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2017.10.24
仙豆は1粒約6kg!食べたら強くなる最強のスーパーフードは?
肉体強化や治癒ができる不思議な食べ物を考察してみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「不思議な食べ物」。ナウシカのチコの実やドラゴンボールの仙豆(せんず)といった超常的な食べ物が、人体にどのような影響を及ぼしていたのかを考えてみました。
数粒で夕飯代わりになる魔法の実
空想の世界には、しばしば不思議な食べ物が登場する。
例えば、『風の谷のナウシカ』(1984年)の「チコの実」だ。腐海の底で、ナウシカがアスベルに渡した小さな木の実。アスベルはカリカリと心地よい音を立てて噛み、飲み込んだかと思うと、猛烈に顔をしかめる。
アスベルが裏返った声で「不思議な味のする実だね」と言うと、ナウシカは「チコの実というの。とっても栄養があるのよ」。そんな会話を交わしながら、チコの実をいくつか食べて、2人は眠りに就く――。
ここから分かるのは、チコの実は、あまりおいしくないが、夕食の代わりになるほど栄養があること。豆粒ほどの小さなサイズながら、たくさんの栄養を含んでいるのだろう。
考えてみると、現実世界には、こうした食べ物はない。足りない栄養素を補給するサプリメントはあるけれど、数粒食べれば、食事の代わりになるという食品は存在しないのだ。
そういうものがあれば、忙しくて食事の時間も取れない人は大変助かるだろうに、なぜだろう?
その不思議を考えながら、空想の世界の不思議な食べ物を見ていこう。
1粒で3万3600キロカロリー
1粒食べれば栄養は十分。そう聞くと思い出すのは、漫画『ドラゴンボール』(1984~95年)の「仙豆」である。
直径1cmほどの小さな豆だが、1粒食べれば、10日は何も食べなくて平気で、傷ついた体も治る。
これは、仙豆1粒には「人間が10日間に必要とするエネルギーが含まれている」ということだろう。では、その成分は何なのか。
人間がエネルギー源にできるのは、炭水化物、脂肪、タンパク質の3つだけだ。
作中、仙豆はクリリンらの地球人にも効果があったから、あの小さな豆には“人間”が10日間に必要とする炭水化物などのエネルギー源がギューッと凝縮されているのではないだろうか。
だとしたら、重さが大変なものになる。先ほどの3つがエネルギー源になるのは、どれにも炭素と水素が含まれるからだ。
これらが酸素と結びついて二酸化炭素と水になる反応で、1gあたり炭水化物とタンパク質からは4キロカロリー、脂肪からは9キロカロリーが出てくる。
エネルギーの源が炭素と水素である以上、どんなに凝縮しても、この重さとエネルギーのバランスは変わらないはずだ。
体重70kgでよく運動する男性は、1日に3360キロカロリーを必要とする。
大豆と同じ栄養バランスで、男性1日あたりのエネルギー量を含む重さとは、水分がまったくない場合でも590g。つまり、最低このぐらいの重さがないと、1日に必要とするエネルギーは内包できない。これが、「1粒で1日の栄養は十分」というサプリが存在しない理由だ。
すると、10日分=3万3600キロカロリーを蓄える仙豆はどうなるのか。当然、1個の重さは最低5.9kg。わずか直径1cmで、13ポンドのボウリング玉と同じ重さだ!
そう考えると「この豆、果たして便利なのか」という気がしてきますなぁ。
疲れ果てて体も痛み、体力を回復しようと食べたら、13ポンドが胃にズシン!モーレツに胃もたれしそうだ。
体調が急激に改善する!
マンガには、食べると体調が劇的に改善される食べ物も登場する。
例えば、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(1987年~)の第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場したトニオ・トラサルディーが作るイタリア料理。
トニオはすごい料理人で、客の体調を瞬時に見抜く。作中では、虹村億泰というキャラクターが、腸の壁が荒れていて、寝不足で、虫歯が2本あり、左肩が凝っていることを見抜いたのだ。
最初に出された水を飲むと、億泰の目から涙がドボドボと異様な量であふれ出た。涙が止まったとき、億泰は10時間熟睡したような爽快な気分になっていた。
恐るべきことである。その水、ぜひとも飲んでみたい!が、科学的にはちょっと心配でもある。
涙は涙腺で血液中の水分から作られる。涙をドボドボ流すのは、血液をドボドボ流すのと同じなのだ。しかも水分だけが失われるため、血液はドロドロになる。トニオには、それを改善する料理も作っていただきたい。
また、最初に出された料理「モッツァレラチーズとトマトのサラダ」を食べると、億泰の左肩から垢(あか)がポロポロ落ちてきて、ソフトボールぐらいの大きさにたまる。そして、肩凝りがなくなった!
これも素晴らしい料理だ。肩凝りの原因は、筋肉が疲労して硬くなり、血行を阻害すること。おそらくトニオの「モッツァレラチーズとトマトのサラダ」は、新陳代謝を促して、血行も良くしたのだろう。
これ、具体的にどれほど血行が良くなったのか計算してみたら、アッと驚く結果になった。
人間の表皮は厚さ0.2mmで、毎日少しずつはがれ落ちて垢となり、4週間で入れ替わる。
億泰の左肩の直径10cmの領域から垢が出て、ソフトボールと同じ大きさになったとしたら、それは1200週間=23年分の垢。これが時間にして1分で出たとしたら、「モッツァレラチーズとトマトのサラダ」は、左肩の新陳代謝を1200万倍にも促進したことになる。つまり左肩の血流の速さは1200万倍に。あまりにすごい料理だ。
食べなくても強い?
食べると、たちどころに強くなる料理もある。
だいぶ古くなるけれど、有名なのはアメリカンコミックの『ポパイ』に登場する「ホウレンソウの缶詰め」だろう。食べると、たちどころに上半身がパンプアップして、それまで一方的にやられていたブルートをぶっ飛ばす。
このスーパー食品には、2つの大きな謎がある。
一つは、効き目があまりに速いこと。
人間は、飲食物を摂取してから吸収するまでに、最短で30分を要する。ときどき栄養ドリンクなどを飲んで「プハ~ッ、効いた~!」と満悦している人がいるが、完璧な気のせいである(…でも、筆者もよくやる)。
この人体の仕組みから考えると、ポパイもブルートが悪事を働く30分前を見計らってホウレンソウを食べる必要があるはず。もちろん、作中では食べてすぐに強くなるから、不思議な即効性だ。
もう一つは、ポパイがホウレンソウの缶詰めを握りつぶして開けること。
そんなことをするには、500kgほどの握力が必要なはずだ。食べる前から十分に強い!
食べて強くなる食べ物は、昔話にも出てくる。
室町時代に創作されたとされる『桃太郎』のキビダンゴは、本にもよるが「食べると10倍に強くなる」と伝えるものもある。だから、犬、猿、雉(きじ)という、いかにも弱そうな軍勢で鬼に勝てたというのだ。
「10倍に強くなる」というのが「筋力が10倍になる」という意味だとしたら、それはすごい。
10倍の重さのものが持ち上げられるだけでなく、ジャンプ力は10倍に、走る速さは√10=3.2倍に。桃太郎が本来100mを12秒で走れたとしたら、そのタイムは3秒79!
しかもこのダンゴは小さいので、いくつも食べられるだろう。そのたびに10倍になるとしたら、2個食べれば100人力、3個食べれば1000人力、4個食べれば1万人力。10個食べれば100億人力となって、全人類よりも強くなる。
その状態の桃太郎は、走るスピードはマッハ2500、地球を48秒で1周する…などという話は、さすがに作中では出てきませんね。10倍というのをそのまま受け取るとこうなる可能性もある、という推測である。
夢にあふれ、謎に満ちた空想世界のスーパーフード。中には食べたら大変なことになりそうなものもあるけれど、こうした現実を超えたものが、はるか昔から無数に思い描かれてきたのだ。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。
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イラスト:古川幸卯子
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