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空想未来研究所2.0

時速800km超で飛んで来る!老獪ジョセフでも回避不能な磁力のすごさ

ジョジョや超電磁砲の磁力の威力について考察してみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「磁力」。モノを引き付けたり、飛ばしたりする強力な超能力として描かれるが、実際どれだけのエネルギーを秘めているのか考えてみました。

現実でも空想でも超重要な磁力

現代社会に、磁石(磁気・磁力)は欠かせない。モーター、発電機、電車の切符、プリペイドカード、パソコン、電子レンジ、リニアモーターカー、電磁石クレーン、冷蔵庫のドア、そのドアにくっつけるマグネット……もう枚挙にいとまがありません。

磁石が鉄などをくっつける現象は、古くから人々が興味を持ち、プラトンやアリストテレスも著書で言及している。古代ギリシャの「マグネシア」、小アジア(アナトリア)の「マグネシア」、中国の「慈州」(いずれもかつてあった地名)は、磁鉄鉱(天然の磁石)の産地で、「マグネット」や「磁石」の語源になったと伝えられる。

そんな磁力を、人間の想像力が放っておくはずがない。マンガやアニメや特撮番組などでは、磁力はさまざまな武器として描かれた。

ものすごく古いところでは、例えばアニメの「ロボタン」(1966~1968年)。主人公・ロボタンはロボットなのだが、必殺技「スーパー磁力」を発すると、鉄製品はもちろん、人間や食べ物など、あらゆるものを引き付ける!

マンガ『キン肉マン』(1979年~)でも、ネプチューンマンとビッグ・ザ・武道が、宇宙超人タッグ・トーナメントにおいて、体から磁力を放つ「マグネットパワー」でキン肉マンたちを苦しめた!

ということで今回は、マンガやアニメの世界で描かれた「磁石の威力」について考えてみよう。果たしてその実力はどれほどなのか?

水も磁石に反応する

磁石は、鉄など(ニッケル、コバルト、ガドリニウム、いくつかの化合物)の限られた物質を引き付けるが、実はそれだけが磁石の性質ではない。あらゆる物質が磁石に反応する。

鉄などのように、磁石に強い力で引き付けられる物質を「強磁性体」という。その他の物質は、非常に弱い力で引き付けられるものと、微弱な力で反発するものに分かれ、前者は「常磁性体」、後者は「反磁性体」と呼ばれる。

水は反磁性体なので、水の入った水槽に上から超強力な磁石を近付けると、水面が凹む「モーゼ効果」が見られる。また、米粒には水が含まれるので、超強力な磁石の上で米粒は浮かぶ。

だが、空想の物語で描かれることが多いのは、やはり磁石が鉄などを強い力で引き寄せる性質だ。前述の『キン肉マン』で、キン肉マンたちは鉄を身に着けていないのに引き寄せられていたが、それには理由があった。超人たちは、憎しみ合ったり傷付け合ったりすると、体内のバランスが崩れ「アイアン・スエット」という鉄分を含む汗をかいてしまうからだ!

空想の世界でも、磁石と鉄の親和性は重視されているのである。

ナイフが時速890kmで飛んで来る!

磁石が鉄に及ぼす力を武器にしたのが、『ジョジョの奇妙な冒険』(1986年~)の第三部「スターダストクルセイダース」に登場したマライアだった。

宿敵DIO(ディオ)の配下で、抜群のスタイルと脚線美を誇る彼女のスタンド・バステト女神の形状は「コンセント」。触れて感電した者の体に磁力を帯びさせる。

主人公・空条承太郎の祖父、ジョセフ・ジョースターは、岩に埋め込まれたコンセントに触れて感電、体に磁力を帯びる。初めは、ビンの王冠などが体にくっつく程度だったが、やがてキャスター付きの椅子がぶつかってきたり、ナイフやフォークがぶっ飛んできたり、エスカレーターに吸い付けられたり……。磁力はだんだん強くなり、どんどんヒドイ目にあっていく。

やがて、仲間のモハメド・アヴドゥルもコンセントに触れてしまい、2人とも鉄道の線路にくっついて、列車が迫り来る……という大ピンチに。ここからの脱却方法は、ぜひともマンガを読んでいただきたいのだが、怖いのは遠くの鉄製品がぶっ飛んで来ることだ。

重力の強さは距離の2乗に反比例するが、磁石が鉄を引き寄せる力は、距離の3乗に反比例する。

したがって、距離が10分の1になると、重力は100倍になるのに対して、磁力は1000倍になる。磁石が引き寄せた鉄が、ものすごいスピードで磁石にぶつかるのはこのためだ。

『ジョジョ』における磁力は、何mも離れた鉄製品を引き付けるほどの強さなのだから、ぶつかるスピードは、とてつもないものになる。

例えば、5m離れた長さ20cmのナイフを引き寄せたとすると、ぶつかるスピードは時速890km! 新幹線の3倍のスピードでナイフが飛んで来る……!

月面の電子機器もぶち壊すエネルギー!

磁石は、鉄や他の磁石に力を及ぼすだけでなく、電流の流れる金属にも力を与える。その力の向きは、中学理科で習う「フレミング左手の法則」に従い、モーターはこれを利用して回転する。

この磁力の使い方を能力化しているのが、ライトノベル『とある魔術の禁書目録(インデックス)』(2004年~)に登場し、スピンオフマンガ『とある科学の超電磁砲(レールガン)』(2007~)では主役として活躍する御坂美琴(みさかみこと)だ。

常盤台中学2年生の美琴は、電気と磁力を操る超能力者。10億V(ボルト)の電撃を放ったり、磁力で地中の砂鉄を集めて剣を作ったりして、街で起こるさまざまな事件を解決している。彼女の能力で恐ろしいのは、その2つのコラボ技「超電磁砲」。ゲームセンターのコインに、磁力をかけつつ電流を流して、マッハ3で発射する!

フレミング左手の法則とは「左手の親指と人さし指でピストルの形を作り、中指をその両方に垂直な向きに伸ばしたとき、中指の向きに電流を流しながら、人さし指の方向に磁力をかければ、物体は親指の方向に力を受ける」というものだ。

これを利用して物体を飛ばす技術は、現実世界でも「マスドライバー」や「レールガン」と呼ばれて、研究されている。

美琴は、右手の人さし指をUの字形に曲げてコインをはさみ、後ろから親指で支えた形でコインを発射する。このとき、左から右に電流を流し、下向きに磁力をかければ、コインは前方に飛んでいくだろう。このときも電圧が10億Vだとすると、どんな磁力をかければ、コインはマッハ3で飛び出すのか。

ゲームセンターのコインの重さを量ると3.5g。その電気抵抗を測ったところ、0.0005Ω(オーム)。これに10億Vをかけると、流れる電流は2兆A(アンペア)だ。雷の電流でさえ最大20万Aだから、その1000万倍である。

コインが指の間を滑る距離を1cmと考えた場合、これで3.5gのコインをマッハ3で発射する磁力とは、0.000006T(テスラ)=0.06G(ガウス)(※ともに磁場の単位。T:国際単位系、G:CGS電磁単位系)。これは地球の磁場の10分の1ほどである。電流がモノスゴ過ぎるため、磁力はそれほど強くなくていいということだ。

だが、美琴の超電磁砲は、不測の被害をもたらす恐れがある。電気と磁場には、次のような関係があるからだ。

(1)電流が流れると、磁場が発生する
(2)発生した磁場は、水面の波のように広がり、その途中にある金属に電流を流す

雷が落ちると、電子機器が壊れることがあるのはこのためで、「誘導雷」と呼ばれる。

美琴がコインに流す2兆Aの電流も、磁場を発生させて、誘導雷を起こすだろう。美琴の磁力で、本当に恐ろしいのはこちらである。

自然界の雷の場合、誘導雷の被害は落雷地点から半径0.5kmにも及ぶ。電流が起こす磁場の強さは、距離に反比例するから、雷の1000万倍の電流を流す美琴の超電磁砲は、雷の1000万倍=半径500万kmに誘導雷を起こすということだ。辺り一帯は当然、人工衛星(400~3万6000km)や月面(38万km)の電子機器も破壊する!

磁石のない生活は考えられず、空想の世界では、磁力が恐るべき使われ方をしている。磁力も平和利用を目指して、慎重に扱う姿勢が求められるということだ。それを教えてくれる人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※原稿では数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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