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全世界の発電量の4440億倍!キン肉マンが放つ必殺技のエネルギー/キン肉マン

『キン肉マン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「必殺技」。2024年7月からアニメ「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」がスタートする『キン肉マン』で、主人公・キン肉マンが物語の初期で放った48の必殺技の一つについて、エネルギーの観点から考察しました。

ギャグキャラから真のヒーローになったキン肉マン

バトルマンガでは、途中で作品の雰囲気が変わることは珍しくない。次々に新たな強敵が出現し、戦いを通じて主人公も成長を重ねていくのだから、当然の流れともいえるだろう。この変貌が躍動感たっぷりに展開されたのが『キン肉マン』である。

初めは完全なギャグマンガだった。ウルトラ兄弟や仮面ライダーやアメリカンヒーローが平和を守る世界において、主人公のキン肉マンは、地球防衛軍長官に「ウルトラマンにあこがれ 地球を怪獣の手から 守ろうとするが いつも負けてばっかしのドジなヒーロー」などと酷評されていた。𠮷野屋の牛丼が大好きで、ニンニクを食べると巨大化して強くなり、オナラで空を飛ぶ! 大キン肉星雲キン肉星の王子だが、生まれたばかりの頃、地球に1泊2日の旅行に来た両親に、ブタと間違えられて宇宙船から捨てられ、現在に至る……。

しかし、驚異の能力を持った強敵が次から次へと登場し、キン肉マンは死闘の末に彼らを打ち破り、心を通わせていく。気が付けば、友情、努力、勝利をたたえる熱血格闘マンガとなり、キン肉マンも、マスクからわずかに漏れ出した光が、死んだ者をよみがえらせ、ドブ川を浄化する超越的存在に!

この驚くべき変化は、ある日突然起きたのではない。少しずつ、少しずつ積み重ねられてきたのだ。この物語を、筆者は、初めは火をおこすところから始まった、科学の進歩を重ね合わせずにはいられない。

その転換点の一つに、第20回超人オリンピックでの優勝が挙げられるだろう。王者となったキン肉マンはハワイを訪れ、元王者のプリンス・カメハメの下で修行を積んで48の必殺技を身に付けたのである。その48の必殺技の中で、キン肉マンが「一番簡単なやつ」という第1の必殺技が、驚異的だった!

冥王星まで届くキン肉マンの必殺技

キン肉マンが第1の必殺技を使ったのは、ハワイ王者ジェシー・メイビアのジムだった。戦いを前にメイビアのジムに訪れたキン肉マンに名もない若手レスラーが突っ掛かると、「これが 48の必殺技のNo.1だーっ!!」と叫んで若手を投げる。その体は宇宙へ飛び出して、月にたたきつけられた! キン肉マンは「チッ…冥王星までぶん投げてやろうと思ったのによ…月がじゃましやがったぜ……」。それ、本当なの!?

問題を複雑化させないため、ここでは、月の公転を無視して考えよう。この条件下、地球から物体を投げて月に到達させるには、地球と月の間にある、重力の平衡点(地球と月の重力が等しい点)まで投げればいい。そこを過ぎれば、月の重力の方が大きくなって、ひとりでに落ちていくからだ。これに必要な速度は、秒速11.1km=マッハ32.5である。しかし、平衡点では無重力になるため、ピッタリ秒速11.1kmだと、理論上は無限大の時間がかかる。それをいくらか超えても、月探査衛星などと同じ片道3日はかかるだろう。

だが、メイビアのジムの名もない若手は、あっという間に月に激突した。マンガの描写のイメージでは、長くても10秒ぐらいだろうか。地上から月面までは37万6000km(中心間は38万4000km)だから、キン肉マンが投げたと思われる速度は、秒速3万7600km=マッハ11万1000! というか、音速と比べている場合ではなくて、光速の12.6%!

これは地球から投げたとき、太陽の重力を振り切る速度(秒速43.6km)を超えているから、月がなければ冥王星の軌道に達していたのは間違いない。地球から冥王星まで最長で75億km。2日と8時間かかるが、キン肉マンの言葉に、偽りはなかった!

キン肉マンの必殺技で日本のエネルギーが賄える

このとき、キン肉マンが発揮したエネルギーは、どれほどか。光速の12.6%となると、正しくは特殊相対性理論で考える必要があるが、ニュートン力学(光速を無限大とする通常の力学)で考えても、誤差は1.2%にとどまる。正確を期するあまり、分かりにくくなっては元も子もないので、ここではニュートン力学で考えよう。

ニュートン力学において、運動エネルギーは、次の式で求められる。

運動エネルギー[J]=1/2×質量[kg]×速度[m/秒]2

名もない若手の体重を100kgと仮定して、速度=秒速3万7600km=3760万mを代入すると、1/2×100×3760万2=7京800兆J。日本で1日に消費されるエネルギー(2022年は年間1670京J)の1.5倍。「一番簡単な」というのだから、これで1日に1回発電機を回して、日本のエネルギー問題を解決していただきたい!

では、力はどうか? 力とエネルギーの間には、次の関係がある。

力[kg重]=エネルギー[J]÷動かした距離[m]÷重力加速度[m/秒2

[kg重]とは、力を地球上での重さで表す単位、「重力加速度」とは重力の強さを表す単位で、地球の場合は9.8[m/秒2]。キン肉マンが若手の体を1m動かして投げたとすると、発揮した力は、7京800兆÷1÷9.8=7220兆kg重=7兆2200億t重。富士山を形成する溶岩の重さは1兆tだ。ぜひ、富士山を……いや、持ち上げないでいただきたい!

エネルギー関連の数値で、重要なものに「仕事率」がある。これは「1秒当たりに発揮されるエネルギー」のことで、物理学での用語。工学では「出力」、英語では「パワー」と呼ばれる。単位は[W]や[kW]で、同じ単位で表される電力も仕事率の一つだ。

仕事率は、その定義から、次の式で表される。

仕事率[W]=エネルギー[J]÷所要時間[秒]

前述のように、キン肉マンが若手の体を1m動かして、秒速3万7600kmで投げたとしよう。若手は、初めは静止していたはずであり、このような場合は、初めから秒速3万7600km=秒速3760万mで動かした場合の2倍の時間がかかる。すると、仕事率は7京800兆÷(1÷3760万×2)=7京800兆×3760万÷2=1.33×1024W=1.33×1021kW=13垓3000京kW。全世界で発電されている電力は30億kW(2022年)だから、その4440億倍。やっぱり発電にいそしんでいただきたい!

超人強度とは?

こうして熱血バトルの世界に足を踏み入れたキン肉マンの前に、2人の強敵が立ちはだかった。ウォーズマンとバッファローマンである。

超人たちの強さは、「超人強度」で表される。キン肉マンが95万パワーなのに対して、ウォーズマンは100万パワー。これでも「大丈夫か、キン肉マン!?」と心配になるのに、バッファローマンは1000万パワー!

ウォーズマンは、1年前にキン肉マンに敗れたロビンマスクが、失意の旅の中、超人未開の地・ソ連で見つけた「ファイティングコンピューター」。相手の手足の動きや脈拍・呼吸などで、次にどの技を出すか予測することができる。必殺技は、キリモミ回転しながら左手のベアークロー(鋭い4本の爪)を相手に突き立てる「スクリュードライバー」だ。

バッファローマンは、昔は100万パワーだったが、悪魔に血を売って、1人の超人を破るごとに1万パワーが増える能力をもらった。これまで1000人の超人を破ることによって、1000万パワーになったという。100万パワーから1000万パワー増えたのなら1100万パワーになっているはずだが、四捨五入すれば1000万パワーであり、低めに言っているのだから、奥ゆかしいともいえる。

特筆すべきは、この2人の強敵同士が戦い、そこで超人強度が問題になったことだ。ウォーズマンは、超人強度が10倍に及ぶ相手と、どう戦ったのか?

まず、ベアークローを右手にも着けることで、200万パワー! いつもの2倍のジャンプをすることによって、200万パワー×2=400万パワー! いつもの3倍の回転を加えることによって、400万パワー×3=1200万パワー! 計算を積み重ねて相手を上回るとは、さすがファイティングコンピューター!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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