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2018.6.12
大ケガ覚悟!ボルト超えのスピードで対峙すれば翼くんのシュートは止められる
「キャプテン翼」で描かれたネット破りシュートについて考察してみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「シュート力」。名作サッカーマンガ「キャプテン翼」で少年たちに衝撃を与えたあの“ネット破り”が、いったいどれだけのエネルギーを放っていたのかを考えてみました。
世界のサッカー選手に影響を与えた翼くん
4年に一度の、ひときわサッカー熱が燃え盛る時期がやってまいりました。
日本人選手の活躍はもちろん、世界のトップ選手たちの技術とハートを見られるのは、本当にうれしいですなあ。
筆者としては、このタイミングで、世界のサッカー選手たちに大きな影響を与えたマンガ「キャプテン翼」(1981年~)を検証せずにはいられない。
ひたむきなサッカー愛、仲間やライバルとの友情もスバラシイが、“キャプ翼”といえば、やはり超人的なスーパープレーである。翼くんのドライブシュートや、若島津くんの三角とび、立花兄弟のスカイラブ・ハリケーンなど、気になるワザがめじろ押しだが、ここでは翼くんが全日本少年サッカー大会の決勝戦で決めたシュートについて考えよう。
有名な「ネット破りシュート」である。
シュートのスピードは超音速!
この名場面は、次のような試合展開で生まれた。
主人公・大空翼が率いる南葛SCと、ライバル・日向小次郎の明和FCは2対2のまま再延長戦に突入した。後半1分30秒、翼くんと岬くんの時間差オーバーヘッドキックで、南葛は1点を勝ち越す。その勢いで、もう1点を取りに行く南葛。
残り30秒、翼くんは単身ドリブルで明和コートに切り込み、ゴールキーパー若島津くんと一対一に。そして、前に出てくる若島津くんをジャンプして飛び越え、無人のゴールにシュート! なんとボールはネットを突き破り、高々と大空に舞い上がった……。
恐るべき現象である。
サッカーのゴールネットは、1本で100kgの荷重に耐えられる糸で作られている上に、ネット全体が変形することによって、ボールの衝撃を柔らかく吸収するからだ。これを突き破るとは、翼くんのシュートは、どんなスピードとエネルギーを持っていたのだろうか。
これについて、筆者はあるテレビ番組の協力を得て、実験したことがある。
鉄骨にサッカーのネットを水平に張り、プロパンガスのボンベに砂を詰めて重さを92kgにしたものを、どんな高さから落とせばネットが破れるかを測定したのだ。
ボンベの底面は丸く、直径は少年用サッカーボールと同じ21cm。1回の試行ごとに、ネットは張り替える。重量以外の条件は、翼くんのシュートと同じである。
ボンベの高度を徐々に上げていくと、ネットの結び目が締まるミチッ!という音と、衝撃で鉄骨がビーン!と振動する音が、大きく鋭くなっていく。高度2.2mから落としたとき、ついにネットは破れた!
ネットが破れるかどうかは【運動量=質量×速度】で決まると考えられる。地球上で、2.2mの高さから落とした物体は、時速23.6kmに達する。そして、ボンベの質量92kgは、少年用サッカーボールの質量370gの250倍だ。
ということは、翼くんがボールを蹴った速度は、【時速23.6km×250=時速5900km】。気温15℃のときの音速を基にすると、なんとびっくり、マッハ4.8である!
ネットを突き破るには、これほどのスピードが必要だったのだ。
キーパーが取ったら、どうなる!?
実際にこんなシュートを放たれたら、どうすればいいのだろう。
マンガの中では、ボールは無人のゴールに蹴り込まれたが、もし若島津くんが飛び出さず、ゴール前でキャッチしていたらどうなったのか?
衝突の前後で、【運動量=質量×速度】は変わらない。若島津くんの体重は50kg。彼が370gのボールをキャッチすると、一体化した両者の質量は50.37kgとなり、ボールの136倍となる。すると、代わりに速度は時速5900kmから136分の1の時速43kmになる。
これは100mを8秒33という速度だから、若島津くんは全力疾走するウサイン・ボルト(100mを9秒58)を上回るスピードで、ゴールに叩き込まれてしまう!
“ボールと一緒にゴール”という事態を防ぐには、若島津くんはボールと同じ運動量でボールにぶつかるしかない。そうすれば、両者の運動量が相殺されて、キャッチ後の速度はゼロになるからだ。
若島津くんの体重はボールの135倍だから、必要な突進速度は、時速5900kmの135分の1で、時速44kmだ。やはりボルトを上回る!
だが、若島津くんにこれができたとしても、実際にやったら大変である。
時速5900kmで飛ぶ370gのボールが持つ運動エネルギーは、時速113kmで走る乗用車(車重1t)のそれに等しい。若島津くんがこれを受け止めて速度をゼロにすると、ボールのエネルギーもゼロになる。このときに消えたエネルギーは、ぶつかった当事者へのダメージへと変わる。
つまり、ボールが割れなかったとしたら、若島津くんは時速113kmで突っ込んでくる車にハネられたのと同じ!
他の選手も同じだ。フィールドプレイヤーの場合は、体に当たったボールは跳ね返るから、ボールのエネルギーがゼロになるわけではない。ただし、運動エネルギーは速度の2乗に比例するので、当たる前の半分の速度で跳ね返ったとしても、ボールが運び去るエネルギーは4分の1でしかない。この結果、エネルギーの4分の3が選手へのダメージとなり、時速98kmの車にハネられるのと同じ!
もう、翼くんがシュートの体勢に入ったら、敵も味方もモーゼの海のようにボールの道を開けて、ピッチに伏せた方がいい。観客もとっとと逃げましょう。
「キャプテン翼」で描かれたネット破りシュートは、これほどのエネルギーを秘めていた。そのエネルギーをボールに与えたのは翼くんだが、そんなエネルギーを人間が出せるかどうかは、問題ではないだろう。彼らの活躍が、多くの人のサッカーへの夢を育て、このスポーツの隆盛を呼んだことは間違いないのだから。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります
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イラスト:花小金井正幸
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