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空想未来研究所2.0

対戦車砲に匹敵する破壊力!? ライダーキックの威力/仮面ライダー

『仮面ライダー』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『仮面ライダー』。半世紀以上にわたり愛され続ける仮面ライダーで、多くのライダーたちが繰り出してきた必殺技・ライダーキックについて、エネルギーの観点から考察しました。

『仮面ライダー』の放送が始まったのは1971年。以来、何度かの中断を乗り越えながら、幾多の若者たちが変身し、バイクに乗り、ライダーキックを放ってきた。

半世紀を超える歴史の中では、さまざまな変化も起きている。改造人間だった彼らが、ベルトの力のみで変身するようになったり、そのベルトが工業的に生産されるようになったり、警察と協力するようになったり、最初から複数のライダーが登場するようになったり、ライダー同士が戦うようになったり、変身してからさらに変身(フォームチェンジ)するようになったり、月面に基地ができたり。

放送が開始されたのは、昭和をまだ20年近くも残す時代。内閣総理大臣は佐藤栄作、アメリカ大統領はリチャード・ニクソン。電話(もちろん固定)の普及率は30%、カラーテレビの普及率(42.3%)は白黒テレビ(82.3%)の半分に過ぎず、カシオが「低価格帯電卓」カシオミニ1万2800円(従来品の3分の1)を発売するのは翌年。ノーベル賞を受けた日本人は、湯川秀樹(1949年)、朝永振一郎(1965年)、川端康成(1968年)の3人しかいなかった。そこからの世の中の変化に照らせば、『ライダー』の世界が様変わりしてきたのも、当然と言えるだろう。

この半世紀の中で、ほぼ一貫して使われてきたのが「ライダーキック」である。初期のライダーたちの必殺技であり、さまざまな名前で呼ばれながら、多くのライダーに受け継がれてきた。この栄光あるライダーキックの中で、筆者が忘れられない3大キックについて、そのエネルギーを考えてみよう。

◆威力が半端ではない!

まず、仮面ライダー1号のライダーキックを振り返ろう。

「とおおおっ!」と叫んで空中高く跳び上がり、最高点で前転して斜めに急降下し、怪人にキックをブチかます。蹴られた怪人は斜め上に大きく飛ばされ、崖から落ちたりしながら、ベルトに仕込まれた爆弾で大爆発……。そのフォームの一大特徴は、足を真っすぐ伸ばしたまま相手を蹴ることだ。

この必殺技は、多くの人々の憧れを集めると同時に、疑問を呼んできたのも事実である。

真上に上昇したライダーが、なぜ斜め下に降下してくるのか。

斜め上から蹴られた怪人が、なぜ斜め上に飛ばされるのか。

蹴る前にキックの動作をすれば威力は増大するだろうに、なぜ足を伸ばしたまま蹴るのか。

前の2者については、筆者は50年以上も考え続けているが、いまだに明確な答えにたどり着けていない。ライダー史上最大の謎である。

3つ目に関して言えるのは、現状の蹴り方でも十分に威力があるということだ。仮面ライダー1号は、身長180cm、体重73kg、ジャンプ力25m。真上に跳び上がった物体は、上昇するほど速度を落とし、最高点から自由落下する(静止した状態から落ちる)。だからこそ、斜め下に飛び降りる点がナゾを呼ぶのだが、ここではエネルギーに注目しよう。

物体がある高度から自由落下するとき、落下点での速度は次の式で求められる。

速度=√2×重力加速度×高度(※√(ルート)の上の横棒は「高度」まで伸ばす)

重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地球上では9.8[m/秒2]の値を取る。この式に「高度25m」を代入すると、速度は秒速22.14m。[m/秒]を[km/時]に直すには3.6をかければよく、時速79.7km。およそ時速80kmである!

想像していただきたい。重量73kgの物体が、時速80kmでぶつかってくるという事態を。

大相撲の力士の立ち合いの速度は、最大で秒速2.8m=時速10kmと言われる。両者の運動エネルギーを比較してみよう。

運動エネルギー=1/2×質量×速度2

ライダーキックの運動エネルギーは、1/2×73×22.142=1万7900J 体重150kgの力士の立ち合いは、1/2×150×2.82=588J ライダーキックの方が30倍も大きい! 怪人がぶっ飛ぶのも当然だ!

正確には、「どのくらいぶっ飛ぶか」は、運動エネルギーではなく、「運動量=質量×速度」で決まるのだが、それでもライダーキックの威力はお分かりいただけるだろう。

だが、元祖ライダーキックの威力は、これでは済まなかった可能性がある。

1971~73年、カルビーから「仮面ライダースナック」というお菓子が発売されて、そのおまけに「仮面ライダーカード」が付いていた。当時、カードにしか興味のない少年たちが、お菓子を食べずに捨てるという事例が多発し、社会問題になったものである。カルビーの方々も心を痛めたと拝察するが、本人たちも反省していると思うので、どうか許してあげてください。ワタクシはおいしくいただきました。

そのライダーカードNo.289に、ライダーキックに関して恐るべき記述がある。「せんしゃでも、いちげきで、はかいするつよさだ」。なんと、対戦車砲に匹敵する破壊力!?

対戦車砲は、戦車の厚い装甲を破るための砲弾で、炸薬で破るものと、運動エネルギーで破るものがある。後者は重量数kg~数十kgで、速度が秒速1500m。ライダーキックが重量3kgのものと同じ威力を持つとしたら、そのエネルギーは338万J!

前述の1万7900Jのライダーキックを「標準ライダーキック」と名付けると、戦車一撃破壊ライダーキックのエネルギーは、その189倍! オソロシや~。

◆超高速で走ってキックしたら?

平成シリーズに入ると、さらに強烈なキックを放つライダーが現れた。『仮面ライダーカブト』(2006~2007年)だ。

このライダーの一大特徴は「クロックアップ」。マスクドフォームからライダーフォームにフォームチェンジして、「クロックアップ」と唱えると、とてつもない速度で動ける。もともとクロックアップは、敵の怪人ワームが持つ能力だったが、秘密組織ZECTが、これに対抗するために、クロックアップを可能にするライダーベルトを開発したのだ。

クロックアップの発動シーンは、驚愕の一語だった。雨が無数の水滴となって空中に静止する中、カブトとワームは激しく戦う。両者があまりのスピードで動くために、雨粒はまるで停止しているように見えるのだ!

初めて見たとき、筆者は思った。この状態でライダーキックを放ったら、いったいどんなコトになるのか!?

クロックアップは、時間を止める能力ではないから、止まっているように見える雨粒も、実はゆっくり落ちているはずである。ここでは、戦闘のあいだに1mm落下したと考えよう。

雨粒が落ちるスピードは、秒速10mほど。このスピードで1mm落ちるのにかかる時間は、1万分の1秒。劇中、雨中の戦いは45秒続いたから、このときは、時間が45万倍に引き伸ばされて描かれていたと考えられる。カブトもワームも、普通の速度で動いているように見えるが、実際にはその45万倍の速度で駆け回っていたということだ!

これはモノスゴイ。カブトはライダーフォームのとき、100mを5.8秒で走れる。それは秒速17.2mで、45万倍になると、秒速7760km。ここ、「m」ではなく「km」なのでご注意を。気温15℃のときの音速=秒速340mを基準にすると、マッハ2万2800だ! もし、45秒間にわたって直進したら、35万9000km進んで、地球を8.7周していた!

体重95kgのライダーフォームが、このスピードでライダー1号と同じように、足を真っすぐ伸ばして跳び蹴りをブチかましたら、エネルギーは2860兆J。標準ライダーキックの1600億倍!

さらにオソロシイことに、カブトはクロックアップした状態からの「ハイパークロックアップ」も可能で、速度はさらに数十倍になる! そればかりか、時空を超越して未来へも過去へも行ける! その状態で放つハイパーライダーキックは、右足にタキオン粒子を収束して、敵を粉砕する!

タキオン粒子とは、光速を超えるとされる架空の粒子で、こうなるともう筆者には太刀打ちできません。確実に言えるのは、モノスゴイということだけだ!

◆ライダーキックで温泉を掘り当てた!

ライダーキックを、みんなの幸せに役立てたのは『仮面ライダーガッチャード』(2023~2024年)である。なんと、ライダーキックで温泉が湧いたのだ!

最近のライダーシリーズは、中盤に番外編的なエピソードが入ることが多く、このエピソードも大ボスを倒した直後の第28・29話で描かれた。

九ツ村は、年々寂れていて、産業廃棄物の最終処分場にする計画が持ち上がっていた。村の山の上には祠(ほこら)があり、お狐(きつね)さまの石像が祭られていた。その近くに、九尾の狐の姿をした怪人キュウビマルガムが現れ、主人公の一ノ瀬宝太郎は、ガッチャードに変身するが、全く通用しない。そこで宝太郎は、最強形態プラチナガッチャードにフォームチェンジする。

すると、キュウビマルガムは、岩壁を背にして立ち、両手を大きく広げる。宝太郎にはその意図がよく分からなかったが、「蹴れってことか?」と思い、ライダーキックを放った!

そのままガッチャードは、「わはははは」と高笑いするマルガムと一緒に岩壁の中にめり込んだ。と、穴から爆炎が噴き出し、爆炎の中からガッチャードが姿を現し、しばらくたつと、岩壁からは温泉が噴き出した! 宝太郎たちは気付く。お狐さまは、村を豊かにするために、マルガムの姿を借りて、ガッチャードに温泉を掘らせたのだ!

おそらく、崖の奥深くには熱い地下水がたまっていて、マルガムの体がそこまで達したため、穴を通って噴き出したのだろう。温泉は地下から湧くというイメージがあるが、静岡県熱海市の伊豆山温泉の「走り湯」は横穴式の温泉で、洞窟からお湯が湧き出している。九ツ村の山にも、マグマで熱せられた地下水が、中腹まで上がってきていたのではないだろうか。

ボディを蹴られたマルガムが、体を「く」の字にして潜り込んでいったとしたら、穴の直径は80cmほどだろう。地下水が崖の奥100mまで上がってきていたなら、破壊された岩石は140tにもなる。

ガッチャードの体重は97.8kg。マルガムの体重が100kgで、ガッチャードがライダー1号と同じフォームで蹴ったとすれば、その速度は秒速1060m=マッハ3.12。エネルギーは5530万Jで、標準ライダーキックの3090倍。おお、カブト(1600億倍)には遠く及ばないが、戦車一撃破壊キック(189倍)を上回った! しかも、九ツ村を豊かにしてくれたのだから、言うことなし!

その湯量は、ものすごかった。崖の穴から水平に、鉄砲水のように噴き出している!

穴の高さは地上2mほど。仮に5mまで飛んだとすれば、噴出速度は秒速7.8m=時速28kmで、1秒間に3.9tのお湯が噴き出したことになる。「毎分湧出量」に直すと23万6000L/分。都道府県別No.1の大分県が29万8000L/分(2020年)、2位の北海道が19万8000L/分(同年)だから、九ツ村のある県が、全国2位に! ありがとう、お狐さま、そして仮面ライダーガッチャード!

バッタの姿に改造され、バイクに乗って、パンチとキックで戦う。石ノ森章太郎先生が着想された孤独なヒーローが、先生ご自身の手によって、また後継者たちの努力によって、日本の文化と呼べるまでの大きな存在となった。われわれはそれぞれの心に、それぞれのライダーを宿し、それぞれの人生を歩んでいる。筆者のように、成長してなお新しいライダーを待ち続ける者もいる。このリレーは、未来までつながれていくのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

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