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2017.3.28
頭が良過ぎる人の脳はどれほどエネルギーを使っている?
仮面ライダーにデスノートのL…超天才たちの脳がすご過ぎる
空想世界で描かれたワクワクする未来を、エネルギー文脈から分析する好評のEMIRA連載。第5回のテーマは、マンガやアニメに出てくる頭が良過ぎるキャラクターたちの脳について考察する。
あのキャラたちの知能指数
人間は、1日に消費するエネルギーの20%を脳で使う。成人の脳の重量は1.2~1.5㎏で、体重の2%ほどに過ぎないから、それは大変な消費量である。
また、睡眠中はエネルギー消費量が覚醒時の半分になることから考えると、睡眠時間を8時間とした場合、覚醒時の脳は電力に換算して27Wのエネルギーを消費していることになる。
これは、ノートパソコンの消費電力と同じぐらい。もちろん、両者の動く仕組みは全く違うので偶然の符合にすぎないが、ミョ~に納得感のある事実である。
すると考えたくなるのは、空想科学の物語に登場する頭の良い人たちだ。彼らの頭の良さは、多くの場合「知能指数」で表されている。
知能指数=IQ(インテリジェンス・クオーシェント)とは、知的能力を表すとされる指数で、平均が100、85~115に68%の人が含まれ、70~130に95%が含まれる。この知能指数において、彼らの数値はモノスゴイ。
『ゴルゴ13』のデューク東郷は180!
『金色のガッシュ!!』の高嶺清麿は190!
『NARUTO―ナルト―』のシカマルは200!
『ルパン三世』のルパンは300!
『美少女戦士セーラームーン』の水野亜美も300!
『名探偵コナン』の江戸川コナン(工藤新一)は365!
『ジョジョの奇妙な冒険』のカーズは400!
『仮面ライダー』の本郷猛は600!
この超天才たちの脳は、いったいどれほどのエネルギーを消費するのだろうか。
その知能指数、高過ぎる!
知能指数は、1905年にフランスのアルフレッド・ビネーが提唱した「知能検査」から発展したものだ。知能検査は、子供の知能を推し量るための質問リストで、学校での集団学習に向かない子供を発見し、適切な教育を受けさせるために作成された。それがシステム化され、数値化されたのが知能指数だ。
その算出は、たくさんの子供たちに、テストを受けさせて、各年齢層の平均を出すところから始まる。例えば10歳の子供が、12歳の平均と同じ点数を取った場合、知能指数は【12÷10×100=120】となる。人間の知能は18歳ぐらいで発達が止まるから、大人については意味がない。
その後、軍隊で兵士を選別する必要性などから、成人の知能指数を測る方法も考案された。先に示した空想科学の人々の「知能指数」は、これだと思われる。こちらもテストを受けさせ、平均を出す。そして、「各人の得点が平均からどのくらい離れているか」を出す。ここから「どのくらい平均から離れているのが標準か」という「標準偏差」が導かれる。
統計学の理論から、母集団が十分に大きい場合、得点と平均との差が「標準偏差以下」の範囲に全体の68%、「標準偏差の2倍以下」に95%が入ることが分かっている。知能指数では、平均を100として、標準偏差を15と規格化するので、冒頭のような分布になるのだ。
すると、空想科学世界の天才たちのように、バカ高い知能指数をたたき出す人は、極めてレアなアタマの持ち主ということになる。
知能指数180のデューク東郷は、2300万人に1人。つまり、日本に5~6人!
知能指数190の高嶺清麿は、19億人に1人。世界に4人!
知能指数200のシカマルは、2800億人に1人。母集団が人類では追いつかない!
知能指数300のルパンと亜美ちゃんは、1.5×10の47乗人に1人!
知能指数365の江戸川コナン(工藤新一)は、7.1×10の83乗人に1人!
知能指数400のカーズは、8.7×10の107乗人に1人!
知能指数600の本郷猛は、4.6×10の303乗人に1人!
もう何がなんだか分かりません。
本郷猛のような知能指数600は、4.6×10の303乗人と一緒にテストを受けて1位になると弾き出される。この宇宙に存在する原子の個数は、10の81乗個ほどだが、コナン以上の面々は、原子の数よりもずっと多くの人と一緒にテストを受けないと、その知能指数は算出されないということだ。
意外にエネルギーを使わない
では、彼ら彼女らの優れ過ぎる頭脳は、どれほどのエネルギーを消費するのだろうか。1997年、ワシントン大学のマーカス・E・レイクル教授が、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)で脳の働きを調べていたところ、新しい事実を発見した。
計算をしたり、文章を読んだり、思考したりなど、意識的に何かをしているときに脳が消費するエネルギーは、何もしないでぼんやりしているときの15分の1でしかないというのだ。たった15分の1とはオドロキである。
脳は部位によって役割が決まっており、意識的に頭を使うときは、前頭葉の表面が活発に働いている。これに対して、ボーッとしているときは、その前頭葉の奥の方と、脳の中心部にある帯状回という部位の後ろ側が活発に働く。
レイクル教授はこの仕組みを「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と名付け、次の仕事や作業に備えてのアイドリング状態と考えた。そして、DMNでは、意識的に脳を使うときの15倍ものエネルギーを消費していることを明らかにした。
車のアイドリングもガソリンを食うが、走るときの15倍も消費したりはしない。脳はアイドリングで、大量のエネルギーを使うということだ。これは筆者の推測だが、特定の目的がないだけに、無駄にいろいろ活動してしまうからではないだろうか。
すると、話は逆になる。デューク東郷たちのように頭脳明晰(めいせき)な人の脳より、何も考えずボケーッとしている人の脳の方が、はるかにたくさんのエネルギーを消費する。言い換えれば、よく頭を使っている、ということになるのだ!世の中、分からないものですなあ。
頭を使えば太らない?
脳とエネルギーの関係を、その身で示したのが『デスノート』のLだ。この物語は、「死神が落としたデスノートに名前を書かれた人は死亡する」というショッキングな設定を軸に展開した。
Lの知能指数は明らかにされていなかったが、神業のような推理力を駆使し、デスノートで悪人を抹殺し続ける主人公・夜神月(やがみらいと)と、息詰まる頭脳戦を展開した。
Lが体現した「脳とエネルギーの関係」とは、その食生活だ。Lは、いつもケーキやチョコレートなど甘いものばかり食べている。コーヒーにも角砂糖を5~6個入れる。普通の食事は一切しない。
しかも、夜神月に名前を知られたり、顔を見られたりすると、自分がデスノートで殺されるので、ホテルに設けられた捜査本部に閉じこもっている。それでもまったく太らず、身長179㎝、体重50㎏という細身を維持しているのだ。
その秘密をLはこう語っている。「甘いものを食べても頭を使えば太らない」。
レイクル教授の説とは正反対だが、もし「頭を使うとエネルギーも使う」としたら、Lのように太らないのだろうか。問題は「甘いもの」に含まれる成分だ。
板チョコの重さを量ると58g。成分表から計算すると、これには30gの砂糖と20gの脂質が含まれる。砂糖は、科学的には「ショ糖」と呼ばれ、ブドウ糖と果糖の分子1個ずつでできている。そして、ブドウ糖と果糖は重さが等しい。つまり、この58gの板チョコには、15gのブドウ糖、15gの果糖、20gの脂質が含まれることになる。
このうち、脳がエネルギー源にできるのは、ブドウ糖だけだ。15gの果糖は体内で7gの脂肪に変わり、20gの脂質はまるまる20gの脂肪に変わる。すなわち1枚の板チョコを食べると、いくら頭を使っても、他の部位でエネルギー消費しない限り、27gも太ってしまう…のだ!
食生活を改善してもらいたい
もちろん人間は、生きているだけでエネルギーを使う。Lのような体格の20歳男性は、ほとんど運動しなくても、1日に1830キロカロリーを消費する。そのうち脳が20%を消費するから、脳以外で消費するのは1460キロカロリーだ。
脂肪27gに含まれるエネルギーは240キロカロリーなので、Lは1日に食べる板チョコを6枚以下に収めれば、他の栄養素の問題はともかく、太ることだけはないことになる。
しかし、Lの甘いもの摂取量は、板チョコ6枚などというレベルではない。Lは『デスノート』全編で52コマに登場するが、そのうち実に30コマで、甘いものを食べるか飲むか、あるいは両方を堪能しているのだ。甘味摂取率は、驚異の58%である。
極端かもしれないが、これを「起きている時間の58%は、甘いものを摂取している」と単純に考えたらどうなるか。
Lはほとんど眠らないので睡眠時間を4時間とすると、甘いものを食べている時間は、なんと11時間32分!計算を簡単にするために、Lが1日の食事を全て板チョコで摂り、1枚を15分で食べると仮定しよう。
すると、Lが1日に食べるチョコレートの枚数は46枚だ。チョコレート46枚に含まれるエネルギーは、ブドウ糖の分が2760キロカロリー、果糖と脂質の分が1万1040キロカロリー。ブドウ糖を全て脳で消費したとしても、1万1040-1460=9580キロカロリーの超過だ。
これは1㎏の脂肪に変わるから、Lは毎日1㎏ずつ太っていく。現在50㎏のLの体重は、1カ月後には80㎏、2カ月後には110㎏、1年後には415㎏…。もう、まったくの別人になるでしょうなあ。
Lには、食生活を改善していただきたい。前述したように、脳のエネルギー源となるのはブドウ糖だけだ。そして、デンプンはブドウ糖だけでできている。つまりLは、米やパン、ジャガイモやサツマイモなどを、モリモリ食べればいいのである。
ただ、それはまったくLらしくないのも事実。驚異的天才は食生活すら実に悩ましい。
空想科学の世界の天才たちについて考えると、脳とエネルギーという興味深い問題も見えてくる。人間の想像力とは、まことにスバラシイ!
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イラスト:古川幸卯子
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