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2017.4.25
あのヒーローの“3分間”に必要なエネルギーは1億1000万キロカロリー!?
ウルトラマンが闘うためのエネルギー量を考察
空想世界をエネルギー文脈から分析する好評連載、第7回のテーマは「ウルトラマン」。光の国の巨人が3分間闘うために必要なエネルギー量と、それを得る方法を考察する!
エネルギーの概念を教えてくれた先生
『ウルトラマン』が始まったのは、1966年7月17日。この番組のインパクトはすごかった。
科学特捜隊のハヤタ隊員が、ベーターカプセルを空に掲げてボタンを押す。まぶしい光とともに現れるウルトラマンは、身長40m!マッハ5で空を飛ぶ!手からは、スペシウム光線を発射!
どれもこれも、当時としては、見たこともない能力であり、スケール感であった。
そんなウルトラマンにも弱点があった。活動できる時間が、たった3分間なのだ!エネルギーが残り少なくなると、胸のカラータイマーが青から赤に変わって点滅する。そのとき、劇中のナレーションが説明する。
「ウルトラマンを支える太陽エネルギーは、地球上では急激に消耗する。太陽エネルギーが残り少なくなると、カラータイマーが点滅を始める。そしてもし、カラータイマーが消えてしまったら、ウルトラマンは二度と再び立ち上がる力を失ってしまうのだ」
強いだけではなく、これほどハッキリした弱点があることも、ウルトラマンの大きな魅力である。そして、この「戦ううちに、エネルギーが減っていく」という設定は、まことに科学的でもあった。
カラータイマーが点滅するシーンを毎週のように見ているうちに、当時子供だった筆者は、物を動かすにはエネルギーが必要なこと、エネルギーは有限であることを、胸の奥に刻み込んだ。筆者にエネルギーの概念を教えてくれたのは、ウルトラマン!
3分間でおにぎり52万個を消費する
ウルトラマンは、身長40m、体重3万5000t。この巨体で戦うと、どれほどのエネルギーを消費するのだろうか?
体重が重ければ、当然、大きなエネルギーが必要になる。また、身長が高いと、動作も大きくなるから、これもエネルギーを増大させる要因になる。
人間と同じ体型をした巨人が、体の大きさに合った大きな動きをするとき、消費するエネルギーは「体重」×「身長の平方根(√身長)」に比例する。
体重70㎏の成人男性は、1日に2500キロカロリーを消費するが、ウルトラマンがウルトラマンでいられるのは、3分だけだ。またその3分間、怪獣を相手に激しく戦う。「3分間限定で激しい運動をする人間」というと、そう、ボクサー!
というわけで、体重70㎏のボクサーが1ラウンド3分間に消費するエネルギーを調べてみた。それは、47キロカロリー。
このボクサーの身長を175㎝と仮定すると、ウルトラマンの身長はボクサーの23倍で、その平方根は√23で4.8倍。体重の比率は50万倍だから、エネルギーの比率は240万倍になる。
すると、ウルトラマンが3分間に消費するエネルギーは、47キロカロリー×240万=1億1000万キロカロリー。莫大である!
米のご飯100gには180キロカロリーが含まれるから、1億1000万キロカロリーとは、ご飯63t分に相当する。コンビニに売っている1個120gのおにぎり52万個分。1個税込み110円だとしたら、52万個で5720万円!
ここまでの考察は「ウルトラマンは体格に見合った動きをする」という前提で進めてきたが、実は彼、恐るべき運動能力を持っている。
『ウルトラ兄弟大百科』(小学館)によれば、ジャンプ力800m。この人、その気になれば、自分の身長の20倍も高く跳べるというのだ。
もちろん『ウルトラマン』の劇中で、ウルトラマンが800mも飛ぶシーンなど見たこともないのだが、科学的に考えれば、それも当然の話。これほど華々しいジャンプをすると、6600万キロカロリーを消費する。ウルトラマンが800mも飛ぶと、それだけで全エネルギーの58%を消費してしまうのだ。
当然、戦える時間も短くなるはずで、変身直後にジャンプしたとしても、離陸した時点で、残り時間は1分15秒になってしまう。しかも、いったん跳び上がってしまうと、自由落下で降りてくるまでに、高さに応じた滞空時間がかかる。
高度800mなら、26秒。着地した時点で残り49秒しかない。これは焦るだろう。すごい能力を持っているのはスバラシイが、エネルギーの面から言えば、すごすぎる能力はあまり発揮せず、ソ~ッと戦った方がよさそうである。
光のエネルギーで活動できるのか
もう一つ注目したいのは、ウルトラマンが光のエネルギーで活動することだ。どんな仕組みなのだろうか。
人間も光のエネルギーを3つのパターンで利用している。太陽熱温水器のように太陽光の熱をそのまま利用する方法や、ソーラーパネルのように半導体などで太陽光のエネルギーを電気のエネルギーに変換する方法、そして光触媒だ。
光触媒とは、光のエネルギーを吸収し、普通は起きない化学反応を起こす物質のこと。EMIRAのインタビュー記事でも取り上げているので、詳しくはそちらをお読みください。
ここで注目したいのは、植物の光合成に欠かせない葉緑素(クロロフィル)も、光触媒の一つだということだ。
葉緑素で太陽の光のエネルギーを吸収して、水を水素と酸素に分ける。これをスタートに光合成が始まり、最終的に炭水化物が作られる。植物やこれを食べた動物は、この炭水化物を材料にして呼吸を行い、熱エネルギーを取り出すのだが、そのエネルギーは、次の反応によってATP(アデノシン三リン酸)という物質に蓄えられる。
【ADP(アデノシン二リン酸) + リン酸 + 熱エネルギー → ATP】
ウルトラマンが光で活動する仕組みついて、ヒントになるのはこの反応だ。生物の体を、光のエネルギーで直接動かすのは難しい。ひょっとしたら、ウルトラマンは、ウルトラATPなどを持っていて、光を浴びる体の表面で次の反応を起こすのではないだろうか。
【ウルトラADP + ウルトラリン酸 + 光のエネルギー → ウルトラATP】
仮にこの推測が正しいとして、ウルトラマンの活動に必要な1億1000万キロカロリーを太陽の光から得ることは可能なのか。
地上には、1㎡あたり850Wの太陽光が降り注いでいる。人間の体の断面積は0.5㎡で、身長が23倍のウルトラマンは、その【23の2乗=522】倍の261㎡の断面積を持つ。この体で3分間に受けられるエネルギーを計算してみると…、ああっ、9600キロカロリー。必要量の1万分の1もない。全然足りない!
すると、「なぜ3分は戦えるのか」が問題になる。そのエネルギーを得られるチャンスがあるとしたら、ただ一つ。変身するときのベーターカプセルの光が1億1000万キロカロリーのエネルギーをウルトラマンに与えていたのではないだろうか。
劇中の描写を見ると、ベーターカプセルは2秒ほど点滅している。その短時間で1億1000万キロカロリーを放ったとなると、光の明るさは2億3000万キロワット。1日分の日本全国の発電力の2倍を超える。
そんなエネルギーを光として放ったら、周囲の人はまぶしさで失神するだろう。ハヤタ隊員が人目を忍んで変身していたのも当然…いや、そんな光を放ってしまったら、どこで変身してもバレてしまう!
などなど、身長40m、体重3万5000t、活動時間3分という設定から、さまざまな空想科学的考察が広がっていく。エンタテインメント番組として第一級の『ウルトラマン』だが、科学的にもまことに興味深い作品なのだ。そんなウルトラマンを生み出した人間の想像力は、本当にスバラシイ!
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※原稿では有効数字を2桁とし、数字を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。
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イラスト:古川幸卯子
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