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加速度は20G! ガンダム・エアリアルの速さ/機動戦士ガンダム 水星の魔女

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「ガンダム」。初めて少女が主人公となるガンダムアニメ最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』から、主人公が搭乗するガンダム・エアリアルについて、エネルギーの観点から考察してみました。

ガンダム最新作の主人公は少女&学園もの!

『機動戦士ガンダム』第1作、通称「ファーストガンダム」が放送されたのは1979年。それ以後、たくさんのガンダム作品が作られ、視聴者を魅了してきた。この一大シリーズにあって、最新作『水星の魔女』はかなり異質である。

主人公は、少女! 舞台は学園!

そこは、巨大企業集団・ベネリットグループが運営するアスティカシア高等専門学園。宇宙開発産業、およびモビルスーツ産業に携わる人材を育成することを目的とし、パイロット科、メカニック科、経営戦略科がある。そのパイロット科に、水星で生まれ育った少女スレッタ・マーキュリーが編入してくる。

作品世界の根幹を成すのが、「パーメット」である。月面で発見された新元素パーメットニウムから作られる金属化合物で、互いに情報を共有する性質があり、これを素材や推進剤に混合し、制御することで、さまざまな宇宙技術が開発された。

その中で生まれたのが、身体機能拡張技術「GUND(ガンド)」。パーメットを人体にも流入させ、義手や義足を思いのままに動かす技術だが、やがてそれを軍事転用した「GUNDフォーマット」が開発され、これを搭載したモビルスーツは“GUND-ARM”「ガンダム」と呼ばれた。

操縦者と機体をリンクさせるガンダムは、それまでのモビルスーツをはるかに超える性能を見せたが、リンクが一定のレベルを超えると、機体から操縦者へ大量のパーメットが流れ込み、体にダメージを与える「データストーム」が起きる。それ故、ガンダムの製造・運用は禁止されていた。

※以上、アニメ、『The Report of機動戦士ガンダム 水星の魔女』(ニュータイプ編集部 /KADOKAWA)、および『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女1』(高島雄哉/KADOKAWA)より

ところが、辺境の水星で生まれたスレッタは、母親がCEOを務めるシン・セー開発公社が作った「ガンダム・エアリアル」(以下エアリアル)に、4歳のときから乗っていた! 禁断のガンダムであることを知らないままにアスティカシア高等専門学園にも連れてきた! そして、彼女にだけは、なぜかデータストームが起こらない!

こうして、スレッタの学園生活が始まる。

アスティカシア高等専門学園では、学生たちが名誉や金銭などを懸けて、モビルスーツによる「決闘」をすることが許可されていた。それどころか、ベネリットグループ傘下の企業が、モビルスーツの性能を宣伝する意図で、推奨していたようにも見える。

ビームサーベルやエネルギー弾が交錯する実戦さながらの激闘で、相手の頭部のブレードアンテナを折った方が勝ちである。

スレッタも「温室を壊したことを謝る」などを懸けて決闘に臨むのだが、ガンダムだけに、モノスゴク強い! 極秘裏に作ったガンダムで挑んでくる相手もいたが、それすらも撃破!

GUNDフォーマットを搭載したエアリアルは、どれほど強いのか。エネルギーの観点から考えてみよう。

スレッタの心強い仲間たち

第1話、スレッタは早くもホルダーのグエル・ジェタークと決闘することになる。ホルダーとは、決闘を重ねて学園ナンバーワンと認められたパイロットのこと。特別な制服とパイロットスーツを着られる以外に、恐るべき特典があった。

ベネリットグループ総裁デリング・レンブランの娘ミオリネが17歳になったときに、ホルダーだった者は彼女と結婚できる! すなわちベネリットグループの後継者になれる! しかも、ミオリネは結構美人! そりゃみんな頑張るだろうが、ミオリネの人権はどこに……もちろんこれが、物語の重要な要素になる。

つまり現在、グエルはミオリネの暫定婚約者。ところが粗野な男で、言うことを聞かないミオリネに腹を立て、彼女が亡き母から受け継いだトマトなどを育てている温室を、破壊して言う。「おまえはおとなしく俺のものになればいいんだよ」。

これに腹を立てたスレッタが、グエルの尻を「ぱぁん!!」とたたいたのである。「お母さんから教わらなかったんですか。そんなことしちゃ、ダメです」。でもこれはとっさに出た行動で、怒ったグエルが詰め寄ると、他の生徒の背中にコソコソ隠れてしまう。

こうして始まった決闘で、スレッタは意外な一面を見せた。それまではオドオドしていたのに、エアリアルに乗ると、「わたしとエアリアルは、あんなのに負けません!」。その言葉の通り、エアリアルは驚くべき動きを見せた。

装甲の一部が本体から離脱、いくつものパーツとなってエアリアルの周囲を旋回! それらのパーツは、グエルの専用機ディランザがビームを放つや、ただちに合体し、盾となってエアリアルを守る! 再びパーツに分かれると、それぞれが高速で飛んでいき、ビームを発射! ディランザは動きを封じられ、なすすべもなく破壊され、ビームサーベルでブレードアンテナを切断されて、勝負はアッサリ決したのだった。

これこそ、エアリアルが装備している次世代群体遠隔操作兵器システム「ガンビット」であった。個々のパーツは「ビットステイヴ」あるいは略して「ビット」と呼ばれ、11基で構成される。前述したように、離合集散して、防御にも攻撃にも絶大な威力を発揮する。

スレッタは、エアリアルを幼いときから一緒にいた家族であり、友達だと言う。そして、ビットたちを「みんな」と呼ぶ。ガンビットこそが、エアリアルの強さを支えていると言っていいだろう。

だが、11基のビットを思いのままに動かすには、かなりの技術が必要だろう。

現実世界にも、多数のマシンを同時に遠隔操作する技術はある。数年前から中国が披露している数千基のドローンを使った空中ショーなど見事なものだ。

しかし、ガンビットはスピードが違う。四方八方からのビームも、瞬時の離合集散を繰り返して、パーフェクトに防ぐのだ。

これを可能にしているのは、間違いなく、パーメット間の情報共有だろう。連想するのは「量子コンピューター」を支える原理の一つ「量子もつれ」だ。

電子などの微小な粒子は、2個1組のペアを成し、例える(漢字にするなら「譬える」では?)なら両方にプラスとマイナスの性質が混在している状態になることがある。これが「量子もつれ」で、両者がどんなに離れても保持されるが、片方がプラスと定まれば、もう片方はマイナスと定まる。これは情報が瞬時に伝わるのと同じで、伝達速度が光速をも超えることになる。

ガンビットも、パーメットの量子もつれか、それに類する原理を利用して、超高速計算を可能にしているのかもしれない。しかも、GUNDフォーマットによって、操縦者の意思も反映されるとしたら、作中の素晴らしい操作性にも納得がいく。

エアリアルの加速力がすごい!

だが、情報処理がどんなに速くても、ビット本体の運動性能が高くなければ、瞬時の離合集散はできない。その性能は、第5話のエラン・ケレスとの戦いで明らかになった。

エランの愛機ファラクトは、実はペイル社(ベネリットグループ御三家の一つ)が極秘裏に開発したガンダムだった。そのエランも、データストームへの耐性を強化し、エラン・ケレスに似せて作られた「強化人士4号」だった。本物のエランは別の場所にいる。

決闘の舞台は、宇宙空間。ペイル社のモビルスーツは機動性の高さで知られるが、ファラクトはさらに別格だった。これに対して、エアリアルは宇宙空間用のスラスターを装備しておらず、中古のフライトユニットを整備して戦いに臨む。もちろん、機動力では勝負にならない。

この事態に、スレッタはどう対処したか? スレッタが「お願い、みんな、力を貸して!」と言うと、各ビットがエアリアルと合体し、スラスターを噴射して加速した!

作中の描写が速過ぎてよく分からなかったが、筆者には1秒で100mほどもカッ飛んだように見えた。この目測が正しければ、加速度(加速の勢い)は、次の式で求められる。

単位は「自由落下の何倍か」を表す[G]だ。

加速度[G]=距離[m]×2÷加速時間[秒]2÷9.8[m/秒2]

これに、「距離100m」と「加速時間1秒」を代入すると、加速度は100×2÷12÷9.8=20.41G、およそ20G! 

エアリアルに乗っているスレッタも同じ慣性力(加速や減速で発生する力)を受けたはずだ。人間が10G以上の慣性力を受けると失神すると言われるから、事によってはデータストームよりキツかったかもしれない。これに耐えたスレッタもさすがである。

ここから、ガンビットが単独で飛ぶときの運動性能も明らかになる。『The Report of機動戦士ガンダム 水星の魔女』によれば、エアリアルの重量は43.9t。

仮にガンビットの重量が合計1tなら、単独で飛んだときの加速力は20.41G×43.9=896G! 通常の単位に直すと、9.8[m/秒2]×896=8781[m/秒2]。1秒ごとに、秒速8781m=マッハ26ずつ速くなる!

仮に、盾を解除してから、30m(エアリアルの頭頂高は18.0m)の軌道を描いて、別の場所で盾になるとしたら、分離から合体まで0.12秒! 1秒間に8回も離合集散! 
まさに無敵の防御力である。

エアリアルのビームもすごい!

強化人士4号との決闘では、攻撃力も明らかになった。1基のビットが放ったビームが、ファラクトのブレードアンテナを一瞬で焼き切ったのである!

現実の世界でも、レーザーによる金属の切断は行われている。例えば出力6kWの赤外線レーザー(直径0.14mm)で、厚さ4mmの鉄板を分速25mで切っていける。これは、1秒間に0.0233mLの鉄を溶かせるということだ。

これに対して、エアリアルのビームは一瞬で切断! 劇中の描写から、ブレードアンテナの直径を20cm、焼き切った幅=ビームの幅を5cmとすれば、焼き切った体積は3.53Lである。所要時間が0.1秒だったとすれば、1秒かければ35.3L=3万5300mLの鉄が溶かせることになる。ファラクトのアンテナの熱への耐性が鉄と同じだった場合、出力は3万5300÷0.0233=150万倍、すなわち900万kW!

日本最強クラスの富津火力発電所(516万kW)の1.7倍! 11基のビットを合わせれば9900万kW。日本の総発電力9860万kW(2021年)を上回る!

※2021年の総発電力量は8635億kWh(資源エネルギー庁)。これを1年間の時間数=24×365=8760時間で割れば、総発電力[kW]が求められる。

幼い頃から、母の言葉を守り、母が作ったマシンに乗ってきた少女。そのマシンは、他人には生命の危険さえあるが、彼女には優しい。彼女にとって家族であり、友達であり、2人を守ってくれる超強力な仲間もいる。この幾重にも守られた中で、自分の道をけなげに突き進む少女を、応援せずにはいられない。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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