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2017.8.29
電動カッターを搭載したマッハ号が陥る危険な暴走
いろいろできる多機能自動車の実現性を考察してみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「多機能な自動車」。ミサイルを撃ったり、水中を走ったりと、いろいろな機能が描かれてきたが、これらは現実世界で実現可能なのだろうか?
多機能カーといえばジェームズ・ボンド
自動車が大きく様変わりしつつある。
カーナビはここ10年で大きく進歩したし、自動ブレーキや自動運転も技術的には実用化目前だ。そのうち、道路状況に合わせてコースを選んでくれたり、自力で燃料もしくは電気の補充をしたり、さらには自ら洗車をしたりする車も現れるかもしれない。
携帯電話と同じように、自動車にも多機能化の時代が到来したということだろうか。だが、映画やアニメの世界を振り返れば、自動車が多くの機能を備えているのは、特別なことではなかった。
多機能のクルマといえば、映画『007』シリーズの「ボンドカー」だろう。このシリーズでは『ゴールドフィンガー』以降、毎回、ジェームズ・ボンドが乗る車にオドロキの仕掛けが施されていた。
水や煙幕を出したり、ナンバープレートが変わったり、天井が開いて運転席が上空に飛び出したり、マシンガンやミサイルをぶっ放したり、潜水艇になったり、ロケットブースターで加速したり、光学迷彩で消えたり…。
『007』の第1作が公開されたのは1962年。空想の世界では自動車は半世紀以上前から多機能化への道を突っ走っていたのだ。
これ、考えてみればすごいことである。
意外に難しいのが「潜水」
車がミサイルを撃ったり、座席を射出したりすることは、技術的に難しいことではない。どちらも戦闘機には標準装備されているのだから。
ボンドカーが見せた多彩な機能の中で、技術的にハードルが高そうなのは、潜水艇への変形である。これをやってのけたのは『007 私を愛したスパイ』(1977年)に登場したロータス・エスプリ(の改造車)だ。
敵に襲撃されたボンドカーは、防波堤から海に飛び込む。すると、水中でタイヤが引っ込み、スクリューと水中翼が出て、海中を進む。
それでも追いすがる敵をミサイルや魚雷で撃破し、海水浴客でにぎわうビーチから悠然と上陸したのだった。海水浴をお楽しみの皆さんも、ビックリしたでしょうなあ。
普通の車が潜水する難しさはいろいろあるが、最大の難点は「水の浮力で車体が浮いてしまう」ことだろう。
ロータス・エスプリは、全長4.191m、車幅1.860m、車高1.111m。体積をざっと計算すると6立方メートルだ。水の浮力は1立方メートルあたり1tだから、完全に水没すると6tの浮力を受ける。
つまり6t以上の車重がないと潜れない。ロータス・エスプリの車重は897kgだから、全然無理だ。
イギリス秘密情報部(MI6)がロータス・エスプリを徹底的に改造して、ヒミツの技術で潜れるようになっているのだろうが…。
ジャッキでジャンプは大事故の元
片や日本に目を向けると、1960年代、その多機能性で子供たちを魅了したのが、アニメ『マッハGoGoGo』(第1作、1967~68年)のマッハ号である。
このレーシングカーの仕掛けはすごかった。ハンドルのクラクション部にAからGのボタンがついていて、それらを押すと、次のようなことが起きる。
A:オートジャッキ。真下に4本の脚が伸びて、車体を目の高さより高く持ち上げる。
B:ベルトタイヤ。タイヤに悪路走行用のベルトが巻きつく。
C:カッター。前方の左右に2つの回転ノコギリが飛び出す。
D:ディフェンサー。オープンエアーの運転席が硬質プラスチック製の風防で覆われ、密閉される。
E:イブニングアイ。赤外線ライト。ヘルメットからゴーグルを下ろすと夜でも見える。
F:フロッガー。Dと組み合わせ、車内に酸素を満たすことで湖の底などを走れる。
G:ギズモ号。ツバメ形の小型飛行メカが飛び立って、いろいろ役に立つ。
(※第1作仕様)
すごい仕掛けのめじろ押しである(やっぱり潜水できるのもすごい)。
このスーパーマシンを作ったのは、主人公・三船剛の父親で、三船モータース社長の三船大助。恐るべきアイデアマンであり、エンジニアだ。
この偉大な父の技術の結晶を、剛はきわめて豪快に使っていた。
例えば、走行中にAのボタンを押して、オートジャッキの足を勢いよく伸ばす。この結果、マッハ号は大きくジャンプ!非常にカッコいいのだが、冷静に考えると、とても危険である。
オートジャッキが地面に着いてから1m伸びることで、高度10mまで車体がジャンプするとしよう。これは、オートジャッキがマッハ号の車重の10倍の力を出せば、実現可能である。
だが、この力をもってしても、ジャッキを1m伸ばすには0.15秒かかる。マッハ号が時速100kmで走っているとすれば、その間に車体は4.2m前進するのだ。
ジャッキの脚は当然、地面に着いたままだから、車体はつんのめって前転。目を覆いたくなるような大事故になるだろう…。
木を切りながら走ると切り株が危険
さらに危ないのは、Cのカッター。
直径80cmはありそうな回転ノコギリが、普通の車ならエンジンがある部分に収納されていて、走行中に森に差しかかると、これが前方へと飛び出し、木々を切り倒しながら疾走するのだ。
実に恐ろしい丸ノコである。製材所や大工さんの仕事を見ていると、回転ノコギリが木材を切断していく速度は、秒速20cmぐらいだ。
ということは、車に搭載した回転ノコギリで木を切りながら走るには、車も秒速20cm=時速0.72kmぐらいしか出せないはずである。
だが、劇中のマッハ号は、時速100kmぐらいでカッ飛ばしていた…。その丸ノコの切断力は、通常の回転ノコギリの140倍だ。
また、木を切り倒すときには、どの方向へ倒すかが極めて重要になる。実際の営林業者ならば、それに細心の注意を払い、倒したい方向に鉈(なた)で切れ目を入れてから伐採を始めるほど。
マッハ号のように、委細構わず丸ノコでギャンギャン切っていると、自分の方に倒れてくるのではないかと非常に心配だ。それに、木というものは、切り倒すと切り株が残る。切り口から上はカッターで除去できても、マッハ号は残った切り株に激突するのでは…!?
ボンドカーもマッハ号も、いろいろと心配になる部分が多いが、自動車の果てしない可能性を見せてくれたことは間違いない。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。
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イラスト:古川幸卯子
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