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空想未来研究所2.0

特撮ヒーロー史上最速マシンは人類を守る前にレッドの命を奪う?

地球を守る戦士たちが操るスゴい車を考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「スゴい車」。多くのマシンが登場したスーパー戦隊シリーズなどから、特に飛び抜けた性能を持つ車が、現実で直面する問題を考えてみた!

人類の夢が実現!車はついに空を飛ぶ

2014年、スロバキアのエアロモービル社が、空飛ぶ自動車の「Aero Mobil(エアロモービル)3.0」を発表した。

普段は翼を後方に畳んで道路を走り、翼を開いて200mの直線コースを走れば、空に舞い上がれる。全長6m、飛行速度は時速200㎞、航続距離は700㎞。映画や特撮で描かれた夢の自動車が、ついに実現したのだ!

翌年、同社は「17年に販売を開始する」と発表したが、4月から予約販売を開始し、リリースは2020年になる見込み。ただし車体は最終プロトモデルの「Aero Mobil4.0」と同じもの。これはヒジョ~に楽しみだ。

空想の物語には、さまざまな能力やスペックを持つ自動車が登場した。とてつもなく速い車!極端にデカイ車!!さまざまな装備を満載した車!!!合体してロボットになる車!!!!

いずれも破天荒だったり、必要性や道路交通法との干渉が疑問視されたりもするが、空飛ぶ車も、しばらく前までは、上のラインアップの一つだったのだ。

空飛ぶ車が実現した今、これらのスゴい車も、いつか実現される日が来ないとも限らない。そこで今回は、超高速マシンと巨大な救急車を例に、空想の車のすごさを考えよう。

東京から鹿児島まで30分!

筆者が知る限り、空想科学の世界で最速の自動車(の形をしたマシン)は特撮番組メタルヒーローシリーズの『特捜エクシードラフト』(1992年)に登場した「バリアス7」である。救急捜査隊エクシードラフトの隊長・ドラフトレッダーが乗るマシンで、普段の最高速度は時速400kmだが、緊急時には時速3000kmで走れるという。

これは本当にすごいスピードだ。現実世界の自動車の最高速度は、1997年にイギリスの「スラストSSC」が出した時速1228km。ただし、これはジェットエンジンで一直線に走る車であり、曲がることはできなかった。

運転可能な市販車で最も速いのは、ブガッティ社の「ヴェイロン」で、2010年に時速431kmを記録した。現時点では、これが実用に堪える自動車の最高速度といっていいだろう。

それに比べて、われらがバリアス7は時速3000kmで走るというのだ。新幹線(最速は東北新幹線はやぶさの時速320km)の9倍、ヴェイロンの7倍。ジェット旅客機(時速900km)の3.3倍。道路に沿って走っていっても、東京から鹿児島までたった30分しかかからないのだからものすごい!

こんな速度で走るからには、すごいエンジンを積んでいるに違いない。ヴェイロンのエンジンは1000馬力だが、その7倍も速いバリアス7のエンジンとは?

単純に考えれば、7倍の速度を出すには、エンジンには7×7×7=343倍のパワーが求められる。すると、バリアス7は34万3000馬力のエンジンを搭載していることになる。世界最大の戦艦大和でさえ15万馬力だったのに!

最高速度になるまで31km走る

こんなエンジンがあったとしても、地上を時速3000kmで走るのは簡単ではない。

まず、そのスピードに到達するのが大変だ。

ヴェイロンは、スタートしてから2.5秒で時速100kmに達する。これは、自由落下の1.13倍の勢いでスピードが上がっていくという驚異の加速力だが、バリアス7が同じ加速をしたのでは、時速3000㎞に達するのに1分15秒もかかる。時速3000kmを出すのは緊急時だから、それでは間に合わないのでは…。

しかも、1分15秒かけて時速3000kmまで加速する間に、バリアス7は31kmも走ってしまう。ジェット機が滑走路を必要とするように、バリアス7には31kmの真っすぐな加速用道路が必要なのだ。エクシードラフトの本部が新宿にあるなら、八王子まで延びる直線道路を建設しなければならない。そして、せっかくそんなものを造っても、敵が正反対の千葉に現れた場合には、全く役に立たない。

バリアス7の性能を生かすためにも、10秒程度で時速3000kmに達してほしいところである。

だがこれをやると、まことにキケン。車が急加速すると、体はシートに押し付けられるが、アレの強烈なヤツがレッダー隊長を襲うからだ。

10秒で時速3000kmに達するには、自由落下の8.5倍、すなわち8.5Gの加速が要求される。これによって隊長は、シートに8.5Gの力で押し付けられる。人間が10Gの力を受けると失神するといわれるから、時速3000kmに迫る車の運転手が失神寸前に追い込まれるわけで、周辺の住民は気が気ではあるまい。

カーブすると、もっとヒドイことになる。

車が曲がると、乗っている人には反対向きに遠心力がかかる。普通の車でも曲がるときには速度を3分の1ぐらいに落とすから、バリアス7もカーブでは時速1000kmに減速するとしよう。このスピードで道幅10mの交差点を曲がると、どんなにうまくコースを取っても、230Gの遠心力が発生する。

危険水域の10Gを楽々と突破し、隊長は確実に失神。いや、多分お亡くなりになって、操縦者を失ったバリアス7は時速3000kmで暴走していく…。

人間が乗る以上、車は速ければいいというものではないようだ。

救急車が超巨大ロボットになる弊害

空想の物語には「巨大な車」というものも存在する。その代表例にスーパー戦隊シリーズ『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999年)に登場した救急車「ピンクエイダー」がある。

『ゴーゴーファイブ』はシリーズ23作目で、「人の命は地球の未来!」をモットーに、一般市民にすぎない一家族が、人材も資金も自主提供して地球を守るというスーパーボランティアな戦隊だった。

彼らは、4台の特殊車両と垂直離着陸機を保有しているのだが、いざとなったら合体して巨大ロボットにならねばならないためか、どれもこれも巨大であった。

例えば、ここで取り上げるピンクエイダーは、全長27.4m、全幅10.9m、全高11.6m、重量1600t、最高速度は時速720km。とにかくデカイ!そして速い!!

他のマシンも同じぐらいのサイズと速度なのだが、ピンクエイダーに注目するのは、これが救急車だからである。救急車がここまで巨大な必要があるのだろうか。

ピンクエイダーは、80人の患者を乗せられるという。また別名「走る病院」とも呼ばれ、緊急治療室を装備している。デカイだけでなく、治療もできる!素晴らしい救急車ではないか。だが、緊急治療中に、巨大な敵が現れたら、どうするのだろうか。

ピンクエイダーは車体が垂直に立ち上がり、身長55mのビクトリーロボの右足になる。もし、緊急治療中に、床がいきなり垂直になって、ロボの歩行に合わせてズシンズシン上下動を始めたら…。誠に残念ながら、患者のご冥福を祈るしかない。

結果的に…町を破壊!

救急車としての役割以前に、ピンクエイダーは道路を走るだけで問題が発生する。もちろん、デカ過ぎて、速過ぎるからだ。

国土交通省の保安基準では、公道を走れる車両は全長12m以下、全幅2.5m以下、全高3.8m以下、重量20t以下と定められている。このうちどれか1項目でもオーバーすると、都道府県知事の許可がない限り、公道を走ることは許されない。

これに対して、ピンクエイダーは、全項目で大幅にオーバー!保安基準を根底から無視しているわけで、走る病院どころか、走る法律違反だ。

いや、国土交通省や都道府県知事も、ゴーゴーファイブの崇高な理念に共鳴して、大目に見てくれるかもしれない。だが、そうなったらなったで、問題はさらに拡大する。

都市部の道路の幅は、1車線あたり3.5m。全幅10.9mのピンクエイダーは、3車線分を完全に占拠して走行することになる。一般的な国道は片側2車線だから、その場合は反対車線に1車線分ハミ出して走るわけだ。反対車線を走る車から見れば、とんでもなくデカい車が逆走してこちらに向かってくる。時速720kmで!

片側1車線の一般道路なら、さらに悲惨だ。ピンクエイダーは車体の左右を道路そのものからハミ出して、沿道の民家やビルを押しひしぎながら突っ走るしかない。

この爆走によって、時速720kmでぶっ飛ばされたがれき、樹木、人や動物が、広範な地域に空襲のごとく降り注ぐ。たった10分走っただけで、被災地域は全長120km。

ピンクエイダーの出動で、新たなケガ人が続出だ。誰か、普通の救急車を呼んでくれ~!

スピードを追求したバリアス7に、デカさを極めたピンクエイダー。その目的は、どちらも地球の平和を守ること。理念は崇高だが、実際にやっていることはどうなのか…という気もするが、とにかく人間の想像力は素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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