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衝撃波!? 光速超え!? 驚愕プレーを生み出すエネルギー/新テニスの王子様

『新テニスの王子様』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『新テニスの王子様』。主人公をはじめ個性豊かなキャラクターたちが繰り出す中学生離れした驚異の技の数々について、エネルギーの観点から考察しました。

『テニスの王子様』は、連載が始まった1999年以来、多くの読者を驚かせてきた。

主人公は、中学1年生の越前リョーマ。アメリカのJr.大会で4連続優勝したテニスの天才だ。彼が入学した青春学園中等部のテニス部には、恐るべきプレーヤーがひしめいていた。

海堂薫(2年)の「ブーメランスネイク」は、コートの外へ飛んだボールが、審判の後ろを回って、相手コートに突き刺さる!

不二周助(3年)の「白鯨」は、相手の頭上を越えたボールが空高く舞い上がり、その背後のコート内に落ちる!

キャプテン・手塚国光(3年)の「手塚ゾーン」は、相手がどう打ち返しても自分のところに返ってくる!

菊丸英二(3年)は、コート内で2人に分身! 名付けて「一人ダブルス」!

この仲間たちと、リョーマは東京都大会、関東大会、全国大会と勝ち上がっていくのだが、他校の選手たちも驚異の技で立ち向かってくる。相手を観客席までぶっ飛ばしたり、他の選手の技ばかりか姿までも完璧に再現したり、相手の骨格を透視して死角へボールを打ったり、相手の五感を奪ったり! もちろん、全員が中学生!

『新テニスの王子様』では、こうした彼らが高校生に交じってU-17W杯(アンダーセブンティーンワールドカップ)を戦う。繰り出される技はさらにヒートアップしていくが、ここではエネルギーの観点から、極めて興味深い3人に注目しよう。

跡部景吾(氷帝学園中3年)、亜久津仁(山吹中3年)、ダンクマール・シュナイダー(プロ)である。

ガラスの雨が降る!

まずは、跡部景吾。予選リーグのオーストラリア戦、タイブレーク147-146という驚きのスコアでマッチポイントを迎えた。

跡部がサーブを打つと、同心円状の音響のようなものが放たれる。サービスエースを決めたが、それさえ見逃してしまいそうになるほどの現象が発生した。照明のガラスがパリィィンと割れ、最前列で応援していた乾貞治(青春学園中3年)のメガネもパリィィンと割れる!

技の名前は「氷の皇帝(エンペラー)」。跡部は言う。「ガラスの雨に気を付けな」。これは間違いなく、衝撃波が発生している!

衝撃波とは、音の一種で、圧力が突出して高い領域が、音速を超えて伝わる現象だ。発生の原因には「爆薬などの爆発」と「物体の超音速運動」がある。この場合は、明らかに後者であろう。

超音速運動による衝撃波は「ソニックブーム」と呼ばれ、詳しく研究されている。『ソニックブーム その現象と理論』(牧野光雄/産業図書)に載っている公式によれば、飛行機から発生する衝撃波の圧力は「飛行機の形状」「地面の状況」「飛行機の速度」「胴体の最大直径」「胴体の長さ」「飛行高度」によって決まる。大胆な仮定だが、これがテニスボールにも適用できるとしたら、「胴体の最大直径」と「胴体の長さ」に「ボールの直径」を代入することになるだろう。すると、「氷の皇帝」が放つ衝撃波の圧力は、次の簡略式で求められる。

衝撃波の圧力[気圧]=0.456×(マッハ数2-1)1/8×(ボール直径/距離)3/4

「マッハ数」とは、速度が音速(気温15℃のとき秒速340m)の何倍かということ。また、同書によれば、0.0047~0.0142気圧の衝撃波は「小さい簡易窓を決定的に破壊する」。テニスボールの直径は6.7cm(6.54~6.86cmの中間値)、距離に関しては、観客収容数1万人の有明コロシアムの図面で測定すると、コート内から観客席の一番遠いところまで75m。

ここから、U-17W杯が同じ規模の会場で行われ、「氷の皇帝」では、ボールから75m離れた地点に、0.01気圧の衝撃波が達したとしよう。

その場合、跡部のサーブの速度はマッハ324! 秒速11万m=時速40万km! ライフル弾(マッハ3)の100倍強、男子トップ選手(時速250km)の1600倍である!

この驚嘆のボールは、一体どれほどのエネルギーを持っているのか。運動エネルギーは次の式で求められる。

運動エネルギー[J]=1/2×質量[kg]×速度[m/秒]2

これにボールの質量57.7g(56~59.4gの中間値)=0.0577kgと、秒速11万mを代入すると、エネルギーは3億5100万J。車重1tの乗用車が時速3020kmでぶつかるのと同じ!

平和利用を考えるなら、消費電力150W(1秒間に150J)の32型液晶テレビが650時間=27日見られる。ぜひ実現してほしいものである。跡部発電!

スタジアムが揺れる!

亜久津仁は、10年に1人と言われる逸材である。

非常にヤンチャで、そのためテニスに打ち込めずにいたが、『新テニプリ』では、類いまれな吸収力を発揮し、高校生ナンバーワン平等院鳳凰の「光る打球(デストラクション)」などを自分のものにしていった。この亜久津が、予選リーグの対スイス戦で、驚愕のショットを放った。

相手のアマデウス(プロ)は、「光る打球」を打ってくる亜久津を「平等院(ビョードーイン)」と呼び始める。これが繰り返され、亜久津はキレた。「キサマ誰と戦ってんだ!!」「俺は誰だ!? そうだ――――亜久津仁!!」。ここから放ったショットはうなりを上げて飛んでいき、コンクリートの壁にめり込んで、大きなヒビを入れる。客席からは怒号と悲鳴。「客席が吹き飛ぶぞ!?」「ひっ!!」「うわぁぁ――っ!!」。マンガのコマでは、客席が揺れている! これは一体、どんなショットなのか!?

有明コロシアムの図面から、素人なりに計算すると、すり鉢形の客席を構成するコンクリートの質量は1~2万t。ここでは控えめに1万tとしよう。これに、莫大なエネルギーを持つテニスボールが当たると、「ズン!」といった感じで振動するだろう。感覚に頼るしかないが、「ユサユサ」でも「ビーン!」でもなく「ズン!」だとしたら、「1秒に100回」前後の振動だろう。揺れた幅は、観客に感知できる最小と思われる「1cm」と仮定しよう。その場合、スタジアムを振動させたエネルギーは、4930万Jである。

だが、これは亜久津のボールのエネルギーではない。衝突において、ピンポン玉をサッカーボールにぶつけてもほとんど動かないように、軽いものから重いものへはエネルギーが伝わりにくいのだ。

伝わるのは、「運動量=質量×速度」である。

振動エネルギーが4930万Jだとしたら、質量1万tのスタジアムは、ボールが当たった瞬間、秒速3.14mで揺れたはずだ。1万tはテニスボール57.7gの1億7300倍。すると、ボールが当たった速度は秒速3.14m×1億7300=秒速5億4400万m。わあっ、光の速度(秒速3億m)を超えた!

これはいけません。この宇宙では、どんなものも光速を超えることはできない。こういうときに役立つのが特殊相対性理論で、これを使うと、亜久津のショットの速度は光速の87.6%=秒速2億6300万m=マッハ77万2000!

この速度を持つテニスボールのエネルギーは5190兆J。電力量に換算すると、14億4000万kWhである。これは大型火力発電所(300万kW)が、14億4000万kWh÷300万kW=480時間=20日かけて生み出す電力量。亜久津発電こそ、ぜひぜひ実現してほしい!

モーレツにデカい!

問答無用でドギモを抜かれたのが、ドイツ代表ダンクマール・シュナイダーである。

身長223cm、体重130kgという巨漢で、決勝トーナメント準決勝に日本の相手として入場してきたときは、パートナーのベルティ・B・ボルクより頭一つ大きかった。

ところが日本が第1セットを取ると、異変が起きた。サーブの構えに入ったダンクマールが、目を疑うほどデカいのである! 身長が、シングルスのコートの横幅(8.23m)の1.6倍もある。すなわち、身長13m20cm! 見開きいっぱいを使ったコマの右上には、誰の言葉か分からないが、「デカ過ぎんだろ…」という、これまた大きな文字が入っている。

これは一体、どういうことだろう。17歳以下なのに既にプロという威圧感が、大きく見せるのだろうか……と思ったが、同じプロのベルティは普通サイズである。試合が進むと、日本のデューク渡邊の必殺技「デューク・ホームラン」(ボールを受けた相手を観客席まで飛ばす)を食らったベルティを、その巨大な腹で受け止めた。どうやら、本当にデカくなるらしい!

もし、本当にこんなテニス選手がいたら、一体どうなるのだろうか?

テニス以前に、人間としてデカ過ぎる。普段は身長223cmのダンクマールが、身長13m20cmになったら、拡大率は5.92倍である。縦も横も高さも5.92倍だから、体重は5.923=207倍で27t。オスのアフリカゾウ(7t)の4倍近い!

股間の高さを測ると、6m。オスのキリン(体高5m)が股間を通り抜ける! シューズのサイズは2m。普通の人が中で寝られる!

これだけの体があったら、相撲をやれば無敵だろう。土俵の直径は4.55mだから、足がはみ出すこともない。バスケットボールをやれば、ゴールが膝の高さなのだから、これまた無敵……などと夢が広がるが、テニスに打ち込んでいる若者に言うべきことではありませんね。

では、テニス選手として、どんな夢のプレーを見せてくれるのだろう。

問題は、ラケットだ。通常のラケットは、長さ70cm、重さ300g前後だが、ダンクマールにちょうどいいラケットは、5.1m、120kg! 実際にダンクマールは、それぐらいのラケットでプレーしている。

テニスのラケットは73.7cm以下というルールがあるが、もし普通のラケットをダンクマールが持ったら、身長180cmの選手が長さ10cmのラケットを持つのと同じ。それでは試合にならないから、審判も特別に認めてくれたのだろう。

もちろん、本人の身体能力も問題だ。マンガを見る限り、ダンクマールは、試合がキッチリできている。恐らく、「身長の3分の1ほどジャンプする」といった「体格に見合った動き」ができるのだろう。その場合、詳細は省くが、「同じ動作にかかる時間」も「同じ動作をしたときの速度」も、身長の平方根に比例する。身長180cmのテニス選手と比べると、巨大ダンクマールの身長は7.33倍。その平方根とは2.71だ。つまり、ラケットを振るのに2.71倍の時間がかかるが、ラケットのスイング速度は2.71倍!

これは、ボールを拾うなど、ディフェンスでは不利かもしれない。しかしオフェンス、中でも時間に制約のないサーブでは大いに有利。身長180cmの選手が時速250kmのサーブを打てるとしたら、ダンクマールのサーブは時速677km!

だが、これは単純過ぎる考察だ。時速677kmというのは、巨大なダンクマールが、巨大なラケットで、巨大なボール(直径49cm、重さ23kg)を打った場合の速度。実際には普通のボールを打つのだから、もっと速い。これも詳細は省くが、時速1290km、マッハ1.06! テニスでも超活躍!

このボールが持つエネルギーは、3730J。150Wのテレビが25秒しか見られず、ちょっと発電には向かないが、その試合は見てみたい!

テニスという現実のゲームを舞台に、現実では考えられないプレーを見せる選手たち。それが現実からかけ離れるほど、見る者の心は熱くなる。日常生活では人の心を冷めさせる「あり得ない」が、マンガやアニメでは人の心を動かすエネルギーとなるのだ。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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