡である。
とはいえ、マッハ1.9とはさすがにあんまりだから、10倍のスローがかかっていて、実際には4.7秒の出来事だったとしよう。それでもゴールまでは300m。マグナムの速度は時速230km!
子どもたちが熱中する小さなマシンを、大人は「玩具」と呼ぶ。だが、そのマシンは想像の中で、猛スピードで爆走し、時には空さえも飛ぶ。それを積み重ねて、子どもたちは夢を膨らませ、いつか新しい時代を切り開くのだろう。それを応援することこそが、大人たちの役目ではないだろうか。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります
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イラスト:花小金井正幸
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