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加速する日本の低炭素技術「カーボン・オフセット」

エネルキーワード第8回「カーボン・オフセット」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第8回は「カーボン・オフセット」。CO2削減のための新たな仕組みである「カーボン・オフセット」のメリットや具体的な種類について聞いてきました。

地球温暖化防止は米・トランプ大統領が何と言おうが、世界各国が取り組んでいる課題であることは間違いありません。しかし、中国、インドやアジア各国などは、急速に電力需要が拡大しています。これらの国々はいまだに石炭火力発電などに頼っており、CO2の排出は増加し続けています。
 
これらの国は、CO2排出を削減するために、火力発電所の設備を新しいものに更新したり、原子力発電の比率を高めたり、再エネに投資したりしています。しかしこうした対策には巨額な投資が必要であり、かつ時間がかかります。今すぐCO2を減らすためには特別な対策が必要になってきます。また、先進国においてもパリ協定(※注1)によって、CO2削減が義務付けられています。

そこで新たな仕組みが考えられました。それが「カーボン・オフセット」なのです。

※注1 パリ協定 2016年11月4日、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み「パリ協定」が発効。パリ協定は、歴史上初めて、全ての国が地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減に取り組むことを約束した枠組みとして世界の注目を集めた。 主な内容は: 1. 世界全体の温室効果ガス排出量削減のための方針と長期目標の設定 2. 各国の温室効果ガス排出量削減目標の設定 先ずは2025年または2030年までの温室効果ガス排出量削減目標をそれぞれの国ごとに自主的に設定。削減目標の設定義務の無かった途上国も含まれる。日本は2030年までに2013年比で温室効果ガスを26%削減する約束草案を提出した

出典:外務省 など

カーボン・オフセットとは

「カーボン・オフセット(carbon offset)」とは、文字通りCO2などの温室効果ガス排出量のうち、どうしても削減できない量の全部または一部を、他の場所で排出を削減したり、吸収したりする活動に資金を提供することで埋め合わせる(オフセット)ことを言います。(図1)

(図1)カーボン・オフセット概念図

出典:J-COF HPより

クレジットとは?

(図1)で「クレジット」という言葉が出てきますね。この「クレジット」とは、先進国間で取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明のことで、「排出枠」とも呼ばれます。もう少し分かりやすく説明しましょう。

 A国はCO2の削減に取り組んでいますが、どうしても目標が達成できません。一方、B国は太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の高い発電設備の導入、さらには植林などの森林管理を進めてCO2を削減・吸収しています。そのB国の削減・吸収量を「クレジット」と呼び、市場で売買します。A国はB国からその「クレジット」を買い取り、「カーボン・オフセット」を行うことによって、その分を削減したとみなすのです。

J-クレジット制度

こうした取引が公正に行われるためには、「クレジット」が公的機関によってきちんと「認証」される必要があります。そこで国は、2013年度に「J-クレジット制度」の運用を開始しました。(図2)

(図2)J-クレジット制度 概念図

出典:J-クレジット制度HP

J-クレジットの創出者(中小企業、農業者、森林所有者、地方自治体など)にとっては以下のメリットが考えられます。

①  ランニングコストの低減
②  クレジット売却益
③  地球温暖化対策取り組みに対するPR効果
④  新たなネットワーク構築
⑤  組織内意識改革・社内教育効果

一方、J-クレジット購入者(大企業、中小企業、地方自治体など)にとってのメリットは

①  環境貢献企業としてのPR効果
②  企業評価向上
③  製品・サービスの差別化
④  ビジネス機会獲得・ネットワーク構築

つまり、双方にとってメリットがある、Win-Winの関係であることが分かります。

主な取り組み

具体的には、以下のような多様な取り組みがあります。

① オフセット製品・サービス
生産者やサービス提供者が、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組み。

② 会議・イベントのオフセット
コンサートやスポーツ大会、国際会議等のイベントの主催者等が、開催に伴い排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組み。

③自己活動オフセット
組織の事業活動に伴って排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組み。

④クレジット付製品・サービス
生産者、サービス提供者またはイベント主催者等が、製品・サービスやチケットにクレジットを付け、製品・ サービスの購入者やイベントの来場者等の日常生活に伴う温室効果ガス排出量の埋め合わせを支援する取り組み。

⑤寄付型オフセット
生産者、サービス提供者またはイベント主催者等が、消費者に対し、クレジットの活用による地球温暖化防止活動への貢献・資金提供等を目的として参加者を募り、クレジットを購入・無効化する取り組み。

出典:「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)第2版」より引用

日本の国際貢献

ご承じの通り、日本は2030年度に温室効果ガスの排出を2013年度比26%削減する、という野心的な目標を持っています。実は日本の取り組みは世界にとっても意味があることなのです。我が国は優れた低炭素技術を持っています。こうした技術を、CO2削減目標が達成できない国に供与することで国際貢献ができます。そのためにODA(政府開発援助)や国際協力銀行の公的ファイナンスを活用することを政府は考えています。
 
また、日本にとっては技術革新が加速する、というメリットも生まれます。例えば石炭火力発電一つとっても日本の発電効率は世界トップレベルであり、2030年、もしくはそれ以降をにらんでさらに効率アップへの研究開発が進められています。

また近年は、製品の製造段階でのCO2削減だけでなく、使用・廃棄・再利用に至るまでの製品ライフサイクル全体を通した削減を考えるようになってきています。こうした技術も海外に供与できるでしょう。

「カーボン・オフセット」はよく考えられた制度ですが、トランプ大統領がパリ協定から離脱を表明したことで、今後の地球温暖化防止への世界の取り組みに不透明感が漂っています。しかし、日本としてはさらなる技術革新への取り組みを後退させてはなりません。なぜなら、それが火力発電に頼りCO2を排出し続けている日本の責任でもあるからです。

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