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2017.4.11
進化の可能性!?人間が生きるために必要なエネルギー量を考察
4年に一度しか目覚めない警察官は寝てから28日目に殉職する!?
空想世界をエネルギー文脈から分析する好評連載。第6回のテーマは、4年に1日しか活動しない“こち亀”の警察官が生きる(寝続ける)ために必要なエネルギー量について考察する。
人間を動かすためのエネルギー量
車を走らせるにも、エアコンを動かすにも、エネルギーが必要だ。「物を動かす」とは「運動エネルギーを与える」ということであり、「室内の気温を上げる」とは「室内の空気に熱エネルギーを与える」ということ。エネルギーは無からは生まれないから、必ずガソリンや電気など、別のエネルギーを消費する必要がある。
これは、人間も例外ではない。成人男性は1日に約2500キロカロリーを必要とするし、「人間は1㎞走ると体重1㎏あたり、およそ1キロカロリーを消費する」という覚えやすい数値もある。
これに基づくと、体重70㎏の人が42.195㎞のフルマラソンを走ると2954キロカロリーを消費するわけで、1日の消費カロリーより大きなエネルギーが必要なんですね。
人間は機械と違って、全く体を動かさないときもエネルギーを消費する。体温を保つため、心臓や肺などの止められない臓器を動かすため、脳を動かすため、細胞内の物質の濃さを調節するため…など、これらに必要なエネルギーが「基礎代謝」と呼ばれる。
人間が生きるとはエネルギーを消費すること、といっても過言ではないだろう。
この基礎代謝の重要性を教えてくれるのが、マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(週刊少年ジャンプ、1976~2016年)に登場する日暮熟睡男(ひぐらしねるお)巡査である。彼はその名のとおり、実によく眠る。起きてくるのは4年に1度、オリンピックの年の1日だけ。
それ以外の日は、警察寮の自室で眠り続ける。そのため部屋には、クモの巣が張り、カビやキノコが繁茂(はんも)し、ジャングルと化し、謎の生態系が形成される。そんな厳しい環境下で、食虫植物に消化されそうになりながらもこんこんと眠りこける男。それが日暮熟睡男なのだ。
彼の偉業を目にすると、心配になる。人間は、眠っている間にも基礎代謝でエネルギーを消費するはずなのに、そんなに眠り続けて大丈夫なのだろうか?この疑問に、日暮巡査は自ら答えてくれている。
1988年、ソウルオリンピックの年に3度目の登場を果たした彼は、天丼10人前、うな丼10人前、焼肉20人前、すし10人前、合計50人前を食べて眠りに就いたのだ。寝ている4年間とは1460日。たったこれだけで、基礎代謝が賄えるのだろうか!?
餓死しないのだろうか
そもそも日暮巡査の基礎代謝量はどれくらいなのか。基礎代謝は、次の計算式で求められる。
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厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2015年版)参照
日暮巡査の年齢は不明だが、マンガを読む限り、最初に登場したのは30代ぐらいだろうか。かなりの痩身なので、体重を50㎏と仮定すると、彼の基礎代謝は次のように求められる。
【22.3(キロカロリー/㎏/日)×50(kg)=1115(キロカロリー/日)】
そして人間の場合、睡眠中は基礎代謝が90%に落ちる。すると、彼の睡眠中の基礎代謝は、
【1115(キロカロリー/日)×0.9=1004(キロカロリー/日)】
となる。
これに対して、50人前の食事から得られるエネルギーはどれほどか?具体的に計算してみよう。
日暮巡査が食べたメニューに含まれるエネルギーは次のようになる。
天丼10人前=640(キロカロリー)×10=6400(キロカロリー)
うな丼10人前=688(キロカロリー)×10=6880(キロカロリー)
すし10人前=588(キロカロリー)×10=5880(キロカロリー)
焼肉20人前=517(キロカロリー)×20=10340(キロカロリー)
※各料理のエネルギー量はWebサイト「カロリーSlism」参照
ちなみに、難しいのは「焼肉20人前」で、店によって1人前の量が違う。調べてみると、かつて「焼肉1人前は100g」と決まっていたが、90年代から1人前を80gや60gにする店が増えたという。そうだったのか~。なんだか少なくなったと思っていたんだよな~。ということで、今回は焼肉1人前をカルビ100gとして計算した。
合計で2万9500キロカロリー。基礎代謝で1日に1004キロカロリーを消費するから、29日分でしかない!
日暮熟睡男巡査は30日目に、1430日を残して無念の殉職!…殉職なのかな、これ。
冬眠しているとしたら?
別の考え方をしてみよう。
冬眠する動物は、ひと冬の間を何も食べずに生き延びる。これは、冬眠中は体温が下がり、基礎代謝が極端に低くなるためだ。
2006年、六甲山で遭難した男性が焼肉のタレだけで23日間生き延びたという出来事があったが、これは体温が22℃までに下がって、冬眠状態になっていたからだといわれている。
すると、日暮巡査も冬眠状態になっていたとしたら、2万9500キロカロリーで4年を生き延びられる可能性はないのだろうか。
調べたところ、国立研究開発法人理化学研究所の発表資料にこんな一文があった。
「リスやクマなどの冬眠動物は、冬眠という低代謝状態に入ることで基礎代謝が正常時の1~25%にまで低下し、エネルギー消費を節約することで冬期や飢餓を乗り越えます。」(2016年11月15日発表「休眠と冬眠の代謝制御機構の共通点を明らかに-能動的低代謝の臨床応用を目指して」より引用)
なんと、最低で1%!それで生きていられるのだから、自然はまったく素晴らしい。
日暮巡査も眠っている4年間は、基礎代謝が1%に落ちるとしたらどうなるだろう。
通常は1200キロカロリー必要なところが、12キロカロリーに!これなら、2万9500キロカロリーもあれば、2458日=6年8カ月も眠り続けられる。おお。日暮巡査はつつがなく眠り続けられるということだ。よかったよかった。
森で寝ているあの美女はポッチャリ系
だが、空想科学の世界には、眠りに関して日暮巡査を上回る剛の者がいる。童話『眠れる森の美女』(いばら姫)の眠り姫だ。彼女はなんと、100年も眠り続けた。彼女がこの長過ぎる眠りに就いたのは、こんな経緯から。
ある国に王女が生まれ、祝宴には魔女たちも呼ばれた。その国には13人の魔女がいたが、金の皿が12枚しかなかったため、13人目は呼ばれなかった。その13人目の魔女が烈火のごとく怒って宴席に現れ、生まれたばかりの王女に呪いをかける。王女が15歳になる誕生日、呪いを発動させる糸車の針に触れてしまい、眠りに就く。それから100年後。ある国の王子が現れてキスすると、姫は目覚めたのでした。
背景にバラの花びらが乱舞しそうなハッピーエンドだが、エネルギーの観点から見ると、大きな問題をはらむ事件である。
眠り姫の基礎代謝も1%に低下していたとしても、彼女の場合は寝ていた期間が100年。日暮巡査の25倍も長く寝て、餓死しなかったのだろうか。
冒頭の一覧表にあるように、15歳女性の基礎代謝基準値は25.3(キロカロリー/㎏/日)。眠り姫の体重を50㎏とすると、基礎代謝は1265キロカロリーだ。
この基礎代謝が1%になっていたとしたら、1日12.65キロカロリー。100年とはうるう年を入れて3万6525日だから、単純に計算するとおよそ46万2000キロカロリーになる。これほどのエネルギーを、どうやって補給したのかなあ…。
眠り姫は、日暮巡査のように寝る前に大量に食べたわけではない。もちろん点滴なども行っていない。ということは、眠りに就いた時点で体に46万2000キロカロリーを蓄えていたと考えるしかないだろう。人間が体にエネルギーを蓄える機構は、体脂肪&内臓脂肪。この観点から考えると、彼女はどんな体形だったのだろうか。
46万2000キロカロリーのエネルギーを蓄える脂肪は51kgに当たるが、眠り姫が蓄えていたと思われる脂肪は、このレベルに留まらない。脂肪のついていた初期のころは、それだけ体重も重いわけで、基礎代謝も多かったと考えられるからだ。その点も考慮して、姫の就寝時の体重を計算すると…140kgである!
そう考えると、王子が現れたのが100年後で、本当によかったと思う。
もし10年後だったら、
眠り姫はまだ126kg!
50年後でも84kg!
80年後でやっと61kg!
90年後に55kg…。
まあ、王子がポッチャリ好みだった場合、こうなると物足りないかもしれませんが。
また、100年後に50㎏になるが、これを過ぎると、眠り姫はドンドン痩せていく。110年後なら45kg、120年後だと41kg、130年後では37kg…。姫の体が心配になる。
つまり、王子が美しく健康な眠り姫に出会えた(※王子の個人的な主観に基づきます)のは、訪れたのが100年後だったからなのだ。まさに、恋はタイミングである。
4年も眠る警察官がいるかと思えば、100年眠る姫もいる。そして彼ら彼女らについて考えると、人間とエネルギーの関係が如実に見えてくる。
人間の想像力というのは、本当にスバラシイですなあ!
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イラスト:古川幸卯子
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