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2025.9.10
ロイドもかなわない!? ヨルさんのスゴい身体能力/SPY×FAMILY(スパイファミリー)
『SPY×FAMILY』で描かれたエネルギーについて考えてみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』。10月からはTVアニメSeason 3の放送も決定! 今回はこれまでの中で印象的だった3つのシーンを、エネルギーの観点から考察しました。
夫はスパイ、妻は殺し屋、娘は人の心が読める超能力者!
それぞれの思惑で家族を偽装する3人が、気がつけば互いを思いやっている。
10月4日から始まるアニメ第3期も楽しみだ。
「空想未来研究所2.0」でも、『SPY×FAMILY』を研究するのは2回目だ。前回の2023年12月の回では、ヨルさんの「テニスでサーブして、ボールをコマ切れにする」「人間を蹴って壁→地面→壁でバウンドさせる」から、彼女が発揮した恐るべきエネルギーを計算した。
だが、まだまだ研究し足りない!
直後に公開された『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』でも、ヨルさんたちは大活躍したし、マンガやアニメでも、ビックリのシーンをいくつも発見している。
その中から、筆者の胸が震えた3つのシーンを取り上げよう。
エネルギーの観点から、どれもビックリだ!
ウサイン・ボルトに楽勝する!
まずは、劇場版アニメのクライマックスから。
ヨルさんは、飛行戦艦の船倉で、機械人間「タイプF」と戦う。船倉の壁際には、高い位置に回廊があり、タイプFは回廊を走るヨルさんを、両腕のガトリング砲(大型機関銃)で撃ちまくる。砲身を横に動かしながら撃ってきて、ヨルさんが駆け抜けた直後の壁に、弾丸がダダダダダと撃ち込まれる。しかし、当たらない!
状況は、明らかにタイプFが有利である。銃身をわずかに動かすだけで、着弾点は大きく移動するのだから。それでも当たらないとは、どんなスピードで走ったのか?
筆者の目測では、タイプFは砲身を1秒に45度ぐらいの角度で動かしていた。ヨルさんまでの距離は30mほど。最も簡単に計算できるケースとして、タイプFから見てヨルさんが真横に走っていた瞬間を考えると、着弾点の移動速度は秒速23.6m=時速84.8km。これにギリギリで追い付かれなかったヨルさんは、同じ速度で走っていたと考えられる。100m走のタイムは4秒24!
ウサイン・ボルトが保持する男子100mの世界記録9秒58と比べると、44.3%という短さである。2人が100m競走をしたら、ヨルさんがゴールしたとき、ボルトはまだ44m地点を疾走中ということだ。
速度では2.26倍も速い。同じ時間で消費するエネルギー(仕事率=運動の激しさ)は、「体重」と「速度の3乗」に比例するから、体重当たりの仕事率(体への負担)で比べると、ヨルさんは人類最速の男の11.5倍もハードな運動をしていた!
魚を新幹線より速く投げる!
ロイドは、変装や情報収集で驚異の技術を見せるが、戦ってもモノスゴク強い。
そんなロイドの身体能力が、コミックス2巻の『EXTRA MISSION:1』で描かれた。
せっかく家族で水族館に出かけたのに、情報局本部から任務が入る。「極秘情報のフィルムを飲み込んだペンギンを確保せよ」。そのペンギンはすぐ特定できて、ロイドは飼育係に変装してペンギンパークに入り込む。だが、餌やりを終わらせなければ、任務に移れない。ペンギンは200羽! 種類も多く、食べる魚も違う。「ペンギンの名簿」にざっと目を通し、ベテランの動きから、ペンギンたちの個性を把握したロイドは、左手でバケツを持ち、右手で魚を投げて、200羽のペンギンへの餌やりをたちまち完了した。アニメで測定すると、所要時間は5秒!
200羽のペンギンを見分け、それぞれに適切な魚を投げ、全てペンギンの口に命中させた点は、さすがすご腕のスパイと感嘆するばかりだが、科学的にはもっと単純なことに驚く。わずか5秒で、200匹の魚を投げたことだ。
これはもう、とてつもない速度で手を動かしたはずである。ロイドは、魚を1匹ずつ投げていたから、1秒で40回=1回当たり0.025秒。しかも一投ごとに、腕は真っすぐ伸びている。手を60cm動かしたとすれば、往復1.2mで、平均速度は1.2m÷0.025秒=秒速48m。魚を取っては投げるといった往復運動では、最高速度は平均の2倍となって、秒速96m=時速346km!
ペンギンたちも、新幹線より速く飛んでくる魚を口で受け止めたらダメージが大きいだろう。恐らくロイドは腕が伸び切る前に魚をリリースするなどして、速度を調整したと思われる。ダーツ(競技)でも、腕が伸び切る前にダーツ(矢)を離すという。狙いを定める効果もあったのかもしれない。
この激しい運動で、ロイドはどれほどのエネルギーを消費したのだろう。
プロボクサーのストレートは時速40kmに達するというが、ロイドの手のスピードはその8.6倍。同じ体重のボクサーと比べると、一投ごとのエネルギーは速度の2乗に比例して75倍。史上最速の連打と言われるシュガー・レイ・レナードの動画を視聴すると、1秒で5発を放っているように見えるシーンもある。ロイドはその8倍だから、1秒当たりのエネルギーは75×8=600倍である!
身長187cmのロイドの体重を70kgと仮定して計算すると、このペンギンの餌やりで、2780kcalを消費したもようである。人間が1km走ると体重当たり1kcalを消費するから、40kmを走ったのと同じ!
たった5秒で、これだけのエネルギーを消費しながら、ロイドは息一つ乱さず、目標のペンギンを捕獲した。あまりにも恐るべきスパイだ!
ジェット旅客機より速い!
このときのロイドを上回る身体能力を、ヨルさんはしばしば見せる。
その一つがアニメ第1期の19話。原作マンガにはない、アニメオリジナルのエピソードである。
ヨルさんがアーニャの忘れ物を届けようと学校へ急いでいると、視界の端に植木鉢が落下してくるのが映った。ビルの5階の住人がベランダに置いたものが、風にあおられて落ちてしまったのだ。ヨルさんはとっさに落下点に移動し、右足で植木鉢を受け止めると、そのまま逆立ちの体勢になって、植木鉢を蹴り上げる! 植木鉢は真っすぐ上昇して、5階のベランダの元あった場所に戻った。住人は植木鉢が落ちたことにも、戻ってきたことにも気付かない。
ビックリの連続だが、まず驚くべきは、植木鉢が道路に激突する前にヨルさんが落下点に入れたことだ。建物1階分の高さを3m、窓辺の高さを1mとすれば、落下した高度は3m×4+1m=13m。地球上では、この高さから落下した物体は1.628秒で地面に激突する。
そして、ヨルさんが植木鉢の落下に気付いたとき、植木鉢は既に地上2mほどに達していた。そこから道路に落ちるまで0.130秒しかない! しかもヨルさんは、右足を上げてキャッチしている。ヨルさんの身長を165cmと仮定してアニメの画面で測定すると、キャッチした高さは地上1m34cm。植木鉢が地上2mからその高さに達するまで、たったの0.044秒!
ヨルさんは、この短時間で落下点に入り、足で受け止める体勢を整えたのだ。植木鉢の落下点は、ヨルさんが立っていた場所から10mほど離れていた。0.044秒を全て移動に使ったとしても、その平均速度は10m÷0.044秒=秒速225m=時速810kmだ。ロイドの魚投げと同様に、このような「停止→走る→停止」という運動では最大速度は平均の2倍になって、時速1620km=マッハ1.3! ジェット旅客機(時速900km)より速い!
精度もスゴイ!
ここからのシーンにも目を見張る。
逆立ちの体勢で植木鉢を蹴り上げたが、植木鉢が足を離れた高度は地上1m90cmほど。5階の窓の高さは13mだから、植木鉢を11.1m上昇させたことになる。蹴り上げる瞬間の速度は、時速53.12kmだったはずだ。
いつにも増して数字が細かいのは、これよりわずかに遅くても、速くてもNGだからである。もし速度が遅ければ、植木鉢はベランダに届かずに落ちてくる。速過ぎれば、ベランダより高く上昇して、最高点との高低差の分だけ落下することになる。大きな音がするか、ヘタをすると割れてしまっただろう。植木鉢が無事で、住人が気付きもしなかったということは、最高点との高低差はせいぜい10cmほどだったのではないか。そうなる速度とは、時速53.36km以下である。
つまり、ヨルさんは時速53.12km以上、時速53.36km以下で蹴り上げた! 中間の時速53.24kmを狙って蹴り上げたとすれば、誤差を0.22%以下に収めたことになる。ヨルさんは強いだけでなく、極めて繊細なのだ。
そもそもヨルさんは、なぜ植木鉢が5階の窓辺から落ちてきたのが分かったのだろう? 落下し始めた瞬間を見ていないし、落下しているのを見たのも、ほんの一瞬だ。筆者が思うに、足で受け止めたときの「足ごたえ」から、全てを割り出したとしか考えられない。
植木鉢を足で受け止めたとき、ヨルさんが得られた情報は、次の2つだけだったはずだ。
① 受け止めるのに必要な力
② 止まるまでに足を動かした距離
だが、この2つのデータが得られれば「エネルギー=力×距離」の関係から、次も分かる。
③ 植木鉢の運動エネルギー
受け止めた後、植木鉢を静止させれば、次も把握できる。
④ 植木鉢の質量(重さ)
さらに「エネルギー=1/2×質量×速度²」から、次も割り出せる
⑤ 受け止めた地上1m34cmでの速度
そして「2×落下高度×重力加速度=速度²」から、これが計算できる。
⑥ 落下高度
最後に、同じ関係式から、いよいよ答えが出る。
⑦ 地上1m90cmからその高度に到達させるための速度
ヨルさんは、こんな計算をやったの!?
そういえばヨルさんは、受け止めた植木鉢を足で上げたり下げたりして、何かを感じ取ろうとしていた雰囲気だった。とはいえ、その時間はアニメを見る限り3秒。この短時間で、7つもの測定&計算をして、誤差0.22%以内で蹴り上げた!? ヨルさん、すご過ぎる!
マンガやアニメの作り手は、登場人物がどんな人であるかを、絵と言葉で伝えようとする。読者や視聴者は、決して手の届かない紙面や画面の向こうから、それを感じ取って、笑い、感動し、親近感を抱く。感じ取る手段として科学を使っている筆者も、その点は同じである。実に幸せなキャッチボールだ。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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イラスト:花小金井正幸
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