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空想未来研究所2.0

銀河鉄道での宇宙旅行…その夢と現実を探る

宇宙へ飛び立つのに必要な線路は1万km以上!?

「空想科学読本」でおなじみの柳田先生と共に、空想世界の胸ときめく未来について、エネルギー文脈から分析するEMIRA連載。第1回のテーマは、あの名作で描かれた「鉄道で宇宙に飛び立つエネルギー」を考察する。

銀河鉄道999、その恐るべきスケール

ガガーリンが人類で初めて宇宙へ行き「地球は青かった」と言ってから56年。いよいよ個人で宇宙に行ける時代が近づいてきた。
 
現在予約できるヴァージン・ギャラクティック社による宇宙ツアーは25万ドル。
 
さらにEMIRAの「ロケット特集」では、宇宙旅行をさらに安価に実現しようとする取り組みが紹介されており、当空想未来研究所としても宇宙を旅する未来への期待は高まるばかりだ。
 
とはいえ、空想科学的なアプローチで、宇宙旅行の可能性を考えられないだろうか。できれば月ぐらいまで…。
 
そんな夢のようなことを考えているうちに、思い出したのが『銀河鉄道999』である。
 
松本零士先生が1977年から「週刊少年キング」で連載されたマンガで、78年からアニメ化され、79年には劇場映画版も大ヒットした。
 
母を機械人間に殺された少年・星野鉄郎が、機械の体を手に入れて復讐(ふくしゅう)するために、謎の美女メーテルと銀河鉄道999に乗って、アンドロメダを目指す。それは「行った者は大勢いるが、帰ってきた者はいない」という旅だった。
 
なんと壮大な物語だろう。
 
星野鉄郎はメーテルにただで定期券をもらい、列車に揺られてあっちの星、こっちの星……と旅をするだけなのだが(もちろん、命懸けで戦うこともあるが)、999号がアンドロメダまで走るということは、少なくとも225万光年もの宇宙鉄道網が出来上がっているはず。壮大な世界観だ。
 
しかも劇中の説明によれば、銀河系とアンドロメダ銀河の全域に鉄道網が張り巡らされているというから、支線を含めた総延長となるといったいどれほどなのか、想像もつかない。
 
あまりのスケールに、頭がクラクラする。
 
さて、今回EMIRAで注目したいのは、その出発のシーンである。
 
999号が発車するのは、線路とホームのある、見た目は普通の駅。だが、汽笛一声ゆっくりと動き始めるや、やがて空に向かって延びる線路を力強く走っていき、線路が途切れると、そこからは宇宙へと飛翔する……。
 
もし、このような発車方法が実現できれば、今よりもグッと手軽に宇宙へ行くことが可能にならないだろうか?

電車で宇宙へGO!

宇宙へ飛び出すには、スピードが必要だ。
 
秒速7.9kmを超えると、地球を周回する軌道に乗れる。気温15℃のときの音速を基準にすればマッハ23で、これが「第一宇宙速度」と呼ばれる。
 
秒速11.2km=マッハ33を超えると、地球の重力を振り切って太陽を周回する軌道に乗れる。これが「第二宇宙速度」。
 
秒速16.7km=マッハ49を超えると、太陽の重力を振り切って、宇宙のかなたを目指せる。これが「第三宇宙速度」である。
 
EMIRAのロケット特集に興味をお持ちの読者の皆さんならご存じだろうが、これらのスピードを出すために、ロケットは大量の燃料を積んでいる。
 
全重量に対する燃料の割合は、現在活躍中のH-IIAロケットで85%、アポロ宇宙船を月へ送ったサターンV型ロケットは91%だった。
 
ほとんど燃料を飛ばしているような比率になるのだが、これはロケットの原理によるもの。大量の燃料を積めばそれだけ重くなり、それを飛ばすためにはますます燃料が必要になり……もどかしいイタチごっこが避けられないのである。地上から宇宙空間に行くというのは、それほど大変なことなのだ。
 
その点、999のように地上の線路を走って加速し、宇宙へ飛び出すという方法は画期的だ。
 
何しろスピードを上げるためのエネルギーは線路から電力で供給できるのだから、燃料を積む必要がない。はるかに効率的に宇宙へ飛び出せる!
 
具体的に、どれほどのエネルギーが必要なのか。話をシンプルにするために、空気抵抗などは無視して計算してみよう。
 
月へ送る宇宙船の重量を新幹線N700系の先頭車両と同じ45t、定員も同じ65人と仮定する。乗客の平均体重を70㎏とし、全員が体重と同じ重さの荷物を持つとすれば、総重量は54tとなる。
 
地球から月へ行くには、第二宇宙速度に迫る秒速10.6km=マッハ31が必要である。54tの物体をこの速度に加速するためのエネルギーとは、電力量に換算して84万kW時だ。
 
実感しやすいように、電気料金に置き換えてみよう。
 
電気料金が20円程度だとして計算すると1680万円、定員の65人で割れば、一人あたり25万8500円。思いのほか安い!
 
もちろん、乗車賃は電気代だけでは済むまいが、ひょっとしたらかなりリーズナブルになる可能性も出てきた。これなら、宇宙に行く人もどんどん増えるのではないか。

難しそうなのは…着地だ!

だが、当然ながら事はそう簡単ではない。実際に、その旅がどのようなものになるか、想像してみよう。
 
人間を乗せる以上、あまり急激な加速はできない。皆さん、飛行機が離陸する直前に「体がシートに押し付けられる力」を感じるだろうが、それは加速の勢いが激しいほど大きくなってしまう。
 
かといって、加速が緩いと、マッハ31に達するのに長いレールが必要になる。それも困るから、ここは乗客には、車の急ブレーキでかかる0.5Gに耐えてもらうとしよう。
 
その場合、加速にかかる時間は36分7秒。この間ずっと、0.5Gで体はシートに押さえ付けられっぱなし。宇宙への道はなかなか厳しい。
 
そして、マッハ31に達するまでに1万1500km走ることになる。地球1周は4万kmだから、その3割弱ということだ。
 
これを実現するためには、もちろん長大な線路が必要になる。
 
月は地球の赤道のほぼ真上にあるから、月に到達するには、赤道上から飛び立つしかない。日本から出発するには、いったん赤道まで行かねばならないということだ。
 
まず、東京から真南の赤道上まで4000km。地球の自転のスピードを生かすために、線路は東に向かって敷いた方がいい。上記の地点から東へ1万1500kmというと、エクアドルの手前4100kmの東太平洋上だ。
 
なんと線路はすべて海上!
 
この線路を1万1500km走って飛び立ったら、下図のような楕円(だえん)軌道を描いて、月を目指す。所要時間は5日。これだけあれば、十分に宇宙を堪能できるだろう。

頑張って飛び出しても、月までは5日を要する

ただし、月が近づくと、緊張が高まる。着陸するには、月にもレールが敷かれている必要があるが、そのレールにうまく着陸しなければならないのだ。
 
月に着くころには速度もかなり落ちているが、それでも月に対する速度は、秒速0.83km=マッハ2.5! この高速で、車輪をレールに乗せて……こ、これは怖い!
 
だがそれも、地球への帰還に比べれば、物の数ではない。月をマッハ2.5で飛び立ったら、また5日の宇宙の旅を堪能し、今度はマッハ31で地球のレールに着陸しなければならないのだ。
 
う~ん、うまく帰ってこられるかどうか。
 
ヘタすると『銀河鉄道999』と同じように「行った者はいるが、帰ってきた者はいない」という片道切符の旅になるかもしれない……。
 
やはり「手軽な宇宙旅行」の実現は、一筋縄ではいかないようだ。
 
ただ、線路から宇宙に飛び立つという発想は、今考えても新鮮。
 
『銀河鉄道999』で描かれた世界に、「宇宙旅行の未来」に思いを巡らせた連載第1回。
 
人間の想像力は、本当にスバラシイ!

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