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2025.1.9
ジェット機のタイヤも簡単に膨らませる!?/SAKAMOTO DAYS
『SAKAMOTO DAYS』で描かれたエネルギーについて考えてみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『SAKAMOTO DAYS』。生身の人間の強さとしては、マンガ界でもトップクラスを誇る主人公・坂本太郎の強さを、エネルギーの観点から考察しました。
見た目からは想像もできないが、実はとてつもなく強い!
こういうキャラは大好きで、『SAKAMOTO DAYS』の坂本太郎もそんな一人だ。太っているのに、モーレツに強い!
かつては最強の殺し屋だった。全ての悪党から恐れられ、全ての殺し屋の憧れだった。ところが5年前、コンビニで働いていた葵さんに一目ぼれ。引退、結婚、娘の誕生。そして……太った!
身長は188cmで、殺し屋時代の体重は不明だが、かなりスリムな印象だから70kgくらいだったのではないか。それが今や140kg! なんと2倍もの激太り! 体重過多のせいかフケて見えるが、まだ27歳! 今は、葵さんと一緒に「坂本商店」を営んでいる。雑貨や食品を扱う個人商店で、広さは平均的なコンビニくらい。近所の子供が気軽に遊びにくるような、ユル~イ雰囲気も漂っている。
だが、坂本の日常は、全く穏やかではない。殺し屋を勝手に引退したのは、組織にとって重大なルール違反だったらしく、殺し屋を差し向けられたり、10億円の懸賞金を懸けられたりする。坂本は、自分の命を、そして最愛の葵さんと娘の花ちゃんを守るために戦うのだが、問題が一つ。葵さんとの間に「絶対に人を殺さない」という約束を交わしていて、約束を破ったら離婚されてしまう。それだけは絶対に避けたい!
この結果、素手や手近なもので戦うことになる。坂本商店には隠し扉があって、そこに大量の拳銃、ライフル、手榴弾などを保有しているのだが、使うのはスタンガンくらい。それでも坂本は、めちゃくちゃ強い。もう笑っちゃうほど強い。
なめていたアメを飛ばしてピストルの弾丸の軌道を変える! ビルの屋上で悪人に上からパンチをブチかまして最上階の室内にたたき込む!
生身の人間の強さとしては、マンガ界でもトップクラスだろう。そんな坂本の強さを、エネルギーの観点から分析してみよう。
喉アメを飛ばして弾丸を弾く!
第1話、早速殺し屋時代の部下「エスパーのシン」が刺客として差し向けられる。
シンは、レジに座っている坂本に向かって、いきなりピストルを撃つ! 喉アメをなめていた坂本は、それを「ぷっ」と吹き出す。と、アメは飛んでくる弾丸に命中! アメはその場で砕け散ったが、弾丸も坂本から見て右へ30度ほど軌道を変え、ポテトチップスの袋を突き破った。
アメを弾丸に命中させただけでも、驚きに値する。ピストルの弾丸の初速は秒速350m前後。シンは5mほどの距離から撃ったから、着弾まで0.014秒! 人間が外部からの刺激に反応するまで、最短でも0.1秒かかるが、坂本はそれよりはるかに速く反応し、しかも見事に命中させたことになる。
アメで弾丸の軌道を変えたのは、さらに驚異的。ピストルの弾丸は重さ10g前後だが、坂本が噴き出したアメは直径1.5cmほどで、重さは1.8g程度。これで弾丸の軌道を30度変えるには、アメは最低でも秒速265m=マッハ0.78で当たらねばならない!
その上、この速度を「ぷっ」と吹き出して与えたのだから、もうビックリ。口の中の空気がスゴイ圧力になっていたはずで、計算すると460気圧。タイヤの空気の圧力は、乗用車が2~3気圧、バスやトラックで7~9気圧、ジェット旅客機でも12~14気圧。坂本はジェット旅客機のタイヤを、口で楽々と膨らませられる!
輪ゴムでアメを飛ばしてピストル弾並みの威力!
さらに坂本は、喉アメで恐るべきことをやった。逆襲に転じて、指に輪ゴムを引っかけ、パチンコ玉の要領でアメを次々に飛ばす。シンがよけると、アメは窓ガラスに当たり、まるで弾丸が命中したような穴が開いた!
窓ガラスの割れ方は、「面積あたりのエネルギー」で決まる。これが弾丸に匹敵したとすると、アメの速度は秒速1390m=マッハ4.08。坂本はシンに命中させるつもりはなかったと思われるが、万が一にも当たったら、坂本は葵さんに離婚されたであろう。坂本が手にすると、喉アメや輪ゴムでさえ、強力な武器となるのだ。
この現象を、エネルギーの観点で解析すると、恐るべき事実がもう一つ浮かび上がる。
運動エネルギーは、次の式で求められる。 運動エネルギー[J]=1/2×質量[kg]×速度[m/秒]2〈式1〉
ここから、アメが持っていたエネルギーは、1/2×0.0018×13902=1700Jとなる。そして、バネやゴムのように弾力性のあるものを引き伸ばす場合は、それに蓄えられる「弾性エネルギー」と「力」の間に次の関係が成り立つ。
弾性エネルギー=1/2×力×伸ばした長さ
力は[N](ニュートン)という単位で算出され、これを重力加速度=9.8[m/秒2]で割れば、日常生活で使う[kg重](通常は「重」を省略する)の単位での値になる。坂本がゴムを伸ばした長さを20cmとすると、出した力は1700×2÷0.2÷9.8=1730kg重=1.73t! 指でこんな力が出せるとは、さすが最強の殺し屋! この力に耐えるとは、さすが最強の殺し屋の輪ゴム!
人を殴って屋上をブチ抜く!
坂本の超絶技巧は、枚挙にいとまがない。
冒頭でも紹介したが、ビルの屋上で殺人犯に上からパンチをブチかますと、相手は屋上にたたきつけられ、屋上を突き破り、下の階に落ちた! マンガのコマを見ると、穴はほぼ円形で、直径は3mほど。コンクリートの厚さは20cmぐらいだ。コンクリートの密度は2450[kg/m3]なので、破壊されたコンクリートの質量は、半径[m]2×円周率×厚さ[m]×密度[kg/m2]=1.52×3.14×0.2×2450=3460kg。そして、コンクリートや岩石を破壊するエネルギーは「1kgあたり100J」という目安がある。これは「質量にかかわらず、高さ10mから硬い地面に落とすと砕け散る」ということだから、納得の目安であろう。
ただし、これは鉄筋の入っていないコンクリートなどに適用されるべきもの。屋上のコンクリートには当然、鉄筋が入っているから、破壊するにはもっと大きなエネルギーが必要になる。読者の皆様の中に、その場合の目安をご存じの方がいたら、ぜひ編集部にご一報ください。
編集部に無断で勝手な呼びかけをしたところで、最低限の値を求めるために、考察を続けよう。3460kgのコンクリートを破壊するエネルギーは34万6000J。殺人犯の体重を70kgと仮定して、〈式1〉を使って逆算すると、犯人は秒速99.5m=時速358kmで屋上にたたきつけられたハズ! どんなパンチなら、人間を新幹線より速くぶっ飛ばせるのか?
注目すべきは「運動量=質量×速度」だ。衝突の前後で、運動量の合計は必ず等しいという「運動量保存の法則」が成り立つ。パンチの場合は、当たった直後の一瞬、拳は相手の体と同じ速度で運動するので、もし拳が体から独立した物体なら、次の式が成り立つ。
拳の質量×拳の速度=(相手の体重+拳の質量)×相手の速度
もちろん、拳は腕に、腕は体幹につながっているので、こう単純ではない。『格闘技「奥義」の科学 わざの真髄』(吉福康郎/講談社ブルーバックス)の測定データから計算すると、「人間のパンチは、体重の6%の物体が、パンチと同じ速度でぶつかったのと同じ運動量を持つ」と考えられる。体重の6%とは坂本の場合、140kg×0.06=8.4kg。これを「パンチの質量」と名付けると、上の式は次のように書き換えられる。
パンチの質量×パンチの速度=(相手の体重+パンチの質量)×相手の速度〈式2〉
これに数値を当てはめると、こうなる。
8.4[kg]×パンチの速度=(70[kg]+8.4[kg])×99.5[m/秒]
ここから計算すると、坂本のパンチの速度は、秒速928m=時速3340km=マッハ2.7! ピストルの弾丸(秒速350m)の2.7倍で、ライフル弾(速いもので秒速1000m)並み! 特筆すべきは、この事件の後、坂本が葵さんに離婚されなかったこと。この犯人、マッハ2.7で殴られても生きていた! かなり強いと思う。
同じ方法で解析できる技に、もっとスゴイのがある。
銭湯で乱暴していたチンピラに、坂本がアイスのスティックを投げつけた。チンピラは、その勢いで吹っ飛ばされ、自動販売機に激突! 何がスゴイって、アイスのスティックが坂本のパンチの質量(体重の6%=8.4kg)よりはるかに軽いこと。スティックは、アイスが垂れ落ちないように、握る部分との間に円盤が付いたタイプで、同じものを買ってきて量ると、わずかに4gである。運動量保存の法則から考えると、モノスゴイ速度でぶつかったはずだ。
マンガの描写から推測すると、チンピラが自動販売機にぶつかった速度は、時速30km=秒速8.33mぐらい。これを〈式2〉に代入すると、スティックの速度は秒速14万6000m=時速52万5000km=マッハ429! ライフル弾の146倍! このヒトも、相当に強い。
戦って、元のスリムな体型に!
マッハ3ケタとなると、それはいくらなんでも……と思いたくなるが、そうした常識をはるかに超えるのが坂本太郎なのである。
悪のアジトへ乗り込んだ坂本は、煙幕の中で大暴れする。煙が晴れると、以前の精悍(せいかん)な坂本に戻っていた! 前述したように、殺し屋だった頃の坂本は体重70kgくらいに見えるから、つまり体重が半減したことになる。どれほど激しい運動をすれば、こんなモーレツなダイエットができるのか!?
これについても、「歩いたり走ったりすれば、1kmごとに体重1kgあたり1kcalを消費する」という目安がある。面白いのは、歩いても走っても同じということ。走る方がキツイけど、それは短時間にエネルギーを消費したり、筋肉に乳酸がたまったりするためで、ダイエット効果としては同じなのだ。
これを坂本に当てはめると、どうなるか。戦いを「走る」に置き換えれば、初めのうちは体重140kgなので、1kmあたり140kcalを消費できる。しかし、終わりごろは70kgなので、同じ1kmを走っても70kcalしか消費できない。ヒジョーに複雑な式になるので、結果だけを示すと、このとき坂本は、6240km走るのと同じエネルギー消費をした! 戦っていたのが30分だとしても、秒速3470m=時速1万2500km=マッハ10.1で走ったのと同じ! どんだけハードなんだ、それ!?
各瞬間のハードさは、速度の3乗に比例するはずで、秒速3470mとは100mを10秒で走ったとき(秒速10m)の347倍。するとハードさは3473=4160万倍。相手は死ななかったかもしれないけど、自分が死ぬのでは!?
何の疑いもなく人の命を奪ってきた男が、家族に恵まれて、初めて命の大切さを知る。だから素手や、危険の少ないモロモロで戦うのだが、それでも破壊力は抜群。このおかしさは何なのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります
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イラスト:花小金井正幸
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