1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 安室透の驚異の身体能力/名探偵コナン
空想未来研究所2.0

安室透の驚異の身体能力/名探偵コナン

『名探偵コナン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『名探偵コナン』。劇場版最新作がヒットを記録する中、ファンも多い安室透の身体能力のスゴさをエネルギーの観点から考察しました。

『名探偵コナン』は、壮大な作品だ。

マンガの連載が始まったのは1994(平成6)年で、単行本は現在までに107巻。アニメの放送開始は1996(平成8)年で、今年の5月3日放送回で第1161話。劇場版の初公開は1997(平成9)年で、最新作の『隻眼の残像(フラッシュバック)』が28作目。公開されなかったのは2020年だけで、新型コロナウイスルのまん延が、それほど大きな出来事だったと実感する。平成・令和史は『コナン』を抜きには語れない。

この長い歴史の中で、中盤から彗星(すいせい)のように現れたのが、安室透(あむろとおる)である。

初登場は、マンガが75巻(67巻で名前だけが黒ずくめの男たちの話題に上がっている)、アニメが667話、劇場版が2016年『純黒の悪夢(ナイトメア)』。毛利探偵事務所の階下にある喫茶「ポアロ」でアルバイトをしている自称・私立探偵だが、その正体は警察庁警備局警備企画課、通称「ゼロ」に所属する公安捜査官。本名、降谷零(れい)。黒ずくめの組織にも、コードネーム“バーボン”で潜入している。マンガとアニメでは、この「トリプルフェイス」が、少しずつ明かされていった。射撃でも、車の運転でも信じがたい腕を見せ、推理もさえ渡る。「安室が活躍する劇場版はヒットする」とさえ言われ、公開中の『隻眼の残像』でも、ストーリーの要にいる。

この安室透に、劇場版を題材にエネルギーの視点から迫ってみよう。もちろん未視聴の読者のために、ストーリーには一切触れず、説明は必要最低限にとどめたい。前後の関係を知りたい方は、ぜひ作品をお楽しみください。

ヘリコプターに跳び乗った!

安室は身体能力も人並みではない。

印象に残るのは『ハロウィンの花嫁』(2022年公開)だ。犯人がビルの屋上からヘリコプターで逃げる。機内で爆発が起こり、ヘリは横回転しながらフラフラと飛ぶ。屋上にいた安室は、助走してジャンプ! 着陸用の脚にしがみつき、機内に突入した。空中を飛んでいた時間は4.2秒。これはスゴイ!

跳んだ瞬間、ヘリは屋上よりやや上を飛んでいた。ここでは、話の複雑化を避けるために、空気抵抗を無視し、「跳んだ瞬間の高さと、着陸脚につかまったときの高さが同じ」だったと仮定しよう。すると、安室は2.1秒間上昇し、2.1秒間下降したことになる。こうした斜め上へのジャンプは、鉛直方向(上下)と水平方向に分けて考えることができる。

まず鉛直方向。上昇時間から、鉛直初速(鉛直方向に離陸した速度)と上昇高度が分かる。

鉛直初速[m/秒]=重力加速度[m/秒2]×上昇時間[秒]
上昇高度[m]=1/2×重力加速度[m/秒2]×上昇時間[秒]2

重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地上の場合は9.8[m/秒2]の値を取る。ここから、安室は鉛直方向に、9.8×2.1=秒速20.58m=時速74kmで跳び上がり、高度21.609mに達したことに!

安室が最大飛距離を目指したとすれば、斜め上45度に跳んだことになる。この場合、実際に跳んだ斜め上向きの速度は、鉛直初速の√2=1.414倍、飛距離は上昇高度の4倍になる。すなわち安室は、秒速20.58m×1.414=秒速29.1m=時速105kmでジャンプし、水平方向には86.4m跳んだ!

エネルギーについては、次の式で求められる。

発揮したエネルギー[J]=1/2×体重[kg]×離陸速度[m/秒]2

問題は体重だが、安室の身長・体重は公式発表されていない。ここでは180cmと仮定しよう。BMI(体重[kg]÷身長[m]2)が、理想とされる「22」とすれば、体重は22×1.82=71.28kgになる。四捨五入して71kgで計算すると、このジャンプで発揮したエネルギーは、1/2×71×29.12=3万Jだ。

後の項目との比較のために、体内で消費されたエネルギーを考えよう。人間が運動するとき、体内では、外部に発揮したエネルギーの3倍が消費される。安室のジャンプでは9万Jだ。「1kcal=4184J」の関係から、21.5kcal。白飯(100g当たり170kcal)に換算して12.7g……えっ? 握り寿司のシャリでさえ、1個15~20gなのに!?

逆に、オドロキではないだろうか。人間は、寿司のシャリ1個分に満たないエネルギーで、高度21m、飛距離86mのジャンプができる! いや待て、何が「人間は」なものか。安室透だからできるのだ。

車の運転がスゴ過ぎる!

安室透を語るのに、車の運転は外せない。

愛車はマツダのアンフィニRX-7。そのテクニックが全開したのが、『ゼロの執行人』(2018年公開)だった。

車体を大きく傾けて、渋滞する車の間を片輪で走り抜ける! 速度は時速180km! トレーラーの斜面を駆け上ってジャンプ! 向かってくる電車の屋根に着地して、そのまま走る! 電車の走路(新交通ゆりかもめのようなコンクリートの路面)に着地して、しばらく走ると、また正面から電車が! 今度は車体を左へ大きく傾けて、「左の車輪は走路の横のコンクリートの上、右の車輪は電車の側面を転がる」という超絶テクニックですれ違った!

最後の走りなど、電車がこちらへ向かってくる分だけ、右側の車輪が速く回転しなければ実現できないと思われる。RX-7って、そういう仕様なの? 安室だからできるの!?

エネルギーの計算で、参考になるのはF1ドライバーだ。最長2時間と定められたレースで、1500kcalを消費するという。F1ドライバーも電車の屋根や側面を走ったりはしないと思うが、時速300kmを超えるので、安室も同じペースでエネルギーを消費したと考えよう。安室の激走は3分ジャストだった。すると、37.5kcalを消費したことになる。 比較すると、ジャンプでは一瞬で21.5kcal、車の運転では3分かけて37.5kcal。パワー(1秒当たりのエネルギー)は前者が上だが、やっていることがスゴ過ぎて、甲乙付けがたい!

超人たちの連携

安室透には、ライバルがいる。FBI捜査官の赤井秀一だ。

彼もまた黒ずくめの組織にコードネーム“ライ”で潜入し、車の運転も射撃も常軌を超えている。射撃では、赤井がライフルを、安室がピストルを使うなど、好対照だ。2人は立場の違いから、そしてある誤解から対立することも多いが、『純黒の悪夢』では、見事な連携を見せた。

東都水族館に南北2基の観覧車が完成。ところが北側の観覧車が回転軸から外れて、大勢の来場者に向かって転がり始めた! 南側の観覧車に乗っていたコナンは、伸縮サスペンダーの端を観覧車に固定し、安室がコナンをすくい上げるようにして投げる! こうしてコナンを北側の観覧車に到達させ、サスペンダーで動きを止めようという作戦だ。コナンは「届け~!」と叫んで右手を伸ばすが、わずかに飛距離が足りない! 誰もが絶望したそのとき、北側の観覧車に乗っていた赤井が、コナンの右腕をガシッとつかんだ!

2人が発揮したエネルギーはどれほどか。

安室は、コナンを仰角45度ほどで投げ上げ、2.0秒後に最高点に到達させていた。単行本10巻で、コナンの体重は18kgであることが明らかになっている。繰り返しを避けるために詳細を省くと、安室が体内で消費したエネルギーは5.0kcalだ。

一方、赤井が受け止めたとき、コナンは上昇した高度の2倍ほど落下していた。「赤井が受け止めた速度」が「安室が投げた速度」を上回るため、赤井が体内で消費したエネルギーは7.4kcalとなる。おお、赤井が安室を上回った!?

だが、「力」に注目すると、さらに差は大きくなる。「エネルギー=力×距離」の関係があり、安室が「すくい上げる」という大きな動作で投げたのに対し、赤井はガシッと短い距離で受け止めたからだ。計算過程は省くが、安室がコナンを1m動かして投げたとすれば、出した力は706kg、赤井が手を10cm動かしてコナンを受け止めたとすれば、発揮した力は10.6t!

とはいえ、赤井は飛んできたコナンをキャッチしただけ。これに対して安室は、転がっていく観覧車にコナンを到達させたのだ。「力の赤井、技の安室」と、両者をたたえるべきだろう。

エネルギーの使い方が効率的!

ここまで読んで、やや物足りなさを感じている読者もいるだろう。
『空想未来研究所2.0』に出てくる数値は、「万」や「億」が普通なのに、安室が発揮・消費したエネルギーは、せいぜい数十kcal。人間は、なんと無力なのか……と。

だが人間は、知恵と工夫で、大きなエネルギーを制御してきた。安室もまた数十kcalのエネルギーで、莫大(ばくだい)なエネルギーが放たれたであろう事故を、何度も食い止めてきたのである。公開順に振り返ってみよう。

『純黒の悪夢』で転がり始めた観覧車は、最高点の高さが100mと言われていた。高さ日本一のオオサカホイール(高さ123m、直径115m、重量2130t)と比較すると、直径93m、重量1400t。これが横倒しになったときに、放たれるエネルギーは6億4400万J=15万4000kcalである。これを、エネルギー消費5.0kcalの「コナン投げ上げ」で阻止したのだから、エネルギー効率は3万1000倍と言えるだろう。

『ゼロの執行人』では、火星探査機のカプセルが秒速10kmで落ちてきた。「直径は4mを超える」と言われていたから、はやぶさ2のカプセル(直径40cm、16kg)と比較すると、重量は16t以上! これが秒速10kmで落下するエネルギーは8000億J=1億9100万kcal以上! これを37.5kcalの運転で回避したということは、エネルギー効率は510万倍以上!

『ハロウィンの花嫁』には、混ぜると大爆発を起こす赤と青の液体が登場した。悪人が、これを渋谷の東西の坂道から大量に流す! スクランブル交差点辺りでは、既に深さ10cmほどにたまっていた。地図で測ると道幅は15m。たまっていた範囲は200mほど。この目測が正しければ、2色合わせて300㎥がたまっていたと見られる。密度がニトログリセリン(1.6㎏/L)と同じなら480t。爆発の威力もニトログリセリン(1520kcal/kg)と同じなら、もし混ざったら、7億3000万kcalが放たれていた。21.5kcalのジャンプがそれを防いだとなると、エネルギー効率は3400万倍! 作品を重ねるごとに、順調に向上している!

普段は優しいお兄さんだが、その笑顔に隠された正体は、悪の組織にも深く入り込んでいる公安捜査官。行動はいつも予測不能なほど大胆で、死線を何度もかいくぐっている。しかし、その身を賭した平和への貢献が、表に出ることは決してない。こんなゾクゾクする人物が不意に現れるからこそ、30年を超えて愛されて続けているのではないだろうか。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 安室透の驚異の身体能力/名探偵コナン