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電気代は1日2000万円超!? 無限城の広さとは?/鬼滅の刃

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『鬼滅の刃』。7月に公開がスタートした最新劇場版では、全ての鬼の始祖・鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじむざん)の本拠である無限城を舞台に上弦の鬼との熾烈な戦いが繰り広げられる。今回は猗窩座(あかざ)の強さ、そして無限城という空間について、エネルギーの観点から考察しました。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』には震えた。そして、泣いた! マンガで何度も読んで、よく知っている話なのに、新たな感動にいくつも出会えた。

まず心に刺さったのは、上弦の参・猗窩座である。病身の父の薬を買うために、ひたすら強さを求めて社会からはじき出された。ようやく始まった新しい生活も、胸も張り裂ける事件で破壊された。呆然自失の中、鬼舞辻󠄀無惨に血を分け与えられて鬼となった。この第一章は、猗窩座の映画だったと言っても過言ではないだろう。

そして、無限城が内外から細かく描かれた。上下も左右もメチャクチャで、上弦の肆(ろく)・鳴女(なきめ)の琵琶で構造が変わる……のはマンガでよく知っていたが、映画を見て城の広大さに驚いた。主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)がとてつもない高さを落ちていたし、鬼殺隊士(きさつたいし)たちがどこまで走っても廊下が続いた。外が見えるシーンでは高い建物が林立していて、城というより都市のイメージだった。

猗窩座の強さと、無限城の大きさ。この2つに、エネルギーの観点から迫ってみよう。

同時に百発の乱れ打ち!

猗窩座は、炭治郎&水柱・冨岡義勇との激闘の中で、最強の技「終式 青銀乱残光(あおぎんらんざんこう)」を放った。虚空にパンチを連打すると、無数の青い光弾が四方八方に放たれ、無限城の壁や柱や床を破壊する。

義勇は「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」で迎え撃ったが、全ては防ぎきれず、胸に被弾してしまった! 義勇は独白する。「不可避だ ほぼ同時に百発の乱れ打ち」。炭治郎は、相手の体の内部まで目視できる境地「透き通る世界」に目覚めていたため、青銀乱残光の光弾さえ目でとらえ、ギリギリでかわしていた。

この光弾は、一体何か? 一見、拳から衝撃波が放たれたようにも見える。衝撃波とは、音速を超える運動や、爆発によって発生する「音の一種」で、圧力の高い領域が超音速で伝わり、建物や人身に被害を与えることがある。そして、空気は密度や圧力によって屈折率が変わるため、衝撃波は目視もできる。

だが、衝撃波は進むほど広がっていくから、青銀乱残光のように一定のサイズで飛ぶことはないし、炭治郎のようにギリギリでかわしたりもできない。ここは、鬼たちの使う「血気術」によって、「われわれの知らない何か」を放ったと考える方が、物語世界の真実に近いだろう。

驚くべきは、それが「ほぼ同時に百発」も放たれたこと。どれだけ短い時間を識別できるかを「時間分解能」という。『動物は世界をどう見るか』(鈴木光太郎/新曜社)のデータから計算すると、無限城のように薄暗いところでの視覚情報に関しては、平均0.1秒。それより短い時間に起きる視覚現象は「同時」に感じられる。義勇の言葉から推測すると、おそらく青銀乱残光では0.1秒に100発の光弾が放たれたのだろう。猗窩座も、同じペースで拳を動かしたと考えられる。

猗窩座の拳が50cmの距離を動いたとしたら、拳の平均速度は0.5m÷(0.1秒÷100)=秒速500m。パンチのような往復運動では、最高速度は平均の2倍になるので、秒速1000m=マッハ2.9! その拳から放たれる青銀乱残光も、同じ速度で飛んでくるのだろう。ライフル弾(秒速800~1000m)の最高速度に等しく、確かに不可避!

では、その恐るべき技のエネルギーは?

人間の片腕の重量は体重の5%だが、体重移動などによって、パンチのエネルギーは体重の6%の物体が、パンチと同じ速度でぶつかったのと同じになる。公式ファンブック『鬼滅の刃 鬼殺隊見聞録・弐』(集英社)によれば、猗窩座の体重は74kg。その6%とは4.44kgで、標準的なライフル弾(弾頭重量10g前後)と比べると、大胆に四捨五入して400倍だ。

これがライフル弾と同じ速度で動くのだから、猗窩座のエネルギーはライフル弾の400発分。たった1発で! 実際には0.1秒に100発だから、1秒間では1000倍の40万発分! 映画の記憶では、青銀乱残光は少なくとも10秒は続いたから400万発分! これはあくまでパンチの威力だが、青銀乱残光も同じくらいだったら……と思うと、背筋が寒くなる。

炭治郎はどれだけ落ちた?

無限城の巨大さは、炭治郎の落下に現れていた。突然、床が開いて落ち始めたのだが、落ちても、落ちても、まだ落ちる! これは時間を計らねば、と思ったときには時すでに遅し。翌日、また見にいって測定した。映画館でストップウォッチやスマホなど音や光の出る機器はNGなので、ガリレオ・ガリレイが振り子の等時性(振り子の周期は長さだけで決まる)を明らかにした時にならって、自分の脈拍で。すると、160秒=2分40秒!

もし、空気抵抗がなかったら、落下した高度は1/2×9.8(重力加速度)×1602=12万5000m=125kmになるけど、もちろん無限城にも空気がある。空気抵抗を考慮して計算すると、落下高度は8671m。エベレスト(8848m)より177m低いだけ! 無限城は重力が弱いのかもと思って計算したけど、重力が半分でも6067m、10分の1でも2610m。いくらなんでも、ここまで高くはないだろう。

だが、無限城が高層建築だったのは間違いない。鬼殺隊を統率する産屋敷輝利哉(うぶやしききりや)が、連絡係の鎹鴉(カスガイガラス)たちに城内を探索させていると、こんな報告が来た。「百ト三十三ノ層、走破。無惨、不在」。少なくとも133階まではあるらしい!

無限城は1階の高さが4mほどに見えたから、150階建てだとすると高さ600m! 木造建築でこれはスゴイ。現在、オーストラリアで182m、アメリカで187mというハイブリッド木造高層ビルが計画・建築中だが、無限城は純木造でその3倍を超える!

無限城の電気代は?

無限城の広さはどれほどだろう。

冒頭に書いたように、無限城は都市そのものに見えた。ひょっとして、都庁などがある高層ビル街(新宿区西新宿二丁目)ぐらい? もっと広い気もするけど、あんまりすごい数字が出ても想像が追いつかないので、地図で考えよう。西新宿二丁目を地図で測ると、南北540m、東西360m。面積は19万4400㎡。その半分の面積に、平均150階の建物が立っているとすれば、延床面積は14.58㎢!

人々は廊下を走って移動していたが、その長さはどれほどなのか。無限城は廊下が広いので、幅を二間(けん)=3.6mとしよう。廊下が延床面積の10%を占めるとしたら、長さは405km。東京から直線距離で大阪まで(都府庁間396km)を超える! 走っても、走っても、終わらないわけですなあ。

これほどの広さになると、心配なことがある。

1つは、エネルギーの問題だ。城内の天井には白熱電球がともっていたが、この巨城となると電気代がスゴイことになるのでは?

3m間隔で40Wの電球がついているとすれば、1個の電球で3×3=9㎡をカバーできることになる。必要な電球の個数は、延べ床面積(14.58㎢=1458万㎡)÷電球1個のカバー面積(9㎡)=162万個。消費電力は6万4800kW。1日に12時間つけたら、消費電力量は77万8000㎾hで、現代(1㎾h当たり30円)なら1日2333万円、1カ月で7億円! 鬼舞辻󠄀無惨って、どんだけカネ持ちなの!? いえいえ、血気術でともしていたんでしょうなあ。

もう1つ心配なのは、鎹鴉たちだ。筆者の目には100羽ほどいたように見えたが、それでも広大な無限城を探索するのは、大変な苦労だったのではないか?

カラスが場所を移動したり、餌を探したりする時の「巡航速度」は時速60km。これは分速1kmだから、総延長405kmの廊下も、100羽がかりなら4分で調べられる! また、人間は目のレンズの厚さを変えることで、遠くのものにも近くのものにもピントを合わせられるが、カラスの目にはこれに加えて、角膜をズームレンズのように突出させて、遠くのものを拡大して見る機能も備わっている。探索にはもってこいの人材、いや鳥材なのだ。

とはいえ、廊下を飛び回っただけで「百ト三十三ノ層、走破。無惨、不在」といった重大報告をするわけにいかないだろう。部屋の中も調べるとなると、自慢のスピードも出せないし、遠くを見る能力も生かせない。一体、どれほどの時間がかかるのか。

それは、無限城にどれくらいの部屋があるのかにもよる。無限城の総床面積14.58㎢のうち、前述のように10%が廊下だとすると、残りは13.122㎢。壁の厚さなどもあるし、計算の負担を減らすためにも、部屋の総面積を13㎢としよう。1部屋の面積が平均30畳だとすると、それは50㎡。その場合、無限城の部屋数は26万! 100羽態勢なら、1羽が2600部屋を担当することになる。1部屋を5秒で調べたとしても、1万3000秒で、3時間37分かかる。おお、無限城編 第一章の上映時間=2時間35分では、無惨は見つからなかったけど、第二章では見つかるかも知れん!

1000年も生きてきた鬼が、人間に血を分け与えて鬼に変える。その想像から、さまざまな鬼や、それを狩る者たちや、その祖先までもが生み出され、コミックス23巻に及ぶ物語となった。そしてマンガが終わってなお、原作に忠実な映画が少しずつ丹念に作られ、新しい感動と、次への期待を与え続けている。原作者の想像が、多くの作り手の想像をかき立て、誰も見たことのない世界が結晶しつつあると言えるだろう。人間の想像力は本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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