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2017.12.19
経口摂取か光合成か!?宇宙を旅するための鉄板グルメ
SFアニメで描かれた食事事情について考察してみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「宇宙食」。銀河鉄道999やガンダムのホワイトベースなどでは、船員たちはどのような食事をして宇宙の厳しい旅を乗り越えていたのか考えてみました。
宇宙でこそ求められる究極の娯楽
人間が宇宙へ進出するとき、大きな問題となるのが「何を食べるか」である。
人間の食べ物は、農業や水産業などで生産される。宇宙ではそれらができないから、食べ物は地球から持っていくしかない。2015年、国際宇宙ステーションへの補給機打ち上げが3回連続で失敗し、食料が残り2カ月分になるという大ピンチに見舞われた。
そして、宇宙は無重力で、居住空間が狭い。これらに対応するために、宇宙食には「長期保存可能」「臭いが少ない」「飛び散らない」などの条件が求められる。
1961年4月12日に初めて宇宙へ行ったユーリ・A・ガガーリンは、わずか108分の旅だったので何も食べなかった。宇宙で初めて食事をしたのは、同年8月6日に約25時間の旅をしたゲルマン・S・チトフで、チューブ入りの流動食を食べた。
以来、宇宙食は、チューブ入りの流動食、ビスケットなど一口サイズの固形物、フリーズドライ、レトルト、果物とバラエティー豊かになり、現在の国際宇宙ステーションでは、メニューは1000種類に及んでいるそうだ。
ここから分かるのは、食事とは単なる栄養補給ではなく、生きる楽しみの一つであり、それは宇宙でこそ求められるということだ。
では、マンガやアニメなど空想の物語では、人々は宇宙で何を食べているのか。これを見ていくとビックリ。もう実にさまざまなのだ。
あまりに地上と同じ過ぎ!
『銀河鉄道999』(マンガ、1977~81年)では、999号に食堂車が付いていた。そのメニューには「ビーフステーキ 1100」「カニコロッケ 600」など、日本の洋食店と同じ料理名が並んでいる。
999号は車内も広々としていて重力も働いていたし、星々に停車しながら進むので補給も可能なのだろう。だとしたら、地上と同じ料理が出せるのもうなずける。夢の宇宙食だ。
『機動戦士ガンダム』(1979~80年)では、ホワイトベースの休憩室で、スレッガー中尉がハンバーガーを食べていた。後ろにある自動販売機らしきもので買ったとみられる。
ハンバーガーは、保存が利かず、肉の焼けるいい香りがして、パンくずが飛び散りやすい。宇宙食の3条件にことごとく抵触しているのだが、ひょっとしたら自動販売機が、レトルトのハンバーグや、フリーズドライのパンから自動調理をするのかもしれない。
それでも、飛び散ったパンくずが目に入ったりすると危険である。これを避けるために、国際宇宙ステーションでは、塩もコショウも粘性を加えた水に溶かしてあるが……などと思いながら画面をよく見ると、ややっ、スレッガー中尉の顔のあたりに、パンくずが漂っている。リアルな描写とは思いますが、それは危険であります、中尉殿!
食事の供給が豪快だったのは、『宇宙戦艦ヤマト』(1974~75年)である。ヤマトの艦内には、クルーが「ヤマト亭」と呼ぶ食堂があり、7人のコックが調理していた。大きな寸胴鍋が煮えていて、コックの1人はフライパンを持っている。ええっ、宇宙で、鍋やフライパン!?
フライパンで肉や魚が焼けるのは、重力が食材をフライパンに押し付けるから。鍋が煮えるのは重力によって対流が起きるから。どちらも宇宙では使えない。ヤマトの艦内には重力が働いていたから十分に使えると思うが、戦闘などで人工重力装置が壊れてしまったら一気に使用が難しくなる調理用具たちである。
それにしても、コックが7人とはすごい。ヤマトの乗員は114名なのだ。16人に1人がコック!ヒロインの森雪がレーダーの監視や看護師など1人で複数の仕事を兼任していたのと比べると、破格の待遇だ。
この万全のスタッフ配置で、どんな料理が出るのかというと、ベルトコンベアを流れるトレイに、その上にある機械からシチューらしき流動物が注がれ、パスタが落とされ、野菜の煮物らしき流動物が注がれ、食パン2枚が落とされる。
コックが7人もいて、盛り付けもしないんかい!!ひょっとしたら、これらの料理はモノスゴク手が込んでいて、とてつもなくうまいのかもしれない。
遠い宇宙に行くための現実的解決法
『機動戦士ガンダム』のホワイトベースは地球と月の周囲の空間を行き来するから、戦局が悪化しない限り、物資の補給は可能だろう。宇宙戦艦ヤマトは14万8000光年彼方のイスカンダルへ行ったが、1年以内に往復する予定だったから、全長265.8mの巨艦に114人分の物資を積むことは難しくないと思われる。
だが、もっと時間を要する宇宙の旅では、食料の補給はもちろん、備蓄さえ難しくなる。
例えば、地球から最大で9億3000万km離れた木星へ行くには、最短で片道997日=2年8カ月かかるとされる。現在、宇宙飛行士には1人1日2kgの宇宙食が支給されるから、1人当たり片道2t、往復で4t。とても現実的な量ではない。
この問題を解決するために、現実世界でも検討され、空想の世界でも多くの作品で採用されてきたのが「食べない」という選択だ。
動物は体温が下がると代謝が極端に減り、冬眠状態に入る。例えばシマリスの場合、冬眠中は基礎代謝が通常の50分の1にまで下がる。これを利用して目的地まで体温を下げて眠り続ければ、食料は少なくて済む。
「コールドスリープ」と呼ばれる技術で、『2001年宇宙の旅』(1968年)、『猿の惑星』(1968年)、『エイリアン』(1979年)など、数々の映画で描かれている。
『ウルトラマン』(1966~67年)では、さらにその上を行く技術が示された。バルタン星人は故郷の星が爆発してしまったため、20億3000万人の同胞と共に地球へとやって来た。その人数に科学特捜隊のハヤタ隊員とイデ隊員が驚くと、バルタン星人はアラシ隊員の口を借りてこう言ったのだ。
「見えない宇宙船の中に(中略)バクテリアぐらいの大きさになって眠っている」
え~ッ!!?
バクテリアとは細菌のことで、その大きさは1~10μm(マイクロメートル、0.001~0.01mm)。バルタン星人の通常の身長は2mほどだから、最大の10μmだとしても、20万分の1に小さくなっていることになる。
この極微なサイズだと、基礎代謝は8500億分の1になる。そのうえ眠っているというのだから、さらに50分の1になって、42兆5000億分の1。これなら20億3000万人いても、消費エネルギーは0.00005人分以下。恐るべき技術である!
しかも、このサイズならスペースも節約できる。身長10μmの人が眠るには、縦12μm、横6μm、高さ6μmのベッドがあればいいだろう。この超ミニサイズの超多段ベッドなら、20億3000万人が、1辺9.6mmという角砂糖より小さなサイズに収まってしまうのだ。
食料を自ら生産する究極進化
宇宙旅行における食料問題について、画期的な解決法を示したのが、マンガ『シドニアの騎士』(2009~15年)だ。
西暦2109年、地球人はガウナという地球外生命体に太陽系外で接触。意思の疎通は全くできなかった。2371年、多数のガウナが降下し、地球を破壊。地球人は自らと生物の種を存続させるために移民・戦闘用宇宙船「播種船(はしゅせん)」で宇宙に旅立つ。その一つがシドニアだった。
その船体は八角柱で、幅は6km、全長は28kmを超える。船首に海水をたたえ、外壁に資源を採掘するための岩石をまとい、居住区には大木など植物が生い茂り、食料生産インフラで米なども作ることができる。この完全に自立した環境で、50万人が新天地を求めて旅をしていた。
ところが地球をたって900年が過ぎたころ、ガウナに襲撃されて人口の99%が死亡。食料生産インフラも破壊されてしまう。この大ピンチに、一人の科学者が遺伝子改造で人間が光合成することを可能にしたのである!
自然界の生物は、光合成をして有機養分を作り出す生産者(植物、藻類、一部の細菌)、その有機養分を食べる消費者(動物)、両者の死骸や老廃物を分解して無機物にする分解者(菌、細菌)に分けられる。つまり、消費者から生産者へと人工的に進化することで、宇宙における食料問題を抜本的に解決したのだ。あまりに果敢な攻めの精神である。
そして、光合成とは次のような反応だ。
【水+二酸化炭素+光のエネルギー → 炭水化物+酸素】
これに対して呼吸とは、次の反応。
【炭水化物+酸素 → 水+二酸化炭素+生きるためのエネルギー】
「光の」と「生きるための」の違いを無視すれば、両者は全く逆の反応である。
通常の人間は、呼吸だけをして、一方的に酸素を消費し、二酸化炭素を増やすが、光合成ができるようになったおかげで、二酸化炭素を減らしつつ、呼吸に必要な酸素を自分で作れるようになった。つまり、栄養の面で自立を遂げたばかりか、船内の空気環境維持にも貢献できるようになったのだ。
だが、人間の体の面積で、生きるのに必要な養分が作れるのだろうか。地球軌道付近に降り注ぐ太陽光と同じ強さの光を浴びて、1日に必要な2000kcalの炭水化物を作る場合を考えよう。
人間の体の断面積は0.5m2。この面積で必要な光合成時間は、3時間25分。通常の人間の食事時間+αだから、十分に生活に組み込めるだろう。
ただし、光合成だけでは足りないらしく、登場人物の一人がこう言っていた。
「俺も先週 何も食う暇がなくてな」
これは逆に、1週間に1度ぐらいは食事が必要ということだろう。実によく分かる話だ。人間が必要とする栄養素のうち、タンパク質、脂肪、ミネラル、ビタミンは、光合成では作ることができない。前述のセリフを発した人物は、山菜おこわのおにぎりを食べていたから、山菜からミネラルとビタミンを補給していたのかもしれない。
そしてうれしいのは、劇中の人たちが光合成を楽しんでいたこと。形は大きく変わっても、やはり食事は生きる喜びの一つなのだ。
空想の世界における宇宙での食事は、豪快だったり、あまりにも地球と同じだったり、驚異的な技術が注ぎ込まれていたり、さまざまである。その中には、人類が本格的に宇宙へ進出するときにヒントとなるものがあるに違いない。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。
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イラスト:古川幸卯子
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